〜 Remember my heart 〜
if ending シャマル
「フィル!! しっかりなさい!! 今、シャマル先生の所に連れて行くから!!」
「ねぇ、しっかりしてよ!! お願いだから、目を開けてよ!!」
フレイム・グロウを倒し、なのはさん達の救出に向かったあたし達。
だが、そこで見たのは――――。
スパイラルを使ってしまい、力尽きて倒れていたフィルの姿。
なのはさんの話だと、フィルは玉座の間にあるコアを破壊するために、たった一人玉座の間に残り、そこでスパイラルを使ってしまった。
もちろん、なのはさん達も、その場でただ手をこまねいていた訳じゃなく、何とか中に突入しようとしたが、AMFの影響で部隊長とリイン曹長は、魔法が使えなくなっていたのと、なのはさんもブラスター3を使ってしまい、戦闘不能状態になっていた。
スカリエッティを倒したフェイトさんと合流したあたし達は、何とかサンダーの力で、隔壁を破壊して中に突入し、倒れているフィルを、急いでアースラに運ぶ。
そこで、あたし達を待っていたのは、シャマル先生だった。
「シャマル!! フィルが……フィルが!!」
「フェイトちゃん、落ち着いて!! スバル、ティアナ、とにかく、アースラの医務室に急いで運んで!!」
「「はい!!」」
あたし達はシャマル先生の指示で、フィルを医務室に運んだ。
こうしている間にも、フィルの心臓は停止寸前になっている……。
* * *
「……フィル」
連れてくるのが早かったのと、処置のおかげで何とか一命は取り留めているが……。
モニタを見るかぎり、このままではフィルの命はない。
スパイラルを使って、その場で死ななかったのが不思議なくらいだ。
スパイラルはブラスター以上に危険なシステム――――。
「なんで……何でスパイラルを使ってしまったの……。あのとき、私と約束したのに……」
* * *
決戦前
私は、先日、大怪我をしたフィルの身体の状態を確かめるため、最後の検査をしていた。
メディカルポッドで回復しているのは、表面上だけだ。
あの大怪我を全て治すのは、こんな短時間では無理な話だから――――。
「フィル、分かっていると思うけど、あなたはまだ、完全に回復してるわけじゃないのよ」
「はい、分かってます……」
「本当は戦いには出したくないの。だけど、ここで止めても、あなたは行くんでしょう?」
「……はい、クアットロとは、最後の決着を付けなきゃいけないんです。それに、ヴィヴィオのことも助けないと……」
「フィル、まさか、あなた……」
「……大丈夫ですよ。ヴィヴィオは絶対助けますから……」
そう言ってフィルが医務室から出ようとしたとき――――。
「待ちなさい!!」
「シャマル先生?」
「あなた……まさか、スパイラルを使う気じゃ……」
「!?」
ほんの僅かだけど、驚きの表情をした。
やっぱり、そのつもりだったのね……。
「ごめんなさい……。プリムから、全て聞いたの……」
「プリム……お前」
《マスター……ごめんなさい。でも……》
「あれほど、言うなって言ったろうが……特にシャマル先生には……」
「フィル、そんなに、私が信用できないの!!」
――――どうして、そんなに私のことを信じてくれないの。
勝手にスパイラルの事を聞いたから……。
でもね……私は……。
「そうじゃ……ないんです……」
「それじゃ、どういう事なの?」
「………知られたくなかったんです。シャマル先生だけには……自分が……好きになった人だけには」
「えっ?」
「シャマル先生……俺……あなたのことが……好きです……」
「う、うそ……冗談よね」
だって、フィルが好きなのは、向こうの世界のティアナ。
私が好きなんてそんなこと……。
「……冗談じゃないですよ。かつて、向こうの世界で、俺はあなたの優しさに救われました。六課襲撃のとき、俺はあなたに庇ってもらい……生き残ることが出来たんです……」
フィルがなのはちゃん達に見せてくれた映像は、今でも覚えてるわ。
六課襲撃をくらい、ガジェットに対してヴァイス陸曹と一緒に奮戦したが、数の暴力と戦闘機人がいたため、ヴァイス君は戦死。
そして、ザフィーラと私も、死んでしまった。
『フィル……あなたは……生きなきゃ駄目よ……。私達の分まで……みんなを……お願いね……』
あの時、私はフィルをかばって死んでしまった。
それが今でもフィルの心の傷になっていることも――――。
「だから……私には……言えなかったのね……」
「片思いなのはかまわないんです!! だけど、あんな事になるのは、もう嫌なんです……。自分の好きな人が、俺の……俺のせいで…死ん……で……」
フィルは私が死んだときのことを思い出して、いつの間にか涙を流している。
そんな彼をもう見ていられない。
私はそんな彼をそっと抱きしめ――――。
「……ばかよ。そんなになるまで、自分を責めて……」
みんなが死んでしまったのは、フィルのせいじゃない。
でも、フィルはずっとたった一人で心に抱え込んできた。
普通の人だったら、押し潰れてしまうほどの悲しみを――――。
「それにね……片思いなんかじゃないわ……」
ずっといえなかったけど、私はね――――。
「私もね……大好きよ……フィル……」
私達は、瞳を閉じて――――。
どちらからともなく口づけを交わす。
初めてのキス……。
それは、少しだけ涙の味がした。
「ふふっ……」
「あはは……」
「……なんか、ちょっと恥ずかしいわね……」
守護騎士として、長い時を生きてきたけど、こんな気持ちは初めてだから――――。
「同感です……。正直、こうなれるなんて、思わなかったですから……」
「私も同じよ。ただ、フィルとはちょっと理由が違うのよ」
「と、いいますと?」
「だって……六課にはいっぱい、かわいい女の子がいるでしょう。はやてちゃんもそうだし、フェイトちゃんだって……」
そして、一番フィルの近くにいるティアナ。
こんなにも、フィルのことを思っている女の子達がいたから――――。
「だから、こんな年上の女なんて……そう思っていたから……」
きっと今の私の顔は、恥ずかしさで真っ赤よね。
そう思っていたら、フィルが自分の方へ抱き寄せて――――。
「あっ……」
「……そんなこと言わないでください。俺にとって一番好きな女性は、シャマル先生なんですから……」
「……ありがとう……フィル……」
私はフィルの言葉が嬉しかった。
年上って事もあるけど、私はこんな風に恋愛をすることは、無いと思っていたから……。
「フィル……あのね……」
「はい?」
「私のこと……シャマル、って呼んで欲しいの。恋人同士だったら、お互いに名前で呼び合う物でしょう………」
私はスバルやティアナが羨ましかった。
ああやって、フィルと壁が無く会話が出来るんですもの――――。
「確かに、そうですね……」
「あと、その敬語も禁止ね。仕事の時はともかく、二人きりの時はやめましょう……」
「……わかった。シャマル」
「……嬉しいわね。好きな人に、そうやっていってもらえるなんてね……」
私たちは、再びキスをしようとしたとき――――。
アースラ艦内に警報が鳴り響く。
「時間……みたいだ……」
この警報は第一級戦闘配備。
降下ポイントまで、あと30分を知らせる物だった。
「フィル……」
「どうしたの?」
「絶対……生きて帰ってきて!! 私を一人にしないでね!!」
「大丈夫……。ちゃんと生きて帰ってくるから……」
* * *
現在
「ちゃんと帰ってくるって……言ったのに……」
大切な人が、今にも死んでしまうってのに、私は何も出来ないの……。
《一つだけ……方法があります……》
「クラールヴィント? 違う? どこから?」
《フィルのポケットを見てください》
謎の声に従って、フィルのポケットを探ってみると、クラールヴィントがあった。
「どういう事なの? クラールヴィントが二つあるなんて?」
《私はあっちの世界のクラールヴィントです。かつて、マスターからフィルに託された……》
「それでもおかしいわ。だって守護騎士システムで成り立っている私達は、死んでしまうとデバイスも一緒に消えてしまうのに?」
私達と持っているデバイスは、一心同体。
だから、どちらかが残っているって事はあり得ないはず……。
《最後の力で、私をシステムから切り離したんです。それで存在しているんです……》
「そういうことだったのね。それなら納得いくわ。それで、何か方法があるの?」
《はい……》
「お願い、クラールヴィント!! フィルを助ける方法を教えて!! フィルを助けるためなら、どんなことだってするから!!」
フィルが助かるなら、どんなことだってしてみせる!!
例え、私の命と引き替えだとしても……。
《方法というのは……私のコアを……フィルに飲ませてください》
「なん……ですって」
《知っての通り、私のコアは魔導師一人分に匹敵する魔力を持っています。それを生命力に変換し、彼を助けるしかありません》
「だけど、そんなことをしたら、あなたが!!」
クラールヴィントがやろうとしていることは、スパイラルシステムの応用。
もし、実行すればクラールヴィントは……。
《私のことは良いんです。かつて私は、マスターを守れなかった……。こっちに来てからも、そんな後悔でずっといました。だから、今度は後悔したくないんです!! マスターが好きになった人を助けられるなら、それで私は本望なんです!!》
「クラールヴィント……」
クラールヴィントの思いに、私は涙を抑えられなかった。
「……ごめんなさい。あなたの命……使わせてもらうわ……」
《喜んで……マスター》
「ありがとう……クラールヴィント……」
《幸せになって……くださいね……。あんな未来は………なくなったんですから……》
私は涙をこらえながら、クラールヴィントのコアを取り出す。
ここで、中途半端なことをしたら、クラールヴィントに申し訳がない。
「フィル……お願い、これで……蘇って!!」
そして、そのコアを口移しで何とか飲ませ――――。
* * *
医務室前
医務室前には、スバルとあたしが外で待機していた。
さっきまで、六課主要メンバー全員いたのだが、今は二人だけになっている。
「ティア……」
「何よ……」
「フィル……大丈夫だよね……」
「大丈夫に決まってるでしょう!! あんたは余計な心配なんかしない!!」
スバルにはああいったけど、正直言ってフィルの容態はかなり酷い。
あの時のシャマル先生、打つ手がないって顔をしていた。
そんなことを考えてると……。
「「シャマル先生!!」」
「もう、大丈夫よ。フィルは……峠を越したから……」
「本当ですか!!」
「ええ……」
「あたし、みんなに知らせてきます!!」
「ちょっと待ちなさい!! あたしも行くわよ!!」
* * *
スバルとティアナは、フィルの無事を知らせるために、みんなの所に走っていった。
「……あなたのおかげで、フィルが助かったわ……本当にありがとう……クラールヴィント……」
私の手に握られた、コアのないクラールヴィント。
「あなたがしてくれた事、決して忘れないから……」
* * *
二週間後
フィルも意識を取り戻し、今は一般病棟に移っている。
一時は面会謝絶だったが、ここまでになると、面会も許可が出て、食べ物も普通の物を食べられるようになっていた。
「はい、フィル。あーん♪」
「あ、あーん……」
「どう……かな……」
私の手料理って、今までうまくいっていなかった。
器具を壊しちゃったり、味付けが極端になってしまったりと……。
今回は、本当に頑張ったけど……。
フィル、美味しいって言ってくれるかしら……。
「うん、美味しいよ」
「よかった!!」
「よかったな、シャマル。私の所でいっぱい勉強したもんな」
「は、はやてちゃん!! それは……」
そう、私は、はやてちゃんにお料理を教えてもらっていたのだ。
どうしてもフィルに、美味しいご飯を食べさせてあげたかったから……。
「しかし、驚いたわ。海鳴にいた頃は、あれだけ教えても駄目だったのに、たった10日でこれだけ出来るようになったんやから……。きっと、愛の力やね」
「シャマル……」
「あはは………なんか……恥ずかしい物、見せちゃったわね……」
料理が出来るようになるまで、何度も包丁で指を切っちゃったから――――。
そんな指を見られるのが恥ずかしくて、私は自分の手を、後ろに隠してしまった。
「そんな訳ないだろ。その傷は、俺のために一生懸命してくれた証だろ。はやてさんから聞いたけど、本当に料理が苦手だったのに、これだけの物を作ってくれたんだから………」
そして、私の手をそっと握って……。
「本当に……ありがとう……。シャマル……」
「フィル……」
「あの……お二人さん、良い雰囲気になるのはかまわないんやけど、私がいないときにしてくれるかな……」
「「あっ……」」
はやてちゃんの言葉に、二人とも顔が真っ赤になってしまった。
そんな私たちを見て、はやてちゃんはさらにからかってくる。
でも、本当に喜んでくれて良かった――――。
* * *
「そっか……クラールヴィントが……」
「ええ……自分のコアをあなたに託したの……」
退院して半月が経った頃、シャマルから、初めて俺が助かった理由を聞かされた。
クラールヴィント……ありがとう。
お前がくれた命、大切にするから……。
「シャマル……俺……」
「フィル、クラールヴィントのことを、少しでも思ってくれるなら、二度とスパイラルは使わないで……もう、あんな思いは………嫌よ……」
シャマルの瞳から、大粒の涙があふれていた。
俺の軽率な行動で、この人を悲しませちゃったんだから――――。
「約束する……。二度とスパイラルは使わないよ……」
「ありがとう……」
あんな危険なシステム、もう二度と使いたくない。
大切な人を二度と悲しませたくはないから――――。
* * *
「あ……あの……シャマル」
「なんで、俺はこんな事になってるのかな?」
俺とシャマルは、部屋に戻り、しばらくの間、ベッドに座ってのんびりしてたのだが、突然シャマルが俺をベッドに押し倒し……。
「あ、あのね……私だって……女なんですよ。フィルったら、いつまでたっても、私のこと求めてくれないし……。私……魅力ありませんか……」
「違うよ!! そうじゃない!!」
「じゃ、なんでなんですか!!」
「……だって、そんなにがっついたら、嫌われると思ったから……」
――――俺だって男なんだ。
好きな人と一緒にいて、ぬくもりを感じ合いたいと思うのは当たり前の感情だ。
だけど、自分勝手に求めるのは、そんなのは嫌だから……。
「ばかね……そんなわけ無いでしょう。私は退院してから、ずっとフィルに抱きしめてもらいたいって思ってたのよ」
「シャマル……」
「あっ……」
「ごめんな……不安にさせて……本当に馬鹿だ……俺……」
俺は上体を起こし、シャマルを力一杯ギュッと抱きしめる。
「……フィル、私の不安を消して……いっぱい……いっぱい……抱いて……」
瞳を覗き込むと、シャマルはそっと目を閉じ……。
俺は、そんな彼女の唇にキスをした。
最初はふれあう物だったけど、お互いに気持ちが抑えきれなくなり、だんだんと深い物になっていった。
キスが終わった後に、出来上がった銀色の糸がその証。
「お願い……いっぱい抱きしめて……」
「ああ……いいんだね……」
「遠慮したら……怒りますからね……」
俺は、シャマルの服を脱がし、下着の上から形の良い胸に触れ――――。
「……んっ、もっとつよくしても……大丈夫よ」
「……シャマル」
――――女性特有の甘い匂い。
それが俺の心を支配していく。
俺たちは、全ての衣類を脱ぎ去り、互いの体温を感じ合う。
そして――――。
「……お願い。私を……あなたの……ものにして」
俺たちは、心から結ばれ……。
そのぬくもりをずっと感じたくて……。
その夜は幾度となく互いを求め合った。
* * *
4年後
六課解散後、俺とシャマルは管理局を辞め、俺は医学の道を歩むことになった。
俺はスパイラルの影響で、現場で戦うことが出来ない身体になってしまった。
そんな俺にシャマルは、医学の勉強しないかと言ってくれ、必死で勉強し、何とか医師の免許を手に入れた。そして、俺はシャマルと結婚し、クラナガンで開業医として、一緒に働いているのだ。
ちなみに、俺が管理局を辞めることは、そんなに苦労は無かったのだが、シャマルの方が、闇の書事件のことがあって、かなり苦労した。
だけど、レジアスの親父さんが取りはからってくれて、条件付きでシャマルの退職を認めてくれた。
条件は、期間限定で、はやてさんが地上所属になり、地上の状況を勉強し直すこと。
実はこれは、レジアスの親父さんの親心でもあった。
はやてさんはいつか管理局のトップになれる素材だ。
だから、今の内に沢山勉強して欲しい。
そのことが分かっていたから、はやてさんも条件を呑んだのだ。
そして、はやてさんは俺たちに……。
『フィル、シャマル、二人とも幸せになってや……。私のことは気にせんといて……レジアス中将の真意は分かってるから……』
レジアスの親父さん、そしてはやてさん。
俺たちは、そんな優しい人たちのおかげで、今こうしている。
これから、俺たちは色んな困難に遭うだろう――――。
だけど、愛する人がいれば、それを乗り越えられる……。
例え苦しいときでも、シャマルの笑顔が、俺に力を与えてくれる。
そして、今日も――――。
「フィル!! 今日も、一日頑張りましょうね!!」
穏やかな一時……。
そんな日常を……。
これからも一緒に歩んでいきたい……。
大切な人と……シャマルと一緒に………。
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