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〜 Remember my heart 〜
第22話 金の閃光


「あの小さな子のお母さん……だっけ……」



スクリーンを見て、こっちに向かってきている、高町なのはを見てつぶやく。
イメースキャノンを構え、その光は高町なのはを捕らえていた。



「あんたに恨みはないけれど、5…4…3…2…1…」

「!! エクセリオン……」



向こうも異変に気づき、エクセリオンバスターの発射態勢に入った。



「0」

「バスター!!」


赤き閃光と桜色の閃光―――――。
二つの砲撃が激突し、拮抗していた。




*     *     *




「……ブラスターシステム、リミット1……リリース!!」

《First step》



次の瞬間、全身が魔力に包まれた。
ブーストで、魔力が上がった証である。



「ブラスト……シュート!!」



エクセリオンバスターは一回り大きくなり。威力もさらに上がり、それはイメースキャノンの砲撃を押し切り、その凶悪な砲撃はディエチを飲み込んだ。



「はぁ……はぁ……」

「くっ……抜き打ちで……この威力……こいつ、本当に人間か……」

「じっとしてなさい……。突入隊があなたを安全な場所まで護送してくれる」



ディエチとイメースカノンをバインドでロックして動けなくし、わたしは先に進むことにした。
後は突入隊に任せるしかない。

今は一刻も早く、ヴィヴィオの元に行かなくては……。



「この船は……わたし達が停止させる!!」





*      *      *





「それにしても、すごいね。ブラスターを使っても、殆ど身体への負担がないなんて」

《フィル達が必死で改良しましたので、そんなに負担はかからないと思います》



フィルとマリーさんが改良したブラスターシステム。

従来型と比べて、自己ブースト時の身体への負担が、3分の1以下にすることが出来た。
但し、ファイナル・リミットであるブラスター3は、威力は倍以上に上げられるが、身体への負担は大きい。



「にゃはは……。そのことは、フェイトちゃんにも散々言われたからね……」

《でも、ファイナルは出来るだけ使わないでください。そのときの保証は出来ません》

「分かってる。わたしも出来るだけ使いたくはないからね……。ブラスター1はこのまま維持。急ぐよ、レイジングハート」

《All light》




*      *      *





「あはは……少しは、改良してあるみたいですわね。以前のブラスターよりはマシですけれど、結局の所自己ブーストですわ」

「ねぇ陛下。あなたのママは相当お馬鹿さんですよ〜」

「ううっ……うっ……・」



玉座の間の入口の扉が、凄まじい衝撃を受け、内側に向かってひしゃげ、次の瞬間には、そこを桜色の奔流がぶち抜いた。



「いらっしゃい〜。お待ちしてました〜」



ヴィヴィオが座っている玉座の横に立っているクアットロが言った。



「こぉんなところまで無駄足ご苦労さま〜。さて、各地で貴女のお仲間は、たぁいへんなことになってますよ〜」



スクリーンを複数展開して、わたしを挑発していた。
スクリ−ンには、各地の六課メンバーの様子が移されていた。

どこも、苦戦していて良い状況ではない。



「大規模騒乱罪の現行犯で、あなたを逮捕します。すぐに騒乱の停止と、武装の解除を」

「仲間の危機と自分の娘のピンチにも、表情一つ変えずにお仕事ですか……いいですね〜。その悪魔じみた正義感」


クアットロがヴィヴィオのに、いやらしくさわろうとしたとき……。


「その汚い手で、ヴィヴィオに触らないで!!」



一切の躊躇も容赦もなく、クアットロに向けて、砲撃を撃ち込む。
しかし、砲撃を受けたクアットロの姿は、掻き消えてしまった。



『でも、これを見てまだ平静でいられます〜』



通信ウィンドウが開き、不敵な笑みで挑発した。



「ふぁ……あああああ!!」

「ヴィヴィオ!!」



ヴィヴィオの悲痛な悲鳴を聞き、ヴィヴィオの元に行こうとしたが、虹色の光で行く手を遮られてしまった。



「くっ!! うわぁぁぁ!!」



ついに耐えきられず、中央まで押し戻されてしまった。



『良いこと教えてあげる。あの時ケースの中で眠ったまま、輸送トラックとガジェットを破壊したのは、この子なんですのよ〜。あの時フェイトお嬢様とフィル・グリードが、ようやく防いだ砲。でも、例えその直撃を受けたとしても、物ともせずに生き残ったはずの能力。それが古代ベルカ王族の固有スキル……聖王の鎧』

「なんですって!!」

『レリックとの融合を経て、この子はその力を完全に取り戻す。古代ベルカの王族が、自らその身を作り替えて作った究極の生体兵器。レリックウエポンとしての力を……』

「ママ!! 嫌だ!! 助けてママ、パパ!!」

「ヴィヴィオ……ヴィヴィオ!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!」

『すぐに完成しますわ。私達の王が、ゆりかごの力を得て、無限の力を……究極の戦士に』

「ママ、パパ!!」

「ヴィヴィオ!!」



その身体から放出されたのは、虹色の光。カイゼル・ファルベ――――。

失われし古代ベルカ、聖王の血統に頻出されると言われている魔力光。
ヴィヴィオの魔力はあっという間に高まり、その圧力は、気を入れていないとよろけるほどだった。


その光が収まると、成人の姿をしたヴィヴィオの姿があった。



「あなたは……ヴィヴィオのママを……どこかにさらった……」

「ヴィヴィオ、違うよ!! わたしだよ!! なのはママだよ!!」

「違う!!」

「!!」

「嘘つき……あなたなんかママじゃない!! ヴィヴィオのママを……返して!!」



ヴィヴィオの足下にベルカ式の魔法陣が展開され、魔力の嵐も一段と強くなった。



「ヴィヴィオ!! くっ!!」

『その子を止めることが出来たら、このゆりかごも止まるかもしれませんね〜』

「レイジングハート!!」



わたしもミッド式の魔法陣を展開し、戦闘態勢に入った。



『さぁ、親子で殺し合いなさい。あははは!!』



高笑いと共にクアットロのウィンドウはその場から消えた。



「ヴィヴィオのママを……返して!!」

「ブラスター……リミット2」




*      *      *




第七廃棄都市区画、都市部との境界線に近い場所に展開された防衛ライン。

その一角を担っている陸士108部隊の部隊長の俺は、機動六課臨時本部となっているアースラの、グリフィス・ロウランと連絡を取っていた。



「ああ、市街地戦の防衛ラインは、何とか持ちこたえてる。ガジェット共が相手なら、なんとかならぁな」

『はい』

「応援に来た航空隊の空戦魔導師たちはそこそこ対応出来てるし、陸上警備隊の陸戦魔導師たちの出力不足はどうにもなんねえが、それでも防御に徹する事は出来る。ガラクタ共に対抗する方法は、レジアスのとっつぁんが示してくれたからな。力自慢が暴れまわって、何とかやってる」

『あ、あはは……』

「だが、現状でギリギリだ。他に回せる余裕はねえし、残りの戦闘機人や、こっちに向かっているあの竜がこっちにきたら、もうアウトだ」



戦闘機人の殆どは、こないだの時に逮捕したが、まだ全部ではない。
そいつらがきたら対応は不可能になる。



『黒竜とガジェットは、六課前線メンバーと交戦中です』

「そうかい……」





*      *      *




フレイム・グロウと交戦している六課メンバーだったが、攻撃が全く通用せず、前線メンバーも限界が近づいていた。



「はぁ……はぁ……」

「頑張ってスバル。ティアナが、もう少しで解析が終わるから……」

「うん、ティア……お願い。こっちは、そろそろ限界かも……」

「スバルさん、ギンガさん、こうなったら、わたしとルーちゃんがヴォルテールと白天王を召喚して、最大パワーで攻撃すれば」

「それしか……ないね……」

「いくよルーちゃん」

「うん……」


キャロとルーテシアが召喚しようとしたとき――――。


『駄目よ!! ヴォルテールと白天王を召喚しちゃダメッ!!』

「どういうことですか!!」


何とか間に合ったわ――――。
もう少しで、取り返しがつかなるところだった。


『今か解析が終わったの。それを見てもらえば分かるわ……』



みんなに送ったデータは次の通りだ。

フレイム・グロウは、確かにヴォルテールと白天王の最大パワーで倒すことは可能だが、その瞬間フレイム・グロウの身体を形成している分子が、ミッド中に巻き散らばってしまい、それによってミッドの人間は全滅してしまう。

クアットロの本当のねらいは、これだったのよ。



『あはははは!! 良く気づきましたわね。ティアナ・ランスター』

「「「「「「クアットロ!!」」」」」」



あたし達の前に、いやったらしい笑みをしたクアットロのウィンドウが展開された。
その面を見ると、吐き気がする。



「あたし達を甘く見ないことね……」

『さすが、高町なのはの弟子ですわね。娘を目の前にして冷静にしていた、あの悪魔の弟子だけありますわ』

「黙りなさい!! それ以上なのはさんのこと貶すな!! あの人がどんな思いだったか!!」



ヴィヴィオがさらわれて、あの人がどんなに苦しんだか。
フィルがいなかったら、きっと潰れていた。



『そんなことはどうでも良いですわ〜。どうしますか? ルーお嬢様達の召喚獣で倒して、ミッドを毒で滅ぼすか、フレイム・グロウがミッドを蹂躙するか。どっちにしても、ミッドはお終いですわね。あはははは!!』


満足したのか、クアットロはこの場から通信を切った。


「みんな、一旦集まって!!」


あたしの声で、フォワード全員、現場から少し離れたビルに集合していた。


「どうするのティアナ。このままじゃ、本当に打つ手はないわよ」

「「ティアさん……」」

「ティア、このまま手をこまねいてるの!!」

「スバルさん……僕だって悔しいです。でも……」

「……全て解析で来たっていったでしょう。当然、あの化け物を退治する手段もね……」


かなり博打になるけど、手段がない訳じゃない。



「「「「「ティア (さん)!!」」」」」

『そこから先は、僕が説明するよ』

「「「「「スクライア司書長!!」」」」」



ウインドウに現れたのは、かつてのなのはさんの魔法の師匠であり、現無限書庫司書長のユーノ・スクライアだった。

スクライア司書長が説明してくれたのは以上のことだった。

まず、あたし、キャロ、ルーテシアに、無限書庫で発見した特別な魔法術式を、それぞれのデバイスに転送。

次にキャロとルーテシアが全魔力を使って、その術式を使った捕縛魔法でフレイム・グロウを捕縛。

その間スバル・ギンガ・エリオは、ティアナの方に意識をむけさせないように、注意を引く。

最後にあたしが術式を混ぜた集束魔法で、弱点であるリンカーコアさえ打ち抜ければ……。


成功すれば、肉体は消滅するので毒がまかれることはない。

但し、これは本来なのはさん級の砲撃の威力が必要なプランなので、あたしの威力で成功する確率は低いが……。



「みんな、絶対成功させるわよ。これくらいの任務を成功させなくて、なにがストライカーよ。ここで失敗したら、フィルに合わせる顔がないからね!!」

「「「「「はい (おう)!!」」」」」

『……どうやら、心配しなくても良いみたいだね。やっぱりなのはの弟子だよ。君は……こんな無茶なプランなのに……』

「スクライア司書長。あたしはなのはさんの弟子である前に、あのフィルのパートナーなんですよ。無茶はお得意分野です」



あいつだったら、きっと同じ選択をした。
いや、あいつだったら、自分がもっと危険な役割をするかもね。


『確かにそうだ……ティアナ、後は頼んだよ』

「任せてください!!」



スクライア司書長は、この場はあたし達に託し、通信を切った。



「やろう、ティア!!」

「捕縛まではうまくいくと思うけど……リンカーコアまであたしの砲撃が届くか……」

「それは私が何とかするわ」

「「「「「「シャマル先生!!」」」」」」

「ティアナ、捕縛してくれたら、私が旅の鏡であいつのコアを引きずり出すから、それを打ち抜いて!!」

「足止めは俺も加わろう。多少は役に立つはずだ」

「「「「「ザフィーラ (さん)」」」」」



これで目処が立った。
成功率も上がった。これで失敗したら、大馬鹿よ。



「みんな頼んだわよ。まず、ナカジマ姉妹!! あいつの注意を引きつけて!!」

「いくよギン姉!! マッハキャリバー!!」

「オーケー、ブリッツキャリバー!!」

「「フルドライブ!!」」

《《Ignition》》

「「ギア……エクセリオン!!」」

《《A.C.S. Stand by》》



マッハキャリバーとブリッツキャリバーのモード3、フルドライブモード、ギア・エクセリオンが解放された。左右の足首から、大小二枚ずつの魔力翼が展開され、アクセラレート・チャージ・システム……瞬間突撃システムの発動準備が完了した。

マッハキャリバーは、自分たちでここにたどり着いたが、ブリッツキャリバーは、予めフィルが組み込んでいたため、同じシステムを使える。
これはギンガさんなら、最初からこのスペックが使えるだろうと考えたからだ。

二人ともウイングロードを展開し、注意を引きつけていた。
フルドライブになりスピードも上がり、フレイム・グロウも動きについて行けてない。



「行くよ、ルーちゃん」

「うん、キャロ」

「「錬鉄召喚、アルケミックチェーン!!」」



スバル達が注意を引きつけている間に二人は、術式を組み込んだアルケミックチェーンを召喚し、フレイム・グロウの捕縛に成功した。

だが、術式を組み込んだ特別製のため、ヴォルテールと白天王を召喚するくらい、二人の身体に負担がかかっていた。



「……くっ、はぁ……はぁ……」

「頑張ってルーちゃん……。わたし達がここで解いてしまったらお終い……だよ……」

「うん……」



しかし、ルーテシアはもう限界が近づいていた。
ガリューでさっきまで攻撃していたことと、エリオをサポートしていたことで、魔力をキャロより多く使ってしまっていたのだ。



「もう……だめ……」

「ルーちゃん!!」

「諦めるな!! 鋼の軛!!」



ザフィーラが放った鋼の軛は、動きを封じるサポートになり、二人の負担を減らせられた。



「二人とも、俺も全力でヤツの動きを止める。頑張るんだ」

「ありがとう、ザフィーラ!!」

「ありがとう……」



ザフィーラのおかげで、負担が減った二人は持ち直し、動きを完璧に封じた。





*      *      *





「シャマル先生!!」

「了解……いくわよ、クラールヴィント」

《ja》



クラールヴィントの石を分離させ、ペンダルフォルムに変形させた。
絶対見つけて引きずり出してやるわ!!

旅の鏡で体内のリンカーコアを探していると、一際高い魔力の固まりがあった。



「見つけた!!」

《ガァァァァァァ!!》



リンカーコアを摘出されたフレイム・グロウは咆吼をあげていた。
間違いないあいつのリンカーコアだ。





*      *      *




「ティアナ!!」

「任せてください!! クロスミラージュ!!」

《Starlight Breaker》



あたしはすでにクロスミラージュをブレイズモードに展開し、魔力を集束させ発射態勢に入っていた。
撃とうとしている魔法は、なのはさんの十八番、スターライトブレイカー。

まともに撃っても威力が足りないので、サンダーの秘密兵器、魔力集束システムを補助に使って威力を上げていた。

これはフィルが万が一を考えて、大気にある魔力素をサンダーが集めて、それを術者に与えるという物だ。

これはブラスターと違って、術者に負担は殆どかからない。
欠点は1回しか使えないことと、外でしか使えないと言うことだ。



「落ち着け……。この一発に、全てがかかってるんだ……」



あたしは深呼吸をし、精神を落ち着かせる。


この一発で全てが決まる。


やり直しはきかない――――。



《ティアナさん、一人じゃないんですよ。私もついてます。私はこの時のために、相棒からあなたのことを託されたんです。絶対成功させます!!》

《私もいますよ。サポートはサンダーだけじゃありません。ティアナ、あなたは全力で撃ってください!!》

「サンダー……クロスミラージュ……ありがとう……いくわよ!!」



オレンジ色の魔力光が、あたしの周りに集まり始めた。
自身の魔力だけでなく、サンダーが集めた魔力も合わせていた。



「発射10秒前……スバル、エリオ、ギンガさん、そこから退避して!!」

「「「了解!!」」」



注意を引きつけていた前衛グループの3人は、一斉に退避した。
そのときこっちに気づき、フレイム・グロウは魔力弾を放った。

発射態勢に入っていたあたしは、その場から動けず、直接は命中しなかったが、髪を縛っていたリボンは魔力弾の余波で消し飛んでしまい、ロングヘアの状態になっていた。



「全力……全開……」

「スターライト……ブレイカー!!」



――――放たれたオレンジの砲撃。


あたしの……。


そして、サンダーとクロスミラージュの思いがこもったスターライトブレイカーは――――。


一直線にリンカーコアに向かっていった。



《ガァァァァァァ!!》



砲撃が着弾し、リンカーコアが消滅すると、身体の方も維持できなくなり、消滅していった。
毒素の反応もなくサンダーが完全消滅を確認した。



「や……やった……」

『やった!!』



この場にいる全員が喜び、その場で大声をあげていた。
あたしも本当はそうしたかったが、スターライトブレイカーで全力を使い果たしてしまい、立つ気力もなかった。



《ティアナさん!!》

「ごめん……もう、限界……ちょっと休ませて……」

《本当にお疲れ様です……今はゆっくり休んでください……ティアナ》




*      *      *




「以前トーレが捕まる前に言ったと思うが、君と私は、親子のようなものだ」



スカリエッティは、赤い糸の檻に囚われの身となっているフェイトさんに向かって言った。



「君の母親、プレシア・テスタロッサ……実に優秀な魔導師だった。私が原案のクローニング技術を、見事に完成させてくれた。だが肝心の君は、彼女にとって失敗作だった。甦らせたかった実の娘アリシアとは、似ても似つかない、単なる粗悪な模造品……んっふふふふふっ。それ故、まともな名前すら貰えず、プロジェクトの名をそのまま与えられた。記憶転写クローン技術、プロジェクトF.A.T.Eの最初の一葉……フェイト・テスタロッサ」



「フェイトさん……」



廃棄都市区画に中継されているラボの様子を見て、エリオ達は心配していた。





*      *      *





「ライオット!!」



スカリエッティの作った糸の檻に閉じ込められていた私は、最後の手段に出る事にした。
このままでは、他の援護に回ることは出来そうにない。

ならば目標を、目前のスカリエッティ殲滅に定めて、自分の役割を完遂する。



《Riot Blade》
 


ライオットブレード……バルディッシュのフルドライブモード。
巨大な両手剣の形態を取っていたバルディッシュが、片刃の片手剣へとその姿を変える。
その刀身の魔力密度……つまり切れ味は、ザンバーの比ではない。



「はぁっ!!」



ライオットを一閃すると、ザンバーでは手が出なかったスカリエッティの糸の檻は、いとも簡単に切り裂かれた。フィルが閉じこめられていた糸の檻も破壊し、解放した。



「それが君の切り札かい……。成程、このAMFの状況下では消耗が激しそうだ」

「フェイトさん!!」





*      *      *



スカリエッティの言うとおり、この状況下ではかなり消耗してしまう。
いくら負担を少なくすることが出来たといっても、ゼロではない。



「フィル、行って!! ここは私が相手をする。フィルはクアットロの所に行って!!」

「でも、居場所が分からないと!!」



すると、フェイトさんが念話で……。



(大丈夫。さっきここに来る前にサーチャーを飛ばしておいたの。ついさっき居場所が分かったの)

(もしかして、それを待っていたんですか)

(本当は一人でなんて行かせたくない。でも、スカリエッティを止めるだけで、精一杯だから……。座標はプリムに転送するから行って!!)

(了解……)



転移の術式を展開し、フェイトさんが調べてくれた座標に向かうことにした。



「しまった!! 逃がすものか!!」



スカリエッティが気づいたが、どうやらこっちの方が早く転移できそうだ。


フェイトさん――――。


今まで……本当にありがとう。


こんな俺を好きになってくれて……ありがとう――――。


きっと、俺は……もう、フェイトさんと会えないから――――。


でも……。


絶対に、この世界を……。


大好きな人を……護ってみせるから……。



「……さよなら」



フェイト――――。





*      *      *





「えっ? フィル!!」



私はもう一度聞こうとしたが、すでに転移してしまい、聞くことは出来なかった。
でも、今、間違いなく言った。


本当に小さな声だったけど、確かに言った――――。


私のことを……『フェイト』って……。



「バルディッシュ!!」

《Get set》

「オーバードライブ……真・ソニックフォーム」

《Sonic Drive》
 


私の身体が、金色の眩い閃光を放ち、魔力も爆発的に膨れ上がった。
高速戦闘型にしては鈍重なイメージだったバリアジャケットのコートとジャケットが消滅し、それを構成する魔力までもが速度上昇に回される、私のリミットブレイク。



《Riot Zamber》



バルディッシュがカートリッジをロードし、ライオットブレードが二本に分裂した。


激しく帯電した、金色に輝く、二振りの刃……。


ライオットザンバー・スティンガー。





*      *      * 




「魔力値が、増大……。はっ!!」



別室で膨大な情報処理をこなしながら、戦域管制を行っていたウーノは、膨れ上がった魔力反応に、怪訝そうな声を上げた。
緑色に光る魔力の粒子が、ウーノの周囲に発生したかと思うと、緑色のバインドが襲い掛かった。



「探しましたよ、お嬢さん……」

「お前は、ヴェロッサ・アコーズ!! なぜここに!!」

「ゆりかごが浮上したときに、忍び込んだのさ。スカリエッティのもうひとつの頭脳、戦闘機人12体の指揮官。ナンバー1、ウーノ。君の頭の中……ちょいと査察をさせてもらうよ……」





*      *      *





「ウー姉……」



唯一残っていたあたしだったが、元々クア姉の案には乗り気ではなかったので、ウー姉が捕まったことで投降しようと思っていた。



「あのさ……」

「何ですか?」

「正直、クア姉がしている事って、嫌なんだよね。ウー姉も捕まったみたいだから、投降していいかな……?」

「戦闘意志がない相手に、戦う事はしませんよ。良いですよ……」

「ありがとう……」

「その代わり、あなたの体内にあるBCCは取り除かせてもらいますよ」

「うん……良いよ」



あたしは投降することにした。
きっと、先に捕まったチンク姉たちも望んでいると思うから――――。





*      *      *





既に残されているのは、スカリエッティのみになっていた。
それでも、スカリエッティは最後のあがきで、攻撃を仕掛けていた。



「装甲が薄い。当たれば墜ちる!!」

「そうかな……」



スカリエッティは強化スーツの能力で攻撃しようとしたが――――。


「何!! 強化スーツで、トーレ以上の戦闘力があるはずなのに!! 今の彼女のスピードは速いなどと言うレベルではない。目で捉えることが出来ないどころか、認識すら出来ないなんて!!」



当たり前だ――――。
今の私はリミッターを解除してるんだ。

自分の限界以上の力で動いてるんだ。絶対に捉えられるもんか!!


そして私は、スカリエッティの強化スーツをじわじわと破壊していった。

今の私の攻撃は蝶のように舞い、蜂のように刺す。

その表現がしっくりくると思う。



そしてとどめを刺すべく、二振りのライオットザンバー・スティンガーを重ね合わせた。
瞬時にしてそれは、巨大な一振りの大剣に化ける。



ライオットザンバー・カラミティ。


通常のザンバーとは比べ物にならないほどの魔力密度を持つ魔力刃。
これが私の最後の切り札――――。



「覚悟しろ!! スカリエッティ!!」



私はザンバーを大きく振りかぶり、スカリエッティの頭上に打ち下ろした。
スカリエッティはそれを、両手で受け止める。


しかし、そこまでだ――――。


床が保たず、足首まで床にめり込んでしまったために、身動きが取れなくなる。



「こんな……馬鹿な!! 戦闘力なら君よりも遙かに上なのに、どうしてこんな魔力刃くらい砕けない!!」

「このライオットザンバー・カラミティは、私の全てを込めている。そして……フィルの思いもだ!!」

「くだらん!! 感情論で強くなるわけはない!!」

「……哀れだね。愛の力を知らないって……」

「何だと!!」


人はね……。大切な人がいると、それだけで強くなれる。
その思いが、私を強くしたんだ!!


「だから……この私が引導渡してあげる……」



ライオットザンバー・カラミティがさらに力を増し、魔力刃もさらに巨大になり、密度もさらに増し、その力はつかんでいるスカリエッティの手を、消滅させるほどの物だった。



「馬鹿な!! こんな事が!!」

「スカリエッティ……光になりなさい!!」

「こんな、バカなぁぁぁぁぁ!! ぎゃぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!」



ライオットザンバー・カラミティを完全に振り下ろすと――――。


スカリエッティの身体は――――。


断末魔と共に、完全に消滅した。



ライオットが振り下ろされた地面は、半径10mにわたってクレーターが出来ていた。
それほどの威力と言うことだ。


単純破壊力なら、スターライトブレイカーやプラズマザンバーブレイカーを上回る。
これが、フィルが新たに付けた能力。物質消滅能力。

殺傷設定で使用したときに使える能力。

私はスカリエッティを逮捕ではなく、殲滅をすることを選んだ。

元々、スカリエッティとクアットロは、広域次元犯罪者の特A級だったので、現場の判断で殺すことも許されていた。



「はぁ……はぁ……はぁ……」



リミットブレイクをフルで使ってしまったため、立っているのがやっとだった。
こんな所でグズグズしてられないのに……。



だめだよ……。


自分の命を引き替えなんて……。


絶対にだめだからね!!





*      *      *





ゆりかご最深部





「まぁ、みんな使えないこと……」



髪を下ろし、眼鏡を取り去った私は、完全に戦闘モードに入った。



「それでも、私がいれば大丈夫ですけどね。あはははは!!」

『そのくだらない野望も終わりだ。クアットロ!!』



声がすると、最深部の扉が轟音と白色の光と共に破壊された。
扉が破壊され、そこに現れた人物は……。



こちらに銃口を向けていた、フィル・グリードだった。



「決着を付けようぜ、クアットロ!!」

「いいですわ……。フィル・グリード。未来から続いたあなたとの因縁……ここで終演にしましょう!!」




ゆりかご 軌道ポイント到達まで あと1時間35分




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