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〜 Remember my heart 〜
第16話 その日、機動六課 前編


新暦75年9月11日



機動六課は公開陳述会の会場の護衛のため、隊長陣、副隊長陣とフォワード陣が当たることになった。
一気に出発するわけにはいかないので、分割して出発することになる。



「というわけで、明日はいよいよ公開意見陳述会や。明日14時からの開会に備えて現場の警備はもう始まっている。なのは隊長とヴィータ副隊長、リイン曹長とフォワード7名はこれから出発。ナイトシフトで警備開始」

「みんな、ちゃんと仮眠取った?」

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

「あたしとフェイト隊長、シグナム副隊長は明日の早朝中央入りする。それまでの間よろしくな」

「「「「「「「はい!!」」」」」」」





*     *     *






機動六課、ヘリポート


「あれ、マリーさんも?」

「私は別件。ちょっと中央方面に用事があってね」

「そうなんですか……」



フォワード全員とリイン曹長達がヘリに乗り込み、残るは俺となのはさんだけになったとき……。



「あれ……ヴィヴィオ、どうしたの?」

「ヴィヴィオ、ここは危ないぞ」

「ごめんなさいね。なのは隊長、フィル君。どうしてもママとパパのお見送りをするんだって……」

「もぅ……駄目だよ。アイナさんに我が侭言っちゃ……」

「……ごめんなさい」

「なのはもフィルも、夜勤でお出かけは初めてだから」

「あっ……。そっか……」



そう――――。

今日はあの忌まわしき日――――。

未来では、このときにヴィヴィオがさらわれてしまってる。
本当なら、一緒に連れて行ったほうがいいのかもしれないけど、下手に動くともっと悪い方向になるかもしれない。
だから、六課隊舎に防衛策をとることにしたけど―――――。




「なのはママもフィルパパも、明日にはちゃんと帰ってくるから」

「絶対……」

「絶対に絶対。良い子で待ってたら、ヴィヴィオの好きなキャラメルミルク作ってあげるから」

「パパも……」

「ああ……もちろん。だったら俺は、なのはママのキャラメルミルクに合うケーキを作ってあげるから、一緒に食べような」


ここはシャマル先生とザフィーラさんを信じて、ヴィヴィオのことをお願いしよう。
あの二人だって、一騎当千の騎士だ。



「ママとパパと約束ね」

「うん……」



俺となのはさんは、それぞれヴィヴィオと指切りの約束をし、みんなが待つヘリに乗り込む。




*     *     *





ヘリ内


「それにしても、本当に懐いてしまってますね」

「まったく」

「そうだね……結構厳しく接しているつもりなんだけどな……」

「分かるんですよ。なのはさんが優しいって」


キャロの言うとおりだ。
子供は純粋な分素直だ。嫌いな人だったら近づきもしないから――――。


「うん……私もそう思う。なのはさんだけでなく、フィルさんもだけど……」

「ちょっと待てルーテシア!! 俺はなのはさんみたいにずっと一緒にいる訳じゃないぞ……」

「時間の問題じゃない……。フィルさんの優しさには、私とアギトも救われたから……」

「確かにな。あんたのおかげで、ルールーも笑顔を取り戻したしな……」

「ルーテシア……アギト……」


俺がしたことなんて、ほんの一押しでしかない。
笑顔を取り戻したのは、ルーテシア自身ががんばったから――――。



「あっ、そうだ!! いっそのこと本当になのはさんの子供にしちゃうとか」

「受け入れてくれる家庭探しはまだまだ続けるよ。良い受け入れ先が見つかって、ヴィヴィオがそこに行くことに納得してくれれば……」

「納得しない気が……」

「うん……」

「無理……」

「だな……」

「「うんうん」」



確かに無理だと思う。
ヴィヴィオ、なのはさんとフェイトさんに完全に懐いてしまってるからな。


「そりゃ、ずっと一緒にいられたら嬉しいけど、本当に良い行き先が見つかったら、ちゃんと説得するよ。良い子だもん……。ちゃんと幸せになって欲しいから……」

「なのはさん……」

「でも、そんな家庭が見つかるまでは、わたそが責任を持ってまもっていくよ。それは絶対!!」

「ですね」

「「「はい!!」」」

「だな」




*     *     *



「はい、これでよしと」



なのはが不在で寝る準備のため、代わりに私が、ヴィヴィオの髪を結っていたリボンを外してあげた。
さて自分も着替えようか、と思ったところで、宙にウィンドウが開く。



「……あれ? 母さんからだ」

『はぁーい、元気だったぁ?』

「こんばんは、母さん……」

『ヴィヴィオも、こんばんは』

「こんばんは」

「何か、ありました?」

『うん、明日の陳述会なんだけどね。私も顔だそうかどうしようかな〜って……』

「ああ、大丈夫だと思いますよ。クロノも別の任務中ですし、本局の方も、あまりいらっしゃらないとか」


今回の陳述会は、地上本部の人間が多い。
だから、本局で参加するのは、六課とごく僅かの人間だけ――――。


『あ、そう? しばらくぶりに娘の顔も見たいし、ヴィヴィオとも、会いたいんだけど……』

「あの、母さん? 私は警備任務ですし、ヴィヴィオは寮でお留守番ですから」

『あ〜そっか、そうよねぇ。でも随分会ってないから寂しくて………。それに、娘の彼氏にも会いたいし』

「ちょ、ちょっと母さん!?」



いきなり何を言い出すの。
彼氏って事はフィルだよね。まだ母さんには言ってないのに……。



『以前、あなたがエリオとキャロと親子としての接し方が分からないって、私に相談してきたじゃない』

「うん……」


そのことは、今でもフィルに感謝している。
フィルやみんなのおかげで、エリオ達とも一歩前に進めたんだから――――。


『実は……ユーノ君とアルフを通じて、彼から事前に言われてたの』

「えっ……?」

『近い将来フェイトがこの事で相談しにくると思うからって。でも、この問題に関しては自分が介入してはいけない。それに……』

「それに?」

『このことはあの三人がちゃんと向き合わなきゃいけない、避けられないことですから……とも言ってたわ……』

「フィル……」

『本当に良い子よ。私も彼にあなたたちの状況を、聞くまで分からなかったんですものね。これじゃ母親失格よ』

「違うよ!! 私がもっと早く相談すればよかったんだよ。私は抱え込みすぎるって、フィルにも言われてたのに……」



あのときフィルはエリオとキャロとの問題は、自分達で解決してくれって言ってたのはそう言うことだったんだね。

それでもフィルは、一緒に食事をしてこいって3人分のディナー券を渡してくれて、時間を作ってくれた。

後から聞いたけど、あの日ガジェットが出撃してたんだけど、フィルが私たちには通信をシャットアウトしてしまって、ガジェットをフィルとなのはが全部叩いたって聞いたときは、本当にびっくりした。


なのはもフィルからの話を聞いて、私たちに通信を入れようとしないで一緒に破壊してたし――――。


ヴィータから話を聞いたら……。


『悪魔が二人になりやがった……』


シグナムも……。


『あのときの二人とは、私も戦いたくはないな……』


いったいどんな地獄絵巻だったの!?



『でも、本当にあのときはお世話になったから、いつかちゃんと会ってお礼がしたいのよ』

「そうだね……落ち着いたら、母さんにもちゃんと紹介するよ」

『フェイト、これから大変なことになると思うけど頑張りなさい。私も出来うることは協力するから……』

「うん……ありがとう……」

『あっ、そうそう〜。次にあったときに子供出来ちゃいました、なんてのは勘弁してね〜』

「ちょ、ちょっと、母さん!?」

『じゃぁね〜♪』



そう言って母さんからの通信が切れた。
まったく……。最後の一言は余計だよ。




*     *     *





地上本部


公開意見陳述会が始まるまで12時間を切り、警備の方もさらに厳戒態勢になった。
機動六課のメンバーもそれぞれ配置についていた。



「ふぃ……」



ヘリパイロットである俺は基本的に朝までやることはない。
朝一番に六課に残っているメンバーを迎えに行くことが仕事だ。

さて、どうやって時間をつぶそうかと思っていたら、ヘリの扉をたたく音がした。



「おっ……フィル、ティアナ、どうした?」

「警備部隊の方から、お茶の差し入れをいただきましたんで、お届けに……」

「いいね……。ありがとうよ」



フィルとティアナ、そして俺はヘリの外で一息を入れていた。



「失礼かと思ったんですけど、ヴァイス陸曹のこと少し調べちゃったんです。数年前までエース級の魔導師だったって」

「なんだそりゃ……。エースなもんかい。魔力値なんざお前の半分以下なんだぞ」

「それでも、アウトレンジショットの達人で、優秀な狙撃手だったと……」

「昔はどうあれ、今の俺は六課のヘリパイロットだぞ。お前が聞いて参考になる話はないぞ……」

「………」



ティアナはそれでも、俺の方を、じっと真剣なまなざしで見ている。



「だいたいお前は余計なことを考えている場合か!! ボケッとしているとまたミスショットで泣くぞ!!」

「……すみませんでした」

「分かればよし、行け!!」

「はい……」



ティアナはその場を立ち去り、みんなのところに行った。



「じゃ……。俺も行きますね……」

「フィル」

「……何ですか?」

「ありがとうな……。余計な口挟まないでくれて……」



こいつは俺の過去を全て知っているが、それでも余計なことは言わないでくれた。
一見冷たいように感じるが、こういうときはそっとしてくれる方がありがたい。





*     *     *






「さて、じゃあそろそろわたしは中に入るよ」



東の空は白み、もうすぐ日の光が上ろうとしていた。
ナイトシフトから通常シフトに切り替わり、警戒態勢は更に強化されることになる。



「でね、内部警備のとき、デバイスは持ち込めないそうだから……。スバル、ギンガ、レイジングハートのこと、お願いしていい?」

「あ……は、はい」



スバルが両手で、レイジングハートを受け取る。
本当なら、持ち込みしたかったんだけど、フィルやレジアス中将も、地上本部全部を説得するのは無理で、結局デバイスを持ち込むことはできなかった。


「前線のみんなで、フェイト隊長たちからも預かっておいてね……」

「はい!!」




*     *     *




朝になり、はやて部隊長、シグナム副隊長、そしてフェイトさんが合流した。
同様に聖王教会からも、騎士カリムとシスターシャッハが到着していた。

レジアス中将のように、すでに会場入りしている人も多く、現場は緊張感に包まれていた。



『公開意見陳述会の開始まで、あと三時間を切りました。本局や各世界の代表による、ミッドチルダ地上管理局の運営に関する意見交換が目的のこの会、波乱含みの議論となる事も珍しくなく、地上本部からの陳述内容について、注目が集まっています。今回は特に、兼ねてから議論の絶えない、地上防衛用の迎撃兵器、アインヘリアルの運用についての問題が話し合われると思われます。陳述会の開始まで、ライブの映像と共に、実況を続けて参ります……』




*     *     * 




外回り ヴィータ、ライトニングF、ルーテシア、アギト



「始まりましたね」

「ああ……」

「ひとまず、何も起こらなそうな気配ですが……」

「油断すんなよ。しっかり警備してろ」

「はい」

「ルールー……どう思う? 旦那のこと……」

「多分……。来ると思う……」

「そうだよな……」



旦那はずっと、レジアスのおっさんに会うことを考えていた。
旦那の体調も考えると、もう時間は残されてない!!





*     *     *




「それにしても、どうなってやがるんだ…・」



どうも気になり、あたしは建物内の警備にあたっているなのはに念話を飛ばした。



(どうしたのヴィータちゃん?)

(いまいち分からねぇ。未来の通りに事が起こるとして、今回は内部のクーデターって線は薄いんだろ?)

(うん、間違いなくスカリエッティ一味が絡んでいるはずだよ)

(それにしても今回はフィルが、各方面に手を回しているから、そう簡単にはやられはしないだろうけど……)

(何か胸騒ぎがしやがるんだ。どうにもさっきから嫌な予感しかしやがらねえ!!)



あれだけ、六課のみんなやフィルが対策を練ってあるってのに、胸騒ぎが収まらねぇ!!



(不安になるのは分かるけど、あんまり考えてもしょうがないよ。信頼できる上司が命令をくれる、わたし達はその通りに動こう)

(……そうだな)



ここまできたら、もう行動するしかないんだ。




*     *     *






公開意見陳述会開始から四時間と少し。
太陽は大きく傾き、空は一面、夕暮れに染まっていた。
厳戒態勢の中、特に大きなトラブルもなく、事態は推移していた。




「……中の方も、そろそろ終わりね」

「最後まで気を抜かずに、しっかりやろう!!」

「「はい!!」」

「あれ、ギンガはどこに?」

「北エントランスに報告に行ってくれてますよ」





*     *     *




時空管理局ミッドチルダ 地上本部から十数キロほど離れた上空



「連中の尻馬に乗るのは、どうも気が進まないが……それでも、貴重な機会ではある。今日ここで全てが片付くなら、それに越した事はない」

(レジアス……)



もうすぐだ。答えが分かる……。





*      *      *




同時刻、スカリエッティラボ


「ナンバーズ、ナンバー3トーレから、ナンバー12ディードまで、全機配置完了」

『ゼスト殿も、所定の位置に付かれた』

『攻撃準備も全て万全、あとはゴーサインを待つだけです〜』


前線指揮のトーレとクアットロから、報告が上がってくる。
これで出撃準備は、全て完了した。


「ふっふふふふ、くくくく……あはははっ!!」

「楽しそうですね……」

「ああ……楽しいさ。この手で歴史の変える瞬間を、研究者として……技術者として、心が沸き立つじゃないか。なぁ、ウーノ」

「我々のスポンサー氏にとくと見せてやろう。我らの想いと、研究と開発の成果を。さあ……始めよう!!」

「はい」



私の号令と同時にウーノがパネルを操作しはじめ、各地に散らばっている私の娘達もそれぞれミッションに入った。

さぁ、始まりだよ。地獄へのカウントダウンがね……。





*     *     *





中央管制司令室



「エネルギー反応……?」

「おい、嘘だろ!?」

「通信管制システムに異常? クラッキング!?」

「侵入されてます!!」



クラッキングされた地上本部は次々とシステムダウンが起こっている。
モニターも次々やられ、管制システムは次第に操作不能になっていった。



「こっちの通信機だけじゃないのか!! 通信システムそのものがおかしい!!」

「緊急防壁を展開、クビラサーチシステム立ち上げ急げ!! ……まさか本当に、本部を狙ってくるとは……」




*     *     *



「ふふっ……クアットロさんのIS、シルバーカーテン。電子が織りなす嘘と幻。銀幕芝居をおたのしみあれ!!」



フィル・グリード。
あなたは色々手を打っていたみたいだけど、そんなもの何の役に立たないですわよ。
私を甘く見ないことですわ。




*     *     *



クラッキングのせいで司令部は大混乱と化していた。
そんな中、司令室の天井から、二本のハンドグレネードを持った、たおやかな女の手が生えてきたが……。

誰も気付く事など出来はずもなく……。


右手を開放すると、グレネードは重力に引かれて落下し、空中で弾けた。
小さな爆風に乗って室内に撒き散らされる麻痺性ガス。瞬く間にガスに巻かれた管制局員達は、なす術も無く、全員が等しくその場に倒れ伏した。





*     *     * 




地下動力炉


そこでは、灰色の地味なコートを纏った、長い銀髪の少女がひとり、人知れずたたずんでいた。
身長は130センチほど、それに見合った幼い顔には、不釣合いな黒い眼帯がかけられている。

ISディープダイバーによる手引きを受け、侵入し潜伏していたナンバーズ5番、チンクだった。

彼女はどこからともなく、複数のスローイングナイフ・スティンガーを取り出した。彼女が両腕を振るうと、スティンガーは勢いよく空を切り裂き、そして回りの機械や配管に突き刺さる。



「IS発動、ランブルデトネイター」



かざした左手の正面に、黄色い環状テンプレートが発生し、同時にナイフの柄にも同様の環状のテンプレートが発生した。
そして、右手の指を鳴らすと……設備に刺さったナイフが爆発した。




*     *     *




「防壁出力減少。ディエチちゃん、よろしく〜」

「IS、ヘヴィバレル……。バレットイメージ、エアゾルシェル」



脇に担いだイメースカノンの砲頭に、オレンジ色のエネルギーが収束し、弾頭が形成され、目標である時空管理局ミッドチルダ地上本部、中央タワーを完全にとらえていた。



「発射……」



凄まじいエネルギーの砲撃が、地上本部中央タワーに向かって飛翔し、僅か数秒でそれは着弾しタワーの壁を突き破った。

壁を貫通した事で弾殻から解放されたエネルギーは、空気と触れる事で反応を起こし、麻痺性のガスに変質され、着弾点近辺にいた局員は、ガスにやられて次々と倒れていった。






*     *     *





陳述会が行われている大会議室にも砲撃の余波は届いていた。
着弾の衝撃で部屋全体が揺れ、何事かとざわめく参加者たち。
そんな中、儂の下には、部下が報告にやってきていた。



「何事だ……」

「多数の敵が攻めてきました!!」

「どんな連中だ?」

「度々出現の報告の上がっていました、ガジェットドローンです。数は無数……数え切れません」

「分かった。特殊部隊とその装備の方は?」

「万全です。いつでも出撃可能です」


上等だ。
地上本部の力、甘く見るでないぞ!!


「分かった。オーリス。儂も部隊と一緒に行く。ここは任せるぞ」

「……あまり無理はなさらないでくださいね。もう年なんですから……」

「うるさい!! まだ儂は現役だ!!」



まったく、儂はまだまだやれるわ!!



「会の中止はせんぞ。地上本部の防衛は鉄壁だ。進入など絶対させぬわ!!」





*     *     *



「別に〜。中まで侵入する必要はな〜いもん。囲んで無力化しちゃ〜えば」



ガジェットなんて沢山あるんですし、10や20潰されたってどうってことありませんもの。
チンクちゃんがメインの魔導炉を壊してくれたから、残ったサブの魔導炉だけじゃ防ぎようありませんわ。



*     *     *



大会議室


「閉じこめられたか!!」

「AMF濃度が高い。魔力が結合できなくなっています」

「通信も通らへん……やられた!!」



完全にしてやられた。
フィルがこうなることは分かっていたから、事前にしていてくれていたのに……。

相手の方が、一枚上手というわけやな……。




*     *     *



「セッテ。お前は初戦闘だが……」

「心配御無用、伊達に遅く生まれていません……IS発動、スローターアームズ」

「ライドインパルス」

「「アクション!!」」


二人の戦闘機人は航空魔導師隊に接敵し、反撃など微塵も許さぬまま、次々と撃墜していく。
航空魔導師隊の戦力ではどうしようもなかった。




*     *     *




持ち場の周りを片付けた俺達は、中央タワーに向かっていた。



「ガスは、致死性ではなく麻痺性……いま防御データを送る!!」



俺はプリムでガスの分析をし、副隊長達とフォワード全員のバリアジャケットに防御データを転送した。



「通信妨害が酷い。ロングアーチ!!」

『外からの攻撃は、ひとまず止まってますが……中の状況は不明です!!』



くそっ!! 中の状況をつかむことが出来ない!!
グリフィスさん、六課の防衛と同時で大変だろうけど、何とかがんばってくれ!!




*     *     *




「副隊長、あたしたちが中に入ります。なのはさんたちを、助けに行かないと!!」

「待て!! スバルにティア!! それだったらこいつに乗っていけ!! サンダー!!」



俺はプリムのカーソルを押し、ロードサンダーをここに来させた。
サンダーにはAIがあるので、オートコントロールは可能だった。



「これって……ロードサンダー!? あんた持ってきていたの!!」

「こういう事を想定してな……サンダー、本当の能力を解放するぞ!!」



ついにロードサンダーの本当の力を出すときがきた。
今まで温存してきたけど、今がそのときだ!!



《待ってましたよ!! このときを!!》

「ロングアーチ聞こえるか!! ロングアーチ!!」




*     *     *




中の様子が分からない状態で手をこまねいていたとき、フィルからのスクランブルが入った。



『こちらロングアーチ!! フィル、どうしたの!!』

「シャーリーさん。時間がありませんので、簡単に言います!! サンダーのオプションを転送してください!!」

『転送って……もしかして、マリーさんが話していたシステム!?』



システム自体の説明は受けていたけど、いったいどうすればいいの!?


「今からこっちがプロテクトを解除します。そしたら、そちらに解除レバーが出ますので、それを引いてください!!」

『分かったわ!!』




*     *     *




「よし……やるぜ。ロードサンダー、ファイナルシステム。プロテクト解除。システムコード……スーパーサンダー!!」



俺はサンダーのカーソルを打ち、プロテクトを解除する。
それと同時に、ロングアーチから解除用のレバーが出たことを確認した。



「シャーリーさん、それを思いっきり引いてください!!」

『了解、ファイナルプロテクト、リリース!!』



ロングアーチからプロテクトを解除されると、サンダーのコンソールに次の文字が現れた。



『FINAL PROGRUM SUPER THANDER』


よし、プロテクトは解除された。
後は――――。



「よし、ティア!! クロスミラージュをセットしてくれ!!」

「えっ? どこにセットするのよ!!」

「差し込むスロットがある。一旦、デバイスをカード型にするんだ」

「わ、分かったわ」





*      *      *




あたしはフィルに言われるままクロスミラージュを差し込んだ。
次の瞬間、サンダーが白い光に包まれ光が収まったときには、全く違う姿をしていた。


普段の青い車体とは違い、白基調のペイント――――。
後方には対空レーザー砲。

完全に戦闘用マシンじゃないの!!



「な、何これ!! 姿が全然違う!!」

「これが、俺とティアが機動力を増すために開発した戦闘用マシン。名付けてスーパーサンダーだ!!」

「「「「「「「「スーパーサンダー!?」」」」」」」」

「ティア、時間がないので、サンダーのスペックは移動しながら聞いてくれ。ちなみにクロスミラージュはもう出しても大丈夫だぞ」



フィルに言われ、あたしはクロスミラージュをスロットから出した。
よかった。デバイスなしで戦うのかと思ったわ。



《相棒、こちらに向かってくる魔導師がいます。ランク推定は……オーバーSです!!》

「「!!」」

「……まさか」

「間違いないな……」

「旦那……」




*      *      *




ルーテシア達も感じたんだろう。
これは間違いなくゼストさんだ。まっすぐこっちに向かってきている。



「リイン!!」

「はいです!!」

「そっちは、あたしとリインが上がる。地上はこいつらがやる!!……こいつらのことは、頼んだ」

「待ってくれ、あたしも連れてってくれ!! 旦那のこと、どうしても止めなきゃいけないんだ!!」

「ヴィータ副隊長、俺からもお願いします。おそらく、こっちに向かってきているのは、ゼストさんです。もしかしたらアギトなら止めることが出来るかもしれない。お願いします!!」


万が一のために、俺がレジアスの親父さんから預かったメッセージをアギトに渡す。
これが、ゼストさんが求める答えになるかもしれないから――――。



「分かった。アギト、一緒に行くぞ!!」

「すまねえ。フィルの兄貴。ルールーのことお願いするぜ!!」

「任せなって!! 悪いが先に行くぞ!!」



俺とティアは副隊長達から、隊長達のデバイスを受け取り、中央タワーに向かった。
一刻を争う以上、サンダーで走った方が早い!!



「リイン、ユニゾン行くぞ!!」

「はいです!!」

「「ユニゾン・イン!!」」



二人が融合すると、リミッターはかかっているが、相乗効果によって魔力が跳ね上がり、リイン曹長の影響で、深紅の騎士甲冑が白く変色した。
ヴィータ副隊長とリイン曹長、そしてアギトは接近する魔導師……。ゼストさんを止めるために飛翔した。




*     *     *




「会議室や非常口への道は、完全に隔壁ロックされてるね。中との連絡が付かない」

「エレベーターも動かないし……外への通信も繋がらない」

「とにかく、ここでジッとしているわけにはいかない。ちょっと荒業になるけど、フェイトちゃん、つきあってくれる?」

「当然」



エレベーターの扉をこじ開けようとしている局員たち。
それを手伝うため、近付こうとしたとき、誰かに後ろから声をかけられた。



「なんだお前たち、まだこんなところにいたのか?」

「「えっ?」」



そこに立っていたのはシグナムだった。
どうなっているの? 会議室の隔壁もしまっているはずなのに?



「シグナム、いったいどうやってここに!?」

「ああ、レジアス中将とその特殊部隊がこじ開けた」

「レジアス中将が?」

「ああ、たいしたもんだ。あの年とは思えないパワーだった」



シグナムが感心していると、レジアス中将が率いる特殊部隊がこっちにやってきた。
メンバーを見ると、皆、屈強な男性ばかりだった。



「ん? 何だ。お前達ここから行くつもりか?」

「「は、はい……」」

「そっか……。ここは儂がこじ開ける。お前達は下がってろ」



そう言ってレジアス中将は、エレベーターで作業していた作業員を下げ、エレベータの扉に手をかけ……。



「はぁぁぁぁ……うぉぁぁぁぁぁああああっっ!!」

「無茶です!! この扉をこじ開けるなんて!!」

「そうです!! わたし達も手伝います!!」

「下がっていろと言ったはずだッッ!! ここは儂の仕事だ。お前達はやることがあるだろ!!」

「「レジアス中将……」」



レジアス中将は、ここまで来る間に、かなりパワーを使ってしまっている。
いかに身体を鍛えているとはいえ、やはり年には勝てない。

いまの彼を支えているのは、プライドとフィルやティアナの事を思う親心。


ただそれだけ――――。


でも、それが何よりも大切な思い――――。



「儂を……舐めるなぁぁぁぁぁ!!」



掛け声と同時に、何かが弾けたような乾いた音と共にロックが壊れ、エレベーターシャフトが姿を覗かせた。
 


「はぁ……はぁ……はぁ……これで良いだろ……」

「「う、嘘……」」

「何をボケッとしておる。さっさといかんか!! お前達の部下は、外で必死に戦っているんだぞ!!」

「「は、はい!! ありがとうございます!!」」



中将の一喝に、慌てて敬礼すると、私達はエレベーターシャフトに飛び込んだ。
中将は、必死で私達に道を作ってくれた。


その思い、決して無駄にするわけに行かない!!



「こんなの陸士訓練校以来だけど、いろんな事やっておくもんだね」

「だね!! 緊急時のルートは指示してある。目標合流地点は地下通路、ロータリーホール!!」

「うん」




*     *     *




『こちら管理局。あなたの飛行許可と、個人識別票が確認できません!! 直ちに停止してください!!』

「ん? この声は……」

『それ以上進めば、迎撃に入ります!!』



警告を無視していると、眼下の雲海に、12の赤い光が浮かび上がり、こちらに向かって飛んできた。
空中で停止し、軸をずらして避けると、魔力を帯びた赤い光弾は上空に向かって通り抜けていった。



「くっ……」



こちらも迎撃のため魔力弾を放ったが……。



「実体弾か!! だがこの程度のもの!!」

「ギガントハンマー!!」

「何だと!!」



鉄球の防御しながらじゃこいつを防げないだろ!!
グラーフアイゼンが直撃し、圧縮された魔力が炸裂するが……。



(はずしたです!! 相殺と防御で防がれました!!)

「ダメージは通った、続けてブッ潰す!!」



多少の手応えはあったものの、決定打というには程遠かった。
白煙が晴れると、男は静かに佇んでいた。依然として健在だ。



(ヴィータちゃん……)

「ああ……とんでもねえな」

「二人とも気をつけろ。ゼストの旦那は身体がボロボロでも、実力は半端ねえぞ……」

「……アギトか」

「旦那……」


あんなに体がボロボロのはずなのに、今の旦那を動かしてるのは、レジアスのおっさんに会いたいという思いだけ――――。



「アギト、今は下がってろ……。管理局機動六課、スターズ分隊副隊長、ヴィータだ!!」

「……ゼスト」




*     *     *




地上本部中央タワーに突入し、俺たちは合流地点の地下通路ロータリーホールを目指して移動していた。
先行していた俺とティアだったが、サンダーが接近する異変を察知する。




《相棒!!》

「サンダー、プロテクションだ!!」

《Protection》



脇からのエネルギー弾は対応できたが、間髪入れずに本命の攻撃……本人による蹴りがきた。



「あぶない!!」



スバルが間に合い、その蹴りを受け止めたが、強烈な回し蹴りだったため吹っ飛ばされてしまった。



「スバル!! くっ……これは!?」



エリオ達も合流していたが、いつの間にか俺たちの周りはエネルギー弾に囲まれていた。



「ノーヴェ、作業内容を忘れてないッスかぁ?」

「うるっせぇよ、忘れてねぇ」

「捕獲対象三名、全部生かしたまま持って帰るんスよ?」

「旧式とはいえ、タイプゼロがこれくらいで潰れるかよ……」

「戦闘……機人か……」

「ふふん……あれ? ルーお嬢様もいっしょなんすね」

「……ウェンディ……」



まずいな……。
こうしている間も地上本部は破壊されている。



「……ティア、ここは俺に任せてみんなを引き連れ、なのはさん達と合流しろ」

「何言ってるのよ!! 無茶よ、あんた一人で!!」

「良いから行け!! 今俺たちがすべきことは何だ!! なのはさん達に一刻も早くデバイスを届けることだろ!! 心配するな、こいつらなら俺だけでもどうにか出来る!!」


なのはさん達がやられてしまったら、何もかもがお終いだ。
今は、一刻も早く合流しなければ――――。



「フィル……」

「へぇ……そいつは聞き捨てならないっすね。あんただけであたし達を相手にするっていうんすか」

「お前らなら、俺だけで十分だって言ってるんだよ」

「なんだとコラ!! 舐めるのもいい加減にしやがれ!!」



しめた、二人の意識がこっちに向いたぞ。
これでティア達はフリーになる。



(ティア、あいつらの意識が俺に向いてる間に急げ!!)

(……分かったわ。絶対死ぬんじゃないわよ!!)

(……ああ……みんなのこと頼んだぞ)

「スバル、エリオ、キャロ、ルーテシア、ウイング開くから、サンダーに飛び乗って!!」



ティアはサンダーのウイングを展開し、エリオ達の足場を作った。
スーパーサンダーは、多人数で任務をこなす用に作っているのでこういったことも可能だ。



「うん!!」

「「はい!!」」

「分かった……」

「行け!! ティア、みんなを頼んだぞ!!」




エリオ達が飛び乗ったのを確認すると、全速力で合流地点に向かった。




*     *     *




戦指揮所のロングアーチでは、地上本部内部の状況は相変わらず掴めていない。
回線が復旧するまで外部への警戒をしていたが……。



「そんな……高エネルギー反応二体、高速で飛来!!」


メインスクリーンでは、エネルギー反応を示す光点が、かなりの速度で六課に向かって移動している。


「こっちに向かってます!!」

「待機部隊、迎撃用意!! 近隣部隊に応援要請!! 総員、最大警戒態勢!!」



まずい、今六課には主力部隊はいない。
いくら、防衛設備を強化したとはいえ、ここで襲撃を受けたらひとたまりもないぞ。



『バックヤードスタッフ、避難急いでください!!』



機動六課隊員寮の廊下を走るアイナさんとザフィーラ。
アイナさんの腕には、ヴィヴィオが抱えられていた。



*     *     *



「ふっふふふふふふ………ふっはははははは!!」



まだだ。まだこんなものじゃないよ。
フィル・グリード、君には本当の絶望を味わせてあげるよ。



君がどんなにあがこうとも、護れるものなんかなにもないってことをね――――。




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あきゅろす。
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