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〜 Remember my heart 〜
第24話 こぼれ落ちるもの


「ダメです、魔力結合できません!! 通信も!!」

「しゃあない……歩いて脱出や……」

「でも……なのはさんとフィルが……」

「はぁ……はぁ……大丈夫、歩けるよ……」

「俺も大丈夫です……」



ブラスター3を使ってしまったなのはさんは、その反動で疲れ果ててしまっていた。
レイジングハートを杖にして、やっと身体を支えているような状態だ。

そして、俺もかろうじて動ける状態だ――――。



《乗員は所定の位置に移動してください……繰り返します。乗員は所定の位置に移動してください。これより、破損内壁の応急処置を開始します。破損内壁・および非常隔壁から離れてください》

「出口に急ぐんや!!」



俺たちは、なのはさんがぶっ壊した所に走っていたが、なのはさんが遅れていて、このままじゃ、全員ここに閉じこめられてしまう。


それに――――。


俺にはやらなければならないことがある!!



「ウインド・ブレス!!」

「「「「きゃあぁぁぁ!!」」」」


ウインド・ブレスで、なのはさん達を一気に出口のところまで、吹き飛ばそうとしたが――――。


「くぅぅぅ……」

「はやてさん!?」



はやてさんが、俺のジャケットの端をつかみ、吹っ飛ばされないようにしていた。

なのはさん、ヴィヴィオ、リイン曹長は隔壁が閉じる前に出すことが出来たが、隔壁が閉鎖されてしまい、はやてさんを脱出させることが出来なくなってしまう。



「「フィル!! はやてちゃん!!」」




*     *     *




地上本部中央タワー


別任務で離れていた私とアギトは、その任務が終わったため、アースラの護衛に向かうことになった。

任務は、アースラ発進後にレジアス中将が、最高評議会の手によって拘束され、連れさらわれてしまったのだ。

そのことをオーリス三佐より通信を受けた六課は、派遣者として私とアギトを選んだ。
地上におりた私達は、中将直属の部隊とゼストと合流した。

ゼストはこの事をオーリス三佐より知り、オーリス三佐と部隊の隊長の手により一時的に釈放された。


彼らと一緒に救出に向かった先には、数多くのガジェットが待ちかまえていた。
だが、ガジェットなど彼らの手にかかれば、そんなに手こずる相手ではなかった。


無事救い出したのだが、そのとき背後から、レジアス中将を殺そうとしたガジェットW型が現れ、レジアスをかばい、騎士ゼストが戦死してしまった。


元々レリックウエポンの試作機とされていた彼にとって、どのみち長くなかったのだ。
親友を救うことが出来たゼストの顔は安らかなものだった。


レジアス中将のことを彼らに任せた後、私達はアースラに合流するためにここに戻ってきた。



「アギト。準備はいいな……」

「ああ……。死んでいった旦那のためにもやってやる!!」

『ユニゾン・イン!!』



二人の身体が灼熱の炎に包まれ、強い光を放ち始めた。





*      *      *





ゆりかご周辺空域に到達したJF705。
フィルが改造したこいつは、ヘリと呼べるようなシロモノではなかった。

ローターはあくまでも低空用と、ヘリとして登録するために付いているだけで、既に用を成していない。
このヘリは魔導エンジンが、無理矢理搭載されているのである。

この魔導エンジンは、アースラの新型エンジンを作るときに試作したもので、いくら大出力が得られると言っても、ヘリなどに搭載したら、自殺装置以外の何物でもない。


まさに空飛ぶ棺桶である――――。


だから、アルトが操縦するときはリミッターがかかっていたが、俺が操縦するときは、リミッターは全解除できる。

というよりこの高度になると、アルトの操縦技術じゃ追いつかない。

そして、今、カーゴルームからストームレイダーを介しての遠隔操縦を行っていた。



「いいか。船の中は、奥に進むほど強度のAMF空間だそうだ。ウイングロードが、届く距離まで寄せてやる。そいつで突っ込んで、隊長たちを拾ってこい!!」

「「はい!!」」



なのはさん達の救出にはフォワードの中で、比較的軽傷のスバルとティアナが行くことになった。
重傷のギンガとルーテシア、軽傷だが体力と魔力を使い切ってしまった、ライトニングコンビはここに残ることになった。
それにバイクを運転できるのが、この二人しかいなかったのだ。

ちなみにスーパーサンダーはティアナが運転することになった。



「ごめんなさい……肝心なときに……」

「「「すみません……」」」

「いくぜ……ストームレイダー!!」



そう言って、ライフルモードのストームレイダーを構える。
魔法弾は、確実にガジェットのボディへと吸い込まれていく。

どうやら、命中精度は落ちていないようだな――――。



「前に言ったな……俺はエースでも達人でもねえ。身内が巻き込まれた事故にビビって、取り返しの付かないミスショットもした。死にてえくらい情けない思いもした……。それでもよ……」

《Variable Barret》
 

ストームレイダーがカートリッジを三発ロードし、高密度の多重弾殻弾頭弾を生成する。


「こんな俺でも……後輩達の道を作ってやるくらいのことは出来るんだよ!!」


発射された弾丸は寸分違わず、砲台として配置されていたガジェットV型の丸い巨体の中心を貫いた。


「よし!! 行け!!」

「はい!!」

「ウイングロード!!」



カーゴルームの床に、強い輝きを放つ、水色のベルカ式魔法陣が生成され、そこから一直線に、俺が確保した突入口に向かってウイングロードが伸びる。


と同時に、ティアナはサンダーのスロットルを全開にした。



「「Go!!」」


スーパーサンダーは、勢いよくヘリから飛び出し、ゆりかご内部に突入した。





*      *      *




「はやてさん、なんで!?」

「フィル……あんた、死ぬつもりやったろ……」

「な……何を言ってるんですか? 俺一人だったらワープで出られたんですから、そんなことは……」

「嘘やね……」



ここに来る前、ユーノ君からゆりかごのことを聞かされ、その内容の中に、この玉座の間にあるコアを破壊しないと、バリアが完全に消えず、アルカンシェルではゆりかごを破壊できないと聞かされていた。


そして――――。


そのことを唯一知っているフィルは、一人で破壊しようとしていた。



「そうだったんですね……。ユーノさんが……」

「馬鹿や……。何で一人でやろうとしたんや……」

「今、この場で砲撃魔法が使えるのは俺だけです。なのはさんもブラスターを使ってしまい戦闘不能だし、フェイトさんもいない……。だから……」

「私じゃ、駄目なんか……フィルの役にはたたんか……」

「はやてさんがラグナロクを使えれば、良かったんですけど……」

「正直、厳しいな……。ラグナロクは……」



リインとユニゾン出来ていれば、もしかしたら何とかなったが、リインも外にいる以上それは望めない。
それにさっきもユニゾンアウトしてしまったことから、おそらくユニゾンは出来ない。



「やっぱり……俺がやります……」


そう言ってフィルが取り出したのは、銀色に輝くカートリッジ――――。


《駄目です!! マスター!! それだけは!! 『スパイラル』だけは使わないって約束したじゃないですか!!》

「なんや……? そのスパイラルってのは……」

《スパイラルモード……ブラスターの最終形態。体内にある生命力を、全て力に変えるシステム。そのカートリッジは封印を解くキーなんです。そして、使えば……》



プリムが言おうとしたことは、すぐに分かった!!


スパイラルを使ったら――――。


フィルは……間違いなく死ぬ!!



「そうだな………。だけど、ここでコアを破壊しなかったら、全てお終いなんだ!!」



そう言って、カートリッジを挿入しようとしたとき……。



「だめぇぇぇぇぇええええ!!」



私は無我夢中で、フィルからカートリッジを奪い、そして――――。

自分の杖でカートリッジを木っ端みじんに砕いた。



「なんて事を!! カートリッジはあれしかないんですよ!!」

「……あかん」

「自分が犠牲になるのは、絶対にあかん!! そんなことは、私が許さへんよ…………」


そんなことをしたら、フェイトちゃんどんなに悲しむか……。
あんたは、好きな人を自分の手で悲しませる気か!!




*      *      *



「はやてさん……」

「さっき、私がラグナロクを使えれば破壊できるって言ったよね。だったら、フィルが私をサポートしてくれれば……」

「だけど、はやてさんが魔力を使えなければ……。はやてさんのデバイスはAMF対策の処理をしてない」



AMFの処理は俺とティア、フェイトさん、そしてなのはさんのデバイスにしか付けられなかった。
このシステムはかなり複雑なため、大量に作れず、結局4つしか完成させる事が出来なかったからだ。

さらに、これはインテリジェントデバイスにしか搭載が出来ない。

シュベルトクロイツはアームドデバイスだった為、どのみち付けられない。



《だったら、はやてさんが私を使って、ラグナロクを撃ってください!!》

「そっか!! その手があったんや!!」

《だけど、AMFの影響で、本来のラグナロクの威力は、出ないかもしれません……》

「それだったら……これを使って、俺も撃つ……」

《これは……クロスミラージュ!!》



取り出したのは、未来でティアに託されたクロスミラージュだった。
これにもプリムと同じ、AMF対策は施してある。

もう一度……もう一度だけ、ブラスターを使って、俺もスターライトブレイカーを撃てば……。



「きっとティアも……力を貸してくれると思います……」



――――そうよ。


あんたが、幸せになるためだったら、いくらでも力を貸してあげる。



だから――――。



精一杯やりなさい!!





「ティア!?」

「どうしたんや、フィル?」

「今……ティアの声が……聞こえた気がしたんです……」

「そっか……」



死者の声が聞こえたなんて非現実的なことなのに、はやてさんは俺の言うことを馬鹿にはせず、きちんと聞いてくれた。



「わかるよ……。私も昔、大切な人を亡くしたから……」

「リインフォース……さん……ですね……」

「うん……知ってたんやな……」

「少しだけですけど……」

「だから、私はフィルの言うこと馬鹿にしたりせんよ。私も、そう思うときがあるから……。リインフォースが話しかけてくれて、力を貸してくれるって……」

「ありがとう……はやてさん……」



プリムをブレイズモードに変形させ、はやてさんに託した。
俺もクロスミラージュを同じくブレイズモードにする。




*      *      *




『小型航空機、地上に降下しています!! 空戦魔導師、誰かいないか!!』

「該当地点で、今動ける魔導師は……あっ!!」

「います!! 機動六課ライトニング2、シグナム二尉!!」

「この声、ルキノか」

『はい!! あ、あれ? シグナム副隊長、そのお姿は?』



艶やかなピンク色だった髪は色素が抜けたような淡い色に、マリンブルーだった瞳も、魔力光と揃いのラベンダーに。騎士甲冑も、籠手の色がシルバーからゴールドに、甲冑自体も濃いピンクを基調としていたのが、青紫色を基調としたものに変わっていた。

そして何より、あふれ出す魔力が、2対4枚の羽となって背中から生え、轟々と燃えさかっていた。



「ああ……アギトとユニゾンしているからな……。お前は初めて見るんだったな……現在位置で迎撃する」

『はい!!』



私の、そしてアギトの見据える先には、ゆりかごから発進してきた、大量のガジェット。



『機影48……まだ増える』

「やれるか……アギト」

『やれるさ……猛れ炎熱、烈火刃!!』

「レヴァンティン!!」

《Schlangeform》
 


シュランゲフォルム………。


鞭状連結刃と化したレヴァンティンに、更にアギトの炎が上乗せされ――――。



「おおおおおお!!」

『おおおおおおっ!!』
 


レヴァンティンを一閃すると、向かってきたミサイルは、それを発射したガジェットもろとも斬り捨てられた。



「剣閃烈火!!」



アギトと共にかざした左手に、剣を模した炎が形作られる。


そして……。



『火龍』

「……一閃!!」



勢いよく左手を振り抜くと、二人の炎は、空を斬り裂いて両断した。
次の瞬間、クラナガンの地上本部へと向かっていたガジェットは、その全てが爆散し、消滅した。



『き、機影50……。一瞬で、全部撃破……』



唖然とするルキノの報告を受けながら、私はレヴァンティンを剣状のシュベルトフォルムに戻すと、
かみ締めるように大きく息を吐き、軽く身を震わせる。

そして、ふと空を見上げていた――――。



「やっぱり……いいものだな……。お前とのユニゾンは……不思議と心が温かい……」

「アギト……?」

『なんでもねえ、なんでもねえよ!!』



アギトは私の中で、ぼろぼろと涙を零していた。

記憶など、とうの昔に失くしてしまった。自分の名前はおろか、きっといたはずのロードのことさえ、何ひとつ覚えていない。

ルーテシアやゼストに救われてからも、ずっと心に、ぽっかりと大きな穴が開いたままだった。
でも、フィル達がそれを救った――――。



『距離450、第二編隊来ます!!』



ルキノからの通信が入り、遠くを見据えると、ガジェットの第二波が飛翔しているのが確認された。



「ああ……行くぞアギト」

『おう、シグナム!!』




*      *      *




あたしは血塗れのまま、グラーフアイゼンを振り下ろし、キューブ状のスフィアを破壊する。



「はぁ……はぁ……はぁ……」

「無茶です、ヴィータ三尉!!」

「うるせぇ!!」



あたしは乱れた息を整えながら、合流していた突入隊の魔導師二人に言った。

リンクを完全キャンセルするAMFによって、あたしもあとの二人も、魔力が使えなくなっている。
デバイスはかろうじて通常フォルムをとれているが、三人の中で、魔法なしで敵と戦えるのは、あたしだけだ。

そして、砕けたグラーフアイゼンが元に戻っているのは、夜天の書の主であるはやてが現れたために、通常行動が可能なレベルにまで回復してもらえたからだ。

何とか、奥に進もうとしていたあたしの耳に、バイクのエンジン音が聞こえてきた。



「な、なんだ!?」

「ヴィータ副隊長、ご無事で!!」
 


ティアナとスバルがスーパーサンダーに乗って、向かってきているところだった。



「なのはさんと八神部隊長達の救出、行ってきます!!」

「ここまでの通路はクリアになってますから、早く脱出してください!!」



ここまでの状況を説明し、ティアナたちはあたしたちを追い抜いていく。



「か、彼女達は?」

「うちの新人達だよ。あたしらは邪魔にならねえように離脱すんぞ」

「は、はい」
 


あたしたちは、ティアナたちが侵入してきた突入口へと歩き始めた。
ティアナ、スバル、なのは達のこと頼んだぞ!!





*      *      * 





「プリム、ごめんな。ほんまに迷惑をかけて……」

《大丈夫です。はやてさんは、ラグナロクの術式を展開することだけを考えてください。AMFのキャンセルや細かいサポートは、全部私がやります!!》

「ほんまに、ありがとうな」



プリムは本来、フィルに合わせたワンオフのデバイス。
ましてや、古代ベルカ式の私に合わせるなんて多大な負荷がかかるのに――――。



《礼を言うのはこっちです。はやてさんのおかげで、マスターがスパイラルモードを使わなくて済んだんです。もし、あの時一人だったら……間違いなく使ってました……》



実際フィルはその覚悟があって、私達を吹っ飛ばして外に出そうとしたのだから……。


もしも――――。


私があの時、咄嗟にフィルのジャケットをつかんでなかったら……。



「プリム……」

《はやてさん、絶対成功してみんなで帰りましょう。そのときこそマスターは、本当の意味で解放されるんです!!》

「せやな……。みんなで生きて帰って、この事件を終わらせる。フィルがたどった未来は、ここで変わるんや!!」




*      *      *




「クロスミラージュ……。俺に力を貸してくれ……」



クロスミラージュ――――。


かつてティアが託してくれたデバイス。


そして、ティアの形見……。



《もちろんです。私はあの時……相棒であるティアナを救えなかった………》

「クロスミラージュ……お前……」



そっか……。


お前、ずっと後悔してたんだな。


ティアを死なせてしまったことを……。



《フィルさん絶対成功させて生きて帰りましょう。あなたを待っている人のためにも……》

「……そう……だな……」

「やるで、フィル!!」

「はい!!」



俺たちは玉座にあるコアに向けて銃口を向けた。

はやてさんはラグナロクを、俺はスターライトブレイカーの発射態勢に入った。
俺もはやてさんも魔力色は白銀。

違うのはミッド式かベルカ式の違い――――。

プリムは女神が古代ベルカ式の魔法術式は組み込んであると言っていた。
だからはやてさんが使うことも可能なはず。



「響け、終焉の笛……ラグナロク!!」

「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ!! 貫け……閃光!! スターライト……」



はやてさんは銃口にベルカの魔法陣が、俺はミッドの魔法陣が展開されていた。
やはり2度もブラスター3を使うのは厳しい。


体がバラバラになりそうだ――――。


だけど、はやてさんが慣れないデバイスで必死でやってるんだ。
俺が泣き言を言ってられるか!!


カートリッジをロードすると魔力はさらに増大する。


――――これが最後だ。



この一発に――――。



全てを……込める!!



「「ブレイカーーー!!」」



二つの光は一つとなり、コアに一直線に放たれた。



そして……。


二つのブレイカーが命中すると――――。



コアは木っ端みじんに砕け散った。


ラグナロクとスターライトブレイカーのWパワーは半端でなく、コアだけでなく壁そのものも消し去っていた。




*      *      *




「何!? 今の揺れ……半端じゃなかったけど?」

「ええ……これは!! 魔力が結合できる!!」

「本当、ティア!!」

「間違いないわ。でも、どうして?」



今まで全然駄目だったのに、突然AMFが消滅した。
どういう事なの?



《分かりません……。でも、相棒達の反応はあります!!》

「ということは、フィル達は生きてるって事ね!!」

「そうだよ!! 急ごう!!」



スーパーサンダーのスロットルを全開し、フィルの元に急いだ。
途中で出口に向かっていたなのはさんとヴィヴィオ、リイン曹長に会い、玉座の間の様子を聞くことが出来た。

フィルは最初、自分以外の人間を脱出させるつもりだったが、八神部隊長がそれに気づき、自分も残った。

本当は何とか中に入ろうとしたが、魔力が使えない状況と、ヴィヴィオのこともあって出口に向かっていたのだ。

そして、この揺れは玉座の間にあったコアを破壊したからだと、リイン曹長が話してくれた。
それに、AMFが消えた今、あいつが自力で脱出するのは可能だ。


ゆりかごも崩壊し始めて、このままだとあたし達も生き埋めになってしまう。



「とにかく急いでここを出ましょう!!」

「はやてちゃんとフェイトちゃんのことが気になるけど……。ここでみんな死ぬ訳にはいかないね。フィルのことを信じて、わたし達はここを脱出しましょう!!」

「「「はい!!」」」



あたし達はフィルが脱出することを信じ、急いでゆりかごを出ることにした。




*      *      *




「……もう……だめかな……」



リミットブレイクの影響で、この場から動くことが出来ないほど疲弊していた。
ゆりかごの崩壊も酷くなってきていて、この場もかなり崩壊が始まっている。


そして――――。


天井が崩れ、頭上に落下してきた。



「ごめんね……フィル……」



天井の下敷きになる直前――――。



《Sonic move》



一条の白き閃光が――――。



間一髪のところで、私を助けてくれた……。





*      *      *




「……フィル!! はやて!!」

「はぁ……はぁ……。何とか……間に合ったな………」


残った魔力を、全て使ってのワープとソニックムーヴ――――。
これで、完全に魔力切れだ。


「フィル……。本当にフィルなんだね!! もう……会えないって、思っていたんだから……」



泣きながらフェイトさんは、俺の胸を叩いていた。
叩かれているところは、それほど痛くない。


――――だけど。


それ以上に心が痛かった……。



「……はやてさんが、止めてくれたんだ。スパイラルを、使おうとした俺を……」



フェイトさんの魔力を失った俺には、スパイラルを使うしか残されていなかった。
だから、あの時フェイトさんに別れの言葉を言ったんだ。



「そうだったんだ……。ありがとう、はやて」

「礼は後や……。今は一刻も早く出ないと!!」

「そうだね……。みんなは、どうしたかな? 通信してみるね」



フェイトさんが通信すると、ティアが応答し、状況を説明してくれた。
どうやら六課メンバーは俺たち以外、全員ヴァイス陸曹のヘリにいるようだ。



「……あとは、俺たちが……脱出するだけ……か。もう、ワープを使う力も残ってない」

「私もはやても……もう飛ぶ力は残ってないよ……」

「近くに脱出口があるみたいや。何とか、そこまで行くしかないで!!」



俺たちは最後の力を振り絞って、何とか脱出口へ向かう。

そして、脱出口が見え、後はそこから脱出するだけだ――――。



「……なんとか……無事に脱出できそうだな」



どうやら俺の心配も、杞憂に終わりそうだな――――。



そう思っていたその時――――。



突如、ゆりかごの天井の一部が崩れ、砕けた破片が、先行するフェイトさんの頭上にめがけて落ちてきた。



――――だめだ!!


はやてさんもフェイトさんも、頭上に気がついていない!!



俺は無我夢中でフェイトさんを突き飛ばした――――。






*      *      *




「きゃっ!!」



突然フェイトちゃんが、フィルに突き飛ばされ、私はいったい何が起きたか、すぐに理解することが出来なかった。


だけど、後ろを振り返った瞬間――――。



「……そんな」

「う……うそ……だよ……ね……」



そこには背中から、左胸部にかけてゆりかごの鋭利な破片が突き刺さり――――。


破片の先から、赤い血をポタポタと流しているフィルの姿――――。




「……よかっ……た」



そして―――――。



「フィルッッッ―――――!!」



力尽き、そのまま私の方へ倒れた。


急いで、フィルを側臥位にし、私は、フィルのそばに駆け寄り、胸に刺さっていた破片をとろうとしたが―――――。



「フェイトちゃん、あかん!! 今それを無理に引っこ抜いたら、内蔵と筋肉がズタズタになってまう!!」


マルチタスクで冷静に考え、現状を把握する。
私は、必死で助かる方法を考える。


だけど、頭の中がぐちゃぐちゃで何も思いつかない――――。



「ねぇ……。うそ……だよね。こんなの……悪い夢なんだよね」



夢だと思いたい――――。


嘘だと思いたい―――――。


だけど、フィルの体から、体温がどんどん感じなくなってきている。



「……ごめん、ね。もう……一緒には……いられ……ない、ね」



こんなのうそだよ――――。



「……いやだよ。ずっと一緒にいてくれるって約束したでしょう!!」


言ったじゃない――――。


平和になったら、一緒になろうねって……。


フィルは右手で、私の頬にそっと触れ――――。



「……しあわせ……に……なって、ね………」



そして―――――。



頬を撫でた手が、力なく地に落ち―――――。



私の手から、こぼれ落ちていった―――――。




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あきゅろす。
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