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〜 Remember my heart 〜
第12話 ナンバーズ


「うぅぅ……。はっ!!」

「くっ!!」

「ううっ……」


俺達はアギトと名乗る、融合騎の攻撃の前に防戦一方の状態になっていた。
キャロはさっきの攻撃で、意識を奪われてしまってまだ回復していない。

おまけに召喚師の少女が召喚したあの召喚獣は、こっちの戦力じゃ現状じゃギンガさんしか対抗出来ない。
融合騎の攻撃もかなりの連続攻撃で、隙がないし、接近戦能力は無いが、中距離戦には秀でている感じだ。


「ティア、フィルどうする?」

「任務はあくまでケースの確保だ。撤退しながら引きつけるしかない」

「こっちに向かってきている、ヴィータ副隊長やリイン曹長にうまく合流出来れば、あの子達も止められるかも……だよね」

「スバル……救援を期待するな。あっちもガジェットに対応していて、なかなかこれない状態みたいだ」


予想以上にガジェットの数が多くて、全部片付けるにはもう少し時間が掛かるみたいだ。




*    *    *




「ちいぃ、どうなってやがるんだ!! いくら片付けてもきりがない!!」

「幻影と実機の複合パターンなのは分かっているんですけど、こう多いと……」


くそっ!! フォワード達が危ないってのに、これじゃ助けにいけない。
フィル、すぐに片付けるから、なんとかもち堪えてろよ!!





*     *     *



「じゃ、どうするの!?」

「……一か八か、俺のワープでヴィータ副隊長達に合流する」

「ちょっと待って、あんたのワープって一人を運ぶのが限度のはずでしょう!!」

「だから、キャロの力を借りるんだ。俺にブーストをかけてもらい、魔力を一時的にあげる」


リミットを解除してもいいが、時間制限がある以上、デメリットの方が大きい。


「う……ううん……」

「キャロ、気がついたのね」

「はい、すみません……。今まで……。って、どうしたんですか?」


俺はさっきの案をキャロに説明する。
すると、キャロは少し考えていたみたいだが―――――。


「確かにわたしのブーストを使えば、可能かもしれません。でも、それじゃフィルさんに相当の負荷が……」

「大丈夫、俺を信じてくれ。キャロ」

「フィルさん……」


俺にかかる負荷だったら、どうとでもなる。
とにかく今はここを脱出しないと―――――。


「……皆さん、全員を転移させるとなると、かなりブーストをかけなくちゃなりません。すみませんがその間、わたしとフィルさんに敵を近づけさせないようにしてください」

「キャロ……。あんた……」

「分かったよキャロ。あいつらの攻撃は、あたし達が何とか食い止めるよ!!」

「キャロ、フィルさん、お願いします」

「フィル、あなたに賭けるわ。私はスバル達を援護するね」

「みんな……頼むぞ……。だけど、俺とキャロの周りから離れないでくれ」


転移の効果範囲はそう広くない。
なんとかして、相手に気づかれずにやらないと―――――。


「……だったら、あたし達全員でプロテクションを張るから、その間に済ませて」

「ティア、すまない」

「フィル、今はあんたの策に賭けるしかないでしょう。あんたは余計なことを考えないで集中して!!」

「わかった……。その前にヴィータ副隊長聞こえますか。こちらスターズ5、フィル・グリード応答願います」





*    *    *




「なんだよフィル、どうしたんだ。こっちはガジェットの相手で手一杯なんだ」


フィルからの緊急通信が入るが、正直こっちはこいつらを撃退するので精一杯だ。


(時間がないんで簡潔に言います。現在レリックを狙う召喚師と召喚獣と地下で交戦中です。ただ、ここで戦うのはかなり不利なので、転移で場所を移動します)


なるほど、そういうことか―――――。
地上の方があたし達にとっても戦いやすいし、フォローにも回れる。


(わかった。だったら、あたしかリインのどっちかが降りた方がいいか?)

(そうしてもらえると助かります。副隊長達が空にいますと転移した時、投げ出される形になっちゃうのでリイン曹長かヴィータ副隊長のどちらか、ビルか地上に降りてもらえませんか)

「わかりました、私が近くのビルに行きますので、私の魔力を目印にしてください」

(すみませんリイン曹長)




*     *     *




「これで転移が出来るぞ……。やるぞ、キャロ!!」

「はい!!」


俺はプリムと一緒にワープの術式を発動させ、キャロもブーストの準備に取りかかった。
そしてティア達も全員で、俺たちの周囲にサークルプロテクションを張り、攻撃に備える。


「ケリュケイオン!!」

《Boost Up Magic Power》

「我が乞うは、強き魔力……」




*    *    *




「ルールー……。あれってもしかして!?」

「……増幅魔法。ブースト……」

「へっ!! 何するか知らねえが、バリアごとぶち抜いてやる。くらえ!!」


炎の球は俺たちに一直線に向かってくる。


「「「「うわぁぁぁぁ!!」」」」


何とか持ちこたえたが、何度も喰らうとプロテクションが持たない。


「フィル、キャロ。まだなの!!」

「……気高き戦士に……さらなる力を……」


キャロの詠唱が終わると、魔法陣が強く輝き、キャロの両手に力が集められた。


「ブーストアップ、パワーインジェクト!!」


キャロの魔力増幅を受けとると、全身に魔力がみなぎり、広範囲のワープが出来るようになる。


「みんなつかまれ!!」

「うん!!」

「はい!!」

「ええ!!」

「分かりました!!」

「OKよフィル!!」


全員が効果範囲に入ったのを確認し―――――。


「全員つかまったな。いくぞ!!」


次の瞬間、俺たちの姿はこの場から完全に姿を消した。




*    *    *




「リイン、そっちはどうだ。フォワード達の反応はあったか!?」

「まだです。こっちには来てません!!」


フィルに言われてビルに来ていますけど、お願いです。無事でいてください……。


「フィル……。これは!!」

「どうしたリイン!!」

「転送反応あり!! フォワードのみんなです!!」

「本当か!!」


次の瞬間、白色の魔力球に包まれたフィル達が現れた。
転移が成功したんですね。


「フィル、無事だったんですね!!」

「ティアナ達も無事みたいだな」

『はい!!』



*     *     *




「……逃がさない」


合流できたのも束の間―――――。
紫色の転送用魔法陣が現れ、ルーテシアとアギト、そしてガリューが出現した。


「……どうやら、戦うしかないな。だがな、さっきみたいに行くと思うなよ。みんないいな!!」

『おう!!』

「フォワード陣とギンガはフィルの指示に従って動け。あたし達はあの召喚獣を何とかする。お前達は召喚師をなんとか押さえろ!!」

『はい!!』

「散れ!!」


ヴィータ副隊長の合図で、副隊長達は召還獣に、俺たちはルーテシアに攻撃を仕掛ける。




*     *     *




「ふっとべぇぇぇぇぇぇ!!」


あたしの一撃は完全に捕らえたかと思われたが、召還獣がベルカ式の魔法陣を展開し防がれてしまった。


「くっ!! こいつ!!」

《この程度の攻撃で、やられる俺と思うな……》

「こいつしゃべれるのか!?」


召喚獣ってやつは、自分の意志を持っていたとしても言葉を発する事は少ない。
ってことは、こいつはかなりの力を持ってるのか!?


《俺は巫女を……ルーテシアを守るために存在する。そう簡単にやられるわけにはいかん》

「そうかよ……。だったらこれならどうだ!!」

《!!》


あたしは自分の周りに幾つもの鉄球を出現させた。
シュヴァルベフリーゲン―――――。

通常ならグラーフアイゼンで撃ち出さなくてはならない。

だけどな……。


《無駄だ……。お前は古代ベルカの騎士みたいだが、察するにその鉄球は単体では威力はないはず……。打ち出す時間など与えん!!》

「……はん!! 言ったろ。ベルカの騎士を甘く見るなって……。こいつは、こういう使いかたもあるんだ!!」



合図と同時に、鉄球は一斉に召還獣に放たれる。
アイゼンでぶっ叩いてないから、威力は100%じゃないけど……。


《くっ……だが、この程度ではやられん》


確かにこの鉄球は足止め程度にはなっているが、倒すほどの威力はない……。


「何度も言わせんじゃねえ!! あたしをなめんなよ。こいつが本命だ!!」


アイゼンをギガントフォームにスイッチし、フルパワーで思いっきりフルスイングでぶっ叩いた。


「ふっとびやがれ!!」

《しまっ……》


召喚獣も気づいたが、時すでに遅し。
ギガントフォームの一撃が、決まり近くのビルに叩きつけられていた。





*    *    *





副隊長達が召喚獣と戦っている時、あたしたちもルーテシアとアギト、そしてルーテシアの召喚した新たな召喚虫と戦っていた。


「なんなの!! このデカブツは!!」

「気をつけろ!! こいつは重力で相手をつぶすだけでなく、放電能力もある。そいつを喰らったらバリアジャケットがあっても、しばらく動けないぞ!!」

「分かってるわよ!!」


フィルから事前に、こいつらのことは聞いているけど、実際に遭遇するとやっぱりやっかいよね。
副隊長達があっちを押さえてくれているから、こいつだけですんでいるけど……。


「ティア、呑まれるな。召喚虫が厄介と言っても、俺たちで何とかなる奴だ。それにルーテシアを押さえれば……」

「……そうね。あいつは自立行動は出来なそうだから、召喚師を押さえればどうにかなるわ。あとはあの融合騎ね……」


召喚師さえ押さえてしまえば、あのデカブツは力を発揮することが出来なくなる。


「フィル、あの融合騎はあたしが何とかするから、あんたとスバルで召喚虫のほうを押さえて!!」

「分かった。お前のサポートはギンガさんに任せる。頼むぞティア!!」

「あんたの方こそ、ドジ踏むんじゃないわよ!!」

「確かにな……。行くぞ、スバル!!」

「うん!!」

「ギンガさんは、あたしのサポートをお願いします。……散って!!」




*     *     *




ティアの合図を切欠に俺たちはそれぞれの相手に向かっていった。
俺とスバルは地雷王に、ティアとギンガさんはアギトに……。



「スバル、俺がシューターであいつを攪乱するから、お前はその隙を突いてディバインバスターを叩き込め!!」

「でも、あいつかなり身体が硬いよ。普通に撃ち込んでも……。それに、電撃で迂闊には打ち込めない!!」

「それについては俺に考えがある。俺を信じてくれ」


うまくいくかどうか分からないけど、やってみる価値はある。


「……分かった。今はフィルの作戦を信じるよ」

「任せなって………プリム、カートリッジロード」

《了解です》


カートリッジを2発ロードし、俺はスフィアを展開する。


「うそ!? そのスフィアの数!!」


スバルは驚いているが、たがが16個のスフィアにすぎない。
現になのはさんなんて、この倍以上のスフィアを自在に操ってるんだぞ。


「……言ったと思うが、未来ではこのくらいのことは当たり前にしてたんだ。それになのはさんなら、この位あっさりやるぞ……」

「そ、そりゃそうだけど……」

「とにかく、あいつの動きが止まったら全力でぶちかませ。いいか、チャンスは一回だぞ」

「分かったよ、フィル」

「……いくぜ、ブラストシューター!!」


一斉に放たれたスフィアは、地雷王の周りを攪乱するが、攻撃は一つも当たっていない。
だが、これがこっちの狙いなんだ―――――。


《ウォォォォォン……》


「よし……奴さん。俺に集中してきたな」

《ええ……地雷王はスフィアしか見ていませんね。シューターが、かなりイライラするみたいですね》

「ルーテシアも地雷王を信じて、何かをする様子は見られないな。だがな、ブラストシューターは、攻撃用に撃ったんじゃない。こいつはあくまで囮だ」


そう、スフィアはあくまで囮、こいつで攻撃したって、ダメージは与えられないのは充分分かってる。


《でも、それも限界ですね。これ以上は危険です》

「分かっている……。本命はこれからだ。やれ、キャロ!!」

「はい!! 錬鉄召喚、アルケミックチェーン!!」


地雷王の足下に魔法陣が展開され、周囲から拘束用の鎖が召喚され、全身を捕縛する。
地雷王が暴れて鎖を引きちぎろうとするが、鎖はびくともしない。

おまけにこいつは鋼鉄の鎖だ。
地雷王が電撃を出してもアースの役割で、全部地面に吸い込ませられる。


《ウォ……ウォォォォン!!》

「地雷王!! ……くっ!!」

「おっと……そうはさせないぜ。ルーテシア、お前の相手は俺がする」

「フィル……グリード……」


牽制用のバレットはギリギリでかわされてしまったが、動きを止めることは出来た。




*     *     *



「スバル、キャロが動きを止めているうちにやれ!!」

「オッケー!! 行くよマッハキャリバー!!」

《了解です。ウイングロード展開》

「一撃……必倒……ディバイン……」


こいつを昏倒させるには、普通に撃っても効かない。
眉間に……それもゼロ距離で撃つしかない!!


「スバル!! 無茶だ!!」

「フィル、あたしを信じて!! 絶対に決めるから!!」


そう、この位出来なきゃ、これから先は戦っていけない。
絶対に決める!!


「バスター!!」


《グォォォォォォン!!》


ディバインバスターは、地雷王の眉間に正確にヒットし、意識を刈り取った。


「やった!! ってうわぁぁぁ!!」

「スバル!!」


ディバインバスターを命中させたはいいがバランスを崩してしまった。


《sonic move》

「きゃぁぁぁ!! ……ってフィル?」


バランスを崩して、地面に激突する寸前フィルが高速移動で助けてくれた。


「ったく、お前って奴は本当に後先考えないな。攻撃に全てを使っちまったら、ああなるに決まっているだろ」

「えへへ、ごめん。だけど今のあたしにはあれしか通じそうになかったから。それにフィルがいたからフォローはしてくれるっておもったんだ」


実際ソニックムーブで助けてくれたしね。
でもフィルがいなかったら、もっと安全策でいったよ。




*     *     *




「確かに全力でぶちかませって言ったのは俺だからな。ああなるとは予測してたけどな……」

「本当は助けてもらってばかりじゃいけないんだけどね。だけどフィルがいるって思うとあたし達は全力で戦えるんだよ」

「……だったら、もう少し配分を考えて戦え。そんなんじゃすぐ倒れちまうぞ」


ペース配分が出来なきゃ、長期戦なんて出来ないぞ。
スバルの良いところは真っ直ぐな所なんだけど、こういうときは弱点にもなりかねないからな。


「うん、そうだね。戦いはこれで終わる訳じゃないんだからね」

「ああ、地雷王は押さえたが、まだ……」


そう、召喚師であるルーテシアを押さえなくちゃ意味がない。
スバルはさっきのディバインバスターで殆ど余力が残ってないし、キャロもさっきのブーストとアルケミックチェーンで、相当の負担がかかってしまった。



「地雷王……戻って……」



どうやら地雷王は、送喚したみたいだな。
あとはルーテシアを止めるだけだな。




*     *     *





「地雷王!! ちっくしょう!! やりやがったな、あいつら!!」

「あんたもいい加減に観念しなさい。あたし達をなめすぎたのが、あんた達の敗因よ!!」

「うるせぇ、まだあたしは負けてねえ!! これでもくらいやがれ!!」


なに、あのでかい魔力球は……。
大きさから推測して、くらったら間違いなくノックダウンされる。


まずいわね、あっちは空、こっちは地上。
迎撃しようにも、空戦が出来ないあたしじゃ……。


「ティアナ、ここは私に任せて」

「ギンガさん?」

「あれが発射されるには、少しタイムラグがあるわ。あたしが囮になる」

「でも、ウイングロードじゃ気づかれてしまいますよ」


ウイングロードでは、空中に道を作る必要があるし、第一それを許してくれるとは思わない。


「だから、貴女の幻術が必要なのよ」

「そういうことですね……。分かりました、やってみます!!」


ギンガさんの考えてることが分かり、あたしはすぐに実行に移る。


「頼むわよティアナ。じゃ……」

「ええ……」

「「GO!!」」




*    *    *





「へっ!! 何小細工しようといてるか知らねえが、こいつでまとめてぶっ飛びやがれ!!」

「これでも喰らいなさい!!」

「そんなへなちょこ弾に当たるかよ!!」


そんな攻撃に当たってたまるかよ!!
こいつの攻撃はおとりだ。


こいつらの本命は……。


「反対側にいるてめえの方だ!! くらえ!! 轟炎!!」


こいつを倒しちまえば、あのオレンジ髪の奴なんて大したことない。


「……ふっ、甘いわね」

「う、嘘だろ!! 受け止めやがった!!」


あたしの最大攻撃魔法をうけとめやがった―――――。
こっちはフルパワーでやってるのに!!



*    *    *




「ギンガさん、もう少しだけ頑張ってください……」


あの融合騎はあたしが作った、シルエットあたしに気をとらわれている。
もっともあたしのシルエットのシューターに気づかれたら、それまでなんだけどね。
未熟なシルエットは、ギンガさんのフォローで何とかカバーできる。


「ここからが本番ね、クロスミラージュ!!」

《yes》

「距離はギリギリだけど、やってみせる!!」

「これくらいやらなきゃ、フィルと一緒には戦っていけない……」


今のあたしに使える最高の砲撃……。
なのはさんが教えてくれた、クロスファイアの最終形態。


《ティアナ、集中してください。スフィアは多く展開しなくていいですから》

「それは分かっているんだけど……」

《集束系は集中力が大事なんです。少ない魔力でも一点に集めれば破壊力は増します。フィルのブラストブレイザーと同じ原理です》


とはいっても、やっぱりきついわね。
なのはさんもフィルも本当にすごいわ。これだけの魔法を実戦で使いこなしてるんだから―――――。


―――――でもね。


「ランスターの弾丸に、貫けない物はないのよ!!」


次の瞬間スフィアは一点に集まり、一つの魔力球となった。




*    *    *



(集束反応……ティアナね……。だったらこれで私の役目は終わりね。この魔力球も、ここで押さえておく必要はないわね)

「はぁぁぁぁぁ!!」

「まじかよ!! あれを蹴り飛ばしやがった!!」


あたしの轟炎を……。
非常識にもほどがある……。


「おい、逃げる気か!!」


おかしい?

あたしに攻撃をするわけでもなく……。
なんだこの反応は……魔力反応!?


まさか!! こいつらの狙いは!?




*    *    *





「気づくのが、少し遅かったわね」

《集束完了、今です!!》

「いっけぇ!! クロスファイアシュート!!」


引き金を引かれたクロスファイアシュートは、一直線にターゲットに向かっていった。


「し、しまった!! かわせるか!!」


クロスファイアはギリギリでかわされてしまったが、リイン曹長が隙を突いてバインドをかけ、動きを封じることに成功した。


「「リイン曹長!!」」

「二人ともよく頑張りましたね。フィル、こっちも捕まえましたですよ」




*    *    *




「アギトまで……」

「ルーテシア……」


俺が彼女の近くに行こうとすると……。


「来ないで!!」


召還された紫色のダガーが俺の右肩を貫く。
貫かれた痛みで、俺は意識が朦朧とし始める―――――。


アギト達が捕らえられて、我を忘れているな。
魔法が殺傷設定状態になっている。


「フィル!!」

《マスター!!》

「………く、来る、な。スバル」

「何言ってるのよ!! 相手はあんたを殺す気なのよ!!」


いつの間にかティアとギンガさんが合流していた。
どうやら、そっちはうまくいったみたいだな。


「ティア、ここは俺に任せてくれないか……。頼む……」

「フィル……」


未来では、この女の子を死なせてしまった。
この子は、俺がお世話になったあの人の子だったのに―――――。


今度は絶対に死なせない!!


―――――俺の命に代えてもだ!!



「分かった……。でも、死んだら許さない!!」

「すまん……」

「ティア!! どうして止めないの。このままじゃフィルは!!」

「スバル、いくら言っても無駄よ。ああなったフィルは止められないって、昔から知っているでしょう」

「……うん」


みんな、本当に済まない―――――。
俺のわがままを聞いてくれて……。


「今はフィルを信じましょう……」




*     *     *




「ぐっ……ぐわぁ!!」

《マスター、これ以上は危険です!! 攻撃してください!!》

「駄目だ……」

《何でなんですか!! このままじゃマスターが死んでしまいます!! せめてプロテクションだけでも!!》


マスターの身体は、ダガーの攻撃で全身傷だらけです。
最も酷いのは、右肩と左足に刺さったダガーだ。


―――――もしかしたら、動脈も切っているかも知れない。


出血が全然収まりません!!



「駄目だ!! プリム、これは最初で最後のチャンスなんだ。ルーテシアに魔法の本当の怖さを教える……」

《どういうことですか……?》

「いいか、ルーテシアは母親を取り戻すためだけに、簡単に殺傷設定にしてしまっている。それではいつか本当に殺人鬼になってしまう」

《だからといって!!》


このままじゃ、マスターは本当に死んでしまいます!!
せめて治療魔法で傷を塞がないと―――――。



「未来で、キャロと同士討ちになったのは覚えているな。あのとき……キャロに殺傷設定の魔法を何発も使っていた。キャロは最後までルーテシアを信じ……攻撃を受けていた」

《!!》

「そして、キャロは最後の力で、何とか白天王を止めたけど……」

《そう……でしたね……》



キャロがしたのは、ヴォルテールで白天王と相打ちにすることでした。
二つの強大な召喚獣の力が激突して、二人とも助からなかったんです……。



「だから、ここでルーテシアに、人を傷つけることの怖さと命の重さを伝える……。殆ど賭だけどな……」



マスター……全くあなたって人は……。



《分かりました……でも、せめて右肩と左足の傷は私が治しますよ。そんな傷があったら伝える前にマスターが死んでしまいますから……》

「サンキュー……相棒……」




*      *      *




プリムに治療魔法を掛けてもらうと幾分か回復した。
右肩と左足の治療に集中したせいで、他の所は殆ど代わっていなかったが、大分ましになった。


「まだ……来るの……来ないでよ!! なんで、何で倒れないの!!」

「倒れるわけにはいかないんだよ……お前が……間違いに気づくまでな……」

「なんで……私……何、間違っているの。私はお母さんを助けたいだけなのに!!」


その思いは痛いほど分かる。
だからといって、人殺しの魔法を使って言い訳じゃない!!



「母親を助けたいからと言って、平気で人に殺傷設定の攻撃魔法を使うな!! それと召喚獣達にむやみな殺しをさせるんじゃない!!」

「違う!! ガリュー達にそんなことさせてない!!」

「ガリューはともかく、自立行動のとれない他の召喚獣達は、お前の行動一つで決定するんだぞ!!」


召喚獣は、召喚師の意志で行動が決定する。


「私、殺しなんてやってない!!」

「こっちを見てみろ、ルーテシア!!」

「……あ……あぁ……」


ルーテシアは、血だらけの俺を見て驚愕している。
出血多量で、意識を保つのも辛いけど、ここで倒れるわけにはいかない。


ルーテシアに人間としての感情を取り戻させるまでは―――――。



「ちゃんと見るんだ……。ルーテシア……・」

「私……何を……」

「いいか、お前の感情一つで簡単に人を殺せるんだぞ。お前の持っている力はそう言う物だ……」

「あ……あぁ……」


ルーテシアの奴、どうやら理性を取り戻してきたみたいだな。
混乱はしているが、今なら話も聞いてくれる……。


「あっ……」


俺は出来るだけ優しく彼女を抱きしめる。
これ以上責めるのは逆効果だから―――――。


「でもな……。お前がちゃんと気づいてくれれば、俺はそれでいい。お前はまだ、誰も殺していないんだからな」

「だけど……だけど、あなたが……」

「心配するな、死にはしないよ。この程度ならな」


こんな程度でくたばっていたら、未来では何十回って死んでいる。


「でも!!」

「だったら俺がちゃんと教えてやるよ。お前の力の正しい使い方を、そして……」

「何より、俺は……お前の友達になりたい」

「とも………だち……?」

「ああ、友達だ。今まで独りぼっちだったんだろ。母親がいなくなってから、ずっと……」

「……うん」




*     *     *




確かにアギトもガリューも、一緒にはいてくれたけど……。


「俺は……お前と友達になって、お前の笑顔を見たい。それじゃ駄目か……?」

「いいの……。私で……?」


本当に甘えていいの。私……。
この人は管理局の人なのに、だけどすごく暖かい物を感じる。

まるで……。



「ふぅ……お前の場合はこっちが待つよりも、多少強引にやった方がいいみたいだな。いいか、もうお前は俺の友達だ。お前が嫌わない限りな……」

「うん!!」

「良い笑顔だ。よろしくなルーテシア」


こうして抱きしめてもらっていると、なんか心が温かくなる。
何でだろ……不思議だな……。




*     *     *




『フィル!!』

「フェ、フェイトさん!?」


いつの間にフェイトさんから通信が入ったんだ。
いったい、誰が?


『また、無茶やったの!! その傷だらけの身体はどういう事!?』

《聞いてくださいよ、フェイトさん。マスターったら、本当に無茶なことをして……》

「こらプリム、余計なことを言うんじゃない!!」


こんな事フェイトさんにばれたらどうなるか!!
案の定、画面のフェイトさんは笑顔なんだけど、目が笑ってない―――――。



『説明………してくれるんでしょうね』

「は、はい……」


俺はさっきまでのことをフェイトさんに報告する。
するとフェイトさんは……。


『……ば、か』


嗚咽をこらえながら……。


『どう、して……どうして、いつもいつも無茶ばかりする、の。本当に、心配したんだよ……』


通信はそこで切れてしまった。


俺は何も言えなかった。
なのはさんにも言われていたのに、好きな人を泣かして……。



「フィル、あんた、帰ったらフェイトさんにちゃんと謝りなさいよ。さっきだって、ブーストかけてのワープなんてやってるんだから……」

「……ああ」



ティアの言うとおりだ。
ちゃんと、フェイトさんに謝ろう。




*     *     *






「おーい、お前ら無事か?」

「ヴィータ副隊長!! 無事だったんですね」

「あたしを誰だと思ってるんだ。ほれ、連れてきてやったぞ」

「ガリュー!!」


ヴィータ副隊長が連れてきたのはガリューだった。
傷だらけの戦士に、バインドを掛ける真似はしなかった。


『ルーテシア、無事か』

「うん、ガリュー……ごめんね。私が無理を言ったから」

『気にするな。それと良かったな……』

「えっ?」

『リンクでお前の気持ちが伝わってきた。良き仲間が出来たみたいだな……』

「うん……」

『仲間を……友を大切にな……』

「ありがとうガリュー……ガリューも傷だらけだよ。戻って傷を癒して……」

『そうさせてもらう……。また、必要な時は呼んでくれ』

「うん……」


ガリューはルーテシアが送喚用の魔法陣を作るとそこに入っていった。





*    *    *

 



「さてと、こっちは何とかなったけど……」

「なのはさんとフェイトさんは、さっきの通信でもう片が付いて、こっちに向かっているって聞いたけど……」

「それでもかなりの距離だからな。しばらくは掛かるだろうな」


ここから、フェイトさん達がいるところまでは結構距離がある。
戻ってくるまで時間がかかる。


「はやての方も、ガジェットが幻術と実機で多数出現したけど、そろそろカタが付きそうだしな」

「でも、フィル。あんた本当に大丈夫なの? その傷……」


今、俺はキャロとルーテシアに治療魔法をかけてもらっている。
ルーテシアが自分のせいでこうなってしまったんだからといって、治療魔法をかけてくれていたんだけど、
途中からキャロも一緒にかけてくれた。

キャロ曰く、この傷は二人でかけても、この場では完全には回復しないとのことだ。



「大丈夫だ。キャロとルーテシアにやってもらったからな。かなり楽になったよ」

「本当にごめんなさい……。私のせいで……」

「ルーテシア、もう気にするな。ほら、そんな泣き顔じゃなくて笑顔の方が良いぞ。俺は大丈夫だから……」


そんな泣きそうな顔だと、こっちも辛い。
女の子は笑顔の方が良いんだからな―――――。


「うん……」


まぁ、気にするなと言っても、なかなか厳しいかな。
でも、無理した甲斐はあった。

エリオにキャロ……そしてルーテシア……。
これで3人を、あんな形で戦わせなくてすむんだから……。





*     *     *





廃ビルの屋上に水色のボディスーツの上にケープを纏った、大きな丸メガネの少女。


そして―――――。


自分の身長よりも大きな長物を杖のように立て、遠くを見渡していた少女がいた。



「ディエチちゃ〜ん、ちゃんと見えてるぅ?」

「ああ。遮蔽物もないし、空気も澄んでる。よく見える」


少女は左目の瞳孔がまるで望遠レンズのように収縮し、遥か遠くを睨んでいた。
その瞳で捕捉しているのは、機動六課のヘリ、JF704……。

ディエチちゃんが砲撃の準備をしていると、通信ウィンドウが開いた。



『クアットロ。ルーテシアお嬢様とアギト様が捕まったわ』

「あ〜ら、それはまた………フォロー……します?」

『……良いわ。あの様子だと、もう取り戻せそうにないから、セインにも撤退してもらったわ……』

「そうですか……。じゃ、あれ処分しましょうか……」


駒がもうこちらの思うようにいかないのなら、あれはもう置いておく必要なありませんものね。


『それなんだけど……。あれはもう無いわ』

「どういう事ですの、ウーノお姉様!!」

『………やられたわ。フィル・グリードにね』





*     *     *




リイン曹長にBCCを解除してもらった後、みんなはルーテシアのお母さん、メガーヌ・アルビーノさんのことを考えていた。


「でもどうするの? スカリエッティがルーテシアのお母さんを人質にしていると、こっちにルーテシアが来ちゃうと……」

「そうだよ、ルーテシアと友達に慣れたのは嬉しいけど、あっちにとっては裏切り行為になっちゃってるよ」

「そうだぜ!! あの変態とアバズレ。ルールーのお母さんを殺しちまう!!」

「………うん」

「フィルさん、このままじゃ殺されちゃいます!!」

「フィルさん、何とかならないんですか!!」


みんなメガーヌさんのこと、心配してくれているんだな。
さっき仲間になったばかりだって言うのにな。


ホントこいつらは、俺には出来過ぎた仲間だよ。


《マスター、もう種明かししても良いんじゃないですか?》

「そうだな、そろそろクアットロ達も、事の異変に気づいていると思うしな」

「おい、フィル。何か隠してるんだったら言えよ。何となく予想は出来るんだけどな。ルーテシアの関係する事だろ……」



あれ? ヴィータ副隊長、もしかして感づいてます。
そんなに俺、隠し事下手ですか?

まぁ、それはともかく―――――。


「あのな、もう隠していても意味がないから言うけど、ルーテシアのお母さん。メガーヌ・アルピーノさんは俺が助け出してるぞ」

「「「「「「ええっ!!」」」」」」

「やっぱりな……」

「だと思いました……」


フォワードのみんなとルーテシア達は驚いていたが、リイン曹長とヴィータ副隊長は、やっぱりかって顔をしている。


「副隊長とリイン曹長は驚かれないんですね……?」

「お前が、考えなしでこいつを保護するとは思わなかったからな。絶対事前策を取ってると思ってた」

「今までのフィルの行動を考えれば、この結論に達するのは簡単ですよ」

「本当に勘が良いですね。お二人の予想通り、スカリエッティの事を調べている時に、偶然発見したんですよ」


俺がスカリエッティの基地を探っている時、すでに基地は破棄していたが、人造魔導師や戦闘機人の
素体がそこにはたくさんあった。

そこで見つけたのは―――――。

メガーヌ・アルピーノとかかれていた生体ポッドだった。


「基地を破棄していたせいか、生命維持装置がもう限界状態だったんだ。すぐにポッドから出して、とある所に連れて行ったんだ」

「とある所? お母さんは無事なの!! どこにいるの!?」

「大丈夫、発見したのが早かったから無事だよ。それと11番のレリックはもう必要ないからな。まぁ、後のことは六課に戻ってから話すよ。ここじゃ誰が聞いているか分からないからな」


あのクアットロのことだ。近くにスパイ用のサーチャーかなんかがあっても不思議じゃない。
迂闊なことを言ったら、今まで秘密裏にしてきたことが全てお釈迦になってしまう。


「そうですね。詳しいことは六課に戻ってからにしましょう。レリックの確保もありますしね」

「キャロ、それじゃお願いね」

「はい」


キャロはレリックの封印作業を開始した。
これでもう大丈夫だな。




*     *      * 




『こないだ、メガーヌ・アルピーノのことで破棄した基地内を調べていたんだけど、すでにポッドから奪還されもぬけの殻だったわ』

「……忌々しいですわ。ディエチちゃん!!」

「なに……」

「作戦を変更しますわ。六課のヘリ、完全に撃墜しますわ!!」


予定とは違いますが、ここまで狂わされてしまったのでは、癪に障りますわ!!


「でもいいのか? クアットロ。撃っちゃって……ケースもマテリアルも破壊しちゃうことになる」

「ドクターとウーノ姉さま曰く、あのマテリアルが当たりなら、本当に聖王の器なら、砲撃くらいでは死んだりしないから、大丈夫……だそうよ。それに……」

「ここまでコケにしてくれた、あのフィル・グリードに、これ位しなければ気が済みませんわ!!」

「まぁ……いいけどね……」


ディエチはイメースキャノンでヘリの狙撃準備に取りかかった。
まぁ、私もあの男にやることがありますわ……。




*     *     *





「ふう……封印完了です」

「ご苦労さん、キャロ」

「えへへ……はい!!」


俺がキャロの頭にポンと置いてやると、すごく喜んでいた。
訓練の時もこうしてやると、キャロはいつもご機嫌になる。


理由はよく分からんが―――――。


事件はこれで、終わりのはずだが………。
まてよ!? 



「しまった!! ヘリの護衛に行かないと!!」

「おい、待てよ!! お前はフォワード達と一緒に戻れ!! その怪我じゃ無理だ!!」

「ヴィータ副隊長、まだ終わっていないんです。クアットロは間違いなくヘリを狙っています。だから急いで向かわないと!!」


そうだった。ルーテシアのことでヘリのことを忘れていた。
あいつのことだ、絶対狙撃してくる!!

そんなとき……。


『ごきげんよう、六課の皆さん……』

「「「「「「!!」」」」」」

「……クアットロ」

『お初にお目に掛かりますわ。私はクアットロ。ドクターの最高傑作の一人ですわ』


ついに出てきやがったか、クアットロ。
相変わらず、その面を見るだけで反吐がでやがる!!


「出やがったな、アバズレ!!」

『あ〜ら、誰かと思ったら、欠陥融合騎のアギトさんじゃありませんか〜』

「なんだと!!」

「落ち着けって、何の用だ!! クアットロ!!」

『フィル・グリード……。あなたには、随分煮え湯を飲まされましたので、こちらもそれ相応のことをと思いましてね……』

「何をする気だ。メガーヌさんはこっちの手にあるし、ルーテシアのBCCも解除してあるぞ」


BCCさえなかったら、ルーテシアが暴走して白天王をよびだすことはない。
お前の野望もこれでお終いだ!!


『くっ!! 本当に忌々しいですわ。ですけど、その余裕も今の内ですわ〜』




*     *     *





「見えた!! 良かった、ヘリは無事……」


ガジェットはなのはに任せ、私は何とかヘリを目視で捕らえられる距離まで来ていた。
正直なのはだけに任せるのは心苦しかったけど、何かさっきから嫌な予感が止まらないんだ。

それに、もしヘリに長距離砲撃が来たら、今の私の位置からじゃ間にあわないかもしれない……。


そしてその事が、現実の物になろうとしていた。



『市街地にエネルギー反応!!』

『大きい……』

『そんな……まさか!!』

『攻撃のチャージ確認……物理破壊型、推定Sランク!!』



そんなチャージ時間が早い!! 
あの威力だったら、もっと時間が掛かるはずなのに!!
このままじゃ、ヴァイスとシャマルが!!



「バルディッシュ!! ソニックムーブ全開!!」

《yes、sir sonic move》





*     *     *





「インヒューレントスキル、ヘヴィバレル……発動」


廃ビルの屋上では、イメースカノンを構えたディエチちゃんが、エネルギーチャージを行っていた。
私は口の端を歪め、話しかけることにした。


「バカな!! もう発射態勢になっているなんて!!」

『驚きましたか。これがドクターの技術ですわ。あなた達の常識じゃ無理でしょうけどね』


精々悔しがりなさい。
目の前で絶望を見るのは、本当に快感ですわね♪


「くそっ!! 間に合うか!!」

『無駄ですわ、もう発射しますわ〜。 フィル・グリード、あなたは”また”何も守れませんわ……』

「!?」

「発射……」


ヘヴィバレルは一直線にヘリに向かっていた。
間違いなく砲撃はヘリを捉えますわ!!



『フィル、心配しないで!! あれは、私が止める!!』

「フェイトさん!!」




*     *    *





ソニックムーブで、何とか発射線上に着いた私は、急いでシールドを展開した。


「バルディッシュ、ラウンドシールド展開!!」

《Round Shield》

「くっ!! なんて衝撃なの!!」

《このままだと、シールドが持ちこたえられません……》


ラウンドシールドが砲撃に耐えられなくてひび割れをし始めてる。
このままじゃ―――――。


「頑張ってバルディッシュ!! なのはがもう少しで来るから……」

『その期待は無駄ですわ。フェイトお嬢様』

「クアットロ!!」

『高町なのはは、トーレお姉様が押さえてますわ。いくら待っても無駄ですのよ〜』

「くっ!!」





*     *     *




「ここから先には、行かせるわけにはいかん」

「あなたは、誰なの?」

「私はトーレ。戦闘機人の一人だ」


せっかくガジェットを、全滅させてきたって言うのに……。
この人、とんでもない戦闘能力を持っている。
今のままじゃ、勝てない!!


「レイジングハート、エクシードモード、ドライブ!!」

《igunision》


杖はエクセリオンモードを改良した形になり、バリアジャケットも短期決戦用の物に切り替わる。


「そこをどいてもらうよ。わたしは、フェイトちゃんを助けに行かなきゃいけないんだから!!」

「通れる物なら通ってみるが良い!! IS、ライドインパルス!!」

「エクシードモード、A.C.S始動!!」


ACSとインパルスブレードの激突で、空中で大爆発が起こった。




*     *     *





『そう言うことですわ。諦めなさい、フィル・グリード』


クアットロは嫌ったらしい笑いをして、通信を切った。


「くそったれ!!」


俺は急いで、リミットを解除しようとしたが―――――。


《無茶です。今解除したら身体が持ちません!!》

「今は、そんなこと言ってる場合じゃない!!」

《駄目です!! 死ぬつもりですか!!》

「プリム、俺はもう愛する人を失うのはたくさんだ!! フェイトさんが死ぬかも知れないってのに、黙っていられるか!! ぐっ……」


今ここで、やらないでどうするんだ!!
また、あの悲劇を繰り返す気か!!


ティアを……目の前で失った時みたいに……。



《その身体では立っているのがやっとです!! いくら何でも無茶です!!》

「畜生……動きやがれ!! 俺の身体!!」


なんとか立ち上がり、魔力を振り絞ろうとするが、ダメージが酷く集中力が出ない。
せめて、痛みさえなかったら―――――。



「フィルさん!!」

「キャロ……」


キャロが俺に治療魔法を使うと、痛みが引いていく。
これは、さっきのと違う魔法か?


「フィルさん、今使ったのは、痛みを止めただけです。傷口がふさがったわけではありませんので、無理はしないでください……。っていっても無理ですよね」

「すまないキャロ。リミットリリース!!」


リミットを解除すると、魔力が溢れてきた。
制限時間は15分……絶対に止めてみせる!!


「フィル、急げ!! フェイトはもう持たないぞ!!」

「間に合ってくれ!!」





*     *     *




『フェイトちゃん、今行くから待っててな!!』


私は全速力でフェイトちゃんの元へ飛んでいるが―――――。

私の位置からじゃ、間に合わない。
そんなことは分かってる!!

それでも、やらずにはいられないんや!!


「無理だよ……はやて、そこからじゃ間に合わないよ……。それにもう持たない……かな……」

『諦めたらあかん!! 最後まで希望を捨てたら駄目や!!』

「ごめんね……みんなのこと……フィルのことお願いね……」


フェイトちゃんはもう完全に諦めちゃってる。
あかん!! それだけは絶対にあかん!!


『バカなこと言わんといて!! フェイトちゃん、フィルを一人にする気か!! 大切な人に……愛する人に、これ以上悲しみを背負わす気か!!』


フェイトちゃんは、リインフォースみたいに全てを託して、フィルに悲しい思いをさせる気なんか!!
私はそんなの絶対に許さへんよ!!


「はやて……まさか!?」

『知ってるに決まってるやろ!! 私をナメたらあかんよ。私はな、フェイトちゃんが本当の笑顔を見せてくれるようになって、本気で嬉しかったんや。だから……あえて黙っといたんや!!』

「はやて……」


フィルと一緒いるときのフェイトちゃんは、本当に良い笑顔を見せていた。
その笑顔は、私やなのはちゃんも本当に嬉しい気持ちになったんや―――――。



『だからそんな簡単にあきらめたらあかん。そんなんじゃフィルが怒るで!!』

「そうですよ。フェイトさん……」

「えっ……」


どうやら、お姫様を守る騎士の登場やな―――――。
あとは、まかせたで。





*      *      *





「……フィル、なの?」


そこに現れたのは、ボロボロのバリアジャケットをまとったフィル。


「間に合ってよかった」

「ど、どうしてここに……。立ってるのがやっと、なのに」


さっきの通信で見た感じ、戦うなんて絶対無理なのに。
傷だらけのフィルを見てるのがつらくて、思わず通信を切ってしまったくらいなのに……。


「理由なんかないさ。大切な彼女を助けに来た。ただ、それだけさ」

「ば、か……。ほんとうに、ばか、だよ。私のために、無茶をして……」



そうやって、傷だらけになって。
自分を顧みないで、人のために頑張って……。

でも、そんなあなただから私は好きになったんだよ。





*     *     *





「ラウンドシールド、三重展開!!」


俺が作り出したラウンドシールドは砲撃を押し返すように展開する。
それでもしだいにシールドに罅が生じてきた。


《第1シールド大破、第2シールドも、そう耐えられません!!》

「………くそっ!! なんて威力なんだ。このままじゃ耐え切れん!!」

『うっふふ〜。これは思わぬ収穫ですわ。フェイトお嬢様だけでなく、あなたまで始末できるなんてね』

《第2シールド大破!! このままじゃ最後のシールドも時間の問題です!!》


最後のシールドも、罅割れてきて、いつ砲撃が貫いてもおかしくない。


これまでか……。


フェイトさんを……好きな人一人守れないのか俺は……。


(フィル……)

(なんだ……この声は……?)


頭の中に直接語りかけるこの声は―――――?


(今こそあなたの力になるね……。みんなを……そして……)

(そして……『私』を助けてね……)


次の瞬間、俺の全身に溢れんばかりの魔力が宿る。


これはもしかして―――――。


与えられた魔力が全部一つになったのか……。


さっきの声、そしてこの魔力の暖かさ……。



女神から渡された魔力の正体は……。



まさか!!



《マスター、その力は!! 完全に一つになったんですね!!》

「ああ、フェイトさんが……俺に力を託してくれた………」

《フェイトさんが……どういう事ですか?》

「あの時渡された力は、未来のフェイトさんの魔力だったんだよ。ティアと同じように、俺に全てを託してくれたんだ……」

《そうだったんですね……。ティアさんもフェイトさんも、本当に素敵な人です。死して尚、マスター達の力になってくれているなんて……》

プリムの言うとおりだ。二人とも本当に素敵な人たちだよ。


ティア……フェイトさん……。


本当に……ありがとう……。
二人の想い、決して無駄にはしない!!


「やるぞプリム!! フルドライブを、【フリーダム】を起動するぞ!!」

《今の状態じゃ自殺行為です!! 本当に死んでしまいますよ!!》


確かに、こんな状態でフルドライブなんか使ったらどうなるかわからない。
身体は傷だらけ、プリムの言う通り自殺行為だ。


「プリム、今はこれしかないんだ。頼む、俺を信じてくれ!!」

《…………分かりました、フルドライブ【フリーダム】起動します!!》



俺はフルドライブを起動させると、バリアジャケットが変化する。
黒基調から、なのはさんのバリアジャケットと同じく、白基調の青のラインがデザインに変わる。


フリーダムは以前、なのはさんの攻撃を受けたとき、防ぎきれなかったことで考えた物だ。
防御力を高めて、さらに機動力を増すことができる。

このことをコンセプトにして改良し、ようやく完成した物だ。
これは普段なら、通常の状態でも使うことができるが、今の俺には維持するのもきつい。



《マスター、終わったら、絶対に病院に行ってもらいますよ!!》

「すまないな……。見せてやるぜ、完全解除した力を!! ラウンドシールド・リフレクター!!」

《Round Shield Refrecter》


次の瞬間、ラウンドシールドが鏡面化し、光の盾となり、砲撃を上空へはじき飛ばした。


『う、嘘でしょう!! ディエチちゃんのフルパワーの攻撃を弾くなんて!?』

「はぁ……はぁ……はぁ……やったぞ……。こちらスターズ5、何とかフェイトさんとヘリの防衛成功させました」





*     *     * 




「やった!! ギン姉。フィルがやってくれたよ!!」

「まったく無茶ばかりやるんだから……」

「でも、本当に良かった。間に合って……」

「「「……」」」

「どうしたの? ティア、キャロ、ルーテシア」

「キャロ、ルーテシア、あんた達も同じ事考えてたの?」


あたしの考えが正しければ、フィルは間違いなく自分の限界を超えて行動する。
いや、フルドライブなんて使ってる時点でいつ限界が来てもおかしくない。


「はい……フィルさん、これ以上無茶しなければ良いんですけど……」

「痛み止めの効果は、後どれくらい持つの?」

「10分……おそらくそれが限界……」


フィル、その前にケリつけなさいよ。
あんたが倒れたら、そこでおしまいなんだからね。




*     *     *




「す……すごい……ラウンドシールドであんな事出来るなんて……」

「未来でティアが考え出したオリジナルのシールドです。完全版なら相手にはね返せるんですよ。最も、魔力を多量に使うのと、術式が複雑なのであまり多用していなかったんです」


これだけの術式を高速展開するには、プリム並みの処理能力が必要になる。
俺個人だったら、間違いなく展開さえ難しいだろう―――――。


『きぃぃぃ!! どこまで私の邪魔をすれば気が済むんですの!!』

「今度はこっちから反撃させてもらうぞ!!」





*     *     *




「見つけたぞ、クアットロ!!」

「フィル・グリード、あんたいつの間に!!」


俺とフェイトさんはワープで、クアットロを見つけ出した。
こいつの気は嫌と言うほど知っている。


この腐りきった気は、忘れろったって忘れられる物じゃない!!



「観念しなさい、市街地での危険魔法使用、及び殺人未遂の現行犯で逮捕します!!」

「今日は遠慮しておきますわ〜。IS起動……シルバーカーテン!!」


シルバーカーテンで姿をくらませたつもりだろうが、俺にはお前の気が丸わかりだ。


《マスター、捕らえました。方位、10時の方向、距離4km》

「八神部隊長!!」





*     *     *




「待っとったで、こっちは詠唱完了してるんや!!」

「はやて、場所は分かっている?」

「大丈夫、データはフィルに送ってもらったから、位置はしっかり特定できとるよ。後は任せておき!!」



私は戦闘機人の姿を捕らえ、広域空間攻撃【デアボリック・エミッション】の発射準備をとる。
この魔法は本来は自身を中心として発動させる魔法だが、こういったこともできるんや!!

覚悟せぇ、私の大事な仲間を………。


家族を………。


そして、親友を殺そうとしたこと後悔させたる!!



「追ってこない……何で……?」

「まさか!!」

「広域……空間攻撃!!」

「うそ〜ん」


そのふざけた態度もこれまでや。
これでもくらって頭冷やしぃ!!



「遠き地にて、闇に沈め……」

「デアボリック・エミッション!!」



黒き巨大な魔力球は戦闘機人にめがけて眼下へ放たれた。





*     *     *




頭上の闇が一瞬収束したかと思うと、爆発的に膨れ上がり、二人をを飲み込もうと迫っていた。
ディエチちゃんを抱えたままだと逃げ切れないわね……。
しかたないわね。こうなったら多少のダメージは覚悟しますか。


私はダメージを負いながらも、何とか離脱をしたが……。

 
《投降の意志なし……。逃走の危険ありと認定》

《砲撃で昏倒させて捕らえます》


前方にはフェイト・T・ハラオウンが砲撃準備で待ちかまえていて……。
後方にはフィル・グリードがデバイスを突きつけ、同じく発射態勢になっていた。




*     *     *




「クアットロ、ディエチ!! くそっ!!」

「おっと、逃がさないよ」


わたしは、レイジングハートを戦闘機人に突きつけ……。


「高町なのは!!」

「フェイトちゃん達の邪魔はさせない。今度はあなたが足止めされる番だよ」

「ちぃぃい!!」


フェイトちゃん、フィル。こっちは押さえるから後は任せたよ。
クアットロを必ず捉えて!!




*     *     *




「ここまでだな、クアットロ。トーレはなのはさんが押さえてる。お前の援軍はないぞ!!」

《マスター、痛み止めの効果はあと5分です!! これで決着をつけないと……》

「分かっている、これに全てをかける!! やるぞプリム!!」

《了解です!!》


どのみち俺に残された体力も少ない。
一気に決着を付けなければこちらが危ない。


「フェイトさん!!」

「分かってる………。フィル、ここで終わらせるよ!!」

「はい!!」

「プリム、一か八かあれでやるぞ」

《マスター?》

「フェイトさんの得意技、フォトンランサー・ファランクスシフト……それでやる」

《いけません!! さっきのフルドライブで、もうマスターの身体は限界なんです!! せめてブラストブレイザーで!!》


確かにブラストブレイザーなら、リミットを完全解除した状態なら、そんなに負荷が掛かる訳じゃない。
だけど……。



「こいつに一直線の攻撃じゃ逃げられる可能性がある。全方位で囲んで仕留めるしかない!!」

《…………だったら、フォトンランサーの誘導は私がやります。マスターはスフィアを作り出すことを考えてください!!》

「サンキュー、相棒!!」


俺は今作り出せる量のフォトンスフィアを作りだし、クアットロの全方位を囲んだ。
38基。これが俺が出来る限界だ。


「トライデント……」


フェイトさんが、バルディッシュのカートリッジをロードさせ……。


「フォトンランサー・ファランクスシフト……」


俺もプリムのカートリッジをロードし、発射準備をする。
今の状態じゃ撃ったら間違いなく、俺の攻撃能力が無くなる……。


「スマッシャー!!」

「ファイア!!」


360°全方位からのフォトンランサーとフェイトさんのトライデントスマッシャーの同時攻撃だ。
回避は絶対不能だ。


白と金の魔力はクアットロに命中して、爆炎をあげた……。



「やった……」

「……はぁ……はぁ……はぁ……」


頼む、これで倒せていてくれ………。


だが、俺の予想どおりだったらこの攻撃は―――――。



「……残念でしたわね、フィル・グリード。私はまだ生きてますわよ〜」

「!!」

「くっ……やっぱり……駄目か……」


そこには自分の周囲に防御壁を張っていたクアットロの姿があった。
ディエチの方は気絶しているみたいだが、あいつは全くの無傷だ。

あの砲撃からは回避は不能だ。
おまけにフェイトさんと俺、二人とも手加減なしで撃ってる。


あれは……クアットロの周りに張られているシールド……。


あの防御壁の七色の光……。


外れていて欲しかったが……やはり……。



「やっぱり気づいてたんですね………。そう、私は未来でティアナ・ランスターとあなたに殺された、あのクアットロですのよ。いつ気づきました?」


やはり、俺が逆行者って言うことを知っていたか。


「言葉の節に『また』って使った時だ。あんな言葉は、俺のことを知っていなければ、出てこない言葉だからな」


本来ならこの世界では、俺は表舞台には立っていなかったんだからな。
今の段階で俺のことを知っているのは、おかしいしな。


「それはとんだミスでしたわ。さすがですわね」

「そんなことより、なぜ貴様が生きている!! あのときティアのスターライトブレイカーでお前は死んだはずだ!!」



ティアが命と引き替えにして放ったスターライトブレイカー。
あれで間違いなくあいつは死んだはずだ。



「さて、なぜでしょうね。いずれそれはわかることですわ。そんなことよりも、せっかく、あなたと同じく再び生を与えられたんですから、思う存分楽しませてもらいますわ〜」

「そしてフィル・グリード、あなたには再び恐怖と悲しみを与えてあげますわ。今度はどうやってお仲間を殺してあげましょうか〜」


―――――黙れ。


その下種な笑いを止めやがれ!!



「以前と同じじゃおもしろくありませんわ。今度はあなたの大事な人をなぶり殺しにでもしてみましょうか〜。あはははっ!!」

「だまれッッ!! その減らず口を二度とたたけないようにしてやる!!」


俺は最後の力を振り絞って、銃口をクアットロに向ける。


「出来るのかしら〜。さっきの砲撃で殆ど力を使ってしまっていうのに〜」


くそっ!! 腐ってもやはり参謀型って訳か。
こっちの状態を正確に把握してやがる。

おまけに、痛み止めの効果はもうすぐ切れてしまう……。


「今日のところは引き上げますわ〜。またお会いしましょう〜」

「待ちなさい!!」


フェイトさんがプラズマランサーをクアットロに放ったが、当たる直前にシルバーカーテンで姿をくらませてしまった。


「待て、クアッ…ト……ロ……」

《マスター!!》

「フィル!!」


さっきのフォトンランサーで力を使い果たし、出血多量で俺は浮遊も保てなくなっていた。
そんなとき……。


「ふぅ……間に合った……」

「なのは!?」

「なのは……さん?」


なのはさんが間一髪の所で、俺を抱えてくれた。




*     *     *




「その怪我で無理しすぎだよ、フィル!!」

「すみ……ません……」

「完全解除が出来るようになったと言っても、その怪我で無理しずぎ!!」


フィルの怪我はかなりの物だ。
元から重傷箇所があったのに、それを治療魔法で無理矢理治して、さらに痛み止めの魔法を使って動いてたんだから……。

リミットの解除……。

フルドライブの使用……。

多量の魔力を使う攻撃魔法……。

これだけの悪条件があれば、こうなって当たり前だ。



「まったく、フェイトちゃんをあまり泣かせちゃ駄目だよ。最も、心配してるのは、わたしもなんだからね……」

「はい……」

「ほら、ヘリまで飛ぶから一緒に行くよ……」

「大丈夫ですよ……。自分で飛べますから……」

「だ〜め。無茶ばかりする悪い子の言うことは聞けません〜」


わたしはフィルを抱えて急いでヘリへ向かう。
これだけのダメージを負って、正直よく意識を保ってると思う。

まったく、いくらフェイトちゃんのためだといっても無理しすぎだよ。


こんなに思われてるフェイトちゃんがうらやましいな……。





*     *     *





「それにしても、散々だったな。私は高町なのはには押さえられ、レリックとお嬢様達は六課に奪われる。最悪だな……」

「そうでもありませんわ、トーレお姉様」

「どういう事だ、クアットロ」

「確かにルーお嬢様達とレリックは奪われましたけど、フィル・グリードは当分戦闘には参加できませんわ。これで六課に大きな痛手を負わせることが出来ましたわ」


あの男が動けなくなるのは、こっちにとって好都合。
これで、こっちの計画もゆっくり進められますわ。


「確かに……な……」

「それに、すぐに取り返せば良いんですから〜」

「お前な……」

「それよりも、機動六課の連中に、もっと苦しみを与えてあげましょう。そのほうがおもしろいですから〜」


そう、正直レリックの一つや二つどうでもう良い。
やはりフィル・グリードはこっちに来ていたみたいね……。



あなたの大切な物……かならず壊して見せますわ……。






*      *      *





聖王医療院

ここの特別病棟の一室に、機動六課によって保護された少女が寝かされていた。
意識は戻っていなく、衰弱状態もまだ回復してないが……。


「フェイトちゃん、保護した女の子とフィルの状態は……?」

「保護した女の子は検査の方は一通り終了、大きな問題はなさそうだよ。フィルの方も今は麻酔が効いて病室で眠っているよ。傷口は治療魔法でふさがっていたから、そんな大事には至らないって、ただ出血がかなりしていたから、しばらくの間は任務は禁止だって……」

「フィル、本当に無茶して………。でも、ある意味良かったかも、これでやっと休暇を取らせられるよ」

「皮肉だけど……こんな事でもないと、フィルって休まないもんね」

「フェイトちゃん、フィルのことお願いね。任務をしようとしたら……」

「大丈夫、私が無理矢理でも休ませるから、それにフォワード達やシャーリー達にも良い機会かもよ」

「フィルにどれくらい頼ってたかって事だね……」


実際、スバル達の報告書とかを見ても、ティアナ以外の物はフィルが手直ししていることが殆どだ。
エリオやキャロは、事務仕事に慣れていないのはしょうがないとしても、スバルはもう少しその辺はちゃんとして欲しい。

シャーリー達もフェイトちゃんが言ってくれたから、今は大丈夫だけど、それまではかなり頼っていた面があった。


「まぁ、フィルは何もなければ明日には退院みたいだし、それに報告書を書くために、わたし達も戻らないとね……」

「そうだね、資料とかはここに来る前にそろえてあるから、そんなに時間が掛からないよ」

「にゃはは、ありがとう……。あっ、そうだ。ちょっと女の子の様子見てくるね」

「だったら私も行くよ」

「いいよ、ちょっと見てくるだけだから。フェイトちゃんは駐車場で待ってて……」

「分かったなのは、じゃ外で待ってるから」

「うん、じゃ30分後にね……」


フェイトちゃんと別れたわたしは部屋に向かうため、廊下を歩いていると売店があり、くまさんとうさぎさんのぬいぐるみがあった。
なんとなくうさぎさんのほうがかわいかったので、うさぎさんの方を買った。


わたしはそのぬいぐるみを女の子の頭の近くにそっとおいた。
目が覚めた時に、それに気づいてくれれば良いんだけどね。


「……ママ」


意識は戻って無くても、夢は見ているのかもしれない。
何か怖い夢でも見ているのかな……。



「大丈夫だよ、ここにいるよ。こわくない……」


わたしは語りかけながら、少女の頬をそっとなでていた。
もしかしたら、無意識のうちに自分の小さい頃と照らし合わせたのかもしれない。



わたしはしばらくの間、少女のことを見守っていた。





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