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〜 Remember my heart 〜
第1話 再会


新暦75年4月




《マスター、何とかここまできましたね》

「そうだな。六課のことは俺にはあれ以上のことはできないしな。後はあの人の努力次第だよ」

《ですね。今度はマスターの番ですよ。今のマスターは経験値はあっても力は当時のままなんですからね》

「そうなんだよな。これは仕方がないよな……そういえば、戻る前こんな事言ってたしな」

『過去に戻ったら、魔力はBランクの状態になってるはずです。これは魔力は無くなったわけではなく、封印されているだけです。貴方が本当に力を欲した時、リミッターは解除されるはずです。それと経験や知識は受け継がれますので、今まで覚えたことは使えますよ』

(とはいうが、Bランクのままじゃ、今まで気軽に使えてた物も考えて使う必要があるな)

「どうしたの、フィル。ぼけ〜として、もうすぐ始まるよ」


考え事をしていた俺に、スバルが話しかけてきた。
そうか……。


もうすぐ始まるんだな、昇格試験。


Bランク昇格試験
俺たちが三人そろって受けた大切な思い出。この試験では、様々なことがあったが、またこうして受けることになるとな。
そして、ティアとスバル……またこうして会えるなんて夢にも思わなかった。
二人の顔を見てると、涙が出そうになっていた。


スバル……懐かしいな。俺にとっては半年以上前になるんだよな。
戦闘機人との戦いで命を落としたスバル。あのときスバル達がああしてくれなかったら、クアットロを倒すことは出来なかっただろう。


「そうよ、フィル。そんなんじゃ試験落ちるわよ。……ていうかスバル、あんたは人の心配をしてる場合じゃないでしょう。始まる前からそのオンボロローラーを酷使してたんじゃ途中でいかれるわよ」

「ティア、嫌なことを言わないで。ちゃんと油を差してきた」


ティア、相変わらずだな。
考えてみれば、訓練校の時から、俺たちは凸凹トリオとか言われてきたが、それでも、ティアはスバルをスバルはティアを、互いに認め合っている。


未来でもスバルの死に、一番悲しんだのはティアだった。
もうあんな想いをするのはたくさんだ。まずはこの試験からだ。


しばらくして試験官のリイン曹長の姿が通信で現れた。
そういえば前の時もリイン曹長だったけな。


「おはようございます。さて魔導師試験受験者の三名そろってますか」

「「「はい」」」

「確認しますね。スバル・ナカジマ二等陸士とティアナ・ランスター二等陸士、それにフィル・グリード二等陸士ですね」

「「「はい」」」

「所有している魔導師ランクは陸戦Cランク、本日受験するのは陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で間違いありませんね」

「はい」

「間違いありません」

「そうです」


俺たちは試験管であるリイン曹長に確認の意味で宣言した。


「はい、本日の試験官を務めますのは、私、リインフォースU(ツヴァイ)空曹長です。よろしくですよ〜」

「「「よろしくお願いします」」」


俺たちはリイン曹長に敬礼した後、試験の簡単な説明を受けた。
内容は前回と同じで、各所に設置されたポイントターゲットを破壊し、制限時間内にゴールすることだった。
その後、リイン曹長の通信も切れ、スタートのカウントダウンが始まった。


「「「レディ」」」

「「「ゴー!!」」」


俺たちはまず、最初のターゲットのあるビルを目指した。


「ティア、フィル」

「なに」

「何だ」

「中のターゲットはあたしがつぶしてくる。ティアとフィルは援護をお願い」

「……分かったわ、でも、手早くね」

「オッケー」

「……って、ちょっと待て!!」

「どうしたの、フィル。時間がないんだよ。さっさと片付けないと!!」

「そうよ。余裕がないんだからね」

「急がば回れって言うだろ。プリム、ビルの中をサーチし、最短経路を割り出してくれ」

《了解です。サーチ開始します》


プリムと使ってサーチしていると、ティアが疑問に思い、質問してきた。


「あれ?、確かあんたのデバイスってストレージじゃなかったっけ……」

「最近、プリムのAIに使うプログラムが完成してな。インテリジェントに改造し直したんだよ。おかげで情報処理が複数出来るようになって色々と便利になった」

「そういえばあんたのデバイスは自分で作ってたんだったわね」

「お前らの使ってるのだって、自分で作った奴じゃないか」

「フィル、あたしはそこまで器用じゃないよ。このローラーだって何とか機能しているって所だよ」

「……あんた、昔からそういった事、得意だったけど……。進む道、間違えてるんじゃない。ある意味デバイスマイスター並みよ。それって……」


俺たちが雑談をしてると、サーチの結果がでた。


《結果が出ました。最初のターゲットは情報通り10階の右よりに集中してます。ですから、最短で突入するには、10階の左寄りの窓から突入するのがベストです》


以前スバルは何も確認しないで、窓ガラスをぶち破り、中に入っていってしまったんだったな。
今思うとかなり無茶やってたんだな。俺たちって……。


「よし、それじゃスバルは内部に突入し、ターゲットを叩く。俺たちは別のビルに移りお前を援護する」

「オッケー」

「わかったわ」

「それじゃ、ゴー!!」


スバルがウイングロードで突入した後、俺たちは別のビルに移り、スバルの援護をすることになった。
内部でスバルが次々、リボルバーシュートでターゲットを破壊していった。
俺たちもそれぞれシュートバレットでターゲットを破壊していき、スバルを援護した。
情報を確認してからやったせいか、前回よりも早く破壊が終わり、スバルと俺たちは合流し、次の場所に向かった。


その様子をフェイト執務官と八神捜査官がへリの中で見ていた。



「うん、良いトリオだね。特にフィルは、いきなり飛び込もうとしたスバルを止めて内部の情報を得ていた。実戦では状況が全く分かってないことがあるから、ああやって情報を得てから行動した方が良い。その辺を分かってるみたい」

「せやね、けど、まだ難関は続くよ。特にこれが出てくると、受験者の半分以上が脱落する最終関門……大型オートスフィア」

「今の三人のスキルだと防御も回避も難しい。中距離狙撃型の狙撃スフィア」

「どうやって切り抜けるか、知恵と勇気の見せ所や」


次の場所に行くと攻撃がさらに増していた。スフィアも増えているし攻撃のスピードもアップしている。


「スバル、単独で動くな!! ここはオプティクハイドを使ってクロスシフトでスフィアを瞬殺。いいな」

「了解」

「いいわ、それでいきましょう」


スバルを一旦、後退させ、俺とティアはオプティクハイドで三人を不可視状態にした。幻術魔法は得意ではないが、これはティアに教えてもらって出来るようになったものだ。


それにティア一人だと時間が短いが、二人分の為、多少は時間が長くなるはずだ。


「………10……9……8……7…6…5……4…3……2…1…」

「0」


カウントダウンが終えると同時に、オプティクハイドが切れ俺たちはそれぞれ、魔法を展開した。


「クロスファイアー……」

「リボルバー……」

「ブラスト……」

「「「シュート!!」」」


俺たちの放った砲撃は全てのスフィアを撃破した。


「イエィ!! ティア、フィル、一発で決まったね」

「まあ、あんだけ時間があればね」

「普段はあまりマルチショットの命中率があまり高くないのに、やっぱりティアは本番に強いね〜」

「うっさいわよスバル。さっさと片付けて次に……。あっ!!」

「……まずい、二人とも防御を!!」


破壊し損ねてたスフィアが俺たちに攻撃をしてきた。

まずい、前の時の事で分かっていた事なのに、油断した。
何とかスフィアは破壊したが、ティアは足をねんざしてしまった。


「ティア!!」

「スバル、騒がないで。何でもないから……」

「嘘をつくな。……お前ねんざしたな」

「フィル、だから何でもないって……痛っ!!」


ティアは自力では立ち上がれない状態だった。
ったく、この意地っ張りが……。


「……ティア、ごめん。油断してた」

「……あたしの不注意よ。あんたに謝られるとかえってムカ付くわ……。走るのは無理そうね……。最終関門は抜けられない」

「ティア?」

「あたしが離れた位置からサポートするわ。そしたらあんた達二人ならゴールできる」

「ティア!!」

「何言ってんだ!!」

「っさい、次の受験の時はあたし一人で受けるってってんのよ」

「次って半年後だよ……」

「迷惑な足手まとい達がいなくなれば、あたしはその方が気楽なのよ。分かったらさっさと……。ほら早く!!」

「………ティア、あたし前に言ったよね。弱くて、情けなくて、誰かに助けてもらってばかりの自分が嫌だったから、管理局の陸士部隊に入った。………魔導師を目指して、魔法とシューティングアーツを習って人助けの仕事に就いた……」

「……知ってるわよ、聞きたくもないのに。そのことは何度も聞かされたんだから……」



スバルはいたたまれなくなり、ティアに自分の気持ちを伝えた。
そして俺も、今の自分の思いをティアに伝えた。



「………なあ、俺はずっとお前らと一緒にいたから、ティアがどんな夢を見ているのか……。魔導師ランクのランクと昇進にどれくらい一生懸命かよく分かっている………」

「フィル……」

「だから、こんな所で……。俺の目の前で、ティアの夢をつまずかせるのはゴメンだ!! 俺たちだけが行くなんて冗談じゃないぞ!!」

「じゃぁ、どうすんのよ!! 走れないバックスを抱えて、残りちょっとの時間で、どうやってゴールすんのよ!!」


確かのその通りだ。このままティアを一緒に連れていたとしても、到底時間内には間に合わない。
しかし、俺には考えがあった。以前はスバルが考えた物だがな。


「俺に考えがある。裏技になる可能性があるが、上手くいけば三人そろって合格できる」

「フィル……。あんた……」

「スバル……やれるな。これが俺たちに残された最後の手段になる」

「うん、あたしやるよ。三人そろって合格しよう!!」

「……ふう、あんたまでお節介焼きとはね。でも、ありがとう……。フィル」



残り、3分40秒……。



プランはこうだ。まずティアのフェイクシルエットでスフィアを攪乱させる。こうしてティアの方に目を向けさせ、その間に俺とスバルで大型オートスフィアを撃破する。

ただし、フェイクシルエットは多量の魔力を必要とするので短時間しか使えない。よって一発で決めなければならない。


「スバル、フィル、一撃で決めなさいよ。でないと三人そろって落第よ」

「うん!!」

「任せておけって!!」


ティアのフェイクシルエットは何とか時間を稼いでくれていたが、おそらくもうすぐこっちの動きも察知するだろう。俺たちは作戦の最終確認をしていた。本当はもっと情報を仕入れてから行う行動なのだが、そんなことはいってられない。幸い、今回は試験なのでスフィアの情報とかはあるので、その上で考えたのだ。


「いいか、着いたと同時に、お前は全力でスフィアに殴りつけろ。お前がバリアを破壊したら、お前と俺が同時に砲撃を撃つんだ……。それしかない」

「フィル……。フィルって冷静沈着って思ってたけど、結構感情型なんだね。あの時、ティアを見捨ててゴールしたって文句は言わなかったのに……」

「………ティアは執務官になるって夢があるんだ。だったら俺たちがいる時にランクは取った方が良い。」

「……やっぱり、フィルって……優しいよ。いつだって……今だって……」

「……そんなことはない。唯、俺が受かる最善の道を考えただけだ。そんなんじゃない」

「じゃぁ、そういうことにしておいてあげるね……。やるよフィル」

「……ったく、こっちはいつでも良いぜ!!」

「いっけぇ!! ウイングロード!!」


スバルの作り出したウイングロードは、巨大スフィアのいるフロアにたどり着き、俺はスバルにしがみつきローラーで全力疾走した。
壁を突き破り、スバルは大型スフィアに殴りつけた。スフィアが展開しているバリアはなかなか硬かったが、スバルはバリアを破壊した。


「………いくぜ、プリム。カートリッジロード!!」

《了解です、マスター。カートリッジロード》


俺はプリムにカートリッジをロードすると、砲撃魔法の準備に取りかかった。
同時にスバルも、リボルバーナックルにカートリッジをロードさせた。


「一撃必倒、ディバイン………」

「ブラスト……」

「バスター!!」

「ブレイザー!!」


俺たちの攻撃は何とかスフィアを破壊した。今回は壁を撃ち抜かないで済んだようだ。
さっきスバルには念を押したからな。意味無い力を使うんじゃないって。
実際に毎回建物を破壊していたら、二次災害の危険もあるからな。


「……はぁ、はぁ……や、やったよフィル」

「喜ぶのはまだ早い。ティア。残り時間は!!」

「あと1分少々よ。スバル、フィル」

「うん」

「ああ」


ティアはスバルにおぶさり、俺はリングバインドの応用で、二人三脚の要領でスバルの右側にいた。このままだと引きずられて足がボロボロになってしまうので、足を少し浮かした状態で、足のリングバインドをしてある。

三人分の体重でローラーは悲鳴を上げていたが、それでも全力でゴールを目指した。
俺たちの中で一番早い移動手段を持っているのはスバルだからだ。
それに、ティアは走ることが出来ないので、必然的にスバルの背中におぶさることになった。


「後、何秒」

「16秒。まだ間に合う!!」


ティアが最後のターゲットを破壊し、これでオールクリアとなった。
後はゴールにはいるだけなのだが……。


「魔力全開!!」

「ちょっとスバル、止まる時のこと考えてるんでしょうね」

「大丈夫だ!! それは俺に任せておけ。全力で突っ走れ!!」

「いっけぇぇぇぇぇ!!」


リイン曹長がヤバイって表情をしているが、今回は秘策がある。
未来で覚えた風の魔法と、なのはさんが以前、この試験で俺たちに使ったあの魔法をやる。
あとはどのくらいの成功率なのだが……。


「プリム、俺は、風の魔法でブレーキをかける。お前はゴールに飛び込む瞬間、念のために、前面にアクティブガードとホールディングネットを張ってくれ。……後、この作戦の成功率は!!」

《計算の結果、80%以上の確率でうまくいきます。っていうか、私とマスターがやるんです。大丈夫、絶対成功させます!!》

「それでこそ俺の相棒だ……。いくぞッ!!」

「うわぁぁぁぁ」

「きゃぁぁぁぁ」

「いくぜ!! ウインド・ブレス!!」

《Active Guard with Holding Net》



俺はウインド・ブレスでブレーキをかけ、前回とは違い、壁のだいぶ前で止まることが出来た。
しかし、ウインド・ブレスの威力が強すぎて俺たちは後にこけるはめになった。
アクティブガードとホールディングネットは保険ですんだが、これじゃなぁ……。


「っいたたたたっっ!!……すまん、スバル、ティア……」

「いったぁぁぁぁ、フィル〜こういう事は先に言っておいてよ。おもいっきりこけちゃったじゃない」

「スバル、重い!! 早くどきなさい!! ったく……それと……」


俺はリングバインドを解除し、体勢を立て直した。っていうかティアの視線が、もの凄く怖いんだけど……


「………フィルッッ!! あんたねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「仕方ないだろ!! あれしか手段がなかったんだ!!」

「あんたって、切れ者かと思っても、どっか抜けてるのよね………」

「……言わないでくれ……本人が一番自覚している………」


未来で少しは経験を積んで、何とかなるって思っていたけど、やっぱり俺ってどっか抜けてるんだな。
俺たちが談笑してるとリイン曹長がやってきて注意し始めた。


「三人ともあんな危険なことをして減点ですよ。全く頑張るのも良いですが、怪我をしたら元も功もないですよ!!。そんなんじゃ魔導師として駄目駄目です〜!!」


二人はリイン曹長を見て、驚いている様子だった。
そういえば俺も初めてあった時は今の二人みたいに驚いてたな。


「まあまあ、ちょっとびっくりしたけど無事でよかった……。とりあえずは試験終了ね。お疲れ様」


試験の様子を見ていたなのはさんが、バリアジャケット姿で空から降りてきた。
以前の試験ではなのはさんに助けてもらったんだよな。


なのはさん……。


本当になのはさんなんだ……。


表情には出さなかったが、涙が出そうにはなっていた。


「リインもお疲れ様。ちゃんと試験官出来ていたよ」

「わ〜い、ありがとうございます。なのはさん」


バリアジャケットを解いて俺たちの前になのはさんがやってきた。


「……まぁ、細かいことは後回しにして、ランスター二等陸士」

「………あっ、はい」

「怪我は足だね。治療するからブーツ脱いで」

「あっ、治療なら私がやるですよ〜」


リイン曹長が治療魔法をかけると、ティアの足の腫れがひいてきた。


「これでだいじょうぶですよ〜」

「す、すみません……」


「……なのは……さん……」

「うん」

「あっ、いえ、あの、高町教導官、一等空尉!!」


スバルが直立状態でいると、なのはさんが……。


「なのはさんで良いよ、みんなそう呼んでるから……四年ぶりだね、背伸びたねスバル」

「あの……その……」

「またあえて嬉しいよ」


なのはさんが、スバルの頭にそっと自分の手を置いて微笑んだ。
それが切欠となりスバルは泣き出してしまった。


―――――そうだった。


スバルは四年前になのはさんに助けられたのが切欠で、魔導師を目指したんだった。


―――――よかったな。


ちゃんと覚えてくれていたよ、なのはさんは。

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