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〜 Remember my heart 〜
if ending ヴィータ

「うし、何とかここまできたな」

「ですね」



ゆりかごに突入した俺たちは、ゆりかごの機能を停止するため、それぞれ分担をすることにした。
なのはさんは玉座の間へ、フェイトさんはスカリエッティを倒すため最深部へ、そして俺とヴィータ副隊長は駆動炉へ向かっていた。



「ここまでくりゃ、もうちょっとだ。カートリッジもまだある、楽勝だ……」



ヴィータ副隊長がカートリッジの残数を確認していると、ヴィータ副隊長の背後が僅かだけど、地場の揺れが確認できた。

まさか、あれは……?


次の瞬間、鎌のようなものがヴィータ副隊長を襲った。



*    *     *



あたしは、カートリッジの残存数を確認すると、疲れからかすこしめまいがした。
やっぱ、ここまでガジェットを叩いてきたのは結構きつかったみたいだな。



「おい、フィル。おめえも大丈夫か?」



ふと、さっきまで横にいたフィルがいない?



「あれ、どうしたんだ。あいつ?」



フィルを探そうとして、他の方を向こうとしたとき、頭に液体が落ちてきた。



「何だ? って血!?」

「こんなところで……血だと……。はっ!!」



あたしはフィルに言われたことを思い出していた。
あたしは前の時、ここでガジェットに背中を貫かれて……殺されたんだ。


たしか、あたしがカートリッジの確認をしていたときに……。


ま、まさか!!


あたしが後ろを振り向いてみると……。



「よ……よかった……。間に合った……」

「フィル!!」



そこには、あたしの身代わりになって、ガジェットの鎌で身体を貫かれたフィルがいた。



「あ……ああ……。うわああぁぁぁああ!!」



あたしはグラーフアイゼンを横凪ぎにし、フィルを貫いていたガジェットを破壊した。
鎌から解放されたフィルは、その場に倒れてしまい――――。



「おい……しっかりしろ……。目を開けろよ!!」

「ヴィータ……副、隊長……」

「しっかりしろ!! 死ぬんじゃねえ……死ぬんじゃねえぞ!!」



こうしている間も、フィルの身体からはどんどん血が流れている。
あたしの付け焼き刃の回復魔法じゃ、追いつかない!!



「ヴィータ……副隊長……行っ……さ…い」

「馬鹿いってんじゃねえ!! おめえをここにおいていけるわけねえだろ!!」

「俺…な……大丈……夫…す…ら……」



こうしている間も、体温がどんどん低下している。
これじゃ、なのはの時と同じじゃないか!!



《ヴィータさん……。行ってください》

「プリム!! 何言ってやがるんだ!! このままじゃ、こいつは!!」

《あなたがいたところで、マスターは変わりませんよ。回復魔法なら、私が全力でかけます。それに……》

《いま、あなたがするべき事はマスターのそばでオタオタする事じゃない。一刻も早く駆動炉を破壊する。それが今のあなたの役目でしょう!!》

「!!」

《きつい言い方して済みません……。でも、マスターのことを思ってくれるなら、お願いです。マスターのしたことを無駄にしないでください!!》



あたしは、何をしているんだ。
フィルが自分の身を犠牲にしてまで、あたしを助けてくれたのは何のためだ。


あたしにすべてを託してくれたからじゃねえか――――。


それなのに……。


ここであたしがウジウジしてどうするんだ。



「プリム……フィルのこと、おめえに任せたからな……。絶対……死なさないでくれよ……これ以上大切な奴を失うのは……いやだからな」

《絶対マスターは、死なせません!! 私の全てをかけて!!》

「頼んだ……ぜ……」



断腸の思いで、フィルのことをプリムに任せたあたしは、駆動炉に向かおうとしたが、目の前にさっきのガジェットと同型の機体が数え切れないほど現れた。

こいつらは、なのはだけでなく、フィルまで……。

あたしの大切な奴まで……。

――――許せねえ。



アイゼンを肩に担いでカッと目を見開き……。



「てめえら……。一機残らずブッ潰してやらぁ!!」



その先のことは、あんまり覚えてねえ。

無我夢中で、ガジェットを全機叩いて、そのあと駆動炉に行き、残った魔力を全て使って駆動炉を破壊したんだ。

そして、はやてが駆けつけてくれて、あたしは何とか死なないで済んだけど……。


――――フィルは。



*    *    *



「くっ……」

「ほら、無茶するんじゃねえ。ゆっくりで良いんだからな」

「はい……」



フィルは、あの時はやてに助けられ、なんとか一命は取り留めたんだけど、出血多量と傷が原因で、下半身不随になってしまった。
ただ、医者のリハビリをすれば、完全に回復できると言うこということだ。



「ヴィータ副隊長、毎日済みません……。俺のリハビリに……」

「そんなこと気にするんじゃねえよ。それに……」

「あたしを庇って……こうなったんだ。これくらいのことさせてくれよ……」



もう、なのはの時みたいに、何も出来ないのはいやだ。
あたしは、フィルのために自分が出来ることをしてやりたい。


そのためにあたしは、介護を勉強した。
介護は、テレビで言っているみたいに、決してきれい事じゃ出来ねえ。

食事介助とかだけじゃなく、排泄の世話とかもある。
今のフィルは、下半身に力を入れることが出来ない。

だから、トイレまではあたしが連れて行くことが必要だ。
そこまで連れて行けば、フィルが何とか自力でズボンを下ろしたりは出来るようになっている。

フィル、絶対良くなってくれよ。


そして、もう一度……。


もう一度、あたしにチャンスを与えてくれ……。


お前に、あたしの気持ちを言うチャンスを……。




*    *    *



三ヶ月後


「何とか……復帰できたな」

《ええ、ヴィータさんが、ほぼ毎日来てくれて、マスターのリハビリを手伝ってくれたおかげですよ。本来ならミッドの医療技術でも半年はかかると言っていたんですから》



ヴィータ副隊長のおかげで、俺は奇跡的に半分の三ヶ月で、完全に回復することが出来た。
リハビリを毎日欠かさずしたこともあったけど、ヴィータ副隊長が献身的に俺のサポートをしてくれたからこんなに早く社会復帰することが出来たんだ。


本当にヴィータ副隊長がいなかったら、俺は自暴自棄になったと思う。



《とにかく、六課に帰りましょう。みんな待っていますよ》

「だな……」



六課に戻った俺は、そこでみんなに盛大に迎えてもらった。
ドアをくぐったとたん、クラッカーの嵐に遭い、スバルとティアに泣きながら抱きつかれたり、なのはさん達からも泣かれてしまう状態だった。

その後、食堂でパーティを開いてくれて、みんなで盛り上がった。
こんな光景を、もう一度見られるなんてな……。



*    *    *



「ふう……ちょっと食べ過ぎたかな」



パーティが終わった後、外の空気を吸うために、俺は六課の野外訓練場に来ていた。
すこし歩いていると、そこにいたのは……。



「ヴィータ……副隊長?」

「あっ……」

「どうしたんですか。こんなところに」

「べ、別に、お前を……待っていたわけ……ねえんだ……。そ、その……あたしは……」

「?」



なんか、いつものヴィータ副隊長と違う。
いったいどうしたというんだ。



「あ、あのな……その……よかったな。完全に治って」

「ヴィータ副隊長のおかげですよ。ヴィータ副隊長がいなかったら、俺はもしかしたら……」

「そんなことねえよ。おめえなら自分で立ち直ったよ。あたしはほんの少し……しただけだよ」

「その少しが、俺にはかけがいのないものだったんです。介護ってきれい事じゃないです。それでも、ヴィータ副隊長は毎日のようにしてくれた……」

「……あたりまえだよ……。あたしは……あたしは……」

「おめえのことが……好きなんだからな……」



*    *   *


「えっ……?」



とうとういっちまった。


本当は怖い……。


ここから逃げ出したい……。


だけど、どうしても言っておきたかった。


振られても良い……。


それでも、自分の気持ちに嘘をつきたくなかったから……。



「それ……嘘じゃないですよね」

「こんな時に嘘言える性格してねえよ……。あたしのいつわりのない気持ちだ」



正直、フィルにはあたしなんかよりふさわしい女はいっぱいいる。
だから、これはあたしのケジメだ。

これで、フィルのことを忘れよう……。



「俺も……ヴィータ副隊長のことが……好きです」

「えっ……嘘だろ」

「俺も、副隊長と同じですよ。こんなときに冗談や嘘は言いませんから……」



フィルはそう言って、あたしを自分の方へ抱き寄せた。



「だから……ヴィータ副隊長……俺と……」

「……ヴィータ」

「えっ?」

「副隊長なんて付けるな。おめえは自分の彼女に副隊長なんて付けるのか」



確かにあたしはこいつの上司だ。
だけど、こんな時まで副隊長なんて付けられるのはいやだ。



「ヴィータ……」

「ああ……」



あたしは、瞳を閉じ……。


フィルも意味を理解してくれて、あたしの頬に手を添え……。


そして……。


あたし達は……。


月の光が照らす、訓練場でキスをした……。



*    *    *


半月後



「ほら、ここ間違っているぞ」

「えっ、本当だ……」

「ったく、フィル、休みで勘が鈍っているじゃねえか。どれ、あたしが見てやるよ」



そう言って、ヴィータは俺の背中に抱きつく形になって、パソコンの画面を見ていた。



「あ、あの……ヴィータ副隊長……その……」

「何度も言わせるなっての、あたしのことはヴィータって呼べって言ってるだろう!!」

「ですけど、今は勤務中ですから……」

「なにを今更、あんたとヴィータ副隊長が付き合っているのなんて、みんな知っているわよ」

「えっ……?」

「ま、マジか!?」

「知らぬは当人達ばかりなり……ってことです。というか、それだけいちゃついていて、気づかないなんて思ってたんですか」



ティアの言葉に、俺もヴィータも顔が真っ赤になってしまった。
そんなに周囲から見て、俺たちはいちゃついていたのか。



*    *    *




「あーあ、とんだ恥かいちまったな……」

「ですね。六課にみんなに知れ渡っていたんですね。俺たちのこと」

「まぁ、でも、プラスに考えればあたし達のこと、これで気兼ねなく出来るからな」

「あ、あれで遠慮してたんですか。勤務中に俺に抱きついていたりしてたのに……」


基本的に、訓練以外の時は抱きつかれたりしていたからな。



「いいじゃねえかよ……。あたしは、おめえの……その……彼女なんだからよ……」



そう言って、ヴィータはぷいっと反対の方にむいてしまった。
こんなヴィータもかわいいんだけど、だけど……。



「あっ……」



俺はヴィータを自分の方に向かせて……。



「ごめんなさい。あんな態度取って……本当は俺も嬉しいんですよ」

「本当か……」

「嘘じゃないですよ」

「だったら……今日はいっぱいギュッとしてくれよな……。部屋に戻るとおめえがいないから……寂しいんだ……」

「じゃ、遠慮しませんからね」

「遠慮なんかするなよ。でも、ごめんな。あたしこんな身体じゃねえか。もっとスタイルが良かったら……」

「あのですね。俺はスタイルで人を好きになったりはしないですから……」

「そりゃ……分かっているけどよ」



俺たちはもう、何度か一つになっているけど、それでもヴィータのコンプレックスは中々ぬぐい去れない。


だから……。



「こら……やめろって……。服の中に手を突っ込んで胸触るな……あん……」

「俺が、ヴィータを抱きたいって思ってもらうしかないから……。今日は部屋に帰さないですよ」

「……だったら……いっぱいしてくれよな……」



俺はヴィータの服を全て脱がし……。


そして……。


今日も俺たちは、お互いの気持ちを確かめ合うように、何度も求め合う。



*    *    *




「はい、ヴィータ。あーん」

「あーん♪」

「どう、美味しい?」

「……うまいに決まってるだろ。おめえのアイスなんだからよ」

「そ、そう……ですか」

「もっと……食べさせてくれよな」

「ああ……」



こうやって、ヴィータが俺の作った物を喜んで食べてくれる。
ヴィータの屈託のない笑顔は、俺も穏やかな気分にしてくれる。



「ほら、もっと……食べさせてくれよな……。何度も……言わすなよ……恥ずかしいんだから……」

「そうでした……。はい、あーん」


こんな風に、俺たちの休日は流れていった。



*    *    *



二年後


「フィル、何見てるんだ?」

「何、昔の写真をね……」



六課が解散して、俺ははやてさんに正式にヴィータとの交際を報告することになった。
六課時代は、一応非公式だったから、いままで報告は控えてたんだけど、はやてさんが……。



「いまさら、何言ってるんや。あんたらが六課でいちゃついてるの見て、私らは毎日、口から砂糖吐いてたんやで」



はやてさんの言葉に、俺もヴィータも、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまった。
でも、後悔はしてない――――。


今、俺はヴィータと一緒に教導官をしている。
公私ともに一緒にいたいというヴィータの希望で、俺は必死で教導官の資格を取った。

最初は、人に教えるのなんて柄じゃないと思っていたけど、やってみるとかなりおもしろいと思った。
自分の教えたことが、生徒に伝わったときは特にだった。


なのはさんも、ヴィータもこれがあるから、教導官という辛い職業をやっていけてるんだろうな。

そして、今日は久しぶりの休日だった。



「おーい、今日はどこに行くんだ?」

「サンダーに乗って、クラナガンに買い物でも行こうか」

「そうだな。たまには、あの有名な所のアイスも食べたいしな」

「ヴィータは、いつも食べているでしょう。俺のだけどね」

「うっせーよ……いいだろ。アイスは好きなんだから……。おめえのも好きだけど、あっちも好きなんだよ」



素直じゃないけど、こういうところがかわいいんだよな。
まぁ、手前味噌もあるかもしれないけど……。

でも、やっぱかわいいと思う。



「フィル……」

「ん?」

「これからも……その……一緒だからな」




素直じゃないけど、心の優しいヴィータ。


俺はそんな彼女に、何度も助けられた。


これからもお互いに、助け合えたらいいと思う。


それが、お互いを思いやると言うことだから……。


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