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〜 Remember my heart 〜
epilogue 永遠の絆


「……どうして……どうしてフィルばっかり……。こんなの……ない…よ」


フェイトちゃんの言う通りや―――――。
なんで、フィルばっかりこんな目にあうんや。


仲間を失って―――――。


恋人を失って―――――。


せっかくやり直して、ささやかな幸せを得たと思ったら―――――。


「誰でもいい!! 誰かフィルを助けてよ!!」



フェイトちゃんの涙が、ぽろぽろこぼれ落ちる―――――。



でも、その願いはもう届かない―――――。




*    *    *




「ここは……?」


なんだ、この真っ白い空間は……。
あの時、俺はフェイトさんをかばって心臓を貫かれて―――――。


でも、この空間見覚えがある。



「まったく……あんたは、本当にばかなんだから……」


ま、まさか……。



「でも、あんたらしいかもね。フィル」



そこに立っていたのは―――――。



「……ティア」



二度と会えないって思っていた―――――。

あの笑顔をもう、見ることはないって思っていたのに――――。



「何泣いてるのよ……。まったくあんたはそんなに泣き虫だったかしら?」

「いいだろ……。こんなときくらい……泣いたってよ」


泣きたかった―――――。


もう、あえないと思っていた人に会えたんだから―――――。


そんな俺をティアは黙って抱きしめてくれた。



「……ごめんね。あんたをそこまで追い詰めちゃったのは……あたしだよね」

「違うさ。お前がいてくれたから……。そして、フェイトさんが居てくれたから……。俺はここまでがんばれたんだ」

「……そっか。フェイトさんにあんたのことを託したのは……間違いじゃなかった」

「本当、おまえは……損な性分だよ。人のことばかり護ろうとしてさ……」

「それは、あんたには言われたくないわよ……」

「かもな……」


でも、後悔はない。
世界の修正力は、俺の命一つで済んだんだ。


みんなが生きてくれるのなら、それでいいさ。



「フィル、あんたにどうしても見せたい物があるの……」

「見せたいもの?」

「これを見て……」



そういってティアが映し出したのは――――。





*      *      *





「……あのね。今日はね、エリオとキャロがね……」



あの日からもう、一ヶ月の時が流れた―――――。

ゆりかごで泣きじゃくっていた私達を、ヴァイス達が迎えにきてくれて、フィルは急いで病院に担ぎ込まれた。


病院に着いたフィルは、すぐに緊急手術が行われ、手術は18時間に及ぶ大手術だったけど、何とか命だけは助かった。


ゆりかごは、リンディ義母さんがアルカンシェル・ノヴァで、完全消滅させ、JS事件と呼ばれたこの事件は無事解決をする。


だけど、フィルはまだ意識を取り戻さない――――。



「なのはもね、ティアナに自分の技術を全部教えるんだって張り切ってるんだよ」



ねぇ……。



いつまで寝ているの……。



私、そんなに強くないんだよ―――。



フェイトって、呼びかけてよ――――。



私を、ぎゅっと抱きしめてよ――――。






*      *      *





「……フェイトさん」

「フィル……あんたはまだ、こっちにきてはだめ。あんたにはまだやることがあるでしょう」

「……ああ、だが……」



――――本当に世話が焼けるわね。


「心配しなくても、あたしがあんたの命になってあげるから……」

「だめだ!! それだけは駄目だ!! フェイトさんだけじゃなく、ティアまで犠牲にするなんて」



――――ばかね。


あんたって本当に女心が分かってないのよね。


女はね、好きな人の力になれるなら、どんな形でもいいから一緒にいたいって思う物よ――――。



「だから……」


あたしは残された最後の力で、フィルのリンカーコアの代わりになる――――。


「あたしのぶんまで、しっかりと生きなさいね!!」


これが、あたしがしてあげられる最後のことよ。





*      *      *





「……今日も……来ちゃった……」



いつものように、私は眠っているフィルの手を握りしめ、日常のことを話し出す。



「……いい天気だよね。こんな日は、一緒に出かけたいよね」



思い出すのは、あの一日だけのお休みの日――――。
私とフィルが、一緒に出かけた海岸でのこと。



「あの時、フィルは私が作ったお弁当を、本当に美味しそうに食べてくれたよね……」


今、私が食べているのはあの時と同じサンドイッチ。


でもね――――。


「一人で食べたって……ね。美味しくなんか……ない……よ」


失って初めて気づくこと……。
フィルとの時間。一緒にいたときは、ずっと続くと思っていた幸せな時間――――。


私は、ぎゅっとフィルの手を握っていた。
すると信じられないことが――――。



「……だったら、さ」


フィルが目を覚まし――――。


「また、一緒に……食べよう」


私の手をぎゅっと握りかえしてくれた。


「フィ、ル……。夢じゃ……ゆめじゃ……ないよね」


夢だったら、覚めないでほしい――――。


「夢じゃないよ……。ほら……」


フィルは、座位になって、私を自分の方へ抱き寄せる。


「……うん。ぐすっ……うん……」



――――夢じゃない。


私を包んでくれるこの暖かさは、夢なんかじゃない!!



「大切なこと言ってなかったね。ただいま、フェイトさん……」

「うん……。おかえり、フィル」



私とフィルは、どちらからともなくキスをする。



この唇のぬくもり――――。


もう、二度と放さないからね――――。



「あのね……。お願いがあるんだけど……」

「なに? 俺に出来ることなら……いいよ」


これはね、フィルにしか出来ないんだよ――――。


「私のことを……。これからは、さん付けしないで、フェイトって呼んで……」

「えっ……? で、でも……」


やっぱり、フィルは困惑の表情をした。
でも、これは絶対にゆずれない!!



「むぅ―――。ティアナはティアって愛称で呼んでいるのに、恋人の私はさん付けなの!?」

「あ……いや……その……わかった。フェイト……」

「うん♪」



フィル、これからはずっと、あなたのことを支えるから。
だから、あなたもいっぱい私に甘えてね――――。





*      *      *



3週間後


あれから、俺は、フェイトと一緒に苛烈なリハビリを繰り返していた。

ずっと眠っていたせいで、全身の筋肉がやせ細ってしまい、歩くことも困難になっていたからだ。
ドクターの診断では、もう、二度と戦うことは出来ないって言われたけど――――。


なのはさんは、俺と同じ状況になっても決してあきらめたりはしなかった。


だから、俺もあきらめない!!


俺に、魔力と命を与えてくれたティア達のためにも――――。



「焦らないで良いんだからね……。一緒に……直していこう」

「……ありがとう。フェイト」



本当、俺には過ぎた女性だよ――――。




月日は流れ――――。




今はもう12月――――。




ようやく、日常生活が不自由がないくらいにはなったが――――。
やっぱり、完全に復帰するには時間がかかる。



でも、今の俺にも出来ることはある。
フェイト達のサポートや、事務処理の仕事はすることが出来る。


元々、俺はサポートがメインだったんだ。
これが本来の俺の役割なのだから――――。



そして、ある日。


遅れながらJS事件の解決祝いと、俺の復帰祝いを兼ねてのパーティを開いてくれた。
俺も料理を手伝おうかと言ったのだが――――。



「だーめ。今日はフィルは主役なんだから、おとなしくしてなさい」


フェイトやティア達に止められてしまい、仕方がなく俺はパーティが始まるまでのんびりすることにした。
あんまりにも暇だったので、結局は大量のアイスクリームを作ってしまった。

ノリで作ってしまったが――――。


これ、どうしようか……。




*      *      *




「えっと……今日は、フィルの復帰祝いと、先日の事件の労いもかねて、ささやかながらパーティをすることにしました。今日は無礼講ですので、みんな楽しんでください。長い挨拶は私も嫌いなので、さっさと乾杯してしまいましょう………。というわけで、乾杯!!」



『乾杯!!』



乾杯の後、それぞれグループに分かれてパーティーを楽しんでいた。

フォワード陣はエリオとスバルとギンガさんが大食い競争は始めてしまい、ティアとキャロが少し引いてしまっていた。


お前らな……。


大食い大会をやるなら、どっか行って賞金でも稼いでこい!!

なのはさんはヴィヴィオと一緒にほのぼのと楽しんでいた。

うん、あそこを見ていると俺もなごむ……。

フェイトはどうしても外せない仕事があってここにはいなかった。


はやてさんは八神家全員集合状態になっていて、大家族といった会話をしていた。
ここでも狼形態のままのザフィーラさんが、哀愁を誘っていた。

ザフィーラさん……ご愁傷様です……。

アルトさん達はロングアーチメンバーと一緒になって酒盛りをやっていた。
俺の感があそこは、深く関わらない方が良いと警鐘を鳴らしていた。

ルーテシアは体調が回復したメガーヌさんと一緒に楽しんでいた。
家族が一緒になれて本当に良かったよ。


さてと、俺もみんなの所に挨拶に行くか……。
まずは……。




*      *      *




「あっ……。フィルさん、お疲れ様です」

「お疲れ、フィル」



ここで俺を出迎えてくれたのは、ティアとキャロだった。
スバル達は食べ物の方に夢中だった。



「お疲れさん……ていうか、あの三人まだ食べているのか。はやてさん、かなり作ってたんだけどな……」

「エリオ君、料理がおいしくて夢中になってるんですよ。わたしもフィルさんみたいに、料理が出来たら手伝えたんですけど、簡単なのしかできないから……」


その気持ちだけで十分だよ。
今は出来なくても、その気持ちがあれば、俺レベルの料理なんて、絶対に覚えられるから――――。



「あ、あの……フィルさん、これ、良かったら食べてみてください……」



そう言って渡してくれたのはクッキーが入った袋――――。
かわいいラッピングがしてあって、いかにもキャロらしい物だった。



「これ、キャロの手作り?」

「はい……。ちょっと不格好ですけど……」

「そんなことないよ。綺麗に出来てる……食べて良いかな」

「はい!!」

「じゃ、いただくね……。うん、美味しい!!」



キャロの作ったクッキーは、バタークッキーとチョコクッキーだった。
甘さもきつくないし、食べやすいものだった。



「よかったです。喜んでもらえて……」



キャロと話していると、大食い大会をしていたエリオ達を止めに行ったティアが、二人を連れて戻ってきた。



「あっ、フィル、お疲れ!!」

「お疲れじゃねえだろ!! お前ら食い過ぎだ!!」

「良いじゃない、誰にも迷惑かけてるわけじゃないんだから!!」

「思いっきり迷惑だ!! 料理を作るはやてさん達の身にもなれ!!」



お前らの料理を用意するのに、朝早くからずっと作ってたんだぞ!!
それとギンガさん、食べるのは知ってたけど、一緒になって食べないで、お願いだからスバルを止めてください!!



「ごめんなさい……フィルさん………」

「エリオは気にしないで良いぞ。お前はもう少し子供らしく、甘えても良いんだからな。ちょっと食べすぎではあるがな……」

「ずるい!! エリオだけ何で!!」

「お前とギンガさんを基準にしていたら、いくらあっても足りないっての!! 30人前用意して30分持たないなんて!!」



エリオだって精々5人前だったんだぞ。
お前らの胃袋、どうかしてるぞ――――。



「そう言えばティア、お前ちゃんと食べてるか? エリオ達の面倒見ていて、食べてないだろ」

「あんたほど忙しくなかったから、ちゃんと食べてるわよ」



そうは言ってるが、あんまり食べていないよな――――。
まぁ、この連中と一緒だったら、食欲も無くなりそうだし。




「なんか、胃に軽い物でも作ってやろうか?」

「ううん、いい。それよりも……今度、あたしだけのために……その……ケーキ……作って欲しい……。以前、あたしの誕生日に作ってくれた……あれ……」

「そっか……分かった。今度のティアの誕生日に作ってやるよ……」

「ありがとう……でも、ちょっと悔しいな。フェイトさんも、あのケーキを食べたことあると思うと……」

「無いぞ。あれは大切な思い出の物だからな。ティアにしか作ってないぞ」



誕生日にティアに作ったケーキは、ティアにしか作ってない。
あれはティアとの大切な思い出だからな……。

ちなみにそのときに作ったケーキはダブルチーズケーキだ。
別名ドゥーブルフロマージュ。

正直、俺のレシピの中でもっとも難しいケーキでもある。




「そっか……嬉しい……」

「楽しみにしててくれ……。おっと、他の所にも行っておかないと……」

「そうだね。さっきからアルトさん達が手招きしてるわね……」

「……出来るだけ、あのグループは避けたいのだが……。はぁ……」



アルトさんとシャーリーさんの所。あそこは絶対酔っぱらいの集団だ。
酔っぱらいの相手は疲れんだよな……。



「………終わったら、愚痴聞いてあげるから、頑張ってきなさい」

「ありがとう……。お前くらいだよ、そう言ってくれるのは……」



ティア達の所を離れ、次のグループの所に行くことにした。





*      *      *




「こんばんわ、メガーヌさん、ルーテシア」

「こんばんわ、フィルさん……」

「ごきげんよう、フィル」


本当ならお母さんは六課メンバーじゃないから駄目なんだけど、八神部隊長とフィルさん達が、『無礼講だから、ある程度は身内連れてきて良いよ』という声で一緒に参加することが出来た。



「ここにいたんだ、ルーテシア」

「うん、お母さんと話してたの……。滅多に会えないから」

「そうだね、メガーヌさんもまだ、完全に回復した訳じゃないからね」


お母さんは、治療の甲斐があって大分回復してきている。
最初の頃とは雲泥の差――――。



「メガーヌさん、メディカルポッドで大分回復してますが、ちゃんと通院はしてくださいね」

「ええ、でも、本当にありがとう。こうして親娘で一緒の時間を過ごせるのも、あなたのおかげよ」

「俺も、こうして二人が穏やかな時間を、過ごせるようになって良かったです……」

「フィルさん……本当にありがとう。フィルさんがあの時教えてくれなかったら、今でも私は……」


あの時……。


フィルさんが命をかけて止めてくれなかったら、きっと私は……。


今でもクアットロの操り人形だったと思うから――――。


「だから、気にするなって言ってるだろ。あれは俺が勝手にしたことなんだから……な……」

「うん……。あの……フィルさん……」

「んっ? どうした?」

「少しだけ……かがんでくれますか」


こんなことするのは、とっても恥ずかしい。


でも、私が出来る精一杯の感謝の気持ちを込めて――――。


私はフィルさんの頬にキスをする――――。



「……これが……私の精一杯の……お礼です」

「……俺なんかには、もったいないよ。本当……ありがとうな」



フィルさんだから……あげたんですよ。
私の……ファーストキス。

そして、私の初恋の人だから――――。



「げっ!! アルトさんとシャーリーさんが手招きしていやがる……」


さっきから、シャーリーさん達がフィルさんのことを手招きして呼んでいる。
フィルさんが、本気で嫌そうな顔をしているのって、あんまり見ないんだけどね。



「それじゃ、メガーヌさん、ルーテシア、親子の会話を楽しんでください」


そういって、フィルさんはシャーリーさん達のところに行ってしまった。
残念……。

もう少し、一緒にいたかった。




*      *      *




「遅いよ!! フィル!!」

「そうだよ!! 待ってたんだよ!!」



出迎えたのはアルトさんとシャーリーさんのお祭りコンビだった。
ヴァイス陸曹はラグナちゃんと一緒にいて、こっちには来られないみたいだ。

開始早々にグリフィスさんは潰されてしまい、止める奴がいなくなってしまった。



「ねぇ、フィル。今日こそ教えてよ。どうやって、フェイトさんとつきあうことになったのかを!!」

「アルトさんしつこいですよ!! 言いたくありませんって、何度も言ってるでしょう!!」

「いいじゃない!! 減る物じゃないし〜」

「シャーリーさんもいい加減にしてください!! あんまりしつこいと、お二人のことを『クアットロ』って呼びますよ!!」

「「それだけは勘弁してください!!」」



六課内ではクアットロという名前は、最低最悪という意味を持っている。
この名前を出すだけで、嫌悪感がでるくらいなのだ。



「アルト、シャーリー、その辺にしておけ。お前らだって、いつか彼氏が出来て、そんな風に根掘り葉掘り聞かれたくないだろ」


見るに見かねてヴァイス陸曹が、ラグナちゃんと一旦離れてこっちに来てくれた。



「「は〜い」」

「済まなかったな……。さっきからこっちのグループに顔出すの躊躇ってたの、こいつらが原因だろ」

「ははは……」



ヴァイス陸曹だけなら別に良いのだが、ゴシップ好きのアルトさんとシャーリーさんが一緒だと、いつも俺とフェイトのことを聞かれる。

あの時のことは、誰にも言いたくはない……。



「俺はお前とフェイトさんが、どうやってつきあうようになったかなんて、別にかまいやしねえよ。だけどな……」


ヴァイス陸曹は、俺の胸に拳をコツンと打ち……。


「フェイトさんのこと……これ以上、絶対に悲しませるな。お前が意識不明の時、あの人……本当に生きる希望を失っていたんだからな……」

「ヴァイス陸曹……」

「言いたいことはそれだけだ。まだ、行ってない所あるんだろ。こいつらの面倒は、俺が見るから行ってこい」



ヴァイス陸曹と別れた俺は、はやてさんの所に行くことにした。




*      *      *




「おっそいで!! 何しとったんや!!」

「そうですよ!! 待ってたんですから!!」

「済みません。ちょっと色々なところに行ってましたから。そのかわり、ちゃんとおみやげありますから」



取り出したのは、さっきできあがったばかりのバケツアイスだった。



「まじかよ!! 良いのか、これあたし達で食べて!!」

「試作品なので、味はあまり期待しないでくださいよ」

「サンキュー、リイン、一緒に食べようぜ!!」

「はいです!! ヴィータちゃん!!」



ヴィータ副隊長とリイン曹長はアイスを持って、別のテーブルに行ってしまった。



「良いのか? 全部渡してしまって」

「あれは、あの二人のために作ったやつですから」

「お前も苦労性だな。本当なら、休んでても良いのに、アイスを作ったり、こうやってみんなの所に顔を出したりと……」

「そうでもないですよ、シグナム副隊長。はやてさんの方がよっぽど大変じゃないですか」


今日だって、朝早くからみんなの料理を作ったりして。
やっぱり、手伝えばよかった……。


「そうですね。はやてちゃんもフィルも、一人で悩み事とか抱え込んでしまうところとか、本当に似てますよ」

「シャマル……」

「シャマル先生……」


確かに、俺もはやてさんも、あんまり人には話さないかも……。


「やっぱり……ええな……。こうしてみんなで、バカ騒ぎ出来るのって……」

「そうですね……」



みんなとこうして、馬鹿騒ぎできる一時……。
未来では、叶えることができなかった優しい時間。

こんな時が来るなんて思わなかった。




「フィル……」

「はい?」

「……私な。もう二度と……みんなの笑顔はみられへんって思っていたんや。あんたが意識不明になってから六課は、本当にボロボロやった……」


後から、なのはさんから聞いたけど、ティアたちの訓練もボロボロで正直見てられなかったし、何より、フェイトがいつ壊れてもおかしくなかったって……。



「……はやてさん」

「フィル、あんたは六課だけでなく、私やフェイトちゃん達にとっても、大切な人なんや。だから、あんな無茶は二度と……やめてや」

「……はい」



そして、はやてさんと俺は持っていたグラスで――――。



「それじゃ、もう一度乾杯といこうか」

「いいですね……。何にしますか?」

「せやな……。この大切なひとときに……ってのはどうや?」

「……賛成です」

「それじゃ……」

「「乾杯……」」



俺たちはグラスを合わせ、ワインをクイッと飲む干す。
本来なら、お酒は避けなきゃいけないけど、今日くらいは良いだろう。

こんなに美味しい酒なら、いつまでも飲んでいたいから――――。


そして……。


いつの間にか俺たちは、ワイン3本をあけていて、はやてさんは完全に酔い潰れてしまった。
はやてさん、俺のペースで飲むからだよ……。


基本的に俺は酒は強い方なんだから……。


もっとも、未来では、飲んでも、酔えなかったといった方が良い。
悲しみを忘れるために、酒を飲んでいたに過ぎなかったんだから――――。



「フィル、はやてちゃんのことは私に任せて、はやくヴィヴィオの所に行ってあげて。さっきから待っているみたいよ」

「あちゃ……。なのはさんとヴィヴィオ、かなり待ってたんだな……。ヴィヴィオ、もう疲れて眠っちゃってるよ」

「一応、顔は出しておきなさい……ね……」



俺はシャマル先生に、はやてさんの事をお願いして、なのはさんのところに向かった。




*      *      *




「フィル、ほんっとうに遅い!!」

「済みません……。こんなに時間がかかると思わなかったので……。ヴィヴィオの笑顔で、最後癒されたかったから、後にしたんだけど、寝ちゃいましたね」

「うん……ヴィヴィオ、ずっと待ってたんだよ。フィルパパはいつ来るのって、ずっと言っていて大変だったんだから……」

「ごめんな……。ヴィヴィオ」



フィルはヴィヴィオの髪にそっと触れる。
こうしてると、フィルって、父親の素質十分だよね。



「そういえばなのはさん、決めたんですね。ヴィヴィオの本当のママになること……」

「うん……」

「これで俺のヴィヴィオのパパの役目は終わりですね。いつか、なのはさんに素敵な相手が出来て、その人がパパになってくれれば……」

「残念だな……。フィルなら、ヴィヴィオのパパにピッタリなのに……」


フィルなら、最高の父親になれると思う。
優しいだけでなく、心の痛みを知ってるから――――。



「なのはさんなら、すぐに見つかりますよ。大丈夫です」

「そうでもないよ。だってわたしって管理局内じゃ、鬼の教導官とか、ヴィータちゃんが広めてくれた白い悪魔とか言われてるんだよ……。これじゃ、いつの日やら……」


正直わたしは、結婚は半分あきらめている。わたし自身こんな性格だからね……。
すると、フィルは、真剣な表情で……。


「悪いけど……そんな風に外面だけで見る男なら、なのはさんのためにもヴィヴィオのためにも、結婚なんかしない方が良いです。突き放すようで悪いけど、ちゃんとした相手でなかったら、二人でいた方がよっぽど幸せです。ヴィヴィオだって、きっとそう思います……」


――――そんなこと無い。


フィルの優しさは、ちゃんと伝わってるよ……。


こんな風に言ってくれる男性は、今までいなかったから――――。



「やっぱり……優しいよ。そうやって、わたしやヴィヴィオのこと、真剣に考えてくれるんだもの……」


フェイトちゃん……。


フィルのこと大切にしなきゃ駄目だからね。


でないとわたしが奪っちゃうよ。


こんな風に思ってくれる人なんていないんだから――――。





*      *      *






「何してるの?」


パーティも無事終わり、眠れなくてベッドに座っていたら、仕事から戻ってきたフェイトが、俺の部屋にやってきて隣に座った。


「フェイト……か。ちょっと眠れなくてこうしてたんだ」

「……まだ、呼び方慣れてないみたいだね」

「当分は無理かも……」

「ふふっ……だめだよ。頑張ってちゃんと呼んでね。でないと、またすねちゃうよ」



そう言ってフェイトは俺の肩の上に頭を預けた。
反射的に俺もフェイトの髪を撫でていた。

フェイトはこうされるのが好きで、目を細めて甘えていた。
二人はしばらく無言で寄り添って、何もない時間を満喫していた。



「部屋に……戻らないの?」

「一旦戻ったんだけど、なのはとヴィヴィオがベッドを占拠していて、私の場所がないの」

「……そっか」



あの二人、よっぽど疲れたんだな……。
でも、そのおかげでこうしてられる。

ちょっとだけ、感謝かな……。



「……フィル」



そう言って、フェイトは俺を押し倒し……。



「…………フィル、私を抱いて」


俺を押し倒すなんて、普段のフェイトだったら考えられない行動だ。
すると、フェイトの瞳から、ぽろぽろと涙があふれ出し――――。



「……もう、あんな悲しい思いはいや!! 大好きな人のぬくもりを感じられないのは……。もう……いやなの……」



あの日から、フェイトはずっと俺のためにつくしてくれた。
歩けなくなって、自暴自棄になりかけたときも、ずっと支えてくれた。


こうしていられるのも、フェイトがずっと支えてくれたからだ。


俺も、フェイトのぬくもりを感じたい……。


大好きな人と一緒になりたい……。




「……いいんだな」

「……うん……フィルじゃなきゃ……いやだ………」




瞳を閉じ、俺たちはキスをし――――。



「あっ……」

「……愛してるよ……フェイト……」

「……私も……愛してるよ……フィル……」



フェイトは、俺にギュッと抱きついて……。



「………やさしく……してね。その……初めてだから………」

「……大切に……するよ。俺も、そうだから……」



俺はフェイトにキスをすると、フェイトは、最初は緊張したが、段々自分からキスを求めてきて、深いキスをしばらく繰り返していた。



そして、俺たちは……。


このとき、本当の意味で……。


――――ひとつになった。





*      *      *





新暦76年4月28日  機動六課隊舎



「長いようで短かった一年間、本日をもって機動六課は任務を終えて解散となります。みんなと一緒に働けて、戦えて、心強く嬉しかったです。次の部隊でも……頑張ってください……」



はやてさんの挨拶が終わった後、俺たちは練習場に集められて、そこで最後の模擬戦をした。
まぁ、俺たちらしい終わり方だなと思ったよ。




六課解散後は、それぞれ各地に散らばっていった。



エリオとキャロ、ルーテシアは辺境自然保護隊に転属。

スバルは特別救助隊からスカウトされ、フォワードトップとして活躍中。

ティアはフェイトの元で、執務官補佐をすることになった。
時折、ちょっとしたドタバタはあるけれど、それはそれでうまくやっている。


ヴァイス陸曹は武装局員資格を再取得し、ヘリパイロット兼狙撃手の道に戻った。


はやてさんは特別捜査官として復帰。守護騎士一同と共に任務を続けている。


ヴィヴィオは正式になのはさんの養子になり、名前も高町ヴィヴィオとなり、本人の希望で聖王教会系列の魔法学院に通っている。


なのはさんはJS事件での昇進は辞退し、教導隊に戻り、戦技教導官としてそして空戦魔導師としての道を選んだ。


戦闘機人の連中は、ギンガさんの更正プログラムを受け、それぞれ管理局内で働くことになった。
何人かはナカジマ三佐が、養子として引き取った。

こんな事、俺がいた世界じゃ、絶対考えられなかったのにな……。
本当に、良い意味で歴史は変わったよ。



俺の進路はというと……。


マリーさんの元でデバイスマイスターの資格を取るために、しばらく本局勤めになる。
残念ながら、今の状態では、執務官の過酷な任務は難しい。


体が完治するまでは、色んな方面の資格を取って視野を増やそうと思う。
完治したら、フェイトかティアの元で執務官の研修を受けて、資格を取ろうと思っている。


ちなみにフェイトにこの話をしたら――――。



「フィルの執務官研修は、絶対に私がするからね!! ティアナの元に行っちゃ駄目だよ!!」



その気持ちは嬉しいんだけど、フェイトが担当するのは難しいと思う。
おそらく俺は、ティアかクロノ提督のところでやることになるかな……。


できれば、クロノ提督が良いんだよな。
あの人は、修羅場をくぐってきてるし、公平に育ててくれるからな。



まぁ、出来たとしても今すぐじゃない。
その時になったら、お願いしてみよう――――。



そして――――。





数年後





『おめでとう、フェイトちゃん、フィル!!』



様々な事を乗り越え――――。


今日俺とフェイトは、結婚式を迎えることになった。


旧六課メンバーもみんな来てくれて、盛大な結婚式だ。
さらに戦闘機人のみんなも来てくれている。


みんなに祝福される結婚……。


こんな時を迎えられるなんて思わなかった。





「……私達、ずっと……一緒だよね」

「誓うよ……。俺たちは、ずっと一緒だ……」




俺たちはみんなが見守る中、誓いのキスをする。



不器用で、優しい恋人同士が、永遠の絆と愛を誓い合った。



幸せな……誰よりも幸せな二人……。



空は、そんな二人を……。



祝福するかのように、晴れ渡っていた――――。





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