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〜 Remember my heart 〜
if ending なのは

パーティーが終わり、みんなそれぞれの部屋に戻っていたが、何となく眠れなかったので、俺は外に出て風に当たっていた。



「うーん……良い風だな」



今までクアットロのことで、ずっと戦っていたからな……。
こんな気持ちでいられるなんて思わなかった。



「こんな所で、何してるの?」

「なのはさん……」



俺が夜風に当たっていると、なのはさんがやってきた。



「ちょっと……眠れなくて、夜風に当たってたんですよ。なのはさんは?」

「わたしも一緒。何か興奮して、眠れなくてね」

「ヴィヴィオは?」

「部屋で眠ってるよ。フェイトちゃんと一緒にね。だけど、合い鍵も持ってないから、部屋に入れないんだ」

「あらら……」


フェイトさんらしくないミスだな。
仕事で、よっぽど疲れちゃったのかな。




*    *    *




「最近……どうしたんですか?」

「さっきも……普段なら、あんな事言わないのに、何か……あったんですか?」



いつもと、同じ様にしていたつもりだったのにな……。
隠しきれない……な。



「ねぇ、フィル……。パーティで、わたしに言ってくれたこと……覚えてる?」

「ええ……」

「あの時……自分の結婚のことで、フィルに相談したよね。だけど、フィルは相手が、外見だけで見るような人なら、結婚なんかしない方が良いって言ったよね」

「忘れてください……。あれは……俺の勝手な思いですから……」




忘れられないよ……。
だって、あの言葉は本当に嬉しかったんだよ。


ティアナ――――。


わたし、あなたにずっと遠慮していたけど……。


ごめんね……。


これ以上、自分に嘘をつきたくないから……。


嫌われたっていい……。伝えよう。



自分の本当の思いを――――。




「………すき……フィルが好き!! 大好き!!」

「好きなの!!」


――――とうとう言っちゃった。



「でも……だめだよね」


フィルは亡くなったティアナのことが好きだから、この気持ちは抑え込んでしまおうって思ってた。



―――――でも、無理だった。


ゆりかごで、フィルが死ぬかもしれないと思ったときから、ずっと自分の思いを抑えきれなくなっていた。


自分の大好きな人がいなくなってしまう。


そう思ったら、胸が張り裂けそうになる。
気持ちを隠せば隠すほど、胸がどんどん苦しくなって……。


ティアナのことが好きだって、知っているのに……。


ごめんね……。
わたしの思いなんて、あなたにとって邪魔なだけだよね……。



*    *    *





「……なのはさん」



ずっと考えていた――――。


なのはさんと出会い、今まで一緒に戦ってきて色んな事があった。
辛いこともあったけど、それ以上に楽しい思い出があった。



ティアとの模擬戦で、お互いの意見をぶつけ合ったこと。

ヴィヴィオが来て、一緒に料理をしたり、ご飯を食べたりしたこと。

ヴィヴィオがクアットロに誘拐されて、俺となのはさんが一緒に助けたこと。


そして――――。


ゆりかごで死にかけて、意識が戻ってから、なのはさんは本当に俺のためにいろいろしてくれた。
身の回りの世話だけでなく、精神的に不安定になっていたときも、ずっとそばにいてくれた。


そんな思い出の中心に、いつもなのはさんがいた。


何よりも、なのはさんと一緒にいるとあたたかい気持ちになれた。


そんななのはさんだから――――。



「俺も……なのはさんのことが……好きです」

「で、でも、それじゃティアナは……」

「ティアのことは、俺にとって大切なパートナーでした。大切だし、好きだったけど、それは恋人としてでははないです」



今なら分かる………。
あのときティアが俺に幸せになってほしいって、言った意味が……。



「いつも笑顔でいてほしいと思うのも、そばにいてほしいって思うのも……なのはさん……あなただけです……」

「フィル……」



*    *   *



フィルの言葉に、わたしは今度は、嬉し涙を押さえられなかった。
こんなにも強く、誰かに何かを、望んだ事なんてなかった。


これが好きということ……。


これが……恋なんだ……。



「フィル……」

「今日は……離れたく……ない…」

「なのはさん……」



やっと、フィルに自分の気持ちが伝わったんだ。
今日は、ずっと一緒にいたいから――――。





*    *    *




「そういえば……何で、俺のことが好きになったんですか?」

「ん……」

「表裏がないところかな」

「そうですか? かなりありますよ。みんなのこと、かなり騙してましたし……」

「騙してたといっても、それはスカリエッティに、ばれないようにするためだよね。普段のフィルは、正直だよ。ヴィヴィオもすごく懐いているし……」

「わたしには無いものだから……すごく憧れる……」

「聞いてくれるかな……わたしの話……」



なのはさんは自分の幼少期のことを語り始めた。
かつて父親が事故にあって、それで家族が大変なことになり、自分も何か手伝えることはないかって頑張ったのだが、みんな大丈夫だからと、自分は力になれなかったこと。

せめて自分が出来ることは、良い子でいること。

それで、それからは良い子でいることにしていた。

そして、いつの間にか、本音でぶつかることが、言葉で話すことが怖くなってしまっていた。

だから、あの時、自分の中で思っていても、ティア達に伝え切れていなかった。

フェイトさんやはやてさんにも、相談出来ずに……。



「だけどね。もう、良い子でいるのはおしまい……」

「フィルのことが、本気で好きだから……」

「なのはさん……」



俺はなのはさんをぎゅっと抱きしめ、まっすぐに瞳を覗き込むと……。


なのはさんは瞳を閉じて……。


そして、俺は……。


なのはさんの唇に、キスをする。
最初は唇が触れるだけのキス。次第に互いを求め合うキスになり、息継ぎを繰り返しながら、何度も互いを求め合う。

キスが終わったときには、互いの間に銀色の糸が出来上がっていた。



「抱いて……フィル……あなたのぬくもりを……もっと感じたい……」

「なのはさん……」

「なのは、って呼んで、フィル……」

「なのは……」

「フィル……」



俺は、なのはの上着を脱がし、ブラの上からそっと、形の良い胸に触れる。



「あっ……んっ……」


なのはの甘い声に、俺の理性が段々と崩れていくのが分かる。



「えへへ……。わたし、胸には自信あるんだよ」

「うん……。大きいし……それに、やわらかい」

「いっぱい……いっぱい触って良いんだからね。わたしの胸も身体も……全部、フィルのなんだからね」


その言葉に胸がいっぱいになる。
ここで遠慮するのは、却って失礼だ。

俺は、そのままブラを取り、なのはの身体を隅々まで愛し――――。



「……はぁ……はぁ……もう……いいよ。きて……フィル」



そして、俺たちは……。



一晩中、お互いの気持ちを確かめ合った。



*    *    *




「あ、目が覚めたんだ。おはよう、フィル」



あれから、わたしとフィルは何度もお互いの気持ちを確かめ合った。
初めてで痛かったけど、フィルに抱かれてとっても嬉しかった。

気持ちが通じ合うって、こんなにあたたかいんだね――――。



「あ、ああ、おはようございます。なのはさん……」

「むぅ―――」

「えっ? どうしたんですか?」



どうしたんですか? じゃないよ!!
昨日は、ベッドの上じゃ、ちゃんとなのはって呼んでくれたのに!!



「なのはさんじゃなく、なのはだよ!! それと敬語は禁止!! もう一度!!」

「……おはよう、なのは」

「うん♪ おはよう、フィル」


やっぱり、大好きな人に名前で呼んでもらうっていいよね。
お願いついでに、もう一つ甘えちゃおうかな♪



「じゃあ、おはようのキス〜♪」

「えっ?」

「………して……くれないの……」


フィルは、戸惑ってなかなかキスをしてくれない。
もう……。照れ屋なのは分かるけど……。


こうなったら――――。



「んっ!? んんんっっ!!」


わたしのほうから、フィルにキスをしちゃった。
だって、フィルからしてくれないのが悪いんだからね――――。




「あ……あの……なのは。そんなことされると、俺も理性が持たなくなるから……」

「……いいよ。そのときは、またいっぱい……しよ……」

「なのは……」

「フィル……」



今度は、フィルの方からキスをしてくれた。
でも、キスだけじゃ満足しきれなくなり、わたしとフィルは、またベッドで一つになる。

フィル、いっぱい……いっぱい抱きしめてね♪





*    *    *



「おはよう、なのは」

「おはよう、フェイトちゃん」

「なのは、昨日はごめんね。部屋の鍵、私が持っていたから、入れなかったでしょう」

「大丈夫だよ。昨日はフィルの部屋に泊まったから……」

「ぶはっ!!」



しまった!! 話の流れで思わず言っちゃった。
フェイトちゃんも、飲んでいたコーヒーを吐いちゃったし……。



「なのは……どういうことか、話してくれるよね」

「にゃ、にゃははは……」



フェイトちゃんのあまりの迫力に、わたしはもう隠せないと悟った。
そして、わたしは昨日のことを、フェイトちゃんに話した。



「……なるほどね。やっと、言ったんだね……」

「えっ? もしかして、フェイトちゃん……」

「知ってたよ。でも、これはなのはが自分で、気づかなきゃいけないことだからね……」

「フェイトちゃん……」

「でも、良かったね。両思いになれて……」

「うん……」


駄目だと思っていた恋――――。
フィルと両思いになれて、本当に嬉しかった。

だって、こんなに優しい気持ちになれるんだから――――。


フェイトちゃんと話していたら、ヴィヴィオが起きてきて、こっちにやってきて……。



「なのはママ……」

「ヴィヴィオ!! ただいま」

「おかえり……ねぇ、フィルパパは?」

「あっ……その……えっと……」



わたしがなんて言ったらいいか困っていたら、フェイトちゃんが……。



「ヴィヴィオ。フィルなら、今日なのはママの部屋に来てくれるって」

「本当!!」

「ちょ、ちょっと、フェイトちゃん!!」

「本当だよ。だから、今日一日良い子でいようね」

「うん!!」

「なのは、今日私は、泊まりの出張に行くから、好きにして良いよ。じゃあね!!」

「フェイトちゃん!! もう……」



絶対嘘だ。こんな急にそんな仕事が、入るわけ無いじゃない。
でも……ありがとう……。




*    *    *




「こんばんは、ヴィヴィオ」

「あっ、フィルパパだ!!」

「パーティーの時、一緒にいてあげられなかったからね。今日は一緒にいよう」

「わーい!!」



実は、ここに来る途中、フェイトさんに会って……。


『今日は戻らないから、なのは達と一緒に過ごしてね』


そう言ってたけど、明らかにおかしい。
もしかして、フェイトさん。俺たちのこと――――。



「いらっしゃい、フィル」

「お邪魔します……」

「違うよ」

「えっ?」

「ただいまだよ。これから、わたし達は『家族』になるんだから……」



家族か……。
そうだよな……俺もヴィヴィオのパパになるんだからな。



「……そうですね」

「それと、前も言ったけど、普段は敬語は禁止!! 家族の間で、そんな他人行儀はしないの!!」

「きんし――!!」



なのはとヴィヴィオの二人に、そう言われてしまったら、敬語は止めるとするか。



「それじゃ、食べてね」

「わーい!!」


なのはが用意していたのは、ヴィヴィオの大好きなハンバーグを始め、クリームシチューと野菜サラダといったメニューだった。
俺も、ヴィヴィオの大好きなケーキを作ってきた。



「「「いただきます!!」」」

「はい、ヴィヴィオ。あーん」

「あーん」

「美味しい?」

「うん!! おいしい!!」



なのはがヴィヴィオに、ハンバーグを食べさせてあげている。
うん、こういった光景は良いよな……。



「ヴィヴィオ、俺のも食べるか?」

「うん!! 食べる!!」

「じゃ、あーん」

「あーん」

「美味しいか?」

「おいしいっ!!」



ヴィヴィオは、俺が食べていたピーマンを食べた。
実は、苦手だったピーマンも大分克服してきている。

そうやって、娘が成長しているのを見ると、すごく嬉しかった。



「さて、そろそろ、ケーキも出そうかな」

「「ケーキ?」」

「ああ、さっき持ってきた箱はパウンドケーキさ。なのは達と食べようと思ってね」



俺たち三人はパウンドケーキを食べ、その後は三人で一緒にゲームしたり、テレビを見たりして過ごした。
夜も遅くなり、俺はそろそろ戻ることにしたのだが……。




「フィルパパ……帰っちゃうの?」

「もう、遅いしな。なのはママにも悪いしね」

「そんなこと無いよ!! お願い、今日はヴィヴィオと一緒に、寝てほしいなぁ……」

「パパ………」



二人のお願いに、俺はNOとは言えなかった。



「それじゃ、今日は三人で一緒に寝ようか」

「「わーい」」




*    *    *




「ヴィヴィオ……寝ちゃったね」

「そう……だな」



あの後、わたしとフィルとヴィヴィオの三人で寝ることになり、ヴィヴィオが眠るまで、フィルが絵本を読んであげていたのだけど、それでも、眠る気配がなかったので、わたしが子守歌を歌ってあげて、ようやく眠ってくれた。



「こうしてみると、本当かわいいよな。ヴィヴィオ」

「うん……。ねぇ……フィル……」

「ん、何?」

「フィルは、これからどうするの? 六課が解散してから……」

「二つ考えてるんだ。一つは、このまま管理局に残って、身体が治り次第、執務官か捜査官を目指していく……」



それは止めてほしかった――――。
もう、フィルにあんな目にあってほしくない。

愛する人が死にかけるのを見るのは、もういや!!




「もう一つは……管理局を辞めて、もう一つの夢だった喫茶店を開く」



管理局を辞めても、フィルだったら大丈夫だよ。
もし、本当にやめてくれるのなら――――。




「……それだったら、わたしと一緒にやらない。喫茶店……」

「なのは?」

「正直ね。わたしも、今までの無理がたたって、そう長くはやれないと思うの。わたしの思いは、ティアナやスバル達にちゃんと伝わったし、ティアナ達なら、いつかわたしを超える魔導師になれるから……」

「……本当に、それでいいのか? 空を飛ぶのは、なのはの生き甲斐だったじゃないか!!」


確かに、空を飛ぶのはわたしの生き甲斐だったよ。
でも、それ以上に大切なことだってあるんだよ――――。



「なのは……俺は……」

「勘違いしないでね。これは前から考えてたことなの……」



多分……やれても、後、4〜5年くらいだと思う。
だったら、完全に駄目になる前に、辞めようと思ったんだ。

ヴィヴィオのためにもね……。



「分かった……そこまで思っているなら、もう止めないよ」

「ありがとう……」


これはちょうど良い機会なのかもしれない。
フィルも、わたしも限界以上のことをしてきたのだから――――。



「じゃ、そのために一生懸命頑張らなくちゃな……」

「そうだよ、がんばってね。フィル……」

「ああ……俺には、こんなにかわいい彼女がいるんだからな……」

「……ばか」


フィルのばか……。
そんなこと言ったって、なにも出ないんだからね。 




*    *    *



4年後


カランコロン……。



「いらっしゃいませ!!」

「おじゃまするっすよ!!」

「おそいよ、ウェンディ!!」

「いやぁ、すまないっす。道が混んでいて……」

「もう、みんな来てるわよ」



店の中にいたのは、スバル、ティアナ、そして、N2Rのメンバーと、聖王教会に世話になっているオットーとディードだった。



「ったく、相変わらずだな。お前の、そのいい加減さは……」

「ノーヴェにいわれたくないっす」

「何だと!!」

「お二人さん……店の中で喧嘩は止めてくれるかな……」

「ごめん……」

「ごめんっす……」



ノーヴェとウェンディの喧嘩を止めたのは、この店のマスターである俺だった。


六課解散後、俺となのはは管理局を退職し、その時に、二人は籍を入れ、なのはの両親に挨拶にいったのだ。


最初は、翠屋で長期の修行をするつもりだったが、未来やこっちで学んできた基礎があり、修行は短期間で終わらすことが出来た。

その後、師匠でもある高町桃子さんのお墨付きをもらい、二人でミッドチルダに喫茶店を出したのだ。


店の方も、なのはのネームバリューが効いていたおかげで、お客さんがなのはを見たさにやってきた。

段々となのはの力でなく、味で評価されてきて、最近ではよく雑誌の取材を受けるようになっていた。


そして、この店はティア達のたまり場にもなっていた。



「あいかわらず、大繁盛ね。今日だって、事前に予約してなかったら、大変だったんだから……」

「すまんな、ティア。夜だと、比較的大丈夫なんだけどな……」

「あんたが謝ることはないわよ。いいじゃない、繁盛してるのは……」

「モグモグ……そうだよ……モグモグ……」

「スバル……食べるか、しゃべるか、どっちかにしろ」

「だって、あたし普段は滅多に、これないんだから!!」



このメンバーが集まれるのは、あまりない。
大体スバルが、緊急出動でいないことが多いからな……。



「まぁまぁ……いいじゃない。誰かに迷惑をかけてる訳じゃないしね」

「なのはさん!!」

「みんな、今日は楽しんでいってね。わたしもフィルも、腕によりをかけて作るからね」

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」



*    *    *



「ねぇ……フィル」

「何だ? なのは」

「この店やって……本当に良かったね……」

「ああ……」



喫茶店 『Amour eternel』


地球のフランスの言葉で、永遠の愛――――。
その想いを込め、俺たちはこの店の名前にした。



この場所は、俺たちの夢の場所でもある。


みんなが楽しく、俺の作ったケーキや料理をおいしく食べてくれる。

そして、笑顔になってくれるのが、何より嬉しい。

ここでは、戦闘機人だからとか、そんなのは関係ない。

それは、スバル達を見ていれば、よく分かる。


そして……。




「いらっしゃいませ〜〜〜」

「あっ、ヴィヴィオ!! 今日も手伝いなの?」

「はい、パパとママのお手伝いです」



ヴィヴィオはこの喫茶店の制服に着替えて、ウェイトレスをしていた。
学校が終わると、こうして手伝ってくれるのだ。



*    *    *



「そういえば、この雑誌に載ってたぜ。かわいい母娘と素敵なマスターがいるって……」

「何だそりゃ? かわいい母娘は分かるが……」

「フィル、少しは自覚するっす。視線に気づかないんっすか?」



ここに来ている女性客の半数は、フィルの方を見ていた。
相変わらず、この方面には疎いままである。



「……ノーヴェ」

「は、はい!!」

「その雑誌……見せて……」



わたしはノーヴェから雑誌を取り上げると、その記事の所を確認していた。



「な、なんか……なのはさん、こわいぞ……」

「ノーヴェ、なんでそんな余計な物を持ってきたのよ!! なのはさんにそんな話したら、こうなるって分かってたでしょう!!」

「ごめん、本当に悪かった………」

「ティア!! そんなこと言ってる場合じゃないよ!! 見てよ、なのはさんを……」

「あっちゃぁぁぁ………」

「……そう……それで、女性客が増えたのね……」


わたしが、不機嫌オーラ全開でいたとき……。


「なのは」

「なに、ん……んんん!!」

「「「「「「「「ああっ!!」」」」」」」」



フィルがいきなり、みんなの見ている前で、わたしにキスをする。



「……もう、いきなり、なにするの!!」

「そんなの気にするなって……俺が、愛してるのは、なのはだけだから……」

「……もう……ばか」


でも、わたしもだよ――――。
愛してるよ……フィル……。



*    *    *



「ふぅ……やっと仕事が終わったな」

「そうだね……」

「まったく、パパ、ママ、あんな事もうしないでよ!! 店中でキスをするなんて、リオとコロナに見られたら、わたし、また学校でからかわれるんだからね!!」

「ごめん、ごめん。だけど、あんな雑誌を見たら……」



雑誌にはフィルのことが紹介されていた。
美味しいケーキを作る、イケメンマスター。

そんな風に書かれていて、店に来ていた女性客は、大半フィルのことを見ていた。



「もう、ママがパパのことを、大好きなのは分かるけど……ヤキモチはみっともないよ♪」

「ヴィヴィオ!!」




*    *    *



「ごちそうさま。パパ、ママ、ちょっと外で魔法の練習してくるね」

「ちょっと待って、ヴィヴィオ」

「どうしたの、ママ?」

「ヴィヴィオも、もう4年生だよね」

「そうだけど……」

「実はな、なのはと話し合って、そろそろ、デバイスを渡していいんじゃないかって?」

「ほ……ほんとっっ!?」



そう言って、パパが持ってきてくれた箱を開けてみると……。



「これ……」

「ああ……」



箱の中に入っていたのは、銀色に輝く銃型のデバイス。
パパの相棒のプリムだった。



「どうして!? プリムは、パパの大切なデバイスなのに!!」


プリムは、パパにとって命と同じくらい大切なデバイス。
そんな大切な物をどうして――――。


「だからだよ。だからこそ、大切な娘のお前に託したいんだ。俺は4年前の傷が元で、魔法が殆ど使えなくなってしまった……だから、お前に全てを託したいんだ……」

「それに、ヴィヴィオの聖王の力は、並半かな物じゃ耐えきれないの。だけど、プリムなら、大人になっても使ってあげられるから……」

「パパ……ママ……」

「だから、受け取ってくれ……。俺となのはの思いを……」



パパは箱からプリムを取り出し、わたしに渡してくれた。



「……ありがとう……パパ……ママ……大切にするね」

「そうしてくれ。プリム、今日からヴィヴィオがお前のマスターだ。よろしくな!!」

《分かってます、ヴィヴィオ、これからよろしくお願いしますね》

「うん!! よろしくね、プリム!!」

「ちなみに、あれも使えるように、データは組んでおいたから、後は自分が使いやすい形にするだけだ」

「実は、ずっと前から決めてるんだ。デバイスを持ったら、これにしようって、ずっと思ってたんだ!!」




*    *    *




「マスター認証……ヴィヴィオ・高町・グリード」

「術式はベルカ主体のミッド混合ハイブリッド……」

「いくよ、プリム」

《いつでも良いですよ、ヴィヴィオ!!》

「プリム、セーーーット・アーーーップ!!」



セットアップがすむと、そこにいたのは聖王モードの姿をしたヴィヴィオだった。
しかも、何故か俺と同じく銃型のデバイスも持っていた。



「な、な、な、な!?」

「「やった!! 大成功!!」」



セットアップの成功に、なのはとヴィヴィオは、ハイタッチをしていた。



「なのは、お前、このことを知ってたのか?」

「うん、聖王モードのことは話したよね」

「それは知ってる。何度も見ているしな。だけど、何でわざわざ、おれと同じ銃を……」

「実はね、ストライクアーツやってたんだけど、ある時、フィルのことを……未来でのことを、ティアナから聞いて、それからティアナに、銃の使い方を教えてもらってたの。フィルのようになりたいからって……」

「そうだったのか……。なんか、複雑な気持ちだ」



ヴィヴィオはストライクアーツをしていたから、てっきりスバルのような機能を選ぶかと思ったけど、まさか俺と同じ射撃タイプになるとは……。



「パパ、勝手にティアナさんから教わっていたこと、ごめんなさい。でも、どうしてもパパのようになりたかった。だから、ティアナさんに教えてもらってたの……」

「別に構わないよ。なのはには話してたんだろ?」

「うん、ママも協力してくれたの」

「ったく、なのはも人が悪いぜ。俺に黙っているなんてよ……」

「これでおあいこだよ。フィルがヴィヴィオにプリムを渡すなんて、聞いてなかったんだからね!! さっき聞いて、びっくりしたんだから……」

「確かにな。俺もなのはとヴィヴィオを驚かしたかったしな……」

「「「あははははは!!」」」

「頑張れよ、プリムを使いこなすようになるまで、大変だと思うけど、困ったら俺やなのは、もしくは師事しているティアに相談しろよ」

「うん!! ありがとう。パパ、大好き!!」



そう言ってヴィヴィオは、俺の胸に抱きついてきた。
不謹慎なんだけど、その姿だと、ヴィヴィオって、結構胸あるんだよな……。

以前も似たようなことがあって、なのはがすっごくヤキモチ焼いたんだよな。
相手はヴィヴィオなのにな。



「ああ――――!! ヴィヴィオ、ずるい!!」

「だったら、ママもパパに抱きつけばいいじゃない。いつもしてるんだから♪」



ヴィヴィオの言葉に、なのははポンと手を叩いて、名案と言わんとばかりに……。



「それもそうだね。えい♪」



今度は、なのはまで俺の背中に抱きついてくる。
しかも、自分の胸をしっかりと当ててきてるし――――。



「な、なのはまで……。ったく、この甘えんぼさん……」

「そうだよ、わたしもヴィヴィオも甘えん坊だもん♪」

「だよ♪」




ヤキモチ焼きで、甘えん坊の年上のかわいい奥さん。


母親に似て、やっぱり甘えん坊のかわいい娘。


そんな二人に囲まれて、俺は幸せをかみしめていた。


願わくは、俺たちの三人の愛が、永遠に続くように――――。

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