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〜 Remember my heart 〜
BAD END


「ふぅ……。やっと、お仕事が終わった」



私は臨時のお仕事で、クラナガンに出張に行っていた。
本当は六課でパーティーに参加していたはずなのに……。



「まったく……本当なら、フィルと一緒に楽しく過ごしていたはずなのに……」

「でも、これが買えたから良いかな?」


手に持っていたのは、クラナガンでも有名な洋菓子店のクッキー。
これを一緒に食べるんだ。


「……あれは?」



寮に戻ろうとして、ふと目に付いたのは、海岸で空を見上げていたフィルの姿だった。




*      *      *




「んっ……。そうだ、脅かしちゃおっと♪」



私はフィルに気づかれないように、木陰から近づいて行った。
そしてすぐ近くにまで来ると、フィルの呟きが聞こえてきた。



「終わったな……」

《そうですね……やっと終わりましたね》

「パーティ……楽しかったな……」

《マスター……。は、はい……マスター……》



最初は、パーティが終わっての感想を言ってるのかと思ったけど、プリムの口調からそれは違うのは分かる。
プリムの口調は、泣いているかのような喋り方だ。



「これで……最後かと思うと……寂しいな。俺の役目も……これで終わった……。そして……」

「……後は……俺が、消えるだけか……」

『えっ?』



私は思わず、持っていた缶ジュースを落としてしまう。
その音で、フィルに気づかれてしまった。



「誰!? フェイト? いつから、そこに?」



フィルの言葉に、私は震えが止まらなかった。


――――嘘だよね。


そんなのうそだよね!!



「どういう……事……なの……」


フィルは黙ったままだったが、しばらくしてぽつりぽつりと語り始める。



「……元々、俺の命は、あの時に……ゆりかごでフェイトをかばったときに終わっていたんだ。女神にもう一度だけ我が儘を言って、少しの時間だけ、こうして肉体と命をもらったんだけど……。それも、もう……限界みたい」

「そんな!! ど、どうして……」



私の目からは、ぽろぽろと涙が零れていた。
さっきまでの楽しい気持ちが嘘のように、心の中は悲しみに満ちていた。

震える手から、持っていたクッキーがこぼれ落ちてしまう。



「これは?」



フィルがクッキーの入った包みを拾って、中身を見ると優しく微笑んだ。



「これ……俺たちがよく話していた、あの店のだね? 食べてもいい?」

「……うん。……ぐすっ……いい…よ」



私は泣きながらも、何とかと頷いた。



「モグモグ……うん、おいしい。ありがとう、これ、美味しいよ」



そう言ってフィルは、私に一つ差し出した。
私はそれを食べてみたが……。



「なっ、美味しいだろ?」

「……美味しくなんか……無いよ。これだったら、フィルが作ってくれた方が、よっぽど美味しいよ……」



だって……。


こんなに……しょっぱいんだよ。




「フェイト……」

「嫌だよ!! 居なくならないでよ!!」



私は、我慢しきれなくなって、フィルに抱きついた。
そして、そのままフィルの胸で泣き続けた。

そんな私を、フィルは優しく抱きしめて、頭を撫でてくれた。



「フェイト……俺も、本当は一緒にいたかった。一緒にいて、色んな所に行ったり、笑ったり、怒ったり、泣いたり……してみたかった……」

「だったら、一緒にしていこう!! フィルはまだ、全然幸せになって無いんだよ!! 約束したじゃない……。ずっと……そばにいるって……」


未来からずっと辛いことばっかりだったフィル。
やっと、これから幸せをつかめるんだよ――――。

それなのに……こんなのって……。


「幸せだったよ……。フェイトと出会って、恋人同士になって……。そして、俺にたくさんの優しさをくれた……。たった一つだけ、心残りは、そばにいられないことかな……」

「フィル……」



フィルは私を抱きしめ、泣きながらそう言ってくれた。
目を開き、顔を見上げてみると、フィルの身体が、淡い光に包まれていた。


そして、フィルが段々と……消えていっている……。


「どうやら……本当に……お別れだ……」

「嫌だよ!! こんなの………こんなの……嫌だよ!!」

「フェイト……」

「お願いだよ………消えないでよ!! ずっと、私のそばに居てよ!!」



抱きしめたフィルの体から、温もりが消えていっている……。
その体は、光の粒になって空へと昇っていってる。



「フェイト……こんな俺を、好きになってくれて……本当に……ありがとう……幸せに……なってね……俺の大好きな……フェイト……」


そして――――。


フィルの体は消えてしまった………。


私の腕の中から………。


――――この世界から。



そして、フィルが消えた所に落ちていたのは……。



「プリ……ム……?」



私は、それを拾い、プリムに語りかけるが……。


「ねぇ、プリム……」

《……》



しかし、何も反応はしない……。
フィルを追って、魂が消えてしまったかのように……。



「おねがい……応えてよ……プリム……」

「これから……どう生きていけばいいの。愛する人がいない……この世界で……」





*      *      *





「ねぇ……フィル、この2年の間……色々な事があったんだ……」

「ティアナはね、私の元で執務官補佐をして、執務官になったし、スバルもレスキューの仕事をしてるんだよ。なのはもはやても、それぞれ教導官と捜査官をしてるしね。みんな、それぞれの道で頑張ってるんだ……」



私がいるのは2年前、フィルと別れた海岸だった。
ここに来れば、フィルに会えるかもしれない。


もしかしたら、女神がまたフィルを生き返らせてくれるかもしれない――――。


この2年間、そんな気持ちで、ここには何回も来ていた。



「でもね……」



取り出したのは、一つのカプセル……。



「もう……疲れちゃった……。あなたがいない世界で生きるのは……」



私は、そのカプセルを飲み込み……。



「フィ…ル……」



――――ねぇ、フィル。



こんな事をした私を、あなたは怒るよね。



でも、あなたの居ないこの世界で、一人で生きていくのは、もう駄目なんだよ……。




そっちに行ったら、たくさん怒って良いから……。



そのあとは、私を受け入れてね……。



そして、いっぱい……抱きしめてね……。



愛してるよ……フィル。



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