〜 Remember my heart 〜
〜 Pure Heart 〜
六課の解散まであと3ヶ月となった1月。
突然、はやてさんから部隊長室に呼び出しをされた。
基本的に遅刻も欠勤もしていないから、そう言った注意ではないとは思うんだけど―――――。
多分、新しい任務に付けって言うことだと思う。
だけど、その予想は斜め上の展開で裏切られることになった。
「フィル、あんた今日から3日間勤務禁止な」
「はい?」
俺ははやてさんの言葉に、一瞬ポカンとしてしまった。
勤務禁止って、俺何かしでかしたか!?
「一体どういう事ですか!? 休み返上というならともかく、任務禁止っていうのは!?」
俺の問いに、はやてさんは思いっきりため息を吐きながら―――――。
「あのな……。フィル、あんた六課に来てから、全然休んでないやろ。最低限の休暇を与えた時だって、マリーさんやユーノ君達と裏工作をしていて、全く休んでいなかったし!!」
「えっと……。それは……」
確かに休暇をもらっても、JS事件対策のため、全ての休みを準備に使っていた気がする。でも、その時は彼女に頼んで、口裏を合わせていたんだけどな―――――。
「その彼女から、私にお願いされてたんや。フィルはずっと休んでいないから、どんな手を使っても良いから、休ませてくれってな……」
「あいつが……そんなことを……」
いつも俺のサポートをしてくれた彼女―――――。
どんなときも俺の心の支えになってくれていた。
だからこそ、俺の身体のことを心配してはやてさんに―――――。
「そういうこっちゃ。ちなみに彼女も監視役をかねて、一緒に休みにしてあるから、ちゃんと身体を休めてくるんやで!!」
「……わかりました。それじゃ、ありがたく休暇を頂きます」
事件が終わり、俺も少しは休んで良いのかもしれない―――――。
はやてさんの話だと、彼女も一緒に休みにしてくれたことだし、せっかくなので、街に出てみるか。
俺はさっそく彼女を誘うために、彼女の部屋に行くことにした。
* * *
「……フィルさん、これで少しは身体をいたわってくれたら良いんだけど……」
ここ最近、フィルさんは普段の行動に輪をかけて働きづめだった。
朝から、わたし達と一緒に訓練をした後、夕方からはロングアーチの業務の手伝いをしたり、夜は夜で資格試験の勉強で殆ど寝ていない。
こんなんじゃ、本当に倒れてしまう。
だけど、わたしから言っても、フィルさんはその場では止めてくれるんだけど、わたしが寝た後にこっそりやっていたりしていた。
だから、最後の手段で、八神部隊長から業務禁止命令を出してもらうようにお願いしました。
本来なら、こんなことは通らないけど、みなさんもフィルさんの無茶ぶりは何とかしたかったらしく、快く引き受けてもらいました。
「そうだ!! せっかく一緒のお休みをもらったんだから、フィルさんを誘ってどこかに行こう」
フィルさんの彼女になっても、わたしはいつもフィルさんに頼りきりでした。
だから、今度はわたしがフィルさんの支えになってあげなきゃいけない。
未来の世界でティアさんがフィルさんの事を支えたように―――――。
早速、よそ行きのお洋服に着替えて、フィルさんを誘いに行こうとしたとき……。
コンコン
「は、はい!?」
「キャロ、部屋にいるのか? 今入っても大丈夫か?」
「ちょ、ちょっと待ってください!? 今、着替えていますので!!」
昔だったら、フィルさんに裸を見られても恥ずかしくなかったんだけど、フィルさんと恋人になってからは、その……。こんなおっぱいもペタンな身体を見られるのは、恥ずかしくなっちゃったんです。
フェイトさんは、「年相応の身体なんだから、そんなの気にしないの。まぁ、女の子としての自覚が出てきたのは嬉しいかな」と言ってくれましたけど、やっぱり自信が持てないんです―――――。
「そっか……。じゃ、着替えたら、声をかけてくれ」
「あ、あの……。別に入ってきても……良いです……よ」
とっても恥ずかしいけど、このくらいのことを言っても良いですよね。
「……止めておく。女の子が嫌がることをする気はない……」
「……フィルさん」
その言葉はとっても嬉しいんですけど、ちょっとだけ悲しいです。
確かにフェイトさんやティアさんみたいに、胸が大きくないですけど、わたしだって女の子なんです。
ちょっとくらい反応してくれても良いと思います。
「キャロ、もう大丈夫か?」
「あっ、はい!! もう良いですよ」
でも、今はフィルさんを困らせてる気はないですから、このくらいにしておきます。
* * *
「お邪魔するよ……。って……」
俺がキャロの部屋にはいると、そこにはピンクのフリルの付いた洋服を来たキャロの姿があった。
「あ、あの……。フィルさん、似合いませんか……。これ?」
「……いや、凄く似合ってるよ。本当に可愛いよ。キャロ」
恋人の贔屓目無しで、今のキャロの姿は可愛いと思う。
年相応の格好なんだけど、最近のキャロには女らしさが出てきている感じがする。
もちろん、本当に色香があるわけじゃない。
だけど、いろんな事を学び、成長して、そういったことが歳以上の雰囲気を出しているのかもな―――――。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると……本当に嬉しいです。わたし、みなさんと比べて……スタイル……よくありませんから……」
「あのな……。キャロは、まだそこまでの歳じゃないだろ? あと数年もすれば、フェイトさんやティアみたいなスタイルにはなるぞ」
キャロの歳で、あいつらみたいなスタイルをしていたら、かえってバランスが悪い。
身体っていうのは、ちゃんとバランスがとれているんだから、そこまで気にする必要はないと思うけどな。
「でも、やっぱり気になっちゃうんです……。本当にわたしがフィルさんの恋人で良いのかなって……」
「キャロ……」
あの時―――――。
ゆりかごの最深部で、スパイラルを使おうとした俺を必死で止めに来てくれたキャロ。
彼女の心からの言葉がなかったら、今頃俺は命を捨てていたと思う。
だから、キャロにそんな風に思って欲しくないんだ。
* * *
「だったら、証明してやろうか……」
「えっ……? んんっ!?」
いきなりフィルさんがわたしにキスしてきて、わたしの口の中を蹂躙する。
普段ならこんな乱暴なキスはしないのに、今日は激しく求めてきた。
「んっ……フィル……さん……んんんっ!!」
さらにフィルさんは、何度も求めてくる。
わたしもフィルさんとキスをするのは好きなので、求められればそれに応える。
それこそ、互いの唇が溶けあうがごとく―――――。
数分間―――――。
わたしとフィルさんは何度も、お互いの唇を求め合っていた。
「……もう……ちょっと乱暴です」
「すまない。だけど、これで分かった? 俺がキャロのことをこんなに求めたいほど愛してるって事」
「あっ……」
そっか……。
フィルさんは、わたしが不安になっているのを見てわざと乱暴なキスをしてきたんだ。
忘れていた―――――。
ゆりかごでフィルさんが言ってくれた言葉を―――――。
“人を好きになるのは、歳は関係ない”
それをもう一度証明してくれたんだ。
「キャロに分かって欲しくて、あんな乱暴なキスをして……。本当にごめんな」
ううん―――――。
謝るのはわたしのほうです。フィルさんは一生懸命気持ちをぶつけてくれているのに、わたしが不安がっていたら、それこそフィルさんの恋人としている資格がない。
「良いんです。フィルさんが本気だっていっぱい……いっぱい伝わりましたから♪」
「だったら、もっとしてやろうか」
今度はわざとそう言ったことを言う。
フィルさんは、時々いたずらっ子なところがあります。ティアさんから聞きましたけど、心を開いている人たちには少し弄ったりすることがあるとのことです。
普段のフィルさんは、超がつくほど真面目な人なんですけどね。
でも、言い換えればこうやって冗談やいたずらをするってことは、本当にわたしのことを思ってくれているんですよね。
だから、わたしも―――――。
「はい……。もっと……して……ください」
さっきのキスで、もっとフィルさんとキスをしたくなっちゃってるんです。
さっきは驚いちゃったけど、ああいう深いキスももっとしてみたいんです!!
そして―――――。
わたしとフィルさんは、再び口づけをかわす。
今度は、互いの気持ちの交換のために―――――。
* * *
「さてと、せっかく綺麗な服を着ているんだ。クラナガンにでも遊びに行くか?」
「はい♪」
最初は、リニアレールに乗って出かけるつもりだったんだけど、キャロがロードサンダーに乗ってみたいという希望で、今回はサンダーで出かけることになった。
「さてと、飛ばしていくからしっかりつかまっていろよ!!」
「大丈夫です。しっかりとつかまっていますから」
そういってキャロはギュッと俺に抱きついてくる。
「やっぱり暖かいです。フィルさんの背中……」
「そっか……。こんな背中で良かったらいつでも貸してやるよ」
「だったら、ずっと……ずっと……一緒にいてくださいね」
「ああ……」
キャロが望む限り、俺はずっとそばにいる。
俺を好きになってくれた大切な女の子だから―――――。
「さて、本気で飛ばすとしますか」
俺はサンダーのスロットルを全開にして、クラナガンに向けて走り出した。
* * *
「ほら、キャロ」
「ありがとうございます」
クラナガンについた俺たちは、普段キャロが知らない所に行くことにした。
と言っても、俺が知っているのは、ゲーセンとかアウトレットくらいだけどな。
こうなるなら、もう少し雑誌を読んでおけば良かった。
早速俺たちは、ゲーセンに行き、キャロが好きそうなUFOキャッチャーで、ねこのぬいぐるみを一つ取ってあげた。
キャロも女の子なので、こういったぬいぐるみは大好きだ。
その後は、記念とになると思い、プリクラで写真を撮った。
キャロは最初は、プリクラの文字の入れ方に苦労していたけど、慣れていくといろんな文字を入れていき、できあがった写真はかなり凝った作りになっていた。
ゲーセンで、しばらく時間をつぶした後、俺たちは甘い物が食べたくなって、今度はクラナガンで有名なアイスクリームショップに行くことにした。
ここはよくスバルやティアが行くところで、たまにおみやげで買ってきてくれることがあって、それで俺も知っていた。
せっかくクラナガンに来たのだから、ここに来ない手はない。
早速俺はバニラを、キャロはストロベリーを注文し、近くの公園で食べることにした。
「フィルさん、このアイス美味しいですね!!」
「ああ、久しぶりに食べたけど変わっていなかったな」
六課に入る前に、食べて以来だったけど、相変わらずのおいしさで安心した。
こういう有名店は、収益重視になると、とたんにコストを落として味が落ちるからな。
「あの、フィルさん、良かったらわたしの食べますか?」
「そうだな。それじゃ俺のバニラも食べるか?」
「はい♪」
早速俺はキャロにアイスを渡そうとしたが―――――。
「待ってください」
キャロが待ったをかけ、自分のアイスを口に含み、そして―――――。
「んっ!? んんんっ……」
そのアイスを、口移しで食べさせてきた。
「……どう……ですか? アイスの味は?」
「……すっごく甘いんだけど……。キャロの味もして……」
「……こ、今度は……フィルさんのアイスも……食べたいです」
顔を真っ赤にしながら話すキャロは、凄く可愛いと思う。
恥ずかしいのを我慢してしてくれたんだ。俺もそれに応えなきゃな。
俺も自分のアイスを口に含み―――――。
「んっ……」
さっきと同様、今度は俺がキャロに口移しで食べさせた。
「……とっても……甘いです」
「俺もな……」
さすがにお互いに、もう一度することは恥ずかしかったので、今度はお互いに普通に交換して食べた。
そして、夕方になり、そろそろ戻ろうと思っていたんだけど―――――。
「もう少しだけ、一緒にいたいです……」
「キャロ……。そうだな」
こういう機会は中々無いし、せっかくのデートだしな。
でも、時間はあと少ししかない。
そう思っていたら、一つの観覧車が視界に入ってきた。
「あれは、確か最近出来たクラナガン一高い観覧車だよな?」
「はい、確かこないだニュースでやっていましたね」
あの時は、恋人が出来るなんて思わなかったから、流していたけど、まさかあの情報が役に立つとはな。今後はちゃんとチェックしておこう。
「じゃ、あそこに行ってみるか?」
「はい!!」
* * *
「綺麗ですね……」
「そうだな……」
わたしとフィルさんは、今観覧車に乗っている。
ここからの夜景は、いつも空から見ているのとは違って、とても煌びやかに見えた。
いろんな人たちが生きている証の灯り―――――。
それがとても綺麗な景色になっていた。
でも……。
「……フィルさん?」
「んっ? ああ……。本当に綺麗だよな」
嘘だ―――――。
今のフィルさんは、景色を見ていて、一瞬だけど、瞳がとても悲しい色をしていた。
もしかして―――――。
「……フィルさん、間違っていたらごめんなさい。もしかして……未来のティアさんのこと……思い出していましたか?」
「っ!!」
「やっぱり……そうなんですね」
フィルさんがあの悲しい目をするときは、ティアさんのことを思い出しているときが殆どだった。
アグスタ事件の後、ティアさん達となのはさんの意見の食い違いの時―――――。
ヴィヴィオを連れ去られて、自分を責め続けたとき―――――。
そして―――――。
ゆりかごのコアを、スパイラルで壊そうとしたとき―――――。
「……やっぱわかっちゃうか」
「……分かりますよ。フィルさんの……大好きな人のことですから……」
「……そっか。でも、勘違いするなよ。確かにティアのことを思い出していたけど、それは恋愛感情とかじゃないんだ」
「えっ……?」
すると、フィルさんが真剣な表情で一言ずつ語り始めた―――――。
「……あの時、ティアが言っていた言葉が、最近やっと分かったって思ったんだ」
「ティアさんの……言葉ですか?」
「ああ……。未来からここに戻るとき、あいつが言った言葉さ……」
“あたしはあんたを縛り付ける存在にはなりたくない。あたしが何より望むのはあんたの幸せなんだから………。それだけは忘れないでね”
「その言葉を最初に聞いたときは、はっきり言って分からなかったし、分かりたくもなかった。俺を愛してくれたのは、あいつだけだと思っていたから……」
フィルさんにとって、未来のティアさんは今でも心の一部になっている。
それはきっと永遠に消えることのない大切な宝物―――――。
「だけど、こっちも戻ってきて、お前という大切な人を得て、あの時のティアの言葉がやっと分かったんだ……」
「だから……」
そう言って、フィルさんがポケットから取り出したのは―――――。
「―――――これをキャロに受け取って欲しいんだ」
白く輝くカード型のデバイス――――。
未来でティアさんが使っていたクロスミラージュ。
「これはティアさんの形見!! こんな大切な物受け取れません!!」
これは、ティアさんがフィルさんの託した最後の思い。
そんな大切な物をわたしがもらうわけにはいかない!!
「いや、キャロだからこそ受け取って欲しいんだ。もう一度、愛することを思い出させてくれた……最愛の女性に……」
「フィルさん……ぐす……えぐ……フィルさん……」
わたしは涙を抑えられなかった。
あのクロスミラージュは、フィルさんにとってかけがえのない宝物なのに……。
「……きっと……あいつも喜んでくれるから……」
「……はい」
わたしはフィルさんからクロスミラージュを受け取る。
重い―――――。
重さがじゃない。これには未来のティアさんが、フィルさんに託したいろんな思いが込められている。
そして、その思いをわたしに託してくれたんだ―――――。
ティアさん、今はあなたに敵わないですけど、いつかきっと貴女と同じくらい綺麗な女の子になって見せます。
だから、わたしとフィルさんのこと、見守ってください。
『心配しなくても、十分にフィルを愛せる素敵な女性になってるわよ。あの時、フィルのことを全部受け止めてくれたんだから―――――』
「「えっ!?」」
「フィルさん、今ティアさんの声が……」
「ああ……。俺も聞こえた。あいつの……ティアの声が……」
きっと、ティアさんがわたし達に託してくれた最後の言葉。
ティアさんが、フィルさんのことをわたしに託してくれたんだ!!
そして、観覧車が一番高く上がり―――――。
「フィル……さん」
わたしとフィルさんは―――――。
「キャロ……」
クラナガンの夜景の中―――――。
誓いのキスをかわした―――――。
* * *
5年後
「あれから、もう5年がたったんですね」
「そっか。もう、そんなに経つのか……」
ふと、わたし達は、あの時の観覧車でのことを思い出していた―――――。
あれから5年―――――。
今ではわたし達はクラナガンに家を買い、そこに一緒に住んでいる。
六課が解散してから、いろんな事があったけど、それでも二人で乗り越えてきた。
ひとりじゃ辛かったことも、一緒いたことで苦しみも幸せに変えられたから―――――。
今も一緒のベッドに眠っていて、フィルさんがわたしの髪を、何度も撫でてくれる。こうされると、とても気持ちいいんです―――――。
「でも、5年経っても、あんまりスタイルが変わりません。本当に……ごめんなさい」
自分の身体をみると、やっぱり恨めしい。
もう少し、おっぱいとかが大きかったら、フィルさんと一緒にいても違和感がないのに―――――。
「気にするなって。俺はスタイルで人を好きにはならないって、何度も言ってるだろ。昨日もその身体に何度も分からせたし……」
「……あん……んんっ……んんんっ!!」
そう言って、フィルさんはわたしの胸を何度も揉んでくる。
あんまり大きくない胸だけど、触れられるととっても感じるんです。
昨日も、そうやって何度もされたんですから!!
「……もう……ばか。フィルさんの……ばか。でも……そうでしたね」
フィルさんは、わたしが自分の身体のことで落ち込んでいると、いつもわたしが欲しい言葉や態度を示してくれる。
だからこうやって、フィルさんがわたしのことを求めてくれるのは、本当に嬉しいんです。
自分でも、愛する人をちゃんと受け止められるって実感できるから―――――。
「そういうことだ。キャロもまだ成長しているんだ。スタイルとかはこれからどうとでもなるよ。それよりも、その優しい心がいつまでも変わらない方が……ずっと良いさ……」
だったら、わたしの答えは一つだけです。
「それでしたら、ずっと……これからもずっと……わたしと一緒にいてくださいね♪」
外見じゃなく、わたし自身を見てくれるフィルさん―――――。
そんな素敵な男性を、わたしは心から愛しています。
いつか、心だけじゃなく、身体も成長して素敵な女性になります!!
だから、フィルさん、いつまでもわたしのそばにいてください!!
あなたがいてくれれば、わたしはわたしでいられるから―――――。
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