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〜 Remember my heart 〜
第15話 Symbol of family


「なぁ、ティア。最近のフェイトさん達を見てどう思う?」

「どう思うって、あんたいきなりよね。どういう意味で言ってるの? 仕事のこと。それとも……」



ティアは少し考えてからこちらを向いて……。



「あの3人の親子としての関係かしら……」

「……やっぱ、わかるよな」

「当たり前でしょう。エリオとキャロ、あの二人、フェイトさんに心配させたくないっていうのは分かるんだけど……」

「それが強すぎて、どこか親子としては遠慮してしまっている……んだよな」

「そういうことよ」



これは未来からずっと思ってきたことだ。
フェイトさん達の関係は、一見エリオ達が素直で良い子にしていて、何の問題もないと思うが、そうではない。



「あのままだと、あの3人は表面上の親子関係になってしまう」

「確か、あんたは以前のあの3人を見てきたのよね?」

「……俺が知る限りでは、結局最後まであのままだったよ。あの3人が本音で言い合う前に……」

「スカリエッティ達に殺されてしまった……のよね」

「……ああ」



もう少し時間があったなら、未来でも変わっていたのかもしれない。
だから、せめてこちらではこんな表面上の関係にはしたくない!!



「フィル、その様子だと、何か浮かんだみたいね」

「ティア、お前にも協力してもらうことになるけどいいか?」

「今更何を言ってるのよ。元からそのつもりだったんでしょう」

「済まないな……色々迷惑をかけて……」

「あんたが迷惑をかける事なんて、そうそう無いんだから、遠慮しなくて良いわよ。それにあたしもエリオ達にはちゃんと本音で語り合って欲しいしね」

「ティア……ありがとう」

「エリオ達は、あたしが何とかするから、あんたは自分の彼女をしっかり見守りなさいよ!!」



ティアは思いっきり俺の肩を平手打ちして、活を入れる。



「あいたたた……。ったく、もう少し加減をしろっての……」

「そのくらいで丁度良いのよ。……鈍感のあんたにはね……」

「んっ……? 何か言ったか?」

「別に……何も……言ってないわよ」



最後の方は聞き取れなかったけど、ティアの励ましは嬉しかった。
フェイトさんと語るのとは違う心の安らぎがあるんだよな。ティアには。



「で、具体的にはどうするのよ。あの3人を一緒にするのは中々難しいわよ。3人が3人とも、遠慮してるから……」

「その辺は心配するな。こないだ、ユーノさんに相談したら、こんなのをくれた」



そう言って取り出したのは三枚のチケット。



「これは……って、これ、クラナガンの展望台レストランの招待券じゃないの!!」

「ああ、俺たちじゃ手も出せないところだけど、ユーノさんが手配してくれたんだ。良かったら使ってくれって……」

「あ、あの人なら納得いくわ。司書長クラスなら料金の心配もないからね」

「ユーノさんにフェイトさん達のことを話したら、すぐに手を打ってくれたからね。それにアルフからも聞いたんだけど、やっぱりあの3人はどこか遠慮しがちなところがあるって心配していたんだ」



ユーノさんに相談していたとき、丁度アルフもいて、この事を話したら、アルフ自身も心配していて何とかならないかって思っていたらしい。



「と言うことはあたしの役目は、エリオとキャロをうまく誘い出すことが仕事ね」

「ああ、俺が渡したんじゃ意味がないからな……」



フェイトさんって、甘えてくれるようにはなったけど、やっぱり基本は自分で抱え込むタイプだ。
本当はエリオ達のことをどうしたらいいか相談したいのに、それをリンディさんにもちゃんとは相談していない始末だ。


エリオ達がなまじ出来てしまうから、それで自分が出来ていないんじゃないか。
それをずっと抱え込んでしまっている。

だけど、これは俺があんまり出しゃばってしまっても駄目なんだ。
ヒントや切っ掛けは与えても、あくまで3人で解決してもらわなくちゃいけない。



「あんたも……損な性分ね」

「かもな……」




*     *     *




「えっ……。ユーノが私に用があるの?」

「うん、さっきいないときに通信があって、今夜7時にクラナガンの展望台レストランに来てくれって。通信でも良いけど、たまには食事でもって事らしいよ」

「ふぅ、ん……。でも、フィルは良いの? 私がユーノと二人きりで食事に行ったりして……」



フェイトさんが少し拗ねた表情で、俺に話しかけてきた。



「そりゃ、全く焼き餅を焼かない訳じゃないよ。だけど、ユーノさんはドゥーエと付き合ってるんだしね。もし、フェイトさんとそんな関係をしていたら、まずドゥーエに折檻を喰らうと思うよ」

「ふふっ……確かにね」


ドゥーエって、ああ見えてかなり焼餅焼きだってのが最近知った。
普段、クールなイメージがかなり強いのに。



「だから、心配はしてないんだ。せっかくのオフシフトなんだから、美味しい食事を楽しんできてね」

「それじゃ……ごめんね。私だけ……」

「いいって。そこの食事が美味しかったら、今度は二人で行ってみようか?」

「その言葉忘れないでよ。確かに聞いたからね!!」

「ああ、忘れないって、だからしっかり俺の分も食べてきてね」

「うん♪ じゃ、今から出ないと間に合わないから、私は自分の部屋に戻って着替えるね」



そう言ってフェイトさんは俺の部屋から出て行った。
レストランに行くのに、正装しないといけないからな。



「……どうやら、第1段階はうまくいったな」



後は、ティアがうまくエリオ達を誘い出してくれることを祈るだけだ。
部隊長となのはさん達には、事前に連絡済みだ。
だから、邪魔されることはない。


頼んだぞ……ティア……。




*     *     *




「えっ……?」

「お食事券……ですか?」

「ええ、今日あたし達はオフシフトじゃない。だから、スバルと二人でここに行こうとしたんだけど、スバルがクラナガンに行っていて、行けなくなっちゃったのよ」

「でしたら、日にちを変えたりしたらいかがですか?」

「そうもいかないのよ。これ、懸賞で当たった奴だから、日にち指定は解除できないのよ。券をフイにするのは悔しいし、一人では駄目だから、あんた達二人で行ってきなさい」



あたしは半ば無理矢理にエリオにチケットを手渡した。
こうでもしないと、受け取りそうにないから……。



「……済みません。ティアさん」

「本当にごめんなさい……」

「だから、これは懸賞で当たっただけなんだから、あたしは損なんてしてないのよ。そんな顔してないで二人で楽しみなさいね」

「「はい!!」」

「それじゃ、もう時間はあまりないから、二人はさっさと着替えて、準備しなさいね」



二人はレストランに行くために、自分たちの部屋に着替えに戻った。



「……ふぅ、疲れた……。エリオもキャロも、本当に遠慮しているわね。あんまりにも子供らしくないわ」



フィルが心配してるのはこの事なのね。
あのままじゃ、言いたいことも言えない子供になりかねない。



「フィル、こっちは何とかうまくやったわ……。あとは、フェイトさん達次第ね」



ここまでやったら、後は当人同士の問題だ。
あたしやフィルが出来るのはここまでだしね。





*     *     *




「えっと……確かユーノが指定していた席ってここだよね?」



私は指定時間の10分前に、このレストランに来ていた。
だけど、30分が過ぎてもユーノが来る気配がない。

ユーノは時間を守る人だから、こういうときも必ず連絡が来るはずなのに……?

そんなことを思っていると……。



「ここだね。ティアさんがくれたチケットはこの席だったね?」

「うん、間違いないよ」



向こうからやってきたのは……。
って、嘘でしょう!?



「エリオ!? キャロ!?」

「「フェイトさん!?」」



一体どういう事なの!?
ユーノじゃなくて、この二人が来るなんて―――――。




*     *     *




「今頃あの3人、驚いてるだろうな……」

「それはそうだよ。何も知らされないで、顔合わせになったらね。それにしても、フィルの大胆なこと考えたよね」

「なのはさん、すみません。勝手なことをして……」

「ううん、怒ってるんじゃないんだよ。ただ、今日はやてちゃんから聞いたときはびっくりしたけどね……」



さすがに、部隊長に何も言わないで実行するわけにはいかない。
だから、事前に部隊長には話して、実行可能な日を決めてもらったのだ。
それが今日だったと言うことだ。



「でも、今日はフォワードはフィルだけなんだね。スバル達もオフシフトだし……」

「丁度良い機会でしたから、スバル達にも休んでもらったんです。あいつらもかなり疲れてますから……」

「フィル、それ以上にあなたの方が休まなきゃいけないと思うんだけどね。わたしは……」

「あ、あはは……。俺は別の日に休みをもらいますよ。さすがに休み無しでは持ちませんから……」

「その言葉、いまいち信用できないんだよね。フィルって、隠れてやるからね」



や、やばい……。
なのはさん、完全に見破っている。

さらに追及の手が来ようとしたが……。


ヴィーヴィー……。



「第2級形態体制!?」

『大変です!! なのはさん、フィル』

「どうしたの、ルキノ!?」



司令室で監視していたルキノさんから通信が入り、事の詳細を聞いていた。
今回の事件は、クラナガンの海上でガジェットの大群が現れ、それをキャッチしたことで警報が鳴ったとのことだ。



『シグナム副隊長とヴィータ副隊長には、先に出撃してもらったんですけど、それでも数が多くて……』

「分かった。わたしとフィルも出撃するね」

『お願いします。それと今からフェイト隊長達にも連絡を……』



ルキノさんが通信を入れようとしたとき……。



「ルキノさん、ちょっと待ってもらえないか……」

『「えっ……?」』



なのはさんとルキノさんが驚いて、一旦動きを止める。



『どういうこと?』

「隊長達には話してるんだけど、今フェイトさんとエリオ達は、大切な話をしているんだ。本当に大切な話を……」

『だけど、このままじゃガジェットの進行は防げないよ!!』

『心配しなくてええよ。ルキノ、今回のことはレジアス中将も承認済みや。だから、なのはちゃんの限定解除許可ももらってるんや』



司令室にいた八神部隊長が、ルキノさんに事の詳細を説明してくれた。



『そこまで……してたんですか……?』

『私もレジアス中将から話を聞いたときは、腰ぬかしたで。フィル、あんたフェイトちゃん達のために、そこまでしてたんやな……』

「レジアスの親父さんのことは、保険だったんですけどね。まさか本当に役に立つとは思いませんでしたよ……」



本当は、こんな事にはなって欲しくなかった。
でも、結果的にしておいて正解だ。



『でも、フィル。戦局怪しくなったら、私は六課部隊長としてフェイトちゃんに連絡するからな。それはええな』

「はい!!」



これで、すぐにフェイトさんに連絡行くことはなくなった。
後は、俺たちがガジェットの始末をするだけだ。


絶対3人の邪魔はさせない!!


*     *     *



「これ、美味しいですね。フェイトさん!!」

「うわぁ……。これ見たこと無いです」

「二人はこういったところは初めてだもんね。ごめんね……。本当はもっと二人と一緒にいる時間を作らなきゃいけないのに……」

「そんなことないです!! フェイトさんはいつもわたし達の心配をしてくれてます」

「そうですよ。それだけでも申し訳ないと思ってますのに……」

「エリオ、キャロ……」



二人とも本当に私に気を遣ってくれているのが、よく分かる。
それがかえって二人に申し訳ないと思う。

私は、フィルが前に言っていたことを思い出していた。



『フェイトさん、エリオ達は確かに良い子ですけど、良い子が故に遠慮している感じがする』



あの時は意味が分かっていなかったけど、こうやって向き合ってやっと分かった。
二人とも、私に気を遣いすぎて本音を出し切れていないんだ。

最初、エリオ達が来たときはびっくりした。
エリオ達はティアナからここのチケットを渡されたと言っていた。

そして私はユーノにここに来て欲しいと言われた。

しかも、その連絡を受けたのはフィルだった。


そのことを考えると……。



―――――まさか。



「そっか……」

「どうしたんですか、フェイトさん?」

「ううん、何でもないよ……」



この事を考えたのはフィルだ。

私は以前母さんには、エリオ達とのことを、何となくだけど話したことはあった。
それを知っているのは、アルフだけだ。

無限書庫で一緒に働いているユーノに相談したとしてもおかしくはない。
そして、フィルも未来での私達のことを見てきている。

フィルはこの事をユーノ達に相談して、計画していたんだ。


そして、自分が全部しないのは、あくまで自分たちで解決しなきゃいけないと考えたから……。



「ねぇ……エリオ、キャロ。二人は最近本当に色んな事をしっかりとしてくれている。それは本当に嬉しい。だけど……」

「「だけど……?」」

「二人があんまり良い子過ぎて、しっかりしすぎてて……。私は本当に二人のために、ちゃんと出来ているのかなって思ってたんだ」

「「そんな!!」」

「僕たちこそ、フェイトさんにいつも心配をかけてしまって!! フェイトさんに心配かけちゃいけないと思って!!」

「だから、少しでもフェイトさんに負担をかけたくなくて、それで!!」

「……それは、違うよ。エリオ、キャロ。二人が私に何も言ってくれない方が、逆に悲しいんだ……」



そう、何も言ってくれなきゃ、二人がどう思っているか知ることが出来ない。
人間は言葉でちゃんと話し合って、それでお互いを知ることが出来るんだから……。



「「フェイトさん……」」

「私もちゃんとエリオ達と話していなかったのがいけないんだよね。こうやってフィル達に心配されてしまったんだから……」

「フィルさん……ですか?」

「うん、この事を考えたのも、ユーノやティアナにお願いして、ここに私達を来させたのも、フィルが考えたことなんだよ……」

「そうだったんですね……。だから、ティアさん、あの時わたしに半ば無理矢理、このチケットを渡したんですね」

「僕たちにフェイトさんと一緒に時間を作るために、そして……」

「私達がゆっくりと話し合うために……」



フィルの場合、全部やるのではなく、あくまで切っ掛けは作るが最後の大切なところは、当人に任せてくれる。

全部の答えを示すのではなく、最後は自分たちで答えを出す。
本当にフィルらしい……。



「エリオ、キャロ。今日はいっぱいお話ししよう。今まで話せなかったことや、して欲しいことを、私に教えて欲しい」

「はい、僕たちもフェイトさんにいっぱい聞いて欲しいです。僕たちの思いも……」

「フェイトさん、わたしもエリオ君と同じです……」

「うん、今日はフィル達の好意に甘えよう。帰ったら、私がキャラメルミルク作ってあげるね」

「はい、楽しみにしてます!!」

「キャラメルミルク、甘くて大好きです♪」

「ありがとう、今はここの料理を3人で楽しもうね」

「「はい!!」」


フィル、みんな、本当にありがとう……。




*     *     *




「くそったれ!! ガジェットは何てことないけど、こう数が多いとな……」

「そうだね……」

「おい、どうする。一気に片付けるにしても、限定解除しないと……」



限定解除許可をもらっているのは、なのはさんだけだ。
残念ながら、ヴィータ副隊長達はそのままだ。



「こうなったら、わたしとフィルが限定解除して、一気に殲滅するしかないね」

「ですね。なのはさん、せっかくですから、あれやります?」


せっかくの機会だ。
テストもかねてやってみるのも悪くない―――――。


「あれ……ね……。いいね。あれで一気にカタ付けよう!!」

「お、おい……おめえら、何をする気だ?」

「ヴィータちゃん、シグナムさん、これからフィルと二人で広域殲滅をかけますから、二人は射程圏外に退避してもらえませんか」

「何言ってるんだよ!! あたし達も残った方が!!」

「済みませんが、今からやる魔法は未完成なので、まだコントロールが不完全なんです。身体への負担はともかく、射程がうまくコントロールできませんので……」



この魔法は、まだ未完成でうまくいくか分からない。
だから、俺たち以外の人間は出来るだけ遠くに退避して欲しいんだ。



「わ、分かった……」

「なのは、フィル、無茶だけはするなよ。危なくなったら、あたし達はすぐに戻るから……」



そう言って副隊長達は俺たちからある程度距離を取り、そこで待機することになった。



「それじゃ、やりましょうか!!」

「うん!!」


俺となのはさんは、魔法陣を展開し、なのはさんはレイジングハートをエクシードモードにし、俺はプリムをブレイズモードにした。



「「リミット・リリース!!」」



リミットを解除すると同時に、なのはさんは桃色の魔力に身体が包まれ、俺は白銀の魔力に身体が包まれた。



「じゃ、始めようか。フィル」

「はい!!」



なのはさんと俺は辺り一帯の魔力を、出来るだけ集め始めた。
集束できるだけ集めて、それを攻撃用のエネルギーにする。


残存してるガジェットはおよそ400。
例えスターライトブレイカーを撃っても、まだ全滅はさせられない。

だったら、シューター系の魔法をぶつけて一気にカタ付ける。



「これだけ集めれば、大丈夫かな?」

「ええ、現段階で集められるだけ集めましたしね……」



ブラスターを使えば、簡単なんだけど、まだクアットロには見せたくない。
ブラスターは最後の切り札だから―――――。



「じゃ、いくよ!!」

「こっちはいつでもOKです!!」



次の瞬間、二人の周りに無数のスフィアが展開された。
その数はおよそ80。



「「いっけぇぇぇえ!! アクセルシューター!!」」



二人から桃色と白銀のアクセルシューターが放たれ、さらに……。



「「ブレイク!!」」



俺たちが指をパチンと鳴らすと、途中で分裂を繰り返し、その数は最初の三倍になる。


ドゴオオオン……ズガアアアン……。


激しい爆音と共にガジェットの数は確実に減っていった。



「まだ……残ってるね」

「ですね……。なのはさん、集めた魔力、まだ残ってますよね」

「充分なくらいね……」

「じゃ、残りのガジェットは、集束砲で一気に殲滅しましょう」

「そうだね……。フェイトちゃん達に余計な心配させたくないしね」

「そういうことです!!」



俺たちは残った魔力を、それぞれデバイスの先端と銃口に集中する。
白銀と桃色の魔力は、周囲の大気をふるえさせ、二人の真下の海上は荒波をあげていた。




*      *      *




「お、おい……。まさか、あの二人、ここでスターライトブレイカーをぶっ放す気じゃないだろうな……」

「そのまさか……らしい……」

「冗談じゃねえぞ!! あたし達が近くにいるってのによ!! さっきの魔法だって避けるのにギリだったってのによ!!」



なのはとフィルが放ったアクセルシューターの嵐は、コントロールがまだ未完成で、あたし達にまで飛んできやがった。
何とか避けることは出来たけど、なのは達が来るまでガジェットの掃討をしていたから、かなり体力は消耗していた。そこにきてこれかよ!!



「ヴィータ、急いで戦域から抜けるぞ!!」

「くっそう、マジで洒落にならねえぞ!!」




*      *      *




「どうやら……射程外に行ってくれたみたいです」

「良かった……。この魔法、まだコントロールが不安定だから……」

「それじゃ、思いっきりぶっ放しますよ!!」

「うん!!」



集束した魔力はさらに高まり、その魔力球は二回り以上もふくれていた。
なのはさんの方は、さらに一回り大きな魔力球を作り上げている。



「「スターライト……」」


俺たちの声が重なり―――――。


「「ブレイカァーーーー!!」」



放たれた二つの魔力砲は、途中で三つに分裂し、合計6つの奔流はガジェットの集団を完全に飲み込み……。


―――――そして。


跡形もなく消し去った……。





*      *      * 




「マジで……悪魔が二人になりやがった……」

「ああ……スターライトブレイカーの分裂だと……考えただけでも恐ろしい……」

「シグナム、悪いことは言わねぇ……。あんまりあの二人に、模擬戦を申し込まない方が良いぞ……」

「……そう……だな」



昔、あたしがなのはのことを悪魔って表現したけど、あの時とは比較にならない。
二人ともとんでもないことしやがる!! 

これじゃ、本当に悪魔じゃねえか……。

あんまり、あの二人をからかうのは止めておこう……。

あたしはまだアイスを食いたりねえしな……。





*      *      *




ブシュウウウウ……。



レイジングハートとプリムから余剰魔力を排出し、戦闘態勢を解除した。


このスターライトブレイカーは、本来ブラスターモードのビットを使ってやる魔法だ。
だから、ビット無しだと、コントロールが難しい。



「どうやら……うまくいきましたね」

「うん、ブラスタービットが完成していなかったから、出来るかどうか五分五分だったけどね」

「ただ、真っ直ぐに分裂させるだけなら、出来ると思いましたからね。やってみて正解でしたね」



ビットがあれば、もっとコントロールも楽なんだけどね。
この魔法は、単体で撃つ物じゃないからな。



「うーん。まだまだ改良の必要がありだね」

「それは、今後ブラスタービットが出来てからにしましょう」

「そうだね、元々ビットがあっての魔法だからね」

《あの……マスター、なのはさん、出来れば無茶はしないで欲しいんですけど……》

《プリムの言うとおりです。無茶前提で物事を進めないでください。ブラスターモードは出来れば使わない方が良いんですし、それに……》

《このスターライトブレイカーは、まだ、実戦では使えないですね。ビットがあってもコントロールが出来なければ、無駄撃ちになってしまいますしね》



今の段階じゃ、ゆりかご決戦には間に合わないな。
まずは、ブラスターの負担を軽くすることを最優先にしなくちゃな。



「確かにプリム達に言うとおりだ。無茶前提はまずいな……」

「そうだね……」



俺たちは一応サーチャーで周囲を検索してみるが、ガジェットの反応は見られなかった。



「これで、任務は完了だね。おつかれさま、フィル」

「ですね。なのはさん、ありがとうございました。無茶なお願いを聞いてくれて……」

「いいよ。フェイトちゃん達がちゃんとわかり合ってくれたら、その方がより良い未来になるからね。そうでしょう、フィル」

「なのはさん……」

「それじゃ、六課に戻ろうか。そろそろフェイトちゃん達も六課に戻って来ちゃうしね」

「はい!!」



こうして、海上ガジェット事件は幕を閉じた。


後日、フェイトさん達に、事件があったのを黙っていたことがバレてしまい、俺はフェイトさん達にマジで泣かれてしまった。
特にキャロとフェイトさんは大泣きをしてしまい、宥めるのに大変な想いをしてしまった。

そして、キャラメルミルクを3人に作ってあげて、その後4人で色々な話をして……。

色々なことがあったけど、キャロ達もフェイトさんも、この事で本当の親子になった気がする。

良かった……。
未来の時みたいに、よそよそしい親子にならなくて……。

時間があったら、大丈夫だったんだけど、その前に殺されてしまったからな。




*      *      *




訓練が終わった夜、俺は夜風に当たりたくて、隊舎屋上に来ていた。



「プリム……本当に良かったな。フェイトさん達、うまくいって……」

《まったく……マスターは絡め手過ぎるんですよ。単刀直入に言ってあげても良かったんじゃないですか?》

「それじゃ、駄目なんだよ……。こういう事は自分たちで気づかないと。俺が出来るのは、あくまで切っ掛けだけだから……」


こういったことは、人から言われて気づく物じゃない。
自分たちで気づいてこそ価値があるのだから―――――。


《本当、マスターらしいですよ。自分は影ながら支える……。損な役回りばかりですね》

「いいんだよ。それが俺が戻ってきた本来の役目なんだから……」



俺はこの世界を、あんな未来にしないために戻ってきたんだ。
そのためなら、どんな裏方だって喜んでやるさ。


世界の修正力だって、こういったことには許してほしい。





*    *    *





(あんまり……無茶はしないでね。フィル……)



私は仕事が終わり、少し風に当たりたいと思い、屋上に来たんだけど、そこでプリムとの会話を偶然聞いてしまった。



「……いくら、私達のためだからと言って、自分がボロボロになったら、その方が辛いんだから……」



例えフィルに言ったとしても、JS事件が終わるまでは、無理し続けるだろう。
だから、私はそんなフィルが壊れないようにしっかり支えるんだ。

フィルがいてこそ、私も幸せなんだからね。

それを忘れないでね……。



「おやすみ……そして、ありがとう……」


フィル、いつもあなたには助けてもらってばかりだね。
今回のことだって、フィルがいなかったら、エリオ達とあんなに本音で語り合えなかったかもしれない。

だから、今度は私があなたを助けるからね。


それがティアナとの約束だから……。


フィルの心を支えるという、大切な約束……。


ティアナ、私、あなたの分もフィルのこと支えるから……。


だから、フィルと私のことを見守っていてね……。




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