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〜 Remember my heart 〜
第14話 新たな出発


翌日



機動六課スターズとライトニングのフルメンバーと、新たに加入するルーテシアとアギトで、緊急ミーティングをおこなうことになった。

内容はメンバーの再編成のことである。


「えっとな、今回新たに、ルーテシア達が六課で一緒に活動してくれることに伴い、チームの再編成をすることになったんや」

「「「「ええっ!?」」」」

「まぁ……そういうことだ。それに伴い、俺がスターズから抜ける」

「そんな!!」

「考えてみろ。今スターズにはセンターガードが二人いて、ライトニングには指揮できる人間がいない」


指揮官がいない状態じゃ、エリオ達もフルに力を発揮することが出来ない。
そのための再編成だから―――――。


「それは……そうだけど、でも、あたし達のコンビネーションには、フィルが起点になる物もあるんだよ!!」

「スバル、それこそ甘えだ。今後の戦いは、それぞれのレベルを上げなくちゃいけないんだぞ。臨機応変に動けなくちゃ死ぬだけだ」


未来では、個々に対応できていたからあそこまで戦うことができたんだ。
それに、スバルは俺なんかよりずっとできるんだから……。


「でも!!」

「スバル、フィルの言うとおりよ。そろそろ自分たちのレベルを上げなくちゃいけないし、何より……」

「今のあたし達じゃ……フィルの邪魔になってしまう」

「「「ティア (さん)……」」」


ティアの考えは少し違う。

今の俺は魔力は高いけど、指揮能力じゃティアの方が高い。
だからこそフォワードのリーダーを任せられるんだぞ。


「ティア、今おまえが思っていることは違うからな。なのはさん達も俺も、おまえがみんなのリーダーとして引っ張れると思ったからこそ、俺の離脱を賛成したんだ。今後の戦いは、俺自身もレベルを上げなくちゃ生き残れないしな……」

「フィル……」

「ティア、みんなのこと頼んだからな。俺もティア達に負けないようにがんばるから……」

「任せなさい。あんたの分もあたしが頑張るから。だからあんたは自分の事に集中しなさい」

「ありがとう……。ティア……」


これで俺が抜けた後も大丈夫だ。
むしろ俺という異分子がいなくなる分、よりよいチームになってくれることを願う。


「それじゃ改めて、新チーム体制を発表するね」



新チーム体制は、隊長陣はそのままでフォワードに変更があるくらいだ。
スターズはティアとスバル、そしてルーテシアとアギト
ライトニングはエリオとキャロ

そして俺は……。



「最後にフィルなんだけど、フォワードのみんなとの訓練の時は、ライトニングに入ってもらうんだけど、基本はフリーという形になるね」

「なのはさん、すみません。その場合、俺はコールサインとかはどうなるんですか?」

「そうだったね。ルーテシアはスターズ5を、アギトはスターズ6として登録になるね。それでフィルはね……」

「それは私から言うね」

「フェイトちゃん、決まったんだね。昨日から考えてたみたいだけど……」

「うん、フィルにはスターズとライトニング、どっちにもつながって欲しかったという願いを込めて、単純だけ ど『ライトニングスター』にしたんだ」



ライトニングスターか―――――。
スターズにもライトニングにも、どちらにもつながって……。



「ありがとうございます。実は寂しかったんです。スターズを抜けることになって……」

「よかった。気に入ってもらえて」

「最後になるけど、改めてみんなに紹介しないとな。二人とも入ってきてや」



部隊長の声で扉から入ってきたのは、ルーテシアとアギトだった。
二人とも六課の制服に身を包んでいた。



「あの……ルーテシア・アルピーノです。よろしく……」

「おう、あたしはアギトだ。まぁ……よろしくな……」

「緊張しなくても良いからな。俺が言うのもおかしいけど、こいつらみんな本当にお人好しだから……」

「「「「フィル (さん)に言われたくないよ (ありません)!!」」」」

「ぐはっ!!」


まさかティア達だけでなく、エリオとキャロまでに突っ込まれるとは……。


「あんたって、昔から世話焼きばっかりやってるもんね。主にスバルのおもりだけど……」

「そうそう、あたしのおもりって……。ちょっと酷いよティア!!」

「事実でしょう。あたしとフィルは、いつもあんたのおもりをさせられてるんだから……」

「実際、この中で一番世話焼きなのはフィルさんですよ」

「キャロ……勘弁してくれよ」


俺は、そんなにお節介じゃないぞ。
精々、俺が出来ることをするだけで―――――。


「でも、キャロの意見は合ってますね。僕もそう思いますから……」

「エリオ、お前もかよ!!」

「ルーテシア、心配しなくても良いわよ。むしろフィルが抜けて、ストッパーがいなくなった分、あたしはあんたを大歓迎するわ」

「ちょっとティア、さっきから酷いよ。もちろんあたしも歓迎だよ」

「ルーちゃん、チームは違うけど同じフォワードとして、そして同じフルバックとして一緒に頑張ろうね」

「そうだよ、僕も一生懸命頑張るから一緒に頑張ろう」



あのな、お前らも人のこといえないだろ。

こないだあれだけ死闘をしていた中なのに……。
お前らも十分お人好しだよ。




*     *     *




「ふふっ……ふふふっ……」

「ルールー?」

「アギト……ここは本当に暖かいね。私はみんなにあんな酷いことをしたのに……」


こんなに温かい人たちに、私はあんなに酷いことをしてしまった。
特にフィルさんは、もう少しで死なせてしまうところだったのに―――――。

それでも、こんなに優しく向かえてくれる。



「まぁ、これがあいつらの良いところだ。だからお前らも、あいつらと友達になってくれると嬉しい」

「フィル……さん……。ありがとう……」

「別に……。礼を言われることじゃない……」


フィルさんは照れてそっぽ向いちゃったけど、この人は本当に優しい人だって事は充分分かるから―――――。




*      *      *




「照れなくても良いじゃんかよ。あれ? お前ってもしかしてツンデレってやつか!!」

「よく分かったね、アギト。そうなんだよ、実はティアとフィルはツンデレなんだよ」

「「誰がツンデレよ (だ)!!」」

「ほら、似たもの同士」

「スバル……」

「ちょっと、頭冷やそうか……」



ティアとフィルが、それぞれのデバイスをあたしの脳天に向ける。
ちょ、ちょっとそれはシャレにならないよ!!



「え……えっと……二人とも、何でデバイスを構えてるのかな……?」

「なに……。ちょっとその脳天気な頭に、活を入れるだけだ……」

「そうね……。少しはまともになるかもね……」


まともにならないから!!
スプラッタができるだけで、あたし死んじゃうから!!


「まあまあ二人とも、その辺にして」

「そうですね……」

「確かに……」

「助かった……」



こ、怖かった……。
ちょっと、からかいすぎたかな。




*    *    *




「それで今日は訓練はお休みで、ルーテシア達はこの後オリエンテーションをするね。フォワードのみんなは、こないだの事件のまとめをしておいてね」

「「「「はい!!」」」」

「あっ、忘れるところだった。ルーテシアとアギト。オリエンテーションが終わったら、俺かフェイトさんに声をかけてくれ」

「何か……あるの?」

「約束したろ。お前のお母さんに会わせるって……」

「あっ……」

「ということで俺とフェイトさんは、少し抜けますね」

「了解や、でも今度ちゃんとメガーヌさんに会わせてや」

「分かってますよ。八神部隊長」



ルーテシアとアギトは、なのはさんと一緒にオリエンテーションに、ティア達は事務処理に。
俺は事務処理は終わっているので、時間までヴィヴィオの世話をすることになった。



「ねぇ、フィルパパ。今日は一緒に遊んでくれないの?」

「少しの時間ならいてあげられるけど、午後から大事な用事で出かけなくちゃいけないんだ」

「ええっ〜〜〜」

「そのかわり、良い子で待っていたら、またヴィヴィオの大好きなお菓子を作ってあげるからな」

「うん!!」

《マスター、やっぱりヴィヴィオには甘いですね》

「そっか……そんなつもりはないんだがな……」



どうも俺はヴィヴィオにすごく甘いらしい。
それでもフェイトさんよりは、厳しくしているつもりなんだけどな。



「フィル、そろそろオリエンテーションが終わるよ」

「了解、じゃ行ってくるからな。アイナさんとザフィーラさんのところにいるんだぞ」

「うん!! いってらっしゃい。フェイトママ、フィルパパ!!」





*     *     *




ヴィヴィオと別れた俺とフェイトさんは、俺の部屋に戻っていた。
今回、メガーヌさんのところに行く手段は俺の転移魔法だからだ。
まだメガーヌさんの居場所を公式にするわけにはいかない。

少しして二人がやってきて―――――。



「……遅くなってごめんなさい」

「お疲れさん。オリエンテーションは退屈だったろ」

「全くだよ。でもルールーのためだしな。しょうがないさ」

「こんな事言ってるけど、アギトの方が真剣に聞いてたんだよ」

「ルールー!!」

「「あははっ!!」」


確かに、アギトって口ではこういってるけど、やることは真剣に聞いてくれてる。
本当にルーテシアのことが大切なんだな。


「それはともかくとして、忘れ物はないな。ルーテシアもお母さんに渡す物ちゃんと持ったか?」

「うん……大丈夫」

「じゃ、始めるか。プリム、ワープスタンバイ!!」

《了解!!》

「みんな、俺につかまってくれ」



俺は魔力を集中し、ワープで目的地に向かった。



*     *     *



「ここは……?」

「なんか戦艦の中みたいだな……?」

「フィル……もしかしてここって?」

「フェイトさんの想像通りですよ。ここはアースラの中です」


アースラの中は、あらゆるステルス機能が搭載している。
ここだったら、メガーヌさんをかくまうのにうってつけだからな。


「そのとおりです」

「マリーさん!! どうしてここに!?」

「えへへ、実は私は、フィルとクロノ提督の依頼で、ずっとアースラの改造をしていたんですよ」

「ええっ!!」



フェイトさん驚いているな……。
確かにこれはまだ、はやてさんにもオフレコのことだからな。
でも、さすがマリーさん率いるメカニックだな。予定より進んでいるよ。



「あっ、その子がルーテシアちゃんね。話は聞いているわ。お母さんに会いに来たんだよね?」

「うん……お母さん、ここにいるの?」

「ええ、そこの部屋にね。さっきまでメディカルポッドに入っていたから、眠っているかもしれないけど……」

「フィル、メディカルポッドって?」

「ああ、俺とマリーさんとで開発した新型医療マシンのことさ。外傷や体力の回復とかなら、このマシンでできるんだよ。ただし病気や内臓関係とかには駄目なんだけど……」


だけど、これのおかげでメガーヌさんの治療も秘密裏にすることが出来たんだ。


「……本当に、いつの間にそんなことやってたの?」

「元々メディカルポッドは、未来で使っていた技術の一部と応用しただけだし、アースラの改造はマリーさん達がやってくれていたんだから、俺はそんなにやることはなかったよ」

「何言ってるの!! 確かに改造は私たちがやっていたけど、結局新型エンジンの問題部分はフィルが考えたんじゃない!! っていうか、よくあんな発想できたね」

「アースラ自体が実験艦という形で地上本部から認証がおりましたからね。だったら徹底的に新開発の物を詰め込んだというわけですよ」


戦闘力に関しては、改造すれば問題はない。
だから、新造戦艦の予算を武装に回すことにしたんだ。


「クロノ提督も言ってたよ。予算は気にしないで良いから、最高の形にしてくれって。そして………妹のことを頼むって……」

「……クロノ提督」


本当にすみません。アースラの改造は相当予算を使うのに……。


「じゃ、ごゆっくりどうぞ。何かあったらよんでね」

「「ありがとうございます」」



代表して俺が扉をノックすると……。



「はい……どちら様です?」

「あの、フィル・グリードです。お見舞いに来たんですけど……」

「どうぞ、入ってちょうだい」

「失礼します」

「どうも……」

「ん? ほらルーテシア、お母さんに元気な姿見せてあげな」

「あっ……」



俺に押されて入ってきたルーテシアを見て、メガーヌさんは……。



「ルー……ルーテシア、ルーテシアなの……?」

「お母さん……」

「ルーテシア!!」

「お母さんッッ!!」



メガーヌさんは娘を必死で抱きしめ、ルーテシアも母親のぬくもりにふれていた。
二人とも何度も互いの名前を呼び合い、再会をかみしめている。




(フェイトさん……)

(どうしたの……ああ、そういうことね)

(せっかくの親子の対面だ。俺たちは少し出ていようか)

(あたしも出るよ。ルールーとお母さんの時間がやっとできたんだもんな)

(いや、アギトはここにいてくれ。きっとルーテシアもそれを望んでいると思うから……)

(すまないな……)



念話で伝えて、そっと俺たちはその場を離れた。
今は親子の再会をゆっくりしてください……。





*     *     *




少し時間をつぶすために、俺たちはマリーさんを呼び作戦集合室にきていた。
マリーさんも、俺たちに話があったので丁度よかったらしい。

俺たちはマリーさんの話を聞くため、いすに座ることにした。



「さてと、まず報告からしておくね。現在アースラはエンジン部分を覗いて、ほぼ改造は終わっているわ。ただ、やっぱり新型アルカンシェルの問題なんだけど……」

「……やっぱり、撃てて1回ですか」

「ええ……何とかエンジン強度は増すことができたんだけど、それ以上にアルカンシェルのパワーが強くて1回が限度なのよ。通常のアルカンシェルなら2〜3回は撃てるけれど……」


やっぱりそうか―――――。
アルカンシェルのパワーをパワーアップさせて発射するんだ。むしろ一回でも、発射できるだけ御の字かもしれない。


「ちょっとフィル!! どうしてアルカンシェルのパワーを強める必要があるの。元々アルカンシェルはとんでもない魔導砲なんだよ!!」

「……最悪のことも考えておかなくちゃいけないんだ。もしアースラだけで戦うことになったら、あのゆりかごはアルカンシェル一発じゃ倒せない!!」

「そんな!!」

「フィルの話だけで推測になるんだけど、もし単体で戦うとなると、アルカンシェル3発以上のエネルギーが必要になるの」

「そんな化け物なの。聖王のゆりかごは……」

「ああ……」



ゆりかごの力は今でも覚えている。
軌道上に乗ったゆりかごは、あらゆる次元空間を無視して攻撃できるし、アルカンシェル以上の魔導砲ももっていやがる。



「……本当はこんな物、作りたくはなかったんだけどな……」

「フィル……」

「アルカンシェルは最後の切り札と言うことで、あと、フェイトさんのリミットブレイクが完成したよ」

「本当ですか!!」


リミットブレイクは、当初のプランからかなり変更している。
もっと時間がかかると思っていたけど―――――。


「まったく、出力をあげても身体への負担を最小限にしろってコンセプトだから、何度もやり直しになるし……。でも、結局最後はフィルに手伝ってもらったんだよね」

「それは当たり前ですよ。任せきりというわけにはいかないでしょう。それでなのはさんのブラスターも、何とかなりそうですか?」

「まあね、このデータを元にブラスターシステムも大幅に改良できたしね。なのはさんの方はもう少し時間ちょうだいね。多分後一月ってとこかな」

「ギリギリ……ですね。できるだけ早くお願いします」



やっぱりブラスターの方が時間がかかっちゃうか―――――。
でも、あのシステムは、出来るだけ身体への負担を減らさなきゃ到底使い物にならない。


「分かったわ。出来るだけ早く完成させるね」


でも、これで二人のリミットブレイクの負担は大幅に減らせるぞ。
リミットブレイクは諸刃の剣だからな。


「それと近々六課の方に行くことになると思うから、八神部隊長にはそのときに全部説明するから、まだアースラのことは話さないでね」

「「分かりました」」

「そろそろいいんじゃないか。ルーテシア達も落ち着いたと思うし……」

「そうだね」





*     *     *





「どうも。お邪魔します」

「お邪魔します」

「フィルさん、フェイトさん……」

「久しぶりの親子対面は……大丈夫みたいだな」


もしかしたらって心配してたけど、やっぱり血のつながった親子なんだな。
親子……か……。


家族って……やっぱり……良いよな。


「うん……本当にありがとう。お母さんを助けてくれて」

「別に……偶々発見できただけだから……」

「ふふっ、娘が言って通り、本当にツンデレね」

「メガーヌさん……勘弁してくださいよ。それとルーテシア、俺はツンデレじゃないから、それはティアだけで十分だ」

「「「「あははっ!!」」」」



スバルのやつ。ルーテシアにいらんことを覚えおってからに。
帰ったら、おしおきしてやる!!



「そろそろお暇した方が良い。メガーヌさんもまだ完治してないな。時間ができたら、またきますね」

「うん……。お母さん、またね……」

「またね。元気になったら、今度はそっちに行くからね」

「待ってる……」


ルーテシア、スカリエッティのことが終わったら、絶対に一緒に暮らせるようになるからな。


「それじゃ良いか。プリム頼むわ」

《はいはい、でもマスターあなたもまだ本調子じゃないんですから、補助魔法を使ってください。これだけの人数を転移するのはきついですよ》

「それじゃ私がフィルに魔力を渡すね。それで大丈夫だと思うから……」

《お願いします。それでは行きます!!》



俺はフェイトさんの魔力をもらったおかげで、無事ワープを発動させ六課に戻ってきた。
やっぱ完治していないのに、行きの多人数の転移はまずかったな。

―――――プリムのやつ、分かってたんだな。




*     *     * 





戦闘機人との最初の戦闘から、一ヶ月が過ぎた。
その間俺たちはそれぞれのレベルアップを図っていた。

ティア達フォワードは予定よりも早く、デバイスの最終リミッターを解除するために、訓練と言うよりも修行になっていた。

実際終わった後は、みんな立つ気力もなくなるほどの物だった。
そして俺も、フェイトさんの元、全魔力を使った戦い方をマスターするため模擬戦を繰り返していた。



「………はぁ……はぁ……はぁ……」

「フィル。そんなんじゃ私の魔法を全部マスターなんて、できないよ!!」

「……はぁ……とんでもない強さだ。本当に俺は、あの人の魔力を持っているのかよ。レベルの差がありすぎるぞ」


さっきから俺が攻めても、ソニックムーブで交わされるし、攻撃魔法を放っても相殺されてしまう。


《マスターは魔力は持ちましたけど、スピードとか戦闘技術は相手の方が遙かに上なんです!! ましてやフェイトさんは執務官なんですよ》

「そうだった……。普段はおっとりしてるけど、フェイトさんはなのはさんと並ぶ双璧だと言うことを忘れてた」

「どうしたの。それで終わり……?」

「まだだ!! 俺はまだやれる!!」



今の俺がフェイトさんに通用しような魔法は、これしかない!!



「モードチェンジ、セイバーモード!!」


俺はプリムをセイバーモードにした。


《マスター、まさか!!》

「プラズマザンバーブレイカー……。こいつで真っ向勝負をする!!」

《何を考えてるんですか!! それだったら幻術を使って困惑させて、バインドを使って捕縛とかの作戦の方が……》

「プリム、この模擬戦の目的を忘れたのか。これは勝つための模擬戦じゃない。俺が全力と使いこなせるようにするための物だ。だからここで逃げの戦い方はできない」


ただ勝つ為の戦いなら、どんな手を使ってもやるが、あくまでこれは力を引き出すための戦いなんだ。
だから、逃げは許されない!!


《マスター……分かりました。私も全力でサポートします。この魔法はマスターと私が一体となってできる魔法ですから……やるからには全力でぶちかましましょう!!》

「さすが俺の相棒だ。行くぜ!!」



俺は飛行魔法で空へあがり、プリムに魔力を集中し上段の構えを取る。
フェイトさん、真っ向勝負だ。



「……フィル……うん、いい目をしてる。いいよ……。フィルの全力、全部受け止めてあげる。バルディッシュ!!」

《yes sir Zamber Form 》

「いくよ……フィル。雷光一閃、プラズマザンバー……」


フェイトさんが、魔力を込め上段の構えから、必殺技のブレイカーの発射態勢になる。


「こっちも行くぞ、プリム!! 雷光一閃……プラズマザンバー……」

「「ブレイカー!!」」



白銀と金色―――――。

放たれた二つのプラズマザンバーブレイカーは空中で激突し、その場で拮抗していた。



「くぅぅ!!」

「はぁぁぁ!!」



これでも駄目なのか。
今の俺ができる最高の魔法だぞ。



「……くっ……まずい……少しずつだが押されている……」

《マスター……頑張ってください……。まだ、マスターは自分の力をおそれてます。私のことは気にしないで全力を出してください。私はそんなに柔じゃないです!!》

「プリム……」



―――――そうだった。
俺はどこかで力を恐れていた……。


分不相応の力を―――――。


だけど、俺にはこいつが……。


心強いパートナーがいるんだ!!



「ありがとうな……行くぜ、これが正真正銘、今の俺の全力全開だ!!」



白銀のプラズマザンバーブレイカーは、さらに威力が上がり、フェイトさんのブレイカーを押し戻す。



「そんな!! さらに威力が!! きゃぁぁぁ!!」



ブレイカーがフェイトさんに命中し、大爆発を起こす。
その爆発の中からフェイトさんが落下していた。

まずいぞ!! 向こうも飛行するほどの力が残っていない。



「プリム!!」

《わかってます!!》



俺は最後の力を振り絞ってワープをし、フェイトさんを地上ギリギリでキャッチすることができたが―――――。

どっちも魔力がゼロになってしまったので、結局は地面に激突してしまった。
高さは、ちょっと高い木から落ちた程度の物なので、たいしたことはなかった。



「あいたたたた……失敗失敗……」

「いたたた……。ごめんね、フィル」

「あはは……まさか、そっちが魔力がゼロになるとはね」

「私も驚いたよ。あそこまで、ちゃんと使えるようになるなんてね」

「プリムのおかげですよ。俺だけだったら怖くて、あそこまで出せなかった」

「やっと分かったみたいだね。いくら魔力があっても、デバイスとの信頼関係がちゃんとしていなかったら、
私もあそこまでの魔法は使えないって事に」



そうだった。いくらフェイトさんがSランクオーバーの魔導師だといっても、バルディッシュが無いと、全力は引き出せないと言うことを……。



「はい……。俺はプリムが壊れるのを恐れていたんですね。こいつはかけがいのない大切な相棒ですから……」

《マスター、それは嬉しいんですけど、ある意味悲しかったです。私は信用されてなかったのかって思いましたよ》

「悪かったな、これからは全力でこき使ってから覚悟しろよ!!」

《望むところです!! それこそが私の生き甲斐なんですから!!》


本当、こいつはいつも俺のことを助けてくれるよ―――――。
プリム、本当にありがとうな―――――。




*     *     *





新暦75年9月5日



ギンガさんが108部隊から出向という形でやってきた。
そして同時に、マリーさんも出向してきた。



「さて、今日の訓練の前に連絡事項です。陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹が今日からしばらく出向となります」

「はい、108部隊ギンガ・ナカジマ陸曹です。よろしくお願いします!!」

「「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」」

「それから、もう一人……」

「どうも……」

「十年前から隊長陣のデバイスを見てくださっている、本局技術部の精密技術官」

「マリエル・アテンザです。もっともフィルは初対面じゃないんだけどね」

「そうですね」

「そうそう、フィル。これが終わったら話があるからよろしくね」

「はい、分かりました」



多分リミットブレイクのことだろう。
なのはさんのやつは完成が遅れていたからな。



「自己紹介も終わったことだし、それぞれの訓練に入るか」

「「「「「「はい!!」」」」」」

「スターズ集合だ。今日もティアナはあたしと一緒に訓練だ。あとルーテシア達は今日はライトニングと合流。合同訓練になる。いいな!!」

「はい!!」

「了解……」

「あいよ」

「それじゃ、すみませんがなのはさんとフィルは、少し私と一緒に来てください。話がありますので……」

「「分かりました」」



なのはさんと俺はマリーさんと一緒にメンテナンスルームへ。
フォワード陣は訓練となった。




*     *     *




「まず、これを………」

「これは!?」

「なのはさんのリミットブレイク、ブラスターシステムです。先日やっと完成したんです」

「本当ですか!!」

「はい、苦労したんですよ。でもその甲斐があって、当初よりもずっと高性能になりましたから。そして身体への負担も、最小限に抑えることに成功したんです!!」



すごい、フィルから話は聞いていたけど、最初に考えていた物より、より洗練されている。
無駄が全くない。



「ありがとうございます。マリーさん……」

「お礼ならフィルに言ってください。彼がいなかったら当初の予定は、もっと負担のかかる物になっていたんですから」

「フィル……本当にありがとう。フェイトちゃんのも一緒に考えてくれていたんだよね」


力を引き出すための訓練をしながら、こういったことまでやってくれてる。
本当、感謝しきれないよ―――――。


「俺はほんの少し手助けしただけですよ。ほとんどマリーさんがやったんですから……」

「何言ってるの!! 肝心なシステムの中枢部はフィルが考えたくせに!! それがなかったらフェイトさんのも出来てなかったんだから!!」

「そういえばフェイトちゃんのって、先に完成してたんですよね?」

「ええ、フィルがすっごく一生懸命になってやっていたから……」

「ふぅ〜ん、やっぱり自分の恋人のは優先してたんだね……。いいですよ、どうせ、わたしのはついでなんだから……」

「な、なのはさん!?」

「冗談だよ。わたしのシステムはピーキーだから、時間がかかるって言うのは聞いてたしね」

「……勘弁してくださいよ」


ブラスターは時間がかかるってのは聞いてたからね―――――。
でも、ちょっとだけジェラシーかな。


「でも、ちょっと妬けちゃうかな……。フェイトちゃんがうらやましい」

「なのはさんなら、いい人なんてすぐに見つけられると思いますけど」

「だったら、フィルがもらってくれる。フェイトちゃんと一緒で良いから……」

「えっ……?」


フィルは本気で驚いた顔をしていた。


「ふふっ、冗談だよ、驚いた?」

「ったく、からかうのも程々にしてくださいね……」

「「あはは!!」」



でもね。あながち冗談じゃないんだよ―――――。
自分じゃ分からないかもしれないけど、あなたは充分魅力的な男の子なんだからね。




*     *     *





「うん、みんな良い感じの子達ね」



デバイスの説明が終わった俺たちは、ティア達と合流していた。
マリーさんもシャーリーさんと話をしていた。

どうやらいない間にギンガさんを含めたメンバーで、隊長達と模擬戦をしていたみたいだな。
なのはさんがいなかった分、若干優位にはなったみたいだけど、それでもやっぱり駄目だったみたいだな。



「エリオ達ですか? それともデバイスの方?」

「両方!!」



どうやら、マリーさんもティア達のことを気に入ってくれたみたいだな。
デバイスを作った身としては、やっぱり気になるしな。

そんなとき、ヴィヴィオがこっちにやってきた。



「おはようございます」

「あっ、えっと、おはようございます」

「おはようヴィヴィオ」

「あっ、失礼します」

「ああ……どうも……ご丁寧に」

「転んじゃ駄目だよ」

「あっ、ザフィーラ久しぶり。シャーリー、あの子は確か?」



フィルから一応は聞いてるんだけど、ヴィヴィオだよね。
なのはさんが預かっているんだよね……。



「ママ、パパ!!」

「ヴィヴィオ」

「危ないよ。転ばないでね」

「うん……ふぁっ……」

『あっ……』



心配してたとおり、ヴィヴィオは転んでしまった。



「大変!!」

「大丈夫、地面柔らかいし綺麗に転んだ。怪我はしてないよ」


なのはさんがフェイトさんを止めて、助けるのを止めた。


「それは……そうだけど……」

「ヴィヴィオ、大丈夫?」

「ふぇ……ふぇぇ……」

「怪我してないよね、頑張って自分で立ってみようか」

「ふぇぇ……ママ……」

「うん、なのはママはここにいるよ」

「ふぇぇ……ぇぇぇん……」



はぁ……。ヴィヴィオ、本格的に泣き始めちゃったぞ。
なのはさんやっていること間違っちゃいないんだけど、あれじゃ子供との距離空きすぎだぞ。



「なのは駄目だよ。ヴィヴィオまだちっちゃいんだから!!」

「ちょっと待って、フェイトさん」

「フィル、どうして止めるの!!」


怒る気持ちは分かるけど、ただ助けるだけじゃ駄目だからな―――――。


「ここは……俺に任せてくれないかな」

「う、うん……」



フェイトさんを引き止めた俺は、ヴィヴィオのそばに寄っていった。



「大丈夫かヴィヴィオ?」

「うぇぇ……パパ……」

「そうだよ、フィルパパだよ。怪我はしてないな」

「うん……ヒック……」

「だったら自分の力で立ってみよう。パパがそばにいて力を貸してあげるから、頑張ろう」

「うん……よいしょ……よいしょ……」


俺は、ヴィヴィオが届くか届かないかの距離で見守る。
本当に駄目なときは助けられるようにだ。



「そうだ、あと少し!! 立てたじゃないか、偉いぞヴィヴィオ」

「うん!! えへへ……」



自分の力で立てたヴィヴィオは、すっごくうれしそうだった。
さてと……。



「お二人に言っておきます。まず、フェイトさんは少し甘すぎです。助けるのは良いけど、ある程度は厳しくしないと自立心がつきませんよ。俺たちにはちゃんと厳しくできるのに、エリオ達やヴィヴィオのことになると甘くなってしまいますね……」

「ごめん……」


甘いのも良いんだけど、時には厳しく接しないと躾が出来ない。
でも、それ以上に酷いのは―――――。


「それより酷いのはなのはさんです。あれじゃただ突っぱねているだけですよ!! やるならちゃんと子供との距離を考えてやってください。遠くで頑張れっていわれても、全く効果ありませんから。教育するならちゃんとコミュニケーションを考えてください!!」

「すみません……」


子育ての経験がないのは分かるけど、母性はしっかりあるんだから、その辺はちゃんとしてもらわなくちゃ困る。

将来、子どもが出来たとき本気で困るぞ―――――。



「聞いてるんですか二人とも!!」

「「はい!! すみません!!」」





*     *     *





「うわ……。なのはさん達、本気で怒られている……」

「スバル、関わらない方が良いわよ。あんたが行くとやぶ蛇になるから……」

「そうだね。あたし達の中で、考え方がフィルに近いのって、ティアだけだしね」

「別にそういう訳じゃないけど、今回は偶々あいつの考え方に賛成なだけよ」



まぁ、どれが正しいというわけじゃないんだけど、なのはさん達のは両極端というだけだし、それの中間がフィルって言うだけね。



「午前の訓練も終わりだし、フィルを止めてご飯を食べましょう」

「「「「「はい!!」」」」」」

「ほら、フィル。いつまでもお説教してないで、ご飯を食べましょう。ヴィヴィオも待ってるでしょう」

「ああ……悪い」

((た……助かった……))


なのはさんとフェイトさんは、こっちに目で感謝してきた。
二人とも相当堪えたみたいね―――――。


「じゃ、一緒に行こうか」

「うん!!」



ヴィヴィオはフィルの手をしっかりつかんでいた。
あいつ、やっぱり世話焼きよ。





*     *    *




「ヴィヴィオ、髪の毛かわいいね……」

「うん……似合ってる……」

「なのはママのリボン」

「アイナさんがしてくれたんだよね」

「うん!!」



訓練が終わって俺たちは少し遅い食事を取ることになった。
スバル、エリオ、ギンガさんといった大食感の連中はとんでもない量を頼んでいた。
エリオとスバルに関してはもう見慣れたけど、ギンガさんも食うのをすっかり忘れていた。

キャロ、ルーテシアは今ヴィヴィオと一緒にこっちにやってきた。
こっちのグループは普通のグループだな。

俺とティア、そしてなのはさん達は一足早く来てみんなを待っていた。


全員がそろうとそれぞれ食事を始めた。




「あ……ん……んふふ……おいしい……」

「よく噛んでね……」

「うん!!」



なのはさんとフェイトさんがヴィヴィオと一緒に食べている。
こうやってみると、ほのぼのしてるよな……。



「しっかし、まぁ……。子供って泣いたり笑ったりの切り替えが早いわよね」

「スバルのちっちゃいころも、あんなだったわよね」

「えっ……? そうだったかな……」



スバルのやつ、いきなり自分の小さい頃のことを言われるとは思わなかったんで照れてるな。



「リインちゃんも……」

「ええっ!! リインは最初っから割と大人でした!!」

「嘘をつけ」

「身体はともかく、中身は赤ん坊だったじゃないか」



申し訳ないが、お二人の意見に賛成だ。
今のリイン曹長をみても……。





*     *     *




「あっ……。ヴィヴィオ駄目だよ。ピーマン残しちゃ……」

「う〜〜。苦いの嫌い!!」

「ええっ……。おいしいよ」

「しっかり食べないと、大きくなれないんだから」

「ううっ……」

「ヴィヴィオ。ちょっとこれ食べてみない?」


ピーマンに苦戦してるみたいなので、ちょっとお節介をすることにした。


「ちょっと、フィル!?」

「なのはさん、文句は後で受け付けますから……。はい、どうぞ」

「いただきます……。うん、ぷるぷるしていておいしい!!」

「そっか……」



ヴィヴィオは本当に美味しそうにゼリーを食べている。
さて、全部食べたみたいだし、そろそろ種明かしをしますか。



「ヴィヴィオ、そのゼリーおいしかったかい」

「うん、とってもおいしかったよ♪」

「よかった。実はね、それはピーマンで作ってあるんだよ」

「「「ええっ!!」」」

「えっ……? ピーマンって嘘でしょう。どう見てもコンソメゼリーだよね」

「信じられない……」


みんな驚いてるな。
これは、俺と食堂のスタッフとで考えた渾身の一品だ。


「これ……ピーマンなの?」

「そうだよヴィヴィオ。気づかなかったでしょう」

「うん……」

「ヴィヴィオ、本当に駄目なら形を変えても食べられないよ。でも、これは食べられたよね」

「うん……」

「だったら、その残したピーマンも食べてみよう……ね……」


今度は、残していたピーマンをヴィヴィオに食べさせ―――――。


「うん……あーん………。んんっ……苦い……」

「よく頑張りました。少しずつ馴れていこうね」

「うん♪」


ちゃんと食べたときは、ほめてあげないとな。


「たいしたもんやな、フィルは」

「はやてさん……」

「一部始終見せてもらったけど、あんな物用意していたとはな。恐れ入ったわ」

「実はこれで終わりじゃないんですよ。そこで、にんじんをエリオに渡そうとしているキャロ!!」

「は、はい!!」



どさくさ紛れに、嫌いなにんじんを処分しようとしていたみたいだけど、ヴィヴィオにやってお前にやらないわけ無いだろ。

二人とも、今日できっちり克服してもらいます!!



「キャロ……。前から思っていたけど、にんじんをちゃんと食べなって」

「ううっ……。ごめんなさい」

「キャロ、今日のパンのジャムは全部食べたろ?」

「はい、甘酸っぱくてとってもおいしかったです」

「あれ、ベースはにんじんだから……」

「ええっ!!」




本日二度目の驚き。こうも術中にはまってくれるとはな。
作ってる側としては本当に気持ちいい―――――。





*      *     *






「嘘……。全然、気づかなかったです!?」

「気づかれないようにするのに、苦労したんだぞ……」

「じゃ、ヴィヴィオのゼリーも、わたしのジャムも、フィルさんの……」

「そういうこと。今日の食事は二人の分は、俺が作ったおかずを混ぜてもらったんだ」

「フィルさん……」

「そういうわけだから、このグラッセ、頑張って食べてみよう。なんなら俺が食べさせてやろうか」



フィルさん、ちょっと意地悪です。
だからわたしも、ちょっと意地悪してみます。



「はい……お願いします……」

「「「「なにぃ!!」」」」

「フィルさん……食べさせてくれないんですか……」


わたしはティーン雑誌で覚えた、男性のツボを突く見上げる視線をやってみた。


「……わ、わかった。ちゃんと食べるな、キャロ」

「はい♪」


フィルさんも例外じゃなく、こういったことには弱いです。


「じゃ……あーん」

「あーん」

「「「「ああっ!!」」」」

「ん……おいしいです。にんじん食べられました!!」

「よかった。でも、食べさすのはもう勘弁してくれよな」

「はい!!」


でも、こうやってフィルさんに食べさせてもらえるなら、またやってみようかなって思ったのは、ここだけの秘密です。



「フィル、自業自得よ。もう少し考えて行動しなさい」

「はい……。痛いほど分かりました……」






*     *     *





「えっと、これで全部のはず……」

「まっ、見つからなかったら勝手に探すわよ。さっさと行ってきなさい」

「そういうことだ。こっちは心配しないでいいぞ」

「うん、ありがとう。ティア、フィル」



本当に御免ね。
いつもいつも、こういった事務作業を二人の負担にしちゃって……。



「あっ、そうだ。スバル、あんたがよく検診の時に買ってきてくれた……あれ……」

「ああっ!! チョコポッド!!」

「そうそう、あたし達も出すから隊長達とちびっ子達の分、買ってきてあげてよ」

「りょう〜かい」





*     *     *





「機動六課の方は、今のとこ順調のようです」

「そっか……。公開陳述会まで間もないからな……。最高評議会の方の動きは?」

「今のとこ……目立った動きはありません」

「引き続き注意する必要があるな……」


評議会に気づかれてしまうと、こちらの動きが取れなくなってしまう。


「中将……。それよりも今注意することは、本局の査察部と一部の部隊が、こちらの動きを調べ回っているようです」

「儂らだけのことなら良い。だが……あいつの……フィルのことまで余計な詮索をさせてしまうのは避けねばならん」

「ええ……」


あいつがしていることは、今後のミッドの……。
そして、地上の未来がかかっている。


「あと、アインへリアルの方はどうだ?」

「3号機まで完成してますが……」

「分かっている。正直あれは使い物にならん。最高評議会の命令で並行してやっているが、あれにはもう予算を回すな」

「はい」



正直言って固定砲台なんて、強力な魔導師が攻めたらひとたまりもないぞ。



「オーリス、引き続き頼むぞ」

「了解しました……」





*     *     *





「二人ともハードワークだと思うけど、調子悪いところとか無い」

「ありませーん。もうめっきり好調で」

「私もです。むしろハードワークって言うのはフィルの方です」

「確かにそうだね。フェイトさんやなのはさんと特別メニューをこなして、それであたし達のデバイスのこともやってたんでしょう。正直あたし達より人間離れしてるよ」

「「「あはは……」」」



あたし達も丈夫さでは自信あるけど、フィルみたいにあんなことは絶対無理。
身体スペックとかじゃなくて、精神的に……。



「それじゃ、定期検診始めましょうか……」

「「はい……」」





*     *     *




「あは〜ん、ウーノ姉様お素敵です〜」

「新しい身体……どう……?」

「良いに決まってるわ。あなたたちの動作データが生きているもの」

「妹たちもみんな順調です〜。ナンバー7セッテ、ナンバー8オットー、ナンバー12ディードも基本動作とIS動作までは完璧です」

「9番ノーヴェと11番ウェンディの固有武装も無事完成……」

「2番ドゥーエ、5番チンクはすでに任務中……良いペースね……」

(うふふ〜、みんな順調に進んでいるわね〜。 私も良いもの手に入りましたしね〜)




待ってなさいフィル・グリード。
あなたが何かを考えていても、そんなもの何の役に立たないってことを教えて差し上げますわ……。





*     *     *




「はい、お待たせしました」

「ありがとうございます。あっ、それとすぐに食べる分3つください」

「はい、お待ちくださいね」



支払いも終わり、スバルが、みんなの分のチョコポッドを持って合流した。



「お待たせ」

「うん、あら今日はまたずいぶんたくさん買ったわね?」

「えん、みんなの分。ギン姉あーん」

「ん、あーん……うん、おいしい」

「えへへ……」


相変わらず、ここのチョコポッドは美味しいのよね。
甘さも程よいし―――――。


「でも、よかった。機動六課でスバルもティアナも、そしてフィルも三人とも生き生きしていて、なんだか嬉しいな」

「まぁ……。色々あったり大変なこともあったりするけれど、六課に呼んでもらって、本当によかったと思ってる」

「親友と一緒にやれて、さらにあこがれの人とも働けるんですもの」

「あっ、ギン姉もあたしの目標なんだよ。もっと強くなっていつか追いつくんだ……」

「ふふっ、そう簡単には追いつかせないわよ。私も追いつかなきゃいけない目標があるから……」

「フィル……だね……」

「ええ、私もフィルから、あの話を聞いて驚いた。そしてフィルは強くなった……。いろんな意味でね……」

「うん……」



そう、フィルは本当に強くなった。
フロントアタッカーである私とスバルが、二人がかりでかかっても勝てないことがある。
本来ならセンターガードなのにもかかわらずだ。



一度フィルに聞いたことがあったけど……。


『実際はギリギリなんですよ。俺はある意味ズルしてますから……』


多分、それは経験と与えられた魔力のことを言ってるんだと思う。
でもそれは、使いこなしている以上あなたの力なんだからね。



「……スバル、この先、フィルが言うとおりだとすれば、戦闘機人戦が間違いなくあるわ」

「うん……」

「………しっかりやろうね。私もあんな未来にしたくないから……」

「大丈夫、あたし達には母さんが残してくれた、リボルバーナックルとそして……」



スバルが出したのはマッハキャリバーだった。



「フィルが作ってくれた、キャリバーズもあるし……」

《Caliburs?》

「マッハとブリッツでキャリバーズ。マッハキャリバー、ブリッツのお姉さんだね」

「……そうね。私のブリッツキャリバーもフィルが作ってくれたんだったわね」

「あの頃、フィルは本当に徹夜続きだったみたいだよ………」


私のブリッツだけでなく、ティアナのクロスミラージュや、なのはさん達の改造プランまで考えてたんだものね。



「本当に、フィルには頭が上がらないわね……」

「フィルが言ってたよ。生きて帰ってきてくれればそれで良い。それが何より嬉しいからって……」

「フィルらしいわね。その気持ちに報いるためにも頑張りましょう、スバル」

「うん!!」



私達は、マリーさんが来るまでずっと話していた。
その車に乗り、六課に戻った。





*     *     *





機動六課、部隊長室



訓練終了後、私となのはちゃん、フェイトちゃん、そしてフィルで今後の対策について話し合っていた。



「今日、教会の方から最新の予言解釈がきた。やっぱり……公開意見陳述会が狙われる可能性が高いそうや。フィルの経験してきたことでもそうやったしな……」

「うん……」

「やはり……」

「もちろん、いつもより警備もうんと厳重になる。機動六課も各員で警備に当たってもらう。ほんまは前線丸ごとで警備させてもらえたらええんやけど、建物の中に入れるのは私たち3人だけになりそうや」


本当なら、フィルにも中に入って警備を担当してもらいたかったんだけど―――――。


「大丈夫……。3人そろっていれば大抵のことは何とかなるよ」

「前線メンバーも大丈夫。副隊長達も、今までにないくらい万全だし……」

「フォワードのみんなも、デバイスリミッターを明日からリミッターをサードにまであげていくしね」

「そっか……。みんな何とか使いこなせるようになったんですね」

「フォワードのみんな、本当に頑張ったんだよ。フィルの足手まといになりたくないって。ルーテシアだって一生懸命にやってたしね」


ルーテシアも本当に頑張ってくれてる。
必死に連携を取ろうと、みんなとコミュニケーションを取っていろいろ聞いたりして努力してるし―――――。


「みんな……」

「ここさえ押さえれば、この事件は一気に好転する。ここが正念場や」

「「うん」」

「ええ」




そう、ここがまさに正念場なんや―――――。
絶対、乗り切ってみせるで!!



時空管理局地上本部 公開意見陳述会まで あと7日



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