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〜 Remember my heart 〜
第19話 ゆりかご


聖王医療院


入院病棟の一室のベッドに、ヴァイス・グランセニック陸曹が横になっている。
私は、今、そんな彼の眠るベッドサイドに立っている。



「ヴァイス陸曹……手術お疲れ様でした。機動六課の、私たちの704式ヘリは壊れちゃいましたけど……ヴァイス陸曹のストームレイダーは無事でしたよ……」



私が持っていたのは、ヴァイス陸曹のデバイス、ストームレイダー。
六課跡から、シグナム副隊長が見つけてくれたんですよ。



「……後のこと、何も心配ないですからね。落ち着いてゆっくり休んでてください……」



病室を出て、私はヘリポートに戻り、回復したロングアーチをアースラに連れて行くため、JF705 に搭乗する。
六課に残されたヘリは、これ一機だけだ。



「行こうか、みんな……」

『おう!!』

(ヴァイス先輩の後輩として……。六課のロングアーチスタッフとして……みんなを運ぶ仕事は、私が引き継ぎます!!)


ヘリポートから、アースラと合流するために旅立った。




*      *      *







時空管理局次元航行実験艦 L級巡航艦アースラ


既に次元空間の長期航海に耐えられるだけの、在りし日の力は失われ、退役を待つばかりだった艦だったのだが……。

フィルが回収し、様々な改修・改造を施し、外見は殆ど変わらないが、中身はXV級を超えるほどの戦闘力を秘めている。

全方位に対応する主砲・副砲。
戦闘によるダメージを軽減する全方位バリア。

長期間の航海を復活させた新型エンジン。
装甲板の強化により、耐久力の強化。

さらに、新型エンジンと新型魔力炉によるアルカンシェルの強化。

通常のアルカンシェルを3発連続発射を可能にすることに成功する。


さらに――――。


最終手段として、アースラのアルカンシェルにはもう一つの顔がある。



「ルキノ、コントロールは大丈夫?」

『はい、フェイトさん。この子の……アースラのことは、隅から隅まで知ってますから……』



ルキノは元、アースラ勤務。当時は事務員として搭乗していた。
基本操作は元のままなので、そんなに苦労はしないで済んだみたい。





*      *      *





「……アルトさんとルキノさんが」

「うん、アルトは療養中のヴァイス君に代わって、ヘリパイロット」

「ルキノは、アースラの操舵手」



アースラ内の会議室には、俺と、スターズからなのはさんとティア、ライトニングからフェイトさんとキャロ、輸送隊からアルトさんと、六課各部門の代表メンバーが集まっていた。

他にも、操舵室にいるルキノさんとも内線が繋がっていた。



「ああ、みんなお揃いやな」



会議室の扉が開き、グリフィスを引き連れ、はやてさんが入ってきた。



「ちょうどよかった。いま、機動六課の方針が決まったところや」




地上本部の事件への対策は、残念ながら後手に回っている、と言うのが現状だ。もっとも、ただでさえ少ない戦力で、襲撃後の混乱の中、それは避けようがない。
さらに、本局艦隊はほぼ壊滅状態になってしまい、現状では復帰のめどは立ってない。

スバルも当初は本局で治療する予定だったが、マリーさんの機転で、退院後はクラナガンの施設に移っていたのだ。




「そやけどな……。私達が追うのはテロ事件でも、その主犯格としてのスカリエッティでもない。ロストロギア・レリック……。その捜査線上に、スカリエッティやその一味がおるだけ。そう言う方向や……」

「その過程において誘拐された、なのは隊長とフェイト隊長の保護児童。ヴィヴィオを捜索・救出する……そう言う線で動いていく。両隊長、意見があれば……」

「理想の状況だけど……また無茶してない?」

「大丈夫?」


本局艦隊も使えないこの現状では、最良の策だけど――――。


「……正直、まだ後見人の皆さんと連絡が取れてないんで、今後の作戦は、私達の独断と言うことになってくる。でもな……」

「こんな時のための機動六課なんや!! ここで動けな、部隊を興した意味ない!!」

「了解」

「なら、方針に異存はありません」

「よし。ほんなら、捜査出動は本日中の予定や。万全の体制で、出動命令を待っててな……」
 


会議は締めくくられ、はやてさん達とフェイトさん達は会議室を出て行った。
俺とスターズの二人はまだ、会議室に残っていた。



「ティアナ……スバルはまだ……」

「はい……まだクラナガンの方に……。でも、午後には合流できるそうです。ギンガさんが迎えに行ってます。それにしても、あのまま本局でしてたらスバル達も……」

「マリーさんの機転のおかげだな、クラナガンの施設にしたのは正解だったな……」

「そうだね……」




*      *      *



クラナガン 技術研究室


「うん……神経系は完全回復してるわね。全力で動かしても痛みはないはずよ」

「はい」



試しに左手を全速でパンチを出してみたが、痛みは全くなかった。



「うん、ありがとうございます。マリーさん」

『後は、マッハキャリバーだね』

「……はい」



マッハキャリバーは、あたしが無茶をしてかなりのダメージを負ってしまった。
自己修復機能では追いつかず、大修理となってしまった。



「……ごめんね、マッハキャリバー……あたしのこと、怒ってるよね……」

《「怒る」という感情が、私にはおそらく存在しません。心配は無用です》

「マッハキャリバーは、AIだけど心があるって。一緒に走る相棒だって言ったのに……あたしあの時、マッハキャリバーの事、全然考えてなかった………」

「自分勝手に、道具扱いして……こんなに傷付けちゃった!!」

《いいえ、問題あったのは私の方です。あなたの全力に応えきれなかった。私の力不足です》



と、そのときシャーリーさんとマリーさんが部屋に入ってきた。





*     *     *




「あっ……ごめん。大事なお話し中?」

「いえ……」

《反省会です》

「シャーリーさん、もう良いんですか」

「六課が大変な時期だし、デバイス達の面倒も見ないとだし、寝ていられないよ」



もうあんな思いはごめんだ。
ヴィヴィオが連れさらわれ、何も出来なかった自分を責めるのは。

今、みんなのデバイスのことを見られるのは私だけ。
フィルが前線で戦う今、甘えてなんかいられない!!



「ねぇ、スバル、マッハキャリバーね、修理ついでにって、強化システムのプランを自分で考えちゃたのよ」

「えっ?」

「アウトフレームの強化とか、、走行強度のアップとか……」


本当、マッハキャリバーは驚く成長をしている。
以前、フィルが言っていた人とデバイスの融合――――。

その一端をかいま見た気がする。



「かなり重くなるし、扱いづらくもなるから、スバルに聞かないとって言ったんだけど……」

「魔力消費1.4倍……本体重量2.5倍……やれます!! この程度なら確実に!!」

「じゃ、このプラン採用。良かったね、マッハキャリバー」

《ありがとうございます》



私は、早速マッハキャリバーの改修のためのパーツを取りに部屋を出る。
待っててね。すぐに改修するからね!!




*     *     *




「ねぇ、スバル」

「はい、何ですか? マリーさん」

「何でフィルがマッハキャリバーを作るときに、最初からこのスペックで作らなかったか分かる……」

「えっ?」



言われてみればそうだ。
フィルは未来からきたんだから、この事を想定して作っていても不思議じゃなかったはずなのに?



「フィルね。こんな事言ってたの。最初からハイスペックで作ってあいつらに渡して、時期が来たら封印を解除してもいいかもしれない。でも、それでは本当の成長は望めない。あいつらが成長してデバイスと信頼関係が出来たとき、互いに成長していくことを考えられるような関係にしたいんだ。それこそが魔導師とデバイスの完成型だと思う。そして……自分たちが考えて導き出した答えは、俺が考えるものなんかよりずっとすばらしいものに違いないから……。そういってたの」

「フィルが……そんなことを……」

「実際、フィルの考えは正しかったみたいね。こうしてマッハキャリバーは、スバルと一緒に戦うために、自分で考えたんですもの」

「マリーさん……」

「スバル、マッハキャリバーの気持ちに応えてあげてね」

「はい!!」



そして、マリーさんも部屋を出て行った。



《もう一度私にチャンスをください!! 今度は必ず、あなたの全力を受け止めます》

《あなたが、どこまでも走れるように》

「……うん……今度は絶対、一緒に走ろう。マッハキャリバー」



フィル、私にマッハキャリバーを作ってくれて、本当にありがとう。
あたし、絶対フィルとマッハキャリバーの思いに応えるよ。




*      *      *





アースラ 通路


「訓練データの移行、大丈夫だった?」

《問題なく終了しました》

「うん」



拠点がアースラに移ったことで、訓練施設もアースラの訓練室へと場所を変えていた。
レイジングハートは破壊された六課のシステムからデータをサルベージし、バックアップと手持ちのデータから補填しながら、アースラへのシステム移行を完了させていた。



「あっ……なのはさん、レイジングハート」

「リイン。そっちは大丈夫なの」

「はいです。おかげさまで絶好調ですよ。もっとも私とヴィータちゃんは殆ど傷ついてなかったんですけどね……」

「そっか」

「シャーリーから、クロスミラージュ達のファイナルリミッター解除を頼まれたですよ?」

「うん……私がお願いしたの……」



手を差し出すと、リインはその上にちょこんと座った。
そしてリインを肩の上にもっていって、そこに座らせた。




*     *     *



「本当は、もう少し慎重にいきたかったんだけど、そうも言ってられない状況だからね……」

「でもみんな、きっとちゃんと使いこなせるですよ」

「だね……」

「なのはさんとレイジングハートの方は……」

「ん?」

「ノーマル状態のエクシードはともかく、ブラスターモードは、やっぱり危険ですから……」


ブラスターモードは、本当に危険なシステムです。
威力が出る分、それだけ術者に負担がかかる諸刃の剣――――。



「……使わないよ。ブラスターは、わたしとレイジングハートの、ホントに最後の切り札だからね」

《It's so》

「エクシードだけでも十分すぎる威力があるんだし、それで最後までしっかりキメてみせるよ」

《Yes》



そうは言うが、なのはさんとレイジングハートのコンビは、いざとなったら躊躇無く使う。


そして――――。


フィルも同じブラスターモードを持っている。


きっとフィルも、ヴィヴィオを助けるために、そしてクアットロを倒すためになら絶対に使う!!


この二人はそういう人達だから――――。






*     *     *




会議後、俺は自分の部屋で待機していたが、エリオ達の様子を見てきたフェイトさんがやってきて、今は一緒にいた。



「エリオ達どうです?」

「さっきまでエリオはシグナムと訓練してたよ。ルーテシアとキャロがそれを見て、こんな時まで訓練して怪我したらどうするのって怒ってた」

「あちゃ……何やってるんだよ。休めるときは休んどけっての」


これから、あのクアットロ達と死闘を繰り広げなければならないんだ。
フルパワ−にしておくのも大事な仕事だってのに――――。



「そうね……ふふっ……」

「だな……ははっ……」

「……」

「……どうしたの?」

「………フェイトさん」

「なに?」

「……勝てるのか……。俺たちは……」



フェイトさんの技は辛うじて使えるけど、魔力が失われた今、そんな無茶は出来ない。
そんな状態でどこまで戦えるのか……。




「……大丈夫だよ。例え私の魔力が無くなっても、フィルには私がいるから………」

「!!」



――――気づかれていた!?


ティアに説明するときも、この事はぼかしていってる。
だから、この事はプリムしか知らないはずなのに!!



「分かるよ……。いつものフィルと違っていたから……」

「フェイトさん………」

「だから……」



そう言ってフェイトさんは、自分の魔力の一部を分けようとしたが……。


魔力ははじかれて――――。


フェイトさんの体内へ戻っていった。



「どうして……どうして、魔力が入らないの!?」

「俺の元々のキャパは今の状態がMAXだから。フェイトさんの魔力はイレギュラーだったから、受け入れられないんだと思う」



元々俺とティアは、六課の中でも魔力キャパは少ない方だった。
フェイトさんの魔力が入っていたおかげでキャパは広がって、多少は魔力値は高くなっているけれど、それ以上にはならない。
だからフェイトさんが俺に魔力を渡してくれようとしても、これ以上は入らない。



「そんな……」

「大丈夫、未来ではこの状態で戦っていたんだから、心配することないって!!」

「大丈夫なわけ無いでしょう!! 未来では、その状態で戦ってティアナとフィルは命を落としてるのよ!!」

「まだ俺には……最後の手段があるから……」

「ブラスター……モード……」



最終手段として、なのはさんと同じブラスターシステムをプリムに組み込んでいる。
さらに、なのはさんのレイジングハートにはつけなかった最終兵器もある。



「出来れば、使わないようにするけど……」

「フィル、やめて!! ブラスターを使うのだけは、それでティアナは命を落としたんでしょう!!」


クアットロとの最後の戦い――――。
あの時のことは今でも鮮明に思えている。

魔力が少ないティアは、自分の命を変換してブレイカーを放ったんだ。



「フィル、今回の任務はフォワードと一緒に、地上の警護に回ってもらうから、だからこれ以上無茶はしないで!!」

「それだけは駄目だ!! 例えそうされても、ワープで俺はクアットロの所に行く!!」



悪いが、これだけは誰にも譲れない。
死んでいったみんなのためにも――――。



「……わかった。もう止めない。でも、私も一緒に行動するからね!! それが駄目なら、プリムを取り上げるからね!!」

「ありがとう……フェイトさん。大丈夫……。後は俺の戦い方次第で、どうとでもなるよ」



――――そうさ、あの時。


未来のフェイトさんが、命を託してくれたときに誓ったんだ。


魔力が無くなっても、最後まであきらめないで戦うって……。



「フィル……」



そう言ってフェイトさんは、俺にキスをしてきた。
しかも、深いキスを……。

息継ぎのため、唇を離すと……。



「フィル……キス……しよ……。この不安を消して……。例え離れても、心がつながっているって思えるように……いっぱい……いっぱい……しよ……」



フェイトさんは不安な表情でいっぱいだった。


そうだよな……。


俺だって不安でいっぱいなんだ。
フェイトさんはそれ以上に不安なんだ。



「いいよ……いっぱいしよ。お互いのぬくもりを……いっぱい感じたい………」

「うん……」



そして、再び俺たちはキスを幾度と繰り返す。


お互いの気持ちが一つと思えるように――――。







*     *     *




アースラ 医務室


出撃前、私は、ヴィータちゃんの検診をしていた。
先の襲撃事件でゼストとやりあった事で、外傷はなかったが、身体にかけられた負担が馬鹿になっていない事がわかったからだ。



「シャマル、まだか?」

「うん、もうちょっと……」

「仕事たまってんだよ。さっさと済ませて戻らねーと」

「あと少しだから、じっとしてて!!」

「傷の治りが遅くなってるのとか、蓄積ダメージが抜けづらくなってんのなんて、もう何年も前から分かってることじゃんかよー」

「……再生機能だけじゃないのよ。守護騎士システムそのものの異常も不安なの。私たち同士の相互リンクも弱くなってるし、緊急時のはやてちゃんからのシステム復旧とか、魔力供給も……だんだん出来なくなってきてる」



以前からあったけど、さらに低下してしまっている。
このままじゃ、何かあったら……。



「別に、そんなの日頃からしっかりやってりゃ何の支障もねぇ。もういいな……いくぞ……」

「ヴィータちゃん……」

「………あたしらの身体の異常さ、多分これ、守護騎士システムの破損とか異変とか、そういうんじゃねぇと思うんだ………。あたしたちが闇の書の一部だった頃から、心のどこかで望んでたことが叶い始めてんだ。……死ぬこともできずに、ただずっと生きてきたあたしたちが、最後の主の、はやての下で、限りある命を大切に生きられるようにって……」

「初代リインがあたしたちにくれた大切な贈り物……それの続きさ。いいじゃんか、ケガしたら中々治らねぇのも、やり直しがきかねぇのも。なんか普通の人間みたいでさ」

「……シグナムもザフィーラも同じこと言うのよね。最初で最後の私たちの命。大切に……だけど精一杯使って生きればいいって……」

「私も同じよ。危険は怖くないし、永遠になんて興味ない……」

「でもね。私たちの優しい主、はやてちゃんの事と同じくらい、私はヴィータちゃんやシグナム、ザフィーラたちの事が心配。みんなで一緒に、誰もいなくならずに、はやてちゃんとリインちゃんの事、ずっと支えていきたいから……」



モニターウィンドウを全部閉じた私は、ヴィータちゃんに歩み寄り、かがんで視線を合わせながら、その小さな身体をギュッと抱きしめる。



「なら、心配ねぇ。二代目祝福の風が、リインが力を貸してくれる。あたしとシグナムは絶対に墜ちねぇ。ザフィーラもすぐに目を覚ます。十年の間に、守らなきゃならねぇものがずいぶん増えちまってな……キッチリ全部守って、ちゃんと元気で帰ってくるさ。心配性で料理の下手な湖の騎士を泣かせたりしないようにな……」

「……ばかね」



お願い――――。
みんな無事に戻ってきてね。




*      *      *




クラナガンから戻ってきたスバルとギンガさんは、あたし達と合流していた。



「あっ、ティア、みんな」

「ティアナ、みんな」

「スバルさん、ギンガさん、お帰りなさい」

「怪我……大丈夫……」

「あと、マッハキャリバーの方は……」

「うん、あたしもマッハキャリバーも無事完治」



完治したことは、スバルの手に輝くマッハキャリバーが証明していた。
直後、艦内は警報音と警告灯の赤い光に包まれた。





*      *      *




「くそ!! 魔法が通りづらい!!」

「対フィールド弾を撃てる奴、固まって迎撃!! 地上指令隊!! 指令隊!! 応答しろ!!」

山岳丘陵地帯の深い森の中に建造された、アインヘリアル一号機。その巨大な魔導砲は、周辺地域もろとも、大量のガジェットによる猛攻を受けていた。

アインヘリアルを推進しない理由の一つは、これだ。アインヘリアル自体の攻撃力は高くても、あくまで固定砲台であるが故に、後方支援的な役割しか果たせず、そのものを攻められたら弱いのだ。いざ攻められれば、逃げると言う選択肢は無く、防御に徹して守り通さなければならないが、基本、どうしても篭城戦のような形になってしまうので、ガジェットのような数にものを言わせる相手に攻められれば、ご覧の有様である。
こんな時のための三機同時配備、だったはずなのだが……同時に攻撃を受けたのでは、何の役にも立たなかった。

警備部隊の隊長が通信した先、一号機よりも標高の低い、ガレ場付近に建造された三号機周辺では、警備部隊が、既に全滅していた。これでは通信に応答できるはずも無い。


戦闘機人が殆どいないとはいえ、ガジェットの大量投入で充分おつりが来るのだ。





*     *     * 




スカリエッティ・ラボ



ガジェット達がアインへリアルを破壊している様子を見ている二人の男女。
スカリエッティとウーノ。



「いよいよ、夢が叶うときですね」

「ああウーノ……聖王の器も見事な完成を見た」

「この聖王のゆりかごを発見し、触れることが出来て以来、この起動はあなたの夢でしたから……そのために聖王の器たる娘を捜し求め、準備も整えてきた」

「まだまだ、夢の続きはこれからなんだよ。古代ベルカの英知の結晶。ゆりかごの力を手にしてこれから始まるんだ……」

「誰にも邪魔されない。楽しい夢の始まりだ!!」



……と、その時。



「私たちの方に、侵入者?」



研究所の防衛システムが、異変を知らせてきた。




*     *     *




研究所内で、猟犬の透明なシルエットが数匹、防衛システムによって攻撃され、霧散していた。



「こんな、洞窟の奥に?」



透明な猟犬が突入した、周囲を森に囲まれた入口に、おかっぱの女性と白スーツの男性。
聖王教会シスター、シャッハ・ヌエラと、管理局査察官ヴェロッサ・アコース。



「僕の猟犬を発見して、その上、一発で潰した。並のセキュリティじゃない、ここがアジトで間違いないね」

「すごいですね、ロッサ。こんな場所、よく掴めました」

「シャッハ……いい加減、僕を子供扱いするのは止めて欲しいな。これでも一応、カリムやはやてと同じ、古代ベルカ式の、レアスキル継承者なんだよ」

「無限の猟犬、ウンエントリヒ・ヤークト。貴方の能力は存じ上げていますよ」

「……ま、今回の発見は、フェイト執務官や、ナカジマ三佐の部隊をはじめ、協力してくれた地上部隊の、地道な捜査があってこそのものだけどね……ん?」



茂みや森の中に隠して配置されていたガジェットが、二人の周囲を取り囲んだ。



「……奥からも出てくる」

「大人しく帰してくれる気はなさそうですね」

「あんまり戦闘は得意じゃないけど……まあこのくらいなら」

「お任せください」



私はヴィンデルシャフトを起動させ、戦闘態勢に入った。
私の役目はカリムとロッサを守ることだから……。





*      *      *





アースラ ブリッジ


「アインヘリアル一号機、二号機、ガジェット撤収が始まっています」


メインオペレーター席から、シャーリーの報告が上がった。



「前回よりも、動きが早い」

「早めに叩かんと、取り返しのつかんことになるけど……嫌な感じに拡散してる。隊長たちの投入はしづらいなあ」



ガジェットの動きを見ながら動的に作戦を練る私達。
その時、シャーリーの手元では、パネルのボタンが点滅し、緊急入電を示していた。



「アコース査察官から、直通連絡!!」

『はやて、こちらヴェロッサ。スカリエッティのアジトを発見した。シャッハが今、迎撃に来たガジェットを叩き潰してる。教会騎士団からも戦力を呼び寄せてるけど、そっちからも制圧戦力を送れるかい?』

「ああ……もちろんやけど」

『廃棄都市から別反応、エネルギー反応増大!!』



操舵室でアースラを操縦しながら管制補助をしている、ルキノから通信が入る。




*      *      *



『これは……巨大な竜!! 大変です!! まっすぐ地上本部に向かってます!!』

『映像が、今』



廊下を移動中だった俺とフェイトさん、なのはさん、スバル、ティア、キャロとルーテシアは、足を止めてモニターウィンドウを見ていた。

切り替わった画面に現れたのは、巨大な黒竜の姿だった。
その姿に驚いたのはキャロとルーテシアだった。



「あれは……まさか!!」

「フレイム……グロウ……」

「キャロ、ルーテシア、何だ、そのフレイムグロウというのは?」

「はい、私も言い伝えでしか知らないんですが、ロストロギアに封じられた邪悪な竜。それがフレイムグロウなんです」



フレイムグロウ
かつて、古代ベルカ時代その凶暴な力で、あたり一帯火の海に変えるほど力を持った竜。

だが、あれは伝説上の生物じゃなかったのか!?




「しかも……あれはこのミッドの山奥深くに封印されているはず……いったい誰が……まさか!!」

「クアットロのヤツしかいない……。戦闘機人がいなくても良いという言葉はこういう事だったんだ……」

「フィル……」





*     *     *




スカリエッティ・ラボ入口前



撃破したガジェットの残骸が、これでもかと言うほどに散乱していた。
にもかかわらず、さすが本拠地だけあって、増援が緩むような気配は無い。



「……まだまだ来るよ。ここにとどまるのはキツいかな」

「なんの、まだまだ」



二人とも、疲れた様子は全く無いが、これだけの膨大な量を捌くとなると、さすがに精神的にきついものがある。
そのとき、あたりが激しく揺れ始め、大地が唸るような地響きが鳴り始めた。



「さあ……いよいよ復活の時だ」

『私のスポンサー諸氏。そして、こんな世界を作り出した管理局の諸君。偽善の平和を謳う、聖王教会の諸君。見えるかい? これこそが君達が忌避しながら求めていた、絶対の力』



地震がいよいよ激しくなり、そこかしこに地割れが起きた。と思ったら、森の一部分を切り取ったかのように、地面がせり上がる。

付着した木や岩をバラバラと振り落として姿を現したのは、魔力で浮遊する、全長数千メートルにも及ぶ、超巨大機動要塞。
 
その様子は、世界中に配信されていた。



『旧暦の時代。一度は世界を席巻し……そして破壊した、古代ベルカの悪夢の英知』


「聖王の……ゆりかご」



シャッハを抱きかかえて上空に逃れていたロッサが、戦慄しながら呟いた。



『見えるかい? 待ち望んだ主を得て、古代の技術と英知の結晶は、今、その力を発揮する』




*      *      *


 

アースラのなのはの元にも、その様子は届いていた。
聖王のゆりかご、玉座の間。

その椅子に座っているのは……ヴィヴィオ。



「ママ……パパ……あっ……いたいよ……こわいよ……ママァァ……パパァァァ!!」

「ヴィヴィオ……」

「うっ……あああ………うわぁぁぁ……」

『さあ。ここから夢の始まりだ!! わははははははは!! うわはははははははははははははははっ!!』



ヴィヴィオの悲鳴になのはさんは身体を震わせて、レイジングハートを握りしめていた。



『どうかしら、フィル・グリード。高町なのは。フェイト・T・ハラオウン。自分の娘の悲鳴は〜』

「「「クアットロ!!」」」



スカリエッティの画面と別にクアットロがスクリーンに現れた。
こっちの回線を傍受しやがったのか!!



『最高の気分ですわ。ゆりかごも復活しましたし、それに伝説の竜も復活させられましたし〜』

「やっぱり貴様が原因か!!」

『苦労しましたわ。保管場所を見つけるのに、ずいぶん念入りに封印してあったんですもの。でも、やっと手に入れましたわ〜』



――――どこまで人の命を奪えば気が済むんだ!!


未来で、あれだけの人々を虐殺し、そして、この世界でもまたそれを繰り返そうってのか――――。




『そんなことはどうでも良いんですの〜 いかがかしら、中々の音楽でしょう。少女の悲鳴というのは〜」

「題名はそう……【悲劇】なんてどうかしら。娘が奪われ、その思いも届かず、こうやって悲鳴を上げているんですものね。最も、私にとっては快感なんですけど〜。あははははははっ!!』




もう我慢の限界だった。
下品な笑いをするクアットロの画面に、俺は――――。




「………言いたいことは、それだけか」

『あ〜ら、なに起こってるんですのぉ〜。そんなに怒っていたらお肌に悪いですわよぉ〜』



こんなやつのために――――。


こんな女のために、俺はすべてを失った――――。



そして、また俺から大切なものを奪い取ろうとしている。



『あははははっ!! その憎しみに彩られた表情、最高ですわ。フィル・グリード』

「……ゆりかごで待ってろ。必ず……殺す!!」



あの女だけは、必ず俺の手で始末する。
この俺の命に代えてもだ!!



『これるものならきてもらいましょうか。フィル・グリード。お待ちしてますわよ。あはははっ!!』

『我々はゆりかごで待つよ。だが、その貧弱な戦力でどこまで出来るか楽しみだよ。ふふふふっ………あはははははっ!!』



そう言い残し、スカリエッティとクアットロの画面は消えた。



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