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〜 Remember my heart 〜
第21話 最終決戦


XV級艦クラウディア

何とか修理をし、応援に向かおうとしていたが、思ったより被害が大きく、修理が完了しても、ポイント到達時間には到底間に合わない。

事態への対策を練るため、本局のリンディ総括官、無限書庫のユーノと、通信を繋げていた。



『……ええ。艦隊運用部も通信部も、大騒ぎよ。 ただ、レオーネ相談役が上層部を取りまとめてくれてるし、運用部はレティたちが上手く立ち回ってくれてるから、これ以上の被害は出ないと思う』

「助かります。ユーノ、そっちは?」

『聖王のゆりかごのデータ、さすがにかなり少ないけど、発掘は無事完了。今送るよ』

「ああ。こちらから、アースラに全てに送信する」


ユーノから受け取ったデータを確認し、アースラへ転送する。



『あの船の危険度は?』

『極めて高いです。先史時代の古代ベルカですら、既にロストロギア扱いだった古代兵器。失われた世界、アルハザードからの流出物とも……』

「……アルハザード」

『我が家にとっては、あまり思い出したくない名前だけど……』

『……その真偽はともかくとして、最大の危険は、軌道上に到達される事。軌道上、二つの月の魔力を受けられる位置を取る事で、極めて高い防御性能の発揮と、地表への精密狙撃や、魔力爆撃が可能となるっていうのは、教会の伝承にある通りだけど……。こっちの調査では、次元跳躍攻撃や、次元空間での戦闘すら可能とある。その性能が完全に発揮されれば、次元航行隊の艦隊とも、正面から渡り合える。これは、フィルが経験したことで立証されている』

『軌道上に上がる前に、止めないといけないのね』

「対抗策は?」

『鍵となる聖王がそれを命じるか、本体内部の駆動炉を止める事が出来れば……』



ゆりかごに突入予定のなのはかヴィータが、駆動炉を破壊する。
或いは……。



「……鍵の聖王、ヴィヴィオは、スカリエッティの戦闘機人に、操作されている可能性が高い」

『スカリエッティの殲滅でも、止まる可能性はあるのね?』

『おかあさん、クロノ。スカリエッティの殲滅は、フェイトがやってくれるよ』

『アルフ……』

『フェイトがずっとがんばって、今まで追いかけてきたんだ。きっとつかまえてくれる!!』





*      *      *




ゆりかご 周辺空域


戦線には地上の航空魔導師隊も加わり、戦闘は熾烈を極めていた。
そんな、空戦魔導師たちがガジェットをシラミ潰しに叩いている中、ゆりかごの砲門が開き、高エネルギーが集中し始めた。


さっきまで街を攻撃していたレーザー砲とはケタが違うエネルギー量だ。
その砲撃のターゲットは――――。



「何だ、あの馬鹿でかいエネルギーは!!」

「フィル、あれは何なの!! まだポイントに行ってないのに、あれだけの出力があるなんて!!」

「あれは……まさか!!」


前の時、はやてさん達を消滅させた悪魔の兵器……。


「カイザージャッジメント……」

「何なの、それは?」



カイザージャッジメント――――。

ゆりかごの主砲で、軌道ポイントに行ったゆりかごが使用すると、威力はアルカンシェルを遙かにしのぐ。



「くそ!! 奴ら、今あるエネルギーで、アースラを沈めようとしてるんだ!!」





*      *      *




アースラ ブリッジ


ゆりかごの様子は、こちらのモニターで確認できていた。
ゆりかごに集中しているエネルギーは、命中すればアースラなんて簡単に消し飛ぶ。


「グリフィス君、アルカンシェルのチャージは?」

「今からでは間に合いません!! チャージをするのが精一杯です!!」

「エネルギーのチャージは可能なんやな」

「ですが、あっちの方が早いです!!」



計算の結果、ゆりかごの主砲が発射されるのに60秒、こっちが発射できるのには180秒かかる。
落ち着け、落ち着くんや……。

逆転の策はまだある!!



「私に考えがある!! シャーリー、チャージしたエネルギーを、全部プロテクションに回して!!」

「はっ!! そうか!! はい!!」



シャーリーは私の意図が分かり、全速でキーボードを打ち、アルカンシェルのエネルギーを、防御システムに集中させた。





*      *      *



ゆりかご 


「ふふっ。まず、最初は還る所を無くしてあげますわ〜 自分の無力さを嘆きなさい。フィル・グリード」



ゆりかごの主砲は軌道ポイントにつかないと、最大のパワーは発揮できないが、一発撃つだけでしたら、今でも出来ますのよ。



「カイザージャッジメント……」



キーボードを操作し、起動スイッチを押すと、主砲は巨大なエネルギーを生み出す。
黒き閃光は、すべてを滅ぼす。

それは、すべてを破壊する裁きの光として――――。



「発射ですわ!!」


主砲が発射され、アースラに一直線に向かっていく。



「終わりですわ!!」





*      *      *




アースラ ブリッジ



「高エネルギー体接近!!」

「八神部隊長!!」

「エネルギーバイパス完了!! これで出力はあがります!!」


これで、アースラのエネルギーをすべて回すことが出来る。
一か八かの賭や!!



「ようやった、シャーリー!! プロテクション全開!! 総員対ショック防御!!」

「はい!!」

「プロテクション展開!!」



シャーリーの操作で、アースラ全体にプロテクションが展開された。
通常ならこんな防御くらいじゃ防ぎきれないが、今はアルカンシェルに回そうとしたエネルギーもある。
そう簡単には破られない!!



『きゃあああ!!』

「うわぁぁぁ!!」

「みんな頑張ってや!!」


ゆりかごの主砲は、アースラのあらゆるところは破壊していく。
それでも何とかしのぎきったが、ゆりかごの主砲のエネルギーはすさまじく――――。



『エンジン出力60%まで低下!!』

『魔力炉出力150%オーバー、これ以上の負担には耐えられません!!』

『左舷主砲3番、5番大破!! 右舷後方副砲使用不能!!』

『プロテクションシステム、2番回路、3番回路、ダウン!!』



各機関からブリッジに報告が来ていた。
もうすこしなんや、頑張ってやアースラ――――。




『あ〜ら、しのいだんですの〜』

『クアットロ!!』


アースラの通信パネルに、クアットロの姿が映し出された。
その嫌ったらしいしゃべり方、聞いているだけでも反吐がでそうや!!



「あんたらの思うとおりにはならんで!! アースラを……機動六課を舐めんなや!!」

『そうやって言ってられるのは、今の内ですわ。見ましたでしょう。ゆりかごのパワーは。軌道ポイントにあがればあんな物じゃありませんわ。おほほほほほ!!』


クアットロからの通信は切れた。




*      *      *




「はやてさん!! みんな!!」

『心配しなくてもええよ……こっちは何とか生きてるよ』

「はやて、本当に大丈夫なの?」

『大丈夫……言ったやろ、アースラは必ず護るって……』

「はやてちゃん……」

『なのはちゃん、フェイトちゃん、フィル、こっちのことは心配しないで、みんなはゆりかごを止めることに専念してや!!』

『高町一尉、奥へ進めそうな突入口が見つかりました、突入隊二十名が先行しています!!』
 


ヴィータ副隊長と合流して、突入口を検索していた俺となのはさん達の元に、通信が入った。



「フェイトさん!!」

『外周警戒は航空部隊の方で引き受けます。六課の皆さんは突入してください!!』

「おう」

「了解」

「お願いします」

「機動六課、スターズ1、2、ライトニング1、ライトニングスター0、内部通路突入」



壁をぶち破ってゆりかご内に突入した機動六課メンバー。

出た場所は天井の高い、通路で、まず着地するために速度を緩めたところで、なのはさんの足元に発生しているフライヤーフィンが大きく揺らぐ。



「AMF!?」

「内部空間、全部に?」

「フィル!!」

「分かってますよ!! プリム!!」

《了解です!!》



俺たちはそれぞれ魔力を集中させ、館内廊下に着地した。

この程度のAMFで、今更驚きはしないよ。
俺たちがこの程度のこと、予測してないと思っていたか!!





*      *      *





廃棄都市区画


降下ポイントまであと一歩……というところだったが、ガジェットU型に捕捉されてしまったJF705。
最新鋭の戦闘用ヘリでも、飛行タイプであるガジェットU型に比べれば、機動力は確実に劣ってしまう。

どうにかして振り切ろうとしてはいるが、どれも上手くはいっていない。



「ゴメンねみんな、思いっきり揺れるから、しっかり捕まってて!!」


アルトさんは何の躊躇も無く、ビル街にヘリを突っ込ませた。
その甲斐があり、何とがガジェットは振り切ることが出来た。



「よし、振り切った!!」

「アルト、すごい!!」

『ありがとうスバル。さぁ、降下ポイントについたよ。みんな準備は良い!!』

「「「「「「おう (はい)!!」」」」」」



後部ハッチが開き、降下準備が完了する。
同時に、最終ブリーフィングをした。



「確認するわよ。あたし達はミッド中央、市街地方面、敵戦力の迎撃ラインに参加する。地上部隊と協力して、あの黒竜を叩く。それがあたし達の仕事」

「他の隊の魔導師はAMF戦の経験がほとんど無い。だからあたし達がトップでぶつかって、とにかく向こうのガジェットを叩いて戦力を削る!!」

「私達があの黒竜を止めれば、後は迎撃ラインで何とかしてくれる。そこまでが勝負ね……」

「でも、なんだか……ちょっとだけエースな気分ですね」

「そうね……任務のランクもエース級になっちゃたけどね」



伝説のロストロギア、フレイム・グロウ。
そんなの相手にしなければならないんだから、正直厳しいとしか言えない。


本来なら、なのはさんとかエース級の魔導師が必要な任務だ。



「ガジェットも黒竜も迎撃ラインを突破されたら、市街地や地上本部まで一直線です!!」

「ガジェットは何とかなっても……あの黒竜を行かせたら、大惨事になる……」

「絶対行かせる訳にはいかないよね」

「そして、あの黒竜に対してだけど、キャロ、ルーテシア、二人とも外に出たら、それぞれフリードとガリューを召喚して黒竜に対応。召喚時間が短いヴォルテールと白天王は最後の切り札よ。出来るだけ温存して」



本当は一気にカタつけたいんだけど、ヴォルテールと白天王は最大級の召喚魔法のため、短時間しか召喚してられない。



「ギンガさんとスバルはガジェットを叩きつつ、キャロのフォロー。エリオはルーテシアのフォロー。そしてあたしはサンダーで降下して、全体の様子見ながら、みんなの指揮をするわ。状況が変わったらその都度指揮するから……」

「了解、お願いね。ティアナ」

「じゃ、みんな行くわよ!!」

「「「「「「Go!!」」」」」」



ヘリの後部ハッチから、7つの光が廃棄都市に舞い降りる。
高架道路に着地するスバルとギンガさん。

顕現したフリードとガリュー、フリードの背に乗るエリオとキャロとルーテシア。

そしてあたしは、スーパーサンダーに乗って着地する。




*      *      *




『グォォォォォン!!』



その叫び声ですべてを飲み込もうとするプレッシャー。

膨大な魔力の余波を周囲に撒き散らす。


巨大な黒き竜。フレイム・グロウ――――。


ガリューを召喚した私は、さっきからプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。


――――怖い。


こんなこと、今まで思わなかったのに……。


なのはさん達やフィルさんのいない状況で……。


そんなときエリオが私の手をぎゅっと握って……。



「エリオ?」

「ルー達のことは僕が絶対に護るから……。僕はフィルさんみたいに力は無い。でも、ルー達のことを護りたいって気持ちは誰にも負けないから……」

「エリオ……ありがとう……」

「ルー……」

「ガリュー、あの竜に突撃する!! 僕に力を貸して!!」

『了解だ。いくぞエリオ』



エリオはストラーダを、ガリューは爪を構え、攻撃態勢になり突撃した。
しかし、二人の攻撃は全く効かず、竜は傷一つ付いてない。




*      *      *





「スバル!!」

「うん!!」

「「ディバインバスター!!」」


二人のディバインバスターは命中するが、やはりダメージは与えられなかった。


「フリード!! ブラストレイ!! 最大火力!!」

『ガアァァァァァ!!』

「「キャァァァァ!!」」



最大火力のブラストレイで攻撃したが、黒竜からそれ以上の火炎がはき出され、逆に押し戻されフリードの背に乗っていた二人が、バランスを崩して落ちてしまった。



「キャロ、ルー!!」


エリオがストラーダのバーニア全開にしてるけど、このままじゃ間に合わない。


「サンダー!!」

《分かってますよ!!》



スロットルを全開にし、バーニアを全開にし空中に飛んだ。
何とか空中で二人を助けることが出来た。



「「ティアさん!!」」

「ギリギリセーフって所ね……」


近くの高速道路に着地し、キャロ達はこっちにきたフリードに乗り、また空に戻っていった。


「いい、こんな化け物相手に、バラバラに攻撃しても通じないわ!! あたし達が持っている力を一点に集中させるわ!! あたしが弱点を見つけるから、何とかそれまでしのいで!!」

「「「「「はい!!」」」」」



サンダーの全能力を使って、あいつの弱点を調べる!! 
みんな、それまで何とか持ちこたえて!!




*      *      *




「アイゼン!!」

「プリム!!」

「「はぁぁぁぁぁ!!」」



ヴィータ副隊長と俺は、やってくるガジェットを片っ端から叩いていった。
なのはさんとフェイトさんには、魔力と体力の温存のため、俺たちがガジェットを叩いている。



「ヴィータちゃん、フィル、あんまり飛ばしすぎると……」

「うるせぇ……。それにセンターや後衛の魔力温存も、前衛の仕事のうちだ」

「そういうことです。二人には最後の戦いのため、出来るだけ温存して欲しいんです……」

「でも、フィルは、かなり魔力を使ってしまったよ。それじゃ……」



今の魔力量は、推測だけどAAA-くらい。
確かに若干上がっているけれど、それでもかなり使ってしまっている。



「フィル」

「なのはさん?」



突然なのはさんは自分の魔力を、俺に与え始める。
そしてフェイトさんも同じように自分の魔力を俺にチャージし始めた。



「待ってください!! 二人とも、魔力を少しでも温存してください!!」


二人とも、最後の戦いのために魔力は温存しておいてほしい。
これからの戦いは、死闘になるから……。


「駄目だよ!! 一緒にスカリエッティ達と戦おうっていったでしょう。フィル一人に負担をかけたくないの!!」

「だったらヴィータ副隊長に渡してください!! 俺よりガジェットを叩いてるんですよ!!」

「あたしを舐めんなよ。心配しなくてもおめぇより魔力はあるんだよ。それに今のおめぇは、あたしよりも魔力がないんだろ……」

「気づいてたんですね……」

「フェイトちゃんが気づいてるんだよ。教導官のわたし達が気づかないわけ無いでしょう。隠しているつもりでも、魔力の波長は分かるからね。以前の魔力の波長が消えていたから……」



なのはさんの言うとおり、俺の身体から魔力が無くなってしまって、魔力パターンは元の通りになってしまった。



「だから今は素直に私達の魔力を受け取って。お願いだから……」

「フェイトさん……」


二人の魔力をもらったおかげで、フルパワー状態に回復することが出来た。


「済みません……。結局二人に負担をかけてしまいました」

「気にしないの。ヴィータちゃんとフィルが戦ってくれたおかげで体力は万全だから。魔力を渡したといってもそんなに消費しないから」

「そういうこと。私達は回復系は苦手だけど、これくらいは出来るから……」

「なのはさん、フェイトさん……」



魔力を回復させ、先に進もうとしたとき、緊急通信が入ってきた。



『なのはちゃん、ヴィータ、フィル、フェイトちゃん、応答してや。こちらアースラ、八神はやて。駆動炉と玉座へのルートが判明したんや』



ウインドウに展開された情報によると、駆動炉と玉座は真逆方向。
これも以前と違っていた。

前の時は駆動炉は、そんなに離れていなかったのに……。



「はやてさん、応援部隊はこっちに回せませんか?」

『正直厳しい状況や。アースラの方も迎撃で精一杯だし、各地から招集しても間に合わへん……』

「………わかりました。スターズ1,2とライトニング1、そしてライトニングスター0、別行動を取ります」


ここで別行動をとるのは、かなり厳しいが、現状ではこれしか手段がない。


『どういうことや?』

「駆動炉と玉座の他に、スカリエッティ達がいる場所があるんです。俺とフェイトさんはそこに向かいます」

『それしかあらへんな……みんな、絶対生きて帰るんやで!!』



はやてさんからの通信が切れ、俺たちは別行動を取ることにした。



「フィル!! 無茶だよ!! 戦力を分散させるなんて」

「駆動炉と玉座のヴィヴィオ。片方止めただけでは駄目なんです。どっちも止めないとゆりかごは停止しない。それにスカリエッティ達を始末しないと意味がない。こうしてる間にも、外は危なくなってる」

「でも、ヴィータちゃんもフィルも……ここまでの消耗が」

「だったらあたしが駆動炉に回る。フェイトとフィルはスカリエッティ達をぶっ飛ばして、お前はさっさとヴィヴィオを助けてこい」

「でも……」

「あたしとアイゼンの一番の得意分野、知ってんだろ……破壊と粉砕……鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン、砕けねぇものなんかこの世にねぇ」



グラーフアイゼンを肩に担ぎながら、ヴィータ副隊長は笑っていた。



「一瞬でぶっ壊して、おまえ達の援護に行ってやる。さっさと上昇を止めて、表のはやてに合流だ」

「気をつけて……絶対、すぐに合流だよ!!」

「たりめーだ。あんま余計な心配すんな。それよりもフェイト、フィルのことちゃんと見てろよ。こいつの方が、あたしよりもあぶねぇからな」

「うん……」



ヴィータ副隊長は、なのはさん達に背を向け、艦尾に向かって歩き始めた。
もう、飛ぶ魔力も厳しいのか……。



「じゃ、わたしも行くね……。フィル、フェイトちゃん、絶対死んだら駄目だからね!!」


なのはさんもヴィヴィオを助けるため、玉座の間に向かった。


「フェイトさん……俺たちも行こう。あいつの気を感じて、直接飛びます」

「うん」



俺はワープでクアットロの元に向かうため、魔力を集中した。


――――駄目だ!!

スカリエッティは分かるが、クアットロは感じ取れない。
迷彩をかけていやがるな。

それだったら、先にスカリエッティを倒すまでだ!!




*      *     *





『スターズ1、玉座の間へ。スターズ2、駆動炉へと向かいました。ライトニング1とライトニングスター0は、転移で別の場所へ向かいました』

「なのはちゃん、フェイトちゃん、ヴィータ、フィル……」



悔しい……。


本当ならみんなと一緒にゆりかごで戦いたい。
でも、今の私はアースラを預かっているんや。


だから、みんな絶対生きて帰ってきてや……。




*      *      *




「でぇやあぁぁぁ!!」



駆動炉へ向かったあたしは、グラーフアイゼンを振り下ろし、進路を阻んでいたガジェットV型を一蹴した。
ペースを上げ、駆動炉のある動力室は、もう目と鼻の先まで迫っていた。



「ここまでくりゃ、もうちょっとだ。カートリッジもまだある、楽勝だ……」



こんな時が一番危険だと言う事を、経験から良く分かっていた。

左手に持っていた未使用のカートリッジをポケットに仕舞うと同時に、勢い良く後ろを振り向いて、横薙ぎにグラーフアイゼンを一閃した。

何もなかったはずのその空間から、金属同士が激しく衝突したような音が響き、一瞬遅れて、アイゼンを振りぬいた射線上にある壁で、爆発が起きた。



「やっぱりそうか……。フィルから、聞いていたからな。あたしが死んだ原因をな。この時、後ろから攻撃を受けて、死んだんだったな……。冗談じゃねえ、死んでたまっかよ!!」



刃物の手足を持つ鋭角的なフォルムの、多脚生物のような機械兵器を、アイゼンの一撃で破壊したのだ。



「あの時、なのはを墜としたのは……てめーらの同類か」
 


もう姿を隠す気はないのか、動力室の方から、ガチャガチャと大量の同型機が迫ってくる。
アイゼンを肩に担いでカッと目を見開き、その瞳の色は、鮮やかなブルーに変貌していた。



「ざけんなよ……。一機残らずブッ潰してやらぁ!!」



ゆりかご 軌道ポイント到達まで あと2時間16分





*      *      *



ゆりかご 玉座



玉座には苦痛の表情のヴィヴィオと私とディエチちゃんがいた。
私はキーボードを叩いて、ゆりかご内の様子を見ていた。



「この作戦……あまり気が進まない」

「あ〜ら、どうして?」


大方、こんな小さな子供を利用して、とでも思ってるんですね。
本当に甘いですわね。どいつもこいつも……。


「ドクターの言って事は、嘘でまかせですわ〜」

「えっ?」

「ドクターの目標は最初から一つだけ。生命操作技術の完全なる完成。それが出来る空間作り。このゆりかごはそのための船であり、実現できる力。まっ、今回の件で何万人か死ぬけれど、百年立たずに元に戻りますわ。ドクターの研究は人々を救う力ですもの〜」

「どうしたの〜ディエチちゃん。ドクターやお姉様の言うことが信じられなくなっちゃたの〜」

「そうじゃないよ……そうじゃないけど……」

「何を今更。姿を見る前までは平気でトリガーを引けたのに……ねっ……」

「……ごめん……気の迷いだ。わすれて……命令された任務はちゃんとやる……」



そう言ってディエチちゃんはイメースカノンを持って、所定配置に向かった。



「お馬鹿なディエチちゃん。あなたも、捕まったチンク達みたいに、つまんない子なのね」



キーボートを叩いて展開された画面には、突入したメンバーや外で戦っている六課メンバーの様子が映し出されていた。



「うふふふ……なんも出来ない無力な命なんて、その辺の虫と一緒じゃない。いくら殺しても勝手に生まれてくる。それをもてあそんだり、蹂躙したり、かごに閉じこめた虫を眺めるなんて、こぉんなに楽しいのに……ね……」






*      *      *





聖王医療院



『ミッドチルダ東部山中、森林地帯より浮上した巨大船は、未だ上昇を続けています。同時に第七廃棄都市区画方面から、首都クラナガンに向かって、自動機械や巨大な竜が移動中。周辺各区には、緊急避難勧告が出されています。市民の皆様は、案内放送と、管理局員の誘導に従い、落ち着いて避難をして下さい』



一般入院病棟の一角にある病室で目を覚ましたヴァイスは、ベッドから上体を起こしながら、ニュースが放映されていたウィンドウを閉じた。

同じく、激しい傷によって入院を余儀なくされていた、ザフィーラの旦那。
彼もニュースを見ていた。



「目覚めたか……」

「たった今っす……。今日は何日の何時っすか?」

「六課襲撃から丁度一週間だ。新たな事件が起こっている。動ける六課メンバーは全員出動している」

「ヘリ無しですか!! くそ!! 俺はこんな大事なときに!!」

「ヘリはアルトさんが操縦するって、シグナムさんとアルトさんが教えてくれたの」

「ラグナ……」



ドアから入ってきたのは、妹のラグナだった。
彼女の左目には眼帯がしてあった。



「それからフィルさんが、お兄ちゃん怪我して大変だから、お見舞いしてあげてって。お兄ちゃん、大丈夫?」

「ああ……」

「怪我は、そんなに心配しなくて大丈夫だって、静かに入院していればすぐ直るって」

「……そうかい」

「あのね……あの時の……あの事故の後から、私達なんだかうまく話せなくなっちゃったけど、昔みたいに戻れたらって……左目もね」



そう言って眼帯を取ると……。



「傷、もう消えたでしょう。それと……左目なんだけど、見えるようになったんだよ」

「何だって!! どういう事だ!?」


眼球が完全につぶれてしまってるから、再生は不可能なはずなのに――――。


「フィルさんが……私のために、必死でこの義眼を作ってくれたんだ。私達の絆を、もう一度取り戻して欲しいって……」

「あいつが……」


あいつは、ラグナのためにそんなことまで……。
実の兄が現実から目を背けていたってのに、他人のあいつがこんなにも一生懸命にしてくれてた――――。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんがこの事で、すっと気にしていたのは知っていたよ。でも、もう大丈夫だから。私は光を取り戻したから……だからお願い、お兄ちゃんも、もう一度自分を取り戻して!!」

「ラグナ……」



俺は……何をしていたんだ。

フィルが、俺とラグナのために、ここまでしてくれていたのに……。

そして――――。

ラグナも俺と正面から話してくれたのに……。



「どう生きるか……どう戦うか……選ぶのはお前だ」

「旦那……」

《今こそ立ち上がるときですよ、相棒》

「ストームレイダー……」



ラグナ、旦那、ストームレイダー……。



「そうだな。ラグナが、ちゃんと俺と向き合ってくれたんだ。今度は俺が応える番だ!!」


ここで立ち上がらなかったら、マジで男じゃねえ!!


「お兄ちゃん!!」

「済まなかったな、ラグナ。もう大丈夫だ。ストームレイダー、俺に力を貸してくれ!!」

《ずっと待っていましたよ。その言葉を!!》

「ヴァイス、その様子なら大丈夫だな。いくか……」

「行くかって、旦那どこに?」

「決まっている、皆の所にだ」

「ですね!!」



俺は戦闘服に着替えると、ザフィーラの旦那と共に、バイクを止めてある駐車場へと向かった。





*      *      *





ゆりかご スカリエッティ研究室



「待っていたよ、フェイト・テスタロッサ、そしてフィル・グリード」

「「スカリエッティ!!」」



ワープでスカリエッティの所に突入した私達の前にいたのは、強化スーツを身にまとっていたスカリエッティの姿だった。



『外で戦っているFの遺産と竜召喚師も、聞こえてるかい? 我々の愉しい祭りの序章は、今やクライマックスだよ』



スカリエッティは、街で戦っているエリオ達にもここでの様子を見せていた。



「なにが、なにが愉しい祭りだ!! 今も地上を混乱させている重犯罪者が!!」

「重犯罪? 人造魔導師や戦闘機人計画のことかい? それとも、私がその根幹を設計し、君の母君プレシア・テスタロッサが完成させた、プロジェクトFのことかい」

「全部だ!!」

「いつの世も、革新的な人間は虐げられるものだね」

「そんな傲慢で、人の命や運命を弄んで!!」

「貴重な材料を無差別に破壊したり、必要もなく殺したりはしていないさ。尊い実験材料に変えてあげたのだよ。価値のない無駄な命をね」

「こ、この!!」



スカリエッティの傲慢極まりない言葉を聞き、激昂する。
感情の昂りに任せ、ザンバーの黄金の輝きがより一層強くなった。

一撃でスカリエッティを倒そうとし、宙に舞い上がる……が……。

スカリエッティが指を鳴らすと、足元に赤い小さなテンプレートがいくつも現れ、そこから出てきた赤い糸が脚に絡みつく。

またその糸は、ザンバーの魔力刃にも幾重にも巻きつき、動きを完全に封じてしまった。




*      *      *





「フェイトさん!!」

「ふっははは。普段は温厚かつ冷静でも、怒りと悲しみには、すぐに我を失う」

「今、その糸を切る。待ってて!!」


しまった!! やつはフェイトさんのウィ−クポイントを的確に突いてきてやがる。
プリムをセイバーモードにし、糸を切ろうとしたが……。



「そうはいかないよ」


俺の足下にも糸が現れ……。


「しまった!!」


俺の身体に巻き付き、動きが完全に封じされてしまった。
しかも魔力結合が出来ないようになっていて、バリアジャケットを維持するのに精一杯だった。



「それは特別製でね。それしか完成できなくてね。君のために作ったんだよ」

「くそったれが!!」

「そこでじっくりと見ているが良い。フェイト・テスタロッサの最後をね」

「スカリエッティ!!」



俺が苦戦している間に、フェイトさんもザンバーを砕かれ、脚を拘束していた糸に引っ張られ、床に引き摺り下ろされた。



「君のその性格は、まさに母親譲りだよ。フェイト・テスタロッサ」





*      *      *





別れた後、わたしは艦首方向に向かって飛行していた。

いくらゆりかご内部が広いからと言っても、壁や天井に仕切られた空間を高速で飛ぶわけにもいかず、
かなり焦りがあった。

そんな中、ヴィヴィオの聖王教会での検査結果を受け取った時の、シスターシャッハとのやり取りを思い出す。



「遺伝子データの照合で、ヴィヴィオの元となった人物の出身年代が判別しました。約300年前、聖王時代の、古代ベルカの人物です。ヴィヴィオのママは、その当時の人物でしょうから……」

「もう、この世にはいないってことですね。ただ、ヴィヴィオはママって言葉を、自分に特別に優しくしてくれる人のことだと思ってるみたいですし」

「でも、本当によく懐かれていますね。このまま、ご自分の娘さんに?」

「受け入れ先は探してます。あの子を必要としてくれて、受け入れてくれる温かい家庭を……」

「あの子は、いやがりますでしょうに……」

「幸せにしてあげる自信がありません……」

「どうして?」

「わたしはいつも自分のことばっかりで、優しい母親になれる資格も、たぶん……ありません……それに何より、わたしは空の人間ですから………」

「……縁起でもない!!」



一瞬遅れて反応するシャッハ。
彼女の言うところの意味は、いつ死ぬか知れない、空にいればその可能性が高いと言うことだ。



「可能性の話です……。一度、堕ちてますしね……」

「ですが!!」



しかし、それ以上の言葉はなかった。
彼女もまた戦う者として、それは身に染みてよく理解しているからだ。



「ママ?」


アルフとボール遊びしていたはずのヴィヴィオが、いつの間にか足元にやってきていて、心配そうな目で見上げていた。


「うん?」


わたしはかがみこんで、ヴィヴィオと視線を合わせた。



「ヴィヴィオ、どうしたの?」

「ママ、しょんぼりしてたから」

「本当?」

「うん……」



いつか自分がそちら側になるのではないかと言う不安は、払拭する事など出来ない。
そんな不安が、表に出てしまっていたということか。


「ママ、いい子」
 

ヴィヴィオは少し背伸びをすると、その小さな手をわたしの頭に乗せて、ゆっくりと撫でた。


「……ヴィヴィオは優しいね」



目の前の少女がどうしようもなく愛おしくなってしまう。
わたしはヴィヴィオを抱き上げると、ギュッと抱きしめた。



「平気だよ。ヴィヴィオが元気で、笑顔でいてくれたら、なのはママもいつだって、笑顔で元気だから」

「えへへ」

「あはは」





*      *      *




一刻も早く、玉座の間に辿り着きたい。
出現するガジェットを、一機ずつ潰していられない。



「いちいち相手してられない……。レイジングハート!!」

《All right, Strike Flame》



レイジングハートを槍型、エクシードモードに変形した。
先端には超高密度の魔力刃、穂先からは魔力翼が展開された。



「A.C.Sドライバー!!」

《Charge》



ガジェットの密集する中に、構わず突撃をかけた。
レイジングハートの先端に発生した魔力刃を頂点に、円錐状の攻性フィールドが発生し、触れるもの全部を破壊した。
通路を塞いでいたガジェットは、通過と共にその全てが爆散した。





*      *      * 




「駄目だ、クアットロ。手が付けられない」



ディエチちゃんからの報告で、高町なのはの様子はよく分かっていた。



「まぁ、予想の範疇よ。あの人の終幕はここ。玉座の間だから……どこも思ったよりは粘っているけれど、まっ、時間の問題ね」


画面に映し出されていたのは、機動六課の戦っている様子だった。
ふっふっふ〜。どこも苦戦していて、とってもいい気分ですわ。

後は、あの男が死ねば最高の気分ですわ〜♪




ゆりかご 軌道ポイント到達まで あと1時間44分


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