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〜 Remember my heart 〜
第11話 機動六課のある休日


「はぁ………はぁ……やっぱりきつい………」

「そうね……はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……何か今日は特にそうでしたね……。はぁ…はぁ……」

「はぁ……本当に……はぁ……」

「あぁ………」

「……あ……あんた……。どうしてそんなにタフなの?」


フィルは、あの翌日からメニューが更にきつい物になっている。
基礎訓練だけじゃなく、魔力強化に関するメニューも組まれていた。

これはなのはが、フィルのためにメニューを考えてくれたものだった。
そのおかげで、フィルも効率よく訓練が出来ている。


「はい、今朝の訓練と模擬戦も無事終了。お疲れ様。でね、なにげに今日の模擬戦が第2段階クリアの見極めテストだったんだけど………どうでした。フェイト隊長、ヴィータ副隊長?」

「「「「「えっ?」」」」」

「合格」

「「はや!!」」

「まっ……。こんだけみっちりやってて、問題あるようなら大変だってことだ」

「「はははっ……」」


エリオもキャロも、ヴィータの言葉に苦笑いしか出なかった。
でも、みんな頑張ったよ―――――。


「わたしもみんな良い線いってると思うし……じゃ、これにて2段階終了!!」

「「「「やったっっっ!!」」」」

「……ふぅ、ようやく2段階目が終わったか……」


フィル、今は焦らなくても良いよ。
スカリエッティとの決戦までには、全員もっと強くするからね―――――。



「デバイスリミッターも一段階解除するから、後でシャーリーの所に行って来てね」

「明日から、セカンドモードを基本形にして訓練すっからな」

「「「「はい!!」」」」

「明日から……ですか?」

「ああ、訓練再開は明日からだ」

「今日私達も、隊舎に待機する予定だし……」

「みんな入隊日から、ずっと訓練漬けだったしね……」


フォワード陣はここまで、きつい訓練で疲労がたまっている。
そろそろティアナ達も、リフレッシュさせてあげなきゃね。


「まっ……そんな訳で……」

「今日はみんな一日お休みです。街にでも出て遊んでくると良いよ」

「「「「わ〜い」」」」


みんな休暇をもらってすごく喜んでいる。
一日しかあげられないけど、ゆっくりしてきてね。

でも、次のなのはの言葉は―――――。


「………それで、申し訳ないんだけど、フィルは……」

「「「「えっ……?」」」」

「……ごめんなさい。わたしたちと一緒に、隊舎待機でお願い」


なのはは本当に申し訳なそうな表情をしてフィルに伝える。


「ちょ、ちょっと待ってなのは!! フォワードの中で一番休ませなきゃいけないのはフィルだよ。それなのに!?」


フィルは朝から夜までの訓練だけでなく、シャーリー達とも一緒に仕事している。
誰が見ても、明らかにオーバーワークだ。



「フェイト隊長。わたしだってフィルを休ませてあげたいよ。でもね、これはフィルが言ってきたの。やることが多いから時間が欲しいって……」

「なのはさん、それは!?」

「どういうことなのかな……。フィル……」


まだ、他にも私に隠し事してるのかな―――――。


「ちょ……ちょっと、フェイト……さん」

「………言ったよね。一人で抱え込まないでって………」

「でも、これは俺の仕事だから……。フェイトさんやティア達のデバイスのサポートは」


でも、それでフィルが倒れたら意味がないよ―――――。


それとも………。


また、自分なんていなくても同じなんて、言うんじゃないんでしょうね!!




*    *    *

 


ヤバイ、フェイトさんの雰囲気がいつもと違う。
笑顔なんだけど、目が笑ってない……。


しかも、何だこのプレッシャーは……。


あの時のなのはさんに匹敵する物を感じるぞ。



「エ、エリオくん……。フェイトさんが物凄く怖い……」

「う、うん……。僕も、あんなフェイトさん見たことがない」

「テ、ティア!?」

「言わないで……。今のフェイトさんから感じるプレッシャーは、あの時のなのはさん以上だから……」



お前ら、他人事だと思って言いたいこと言ってくれるな。
フェイトさん……マジで怒ってるし……。





*    *    *




「………こうなったら、誰かが一緒に付き添って、強制的に休みを取らせた方が良いね」

「なのは?」

「フェイト隊長。八神部隊長にはわたしとヴィータ副隊長が言っておくから、フィルを連れてどっか息抜きに行ってきて」

「なのは、本当にいいの? そんなことをして……」

「心配ないよ。このまま、フィルに無茶させて倒れられた方が、今後に支障が出てきちゃうよ。そ・れ・に」


次の瞬間、なのはから、念話でとんでもないことを言われることになる。


(せっかく恋人同士になったんだから、一緒に出かけてフィルに甘えてきたら)

(な、なのは!? どうしてそれを!!)

(にゃははは。やっぱりね。もしかしてって思ったんだけど、フェイトちゃん、最近良い表情するようになったもん。わたしの感を見くびってもらっては困るよ♪)



―――――降参です。
私ってそんなに分かりやすかったのかな……。



「おい、なのは、フェイト。何さっきからコソコソ話してるんだよ?」

「ごめんねヴィータちゃん。実は……」

「わぁぁぁぁ!! ちょっと待ってなのは!!」


お願いだからこれ以上、誰かにフィルとのことを広めないで!!


「……どうせフィルのことだろ。六課はあたし達に任せて、フィルとどっかに行ってこい。帰りにアイスでも買ってきてくれればいいからよ」

「……も、もしかして、私とフィルの事って、みんな……」

「今の所、はやてちゃんの所まで入ってないみたいだよ。でも知ったら、六課中お祭り騒ぎになっちゃうよ」

「はやては大丈夫だけど、シャーリーやアルトに知れたら、面白可笑しくしそうだしな」


ヴィータの言うとおり、はやてだったら大丈夫。
でも、シャーリーとアルトまでが知ったら……。

フィルもあの二人には知られたくないって言ってたし……。


「……否定できない……かも」

「その話はひとまず置いといて、フィル」

「は、はい!!」

「機動六課スターズ隊長として命令します。フィル・グリード二等陸士、現時刻をもって強制休暇を命じます。以降こちらからの指示があるまで仕事復帰は許しません」

「ちょ、ちょっと待ってください!! まだやり残したことがたくさんあるんですよ。そんな時間は……」


すると、なのはが私とフィルを手招きして、その後、フィルの近くに来て耳元で話し始めた。


(あのね、ちょっとは休まないと身体持たないよ。そんなんじゃフェイトちゃんだって、気が気でしょうがないよ)

(な、何でフェイトさんの名前が出るんですか……!?)

(隠さなくても良いよ。付き合っているんでしょう、フィルとフェイトちゃん)

(………な、何のことでしょう!?)


フィルが必死でポーカーフェイスで隠そうとしていたが―――――。


(往生際が悪いよフィル。答えるまでにそれだけの間があったんじゃ、自分で白状しているのと同じだよ)

(……俺、ポーカーフェイス、そんなに下手ですか?)


いや、普段のポーカーフェイスはかなり上手いよ。
ずっと未来でのことを隠してきたんだから―――――。


(まぁまぁ、せっかくだからフェイトちゃんと一緒に、気分転換でもしてきてね。もし隠れて仕事していたら、シャーリー達にフェイトちゃんとのことを言うからね)

(それだけは勘弁してください!! わかりました。それじゃ遠慮無く休ませてもらいます)

(うん、フェイトちゃんのことよろしくね。最近スカリエッティのことを調べていて全く休んでいないから)

(フェイトさんもクロノ提督と一緒で、ワーカーホリックな所ありますからね)

(そういうこと)



フィルにだけはワーカーホリックって言われたくないよ。
この六課で、一番オーバーワークなのに―――――。



「おい、なのは。そろそろ終わりにしようぜ。新人達に休みをやれなくなっちまうだろ」

「そうだね。今日はみんな一日お休みです。街にでも出て遊んでくると良いよ」

「「「「わ〜い」」」」

「じゃ、今日はこれで終了。解散です」

「「「「「はい、お疲れ様でした」」」」」





*    *    *





「それにしても、まさかあんな形で休暇を取らされるとは……」

《マスターは少し休んだ方が良いですよ。ずっと走りっぱなしじゃ、いつか息切れしてしまいますよ》

「それは、そうなんだが……」

《デバイスのことはシャーリーさんに任せておけばいいですよ。フェイトさんが怒りのオーラをまとってシャーリーさんに言いに行ってましたから。正直あれは怖いです……》

「あ、あはは……。シャーリーさん。ご愁傷様です」


さっきのあれは、本当にシャレにならなかったぞ。
あれはなのはさんのプレッシャーよりきつかったぞ。

普段穏やかな人なだけあって怒るとすっごく怖い。
今頃シャーリーさん。フェイトさんに怒られているんだろうな。


教訓:フェイトさんを本気で怒らせてはいけない……。




*    *    *




「シャーリー……」

「どうし……たん……ですか? フェイトさん」

「デバイスのこと……。フィルに任せきりになっていたって本当なの?」

「え……えっと……。それは……」


やっばい。フェイトさん滅茶苦茶怒っている。
考えてみたらティアナ達のデバイスのことも、なのはさん達のフルドライブに関しても、フィルに任せきりにしちゃっていた。

だって、こっちが考えたことよりフィルのプランの方が、色んなところで良い点が多かったんだもん。


「シャーリー、フィルにデバイスのことで聞くのは良いけど、任せきりにしているのは駄目だよ。あくまでもフィルはフォワードなんだからね」

「それは分かってます……」


今のフェイトさんは、下手なごまかしは言えない。
明らかに目が据わってるし―――――。
もし、ごまかしなんか言ったら、ティアナみたいに頭を冷やされてしまう。

比喩じゃなくて、今のフェイトさんなら本当にやる。


「それに六課のデバイスマイスターはシャーリーなんだからね。基礎設計は完成しているんだから、ここからはシャーリー達が中心になってやっていくことだよ」

「はい、すみませんでした……」

「私からはこれ以上言わないけど、フィルの負担を出来るだけ減らしてあげてね」


そういってフェイトさんは部屋から出て行ったが、あんなフェイトさんは見たことがなかった。
怒鳴りはしなかったけど、ものすごく怒っているのは雰囲気だけで分かった。

でも、最近フェイトさんも変わったかも―――――。

ちょっと前までは、あんなに自分を出す人じゃなかったのに。


「……確かに最近、フィルに頼ってばかりだったかも……」

「お邪魔するですよ〜」

「リイン曹長」

「どうしたんですかシャーリー。何かあったんですか」

「さっきフェイトさんに怒られてしまいまして。最近フィルに頼りすぎだって」



実際、フィルにはかなり甘えていた。
訓練が終わった後に、深夜までプランを一緒に考えてもらったりしてたし―――――。



「……確かに、フィルはなのはさんとの訓練とデバイスプランを、同時進行でやってましたから」

「リイン曹長。私ちょっとフィルに甘えすぎていました。だからこれ以降のことは、私たちロングアーチの総力をあげて完成させて見せます!!」

「そうですね。明日から四機の調整で慌ただしくなりますし、今の内になのはさんとレイジングハートの限定解除モード【エクシードモード】の最終調整もしておきたい所です」

「バルディッシュさんのザンバーもですけどね」

「あっ、リイン曹長もそろそろ完全チェックをしておきましょうか」

「そうですね。お願いするです」


そう、ちゃんとメンテナンスをしておかないと、いざというときに動けないなんて言うこともありえます。
そんなことは、絶対にさけなくてはならない。


「最近は、どなたともユニゾンされてないですね」

「ですね。はやてちゃんはもちろん、シグナムもヴィータちゃんも、私を使う程の状況にならないですし……」

「それ自体は、良いことなんですけどね」

「でもいざというときに働けなくては、祝福の風リインフォースの名が泣きますから、それに……」

「これ以上フィルの負担にはなりたくないですから、私と蒼天の書のメンテナンス、よろしくですよシャーリー」

「はい!!」





*    *    *




俺が自分の部屋でのんびりしていると、フェイトさんが入ってきた。
実は、あの日以来、フェイトさんは俺の部屋に来ることが多い。

これだけ頻繁に俺の部屋に来たりしていたら、バレても不思議じゃないよな―――――。



「ねぇ、フィル。ロードサンダーのテストってこれからなんだよね?」

「うん、慣らし運転もまだしてないんだ」

「そ、それでなんだけど……。あ、あのね……」

「どうしたの? フェイトさん」

「よ、よかったら私を一緒に、乗せてくれないかな……。だ、だめかな……」


言い終わったフェイトさんは、真っ赤になってうつむいてしまった。
こんなことで遠慮なんか欲しくないんだけどな……。


「良いよ。せっかくだから、俺のとっておきの場所にでも行ってみる?」

「でも、本当にいいの? 私を乗せたりして……」

「………好きな人が出来たら、一緒にツーリングしてみたいって……ずっと思っていた」



未来では、そんなことは絶対に出来ないって思っていたささやかな幸せ―――――。



「……フィル」

「……ははっ、駄目だな。最近……どうも感傷に浸りやすくなっちゃってるな」



ちょっと前までは、こんなことなかったんだけどな。
やっぱり、弱くなったのかな……。

そう思っていたら、後ろからそっと抱きしめられ……。



「フィル……そんな風に気を張ってばかりじゃ、私も……つらいよ……」

「フェイトさん……」



俺たちはどちらからともなく、顔を寄せてキスをする。
やがて深いキスとなり、互いに受け入れ、何度も求め合う―――――。



「やっぱり……ちょっと恥ずかしいね……」

「でも、すごくフェイトさんを感じられる……。そんな感じがする……」



こうして抱き合っていると、心までつながっている気がする。
人の温もりって、こんなにも暖かい物だったんだな。





*   *   *





「さてと、ガレージからサンダーを持ってくるか」

「フィルのロードサンダーって、確か、AIが付いているんだよね?」

「今回のプランでどうしても必要になってね。でもマリーさん達、かなりハイテンションになっていたからな……」


サンダーを弄ってるときのマリーさん達、明らかに悪のりしてたし―――――。
ほ、本当に大丈夫なんだろうな!?


「確か、ティアナ達のデバイスもマリーさんの所に行った時に、基礎設計をしていたんだよね」

「クロスミラージュは俺のプリムを参考にして設計したから、さほど時間がかからなかったけど、他のデバイス、特にスバルのマッハキャリバーは途中で頓挫していたからな」


スバルの魔法は、感覚で作ってるから、俺だけの力じゃ作ることができなかったんだ。


「さらに未完成だった私たちのフルドライブまで……。本当にごめんね……」

「謝らないで……。そう思うなら、無茶しないようにしてくれればいいから……」


みんなの負担を少なくするために俺はやってるんだから―――――。

それに……。

これくらいしか俺には出来ないから―――――。


「うん……」

「仕事の話はこれまでにしようか。ちょっと取ってくるから……」

「それじゃ、私もエリオ達の準備を手伝ってくるね」


俺はガレージにあるロードサンダーを取りに行った。
フェイトさんも、エリオとキャロの支度を手伝ってから合流することになった。



*    *    *



「よっフィル、どっか出掛けるのか?」

「ヴァイス陸曹、脅かさないで下さいよ」

「わりぃ、わりぃ」

「で、何のようですか。ただ世間話をしに来た訳じゃないでしょう」

「……お見通しかよ。最近お前らの訓練を見たりするんだけどよ。ティアナの奴、いい動きをするようになったじゃないか。以前はシングルでも何でも動きが同じだったけど、最近は臨機応変に動けてきている気がするぜ……。お前が色々やったおかげかもな」


あの日以降、俺のことは機動六課の全員が知ることになった。
なのはさん達に言ったのだから、別に隠すつもりはないが、あっという間に広まるとは思わなかった。


「切欠にはなってるかもしませんが、ティア自身が吹っ切れたんじゃないですか? 今はチームリーダーとして色々みんなのことも見れるようになりましたし……」

「ったく、本当はお前の方が強いくせによ……。あの時のなのはさんに、正面から思いをぶつけたんだからな……」

「それは、もう言わないでくださいよ……」


今思えば、我ながら馬鹿をやったよ。
もっと、考えて行動すればよかった――――。


「とにかくお前は今じゃ六課の中心的人物なんだからな。しっかり休んでリフレッシュしてこい。ここんとこロクに休んでないだろ」

「な、何のことでしょうか?」


俺が視線をそらすと、ヴァイス陸曹はさっきとは違い真剣な表情で―――――。


「誤魔化すな。大方シャーリーが無理言ってきたんだろうが、あんまり自分に抱え込むなよ。フェイトさんすごく心配してたんだからな……」

「………本当に、フェイトさんには心配かけっぱなしなんですよね」

「そう思うなら、フェイトさんには悩みとかを隠すなよ。女性に言えないことなら、俺やグリフィスだって良いんだからな」


ヴァイス陸曹、ありがとうございます。
その時は、遠慮無く相談させてもらいます―――――。


「そういえば、さっきティアナの奴が、俺の所にバイクを借りに来ていたぞ。あいつもスバルと出かけるらしいな」

「そうですか。ティアもスバルも、何も言ってなかったのにな……。俺って、のけ者になってるのかな?」


ヴァイス陸曹が、少しあきれた表情で……。


「そうじゃねえよ。もう少し、お前は女心を学んだ方が良いかもな……」

「えっ、どういうことですか?」

「それは自分で考えろよ。お前も出かけるんだろ。引き留めて悪かったな」

「いえ、それじゃ失礼します」



ヴァイス陸曹と別れ、急いで俺は隊舎玄関前に向かった。




*     *     *




俺が隊舎前でフェイトさんを待っていると、なのはさんが見送りに来てくれた。


「なんか、すみません。俺のために、なのはさんやフェイトさんにまで迷惑をかける形になって……」

「その事は気にしなくて良いよ。さっきも言ったけど、ここでリフレッシュしてくれないと、六課全体の志気に関わってくるの。特にフェイトちゃんは、フィルに万一のことがあったらどうしようもなくなってしまうから………」

「そこまではどうかと……」


別に俺がいなくてもそこまで変化はしないだろう。
ティア達は立派なチームに成長してきてるし―――――。


すると、なのはさんは本気であきれた表情で―――――。



「はぁ……。フィル、本当に分かってない。今までなら大丈夫だったよ……。だけど、今は違う。人は大切な人がいる時はとても強くなれるんだけど、それを失ってしまうと、とたんに脆くなってしまう。それはフィルも経験していることでしょう」

「あっ……」


―――――そうだった。


この事は誰よりも理解している事じゃないか。
なのはさんが言うまで、何で気づかなったんだ。



「だから、フェイトちゃんの事を本当に好きなら、ちゃんと自分のことも気遣うこと。そうしないと共倒れだからね」

「なのはさん……」

「というわけで、なのはさんからのお話はこれでおしまい。もうすぐフェイトちゃんも来るしね……」





*    *    *




フィルと話してると、息を切らせながらフェイトちゃんがこっちにやってきた。
エリオとキャロを見送った後、急いで支度してきたんだね。



「フィル、ごめんね。待たせちゃって……。あれ、なのはどうしたの?」

「どうしたの?は無いんじゃない。わたしは二人の見送りに来たんだよ。ったくフェイトちゃん、最近わたしに冷たいよ〜。やっぱ好きな人が出来ると、女同士の友情なんてこんな物なのかな〜」

「な、なのは!?」

「ふふ、冗談だよ。せっかくなんだから楽しんできてね」


良い機会だから、フェイトちゃんも、しっかりとリフレッシュしてきてね。
これから、こうしてフィルといられる時間は中々出来ないと思うし―――――。


「うん、ありがとう。なのは」

《相棒、そろそろ私のことを紹介してくださいよ》

「えっ、バイクがしゃべった?」


ミッドのバイクとかには簡易AIは組み込んであるけど、ここまではっきりと意思があるなんて!?


「そういえば、まだなのはさんには言ってなかったですね。紹介します、もう一つの相棒【ロードサンダー】です」

《はじめまして、私がロードサンダーです。よろしくお願いします、高町一等空尉》

「そんなかしこまらなくても良いよ、よろしくねロードサンダー」

《そうですか。それでしたら遠慮無くさせてもらいますよ、なのはさん。いやぁ、どうも堅苦しくていけませんね。ちなみに私のことはサンダーと呼んでください!!》

「お前な……」

「あ、あはは……」


なんか砕けた性格なんだね、ロードサンダーって……。
でも、フィルの相棒には、これ位の方が良いのかも……。



《いいじゃないですか。私は相棒が認めている人達には、本音で話したいんですよ。最も、フェイトさんは相棒の大事な恋人でもありますけどね〜》

「なっ!?」

《サンダー、その辺にしておいてくださいよ。この二人とってもウブですからね。うふふ……》


あの……。プリムにサンダー。

そのくらいにしておいた方が良いと思うよ。
フェイトちゃんもフィルも、顔が真っ赤になっちゃってるし―――――。


「そ、それじゃ行ってきます!! なんかあったらすぐに戻ってきますから」

「だから仕事のことは一旦忘れなさい。フェイトちゃん、フィルのことしっかり頼んだよ」

「まかせて、しっかりリフレッシュさせるからね」

《任せてください。相棒のことは私たちがしっかりと休ませますから》


フィルとフェイトちゃんはサンダーに乗り、エンジンをかけてタイヤをスピンさせながら出発した。
あーあ……。プリムもサンダーもからかいすぎだよ。

フィル、運転大丈夫かな?





*    *    * 




「フィル達行ったよ。ティアナ」

「……すみません、なのはさん」


フィル達がくる前にあたしは、スバルを待つためにここにいたんだけど、なのはさんが……。


『フィルとフェイトちゃんも、ここで待ち合わせをするみたいだから……』


そう言われて、あたしはなのはさんに頼んでここに隠れさせてもらっていた。
正直言って、今フィルにあうのは辛いから……。


「……なんかティアナには、辛い物を見せちゃったね」

「いえ、あたしがちゃんとフィルに告白しなかったのがいけないんです。それに……フィル、すごく良い表情してました。フィルのあんな表情見たことがなかった……」

「うん、それはフェイトちゃんも同じだよ。わたし達と一緒にいた時でもあんな顔は見たことがなかった」

「今のあたしじゃ、フィルの事を支えられないですから……」


今のフィルのことを支えてあげられるのは、フェイトさんしかいないと思う。
フィルがただ一人、自分の弱さを見せた女性だから―――――。


「ティアナ……」

「……あっ、そろそろスバルも来るみたいです」

「ごめ〜んティア」

「ったく遅いわよ。あんたっていつもそうなんだから」

「だから、ごめんってば……」


あたし達はバイクに乗ってクラナガンに向かった。
いつかこの辛い気持ちも、良い思い出に変われる日が来るかな……。





*     *     *




ー機動六課食堂ー



『以上、芸能ニュースでした。続いて政治経済です。昨日、ミッドチルダ管理局地上中央本部において、来年度の予算会議が行われました』
 
『当日は、首都防衛隊の代表、レジアス・ゲイズ中将による、管理局の防衛思想に関しての表明も行われました』


フィル達を見送った後、わたしははやてちゃんとフェイトちゃんをのぞいたメンバーでちょっと遅い朝食を取っていた。

何気なくテレビを見ていたんだけど、そんなとき画面は、体格の良い厳つい顔をした人の映像に切り替わっていた。
レジアス・ゲイズ中将である。


『魔法と技術の進歩と進化。素晴らしいものではある……が、しかし!! それが故に、我々を襲う危機や災害も、十年前とは比べ物にならない程に危険度を増している。進化する世界の平穏を守るため、我々も本局の魔導師たちに負けじと、錬練し続ける事で対処してはきたが……。ついに、兵器運用の強化が必要な状況になってしまった。しかしこんなところで立ち止まるわけにはいかん!! 現状では首都防衛の手すら、未だ足りておらん。地上戦力においても、我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪も発生率で20%の減少、検挙率においては35%以上の増加を、初年度から見込む事が出来る………』


「このおっさんは、まだこんなこと言ってんのかよ……」

「レジアス中将は古くからの武闘派だからな。だがなヴィータ、言っていることは、あながち間違ってはいないぞ」

「何でだよ?」

「良いか。レジアス中将がここまで力を入れなかったら、首都のクラナガンでさえ、ロクな状態ではなかったはずだ。まぁ、いささかちょっと行き過ぎな面もあるがな……」

「……そうだね。わたし達なら、自分の身は自分で、ということも出来るけど……」

「そういうことだ。一般人では犯罪者に襲われたらひとたまりもない。フィルが経験してきた未来でもそうであったようにな」

「うん……」


あの時、フィルから見せられた映像にはクラナガンの人々の悲惨な記録も残されていた。

ガジェットから逃げまどう人々の姿。

治安が崩れた町では、数々の犯罪を繰り返していた。

中でもひどかったのは、女子供への性的犯罪。
魔力を持たない非力な子供や女性は、犯罪者の格好の的になっていた。

地上本部が消えて、犯罪者を取り締まる組織がいなくなったことで滅茶苦茶になっていた。

フィル達だけで対応なんて、絶対無理だった。


「まぁ、我々も今までは、お前と同じような考えをしていたがな。だがな、今後スカリエッティに対抗するには、地上本部と本当の意味で連携を取らなくてはならないんだ」

「そうだね……」

「そのことに関しては、主はやてに任せるしかないだろう」

「そうだぜ、後のことは、はやてがやってくれるって、あたし達は前線を守るのが仕事だしな」


そうなんだけどね。大丈夫かな、はやてちゃん一人で抱え込まなきゃいいんだけど……。




*     *     *




「う〜ん。気持ちいいね〜」

「ああ、車とはまた違った物があるしな」


俺たちは今、ミッドチルダ外れの山道を走っていた。
高速を走るのも良いが、偶にはこうやってツーリングするのも良い。

たださっきから、俺の背中にあたってる……その……胸が……。
ある意味、最大の試練かも……。



「私は車がメインだからね。一応、二輪の免許は持ってるんだけどね……」

「俺は逆にバイクがメインだからな。でも、偶には車も良いかなって思うんだ。フェイトさんの車、格好いいしね」

「だったら今度私の車を運転してみて良いよ。結構いじってるからちょっと癖あるけどね」

「俺もサンダーを運転させてあげたいんだけど、こいつが自分で認めないとな……」


そう、ロードサンダーはAIがあり自分の意志でドライバーを選ぶ。
今の所、俺とティアしか運転が出来ない。


《相棒、私はフェイトさんなら構いませんよ》

「サンダー?」

《フェイトさん、貴女は相棒を本当の意味で救ってくれた。プリムから聞きましたが、アグスタの後、貴女はティアナさん達のことを、ちゃんと見ていてくれていた……。そして……》

《何より、相棒が好きになった人です。それだったら私にとっても、大切な人です。だから遠慮しないで乗ってください》

「………ありがとう、ロードサンダー。とっても嬉しいよ」

《ただし、私に乗る以上全開で回せる腕がないといけませんよ。相棒もティアナさんも、全開でエンジンを回しますからね……》


確かに、俺もティアもエンジン全開で飛ばすことが多いな。


「……ふふっ、だったらその挑戦を受けて立っちゃおうかな。ちょっと変わってもらって良いかな、フィル」

「良いよ。フェイトさん、思いっきり回して構わないから……」

「楽しみだな。バイクを運転するのって久しぶりなんだ……」


俺は近くの路肩に停車して、フェイトさんと運転を代わることにした。
フェイトさんは俺と入れ替わると、ハンドルを握り、エンジンを勢いよく回し始める。


あ、あの……本当に久しぶりなんですか?
慣らしの仕方といい、ギアの入れ方といい、明らかに熟練者のものですけど……。


「さて、しっかりつかまっててよ!!」

「目的地はサンダーにインプットしているから、それに従っていけば迷わないから……」

「分かった。じゃ行こうか!!」


フェイトさんはサンダーのスロットルを全開にすると、ホイルスピンをさせながら発進した。





*    *    *







あたしとスバルはヴァイス陸曹にバイクを借りて、クラナガン中央部に来ていた。
ここに来るのもなんか久しぶりなのよね。



「なははっ、やっぱりここのアイスは見た目から素敵だ♪」

「本当にアイスが好きよね、あんたは」

「好き好き大好き〜」


あたしはダブルで押さえたのだが、スバルのは七つも乗せている。
明らかに常識の範疇外でしょう、あれは……。


「さて、それじゃ……」

「「乾杯」」


アイスで乾杯ってのは何だが、まぁこれもあり……かな……。


「……はぁ……ひぃ……ふめたい……」

「スバル。そんなんじゃ、すぐになくなるわよ」

「平気平気。ねぇ、アイス食べ終わったら、ゲーセンでも行かない」

「いいわね。久しぶりね」


まぁ、今はこうやってスバルと一緒に楽しみますか。





*     *     *





「やれやれ、ひどい目にあったぜ。全くあんなに全開で走らなくても……」

「ごめんね。でも良いテストになったでしょう」


俺たちはクラナガンの外れにある海岸になってきていた。
シーズンオフということもあり、ここにいるのは俺たちくらいなものだった。


《相棒、私が愚かでした。女性だから大丈夫なんて思ってましたが、限界ギリまでブン回されるとは思っていませんでしたよ。考えてみればティアナさんもそうでしたね……》


まさかフェイトさんが、俺やティア以上に全開走行する人とは想わなかった。
あきらかに慣らしの運転じゃないぞ……。


「そういえば、フェイトさんの車ってスポーツカーだったよな。しかもミッドチルダで最高スペックの……おまけに値段も……」

《はっきり言って、あの車は町中で乗るには、明らかにハイスペックです。さらにエンジンからサスペンションに至るまでフルチューンしてますし、彼女はあれでサーキットでも走る気なんですか!!》


もしかしたらフェイトさんって、ハンドル握ると性格が変わるタイプなんじゃないか。
サンダーを運転してる時、普段の雰囲気とは全然違ったぞ。


「フィル、何してるの。早く行こう〜」

「ああ、今行くから」


さて、せっかくの休みなんだ。ゆっくり羽を伸ばすとしますか。





*     *     *





「はい、どうぞ。時間がなかったから、こんな物しか作れなかったけど」

「そんなこと無いよ。本当にごめん、弁当まで作ってもらっちゃって……」


あの短時間でこれだけの弁当を作ってくるとは、やっぱりフェイトさん料理上手なんだな。
弁当の中身は、三種のサンドウィッチ(ツナ、玉子、ハムとチーズと高原野菜)

おかずは唐揚げと卵焼き。

生野菜はレタスとトマトとアスパラガスのサラダ。
デザートとしてりんご。それもうさぎ形にむいてあった。



「じゃ、いただきます」

「ちょ、ちょっと待って……。あ、あ〜ん……して……」


そう言ってフェイトさんは、唐揚げを持ったまま顔を真っ赤にしていた。
これってあれだよな。恋人同士がやる……。

めっちゃ恥ずかしいけど、これで一人で食べられるからなんて言ったら、絶対泣くだろうな。
それにフェイトさんが勇気を出して、こんな事してくれてるんだ。


「あ……あ〜ん」

「……う…」

「ど、どうしたの……美味しくなかった……」

「うまい!!」

「ん、もう……。 脅かさないでね」

「ごめん、でもマジで美味しい!!」

「よかった。頑張って作ったんだよ。フィルに喜んで欲しくて……」


やっべぇ、俺涙出そうなんだけど……。
手料理なんて、久しく食べてなかったからな。

いつも、自炊か食堂のご飯かレトルト食品だったし……。


しかも、最近シャーリーさんと夜遅くまでやっていたから、栄養補助食品に頼っていたし。
フェイトさんにばれたら、間違いなく怒られるレベルだ。



「ふぅ……ごちそうさま。本当に美味しかった」

「はい、おそまつさま。よかった、喜んでもらえて」

「今度は俺がなんか作るよ。フェイトさんにも、俺の手料理を食べて欲しいし……」


といっても料理じゃ、フェイトさんには敵わないしな……。


「楽しみだな。ティアナ達が言ってたけど、フィルって料理だけじゃなくて、洋菓子も作れるんでしょ?」

「まぁ、それなりにだけどね。女の人だとケーキとかの方が良いかもね。フェイトさんって何が好きなの?」

「ケーキは何でも好きだけど、チョコ系が特に好きかな」

「分かった。とっておきの作るから、楽しみにしていてね」

「ありがとう。私、楽しみにしているね!!」





*     *     *





フェイトさんの手料理を食べ終わった後、俺たちは砂浜に座って、海を眺めていた。
こうしてると、気持ちが落ち着くな―――――。



「波の音が、気持ちいいね……」

「ああ、昔はよくここに来たものさ。任務で失敗した時とか、嫌なことがあった時ここに来てた……」


なんか懐かしいな。誰にも言えないことがあったりすると、よくここに来ていたもんだ。


「じゃ、フィルの大切な思い出の場所って訳だね。ティアナ達とかは知らないの?」

「フェイトさんが初めてだよ。元々俺は一人になることが多かったしね……」


基本的に俺は一人で行動してたからな。
訓練校で、ティア達と一緒に行動するようになってからはトリオでやっていたけど―――――。


「嬉しいな。でも私で良かったの?」

「当たり前でしょう。フェイトさんは、俺の………大切な彼女なんだから………」

「彼女……か。初めてだね。フィルがちゃんと、私のことを彼女って言ってくれたのは……」

「そう……かもしれない………。やっぱ心のどこかで、フェイトさんのことを高嶺の花って思っていたから。彼女って言うのに勇気が無かったんだ」



未来でも、こっちでもフェイトさんはずっと憧れの人だったから―――――。
こうして俺の恋人になってくれたなんて、今でも夢なんじゃないかっておもうし……。



「フィル。女の子はちゃんと言って欲しい時があるんだよ。例え、心が通じ合っていても、言葉で欲しい時があるんだから。いつまで経っても、私のことを彼女って言ってくれないから、不安になっちゃったんだ……」

「今まで不安にさせてごめん。これからはちゃんと言うよ。俺はフェイトさんの彼氏なんだしね」

「うん!!」


フェイトさんの本当の笑顔って初めて見たかもしれない。
なのはさんが言ったように、まだ俺はフェイトさんのことを分かってないんだな。


「……フィルがちゃんと彼女って言ってくれたから、私もちゃんと言うね。これからもよろしくね、私の大切な彼氏さん」



女の人の上目遣いでの仕草って、本当にグッと来るものがあるな……。
ましてフェイトさんだと、さらに破壊力があるな……。

俺、こんな事考える奴だったか?


少しずつ……変わってきてるのかもな……。


「もう少し、そばに来てくれる……」

「うん」


俺はフェイトさんをそっと抱き寄せる。

こんな事をするは自分でも大胆だと思うけど、でも今はこうしてフェイトさんのぬくもりを感じたい。


やがて―――――。


どちらかとも無く、顔を寄せキスをしようとした時……。



『こちらスターズ1、高町なのは。フェイト隊長、フィル応答して……』


それぞれのデバイスに、なのはさんからの通信が入ってきた。


「こちらライトニング1、どうしたの!?」

『休暇中にごめんなさい。さっきキャロから緊急通信が入ったの。サードアベニューF-23の路地裏にてレリックとおぼしきケースを発見。ケースを持っていた小さな女の子が一人一緒にいるの』

「フィル、もしかして……」

「ああ、間違いない……」



小さな女の子……。


間違いなくヴィヴィオだ。
いよいよ事態が動き始めたか―――――。


『救急の手配はこちらでしているから、二人は急いでエリオ達と合流して!!』

「「了解!!」」



さて、お休みはこれまでか。頭を切り換えて現場に向かいますか……。





*     *     *




ー聖王教会 本部ー




「それにしても、あなたの制服姿はやっぱり新鮮ですね」

「ああ、制服が似合わないって言うのは、友人どころか妻にまで言われますよ」

「ふふ、そんないつもの防護服姿と同じ位、凛々しくいらっしゃいますよ。クロノ提督」

「ありがとうございます。騎士カリム」

「失礼します」


クロノ提督と話をしていると、シャッハと一緒にシグナムがやってきた。


「ああ、シグナム。お帰りなさい」

「合同捜査の会議はもう……」

「ええ、滞りなく……」

「こっちは丁度、六課の運営面の話がすんだ所だよ」

「ここからは今後の任務についての話。あなたも同席して聞いておいてね」

「はい」



話を始めようとした時、はやてからの直接通信が入った。
いったい何があったんだろうか?





*     *     *




サードアベニュー路地裏




「「エリオ、キャロ!!」」

「フィルさん、フェイトさん……」


私達が現場に到着すると、すでにフォワード陣がそろっていて、女の子を保護していた。


「この子か……。ずいぶんまたボロボロに……」

「地下水路を通ってきて、随分長い距離を歩いてきたんだと思います」

「こんなにちっちゃいのに……」

「ケースの封印処理は?」

「キャロがしてくれました。ガジェットが見つける心配はないと思います」

「……うん」

「それから、これ……」


エリオが持っていたのは、封印処理をしたケースと同じ形のものだった。


「ケースがもう一つか……?」

「今、ロングアーチに調べてもらってます」

「……フィル」

「ああ……間違いないですね」


十中八九レリックだ。連中は間違いなくこれを狙ってくるはずだ。


「なのは隊長とシャマル先生、それとリイン曹長がこっちに向かっているから、俺たちはとりあえず現状を確保しつつ周辺警戒だな」

「「はい」」

「「うん」」

「サンダー、お前はこの子のバイタルとかを確認してくれ。今器具を取り付ける」

《了解です》

「えっ、そんなことも出来るの?」

「サンダーには、緊急用のメディカルウエポンが積んであるんです。シャマル先生がつくまでの、応急処置程度なら対応可能です」



これは、未来での経験で必要だと思い装備したオプションの一つだ。
実際、医療器具がまともになくて、助けられなかった命がたくさんあった。



「そうなんだ……」

「フェイトさん、この子に心電図用のコネクターをつけてくれませんか。その後血圧のチェックを……。俺はSpO2を調べますから」

「分かった」



フェイトさんにバイタルチェックをお願いし、俺はサンダーのシステムを使ってSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)を調べていた。
酸素とか使う状態でなければ良いんだけどな。





*      *      *




ー機動六課、作戦司令室ー




今回の事態に対して、レリックがらみになると判断した私は、後見人であるカリムに通信を入れていた。
ちょうど、六課のことで話をしていたクロノくんとも話をすることが出来た。


「そう、レリックが……」

「それを小さな女の子が持ってたってのも気になる。もしかしてフィルが言っていたことと関係するのかも知れない」

「ええ……」



フィルが経験してきた事件は、この事は以前もあったらしい。
でも、今回もうまくいくとは限らない。

現に、ユーノくんは生きているし、少しずつ歴史は変わってきている。



「ガジェットや召喚師が出て来たら、市街地付近での戦闘になる。なるべく迅速に確実に片づけなければあかん」

「近隣の部隊にはもう……」

「うん。ちゃんと地上本部と市街地と海岸線の部隊には連絡したよ。でないと、後で情報の混乱が生じるからね」



地上との連携を無視していたら、かえって混乱を招いてしまう。
私達が出来ることにも限りがあるのだから―――――。



「ああ」

「……もしかしたら、奥の手も出さな……あかんかもしれん」

「そうならないことを祈るがな……」

「……シグナム、あなたも向こうに戻っておいた方が良いわ」

「はい」

「シャッハに送ってもらえばすぐ戻れるから……」

「ありがとうございます、騎士カリム」



私も出来るだけのことは手を打つ。
だからフィル、一人で無茶はせんでな―――――。




*     *     *



ーサードアベニュー路地裏ー



検査も終わり、しばらくすると隊長達を乗せたヘリがやってきて、シャマル先生が女の子の体調を調べていた。


「うん、バイタルは安定してるわね。危険な反応もないし、心配ないわ」

「はい」

「よかった……」

「それにしても、私がすることは殆どなかったわね。フィルが殆どやってくれていて、私は再確認ぐらいしかすることがなかったわ」

「いえ、ちゃんとしたことは調べられませんから……」

「それでも現状で出来ることは全てやれているわ。心電図なんて本当はこんな所じゃ出来ないのに……」

「まぁ、現段階で緊急性がなかったからよかったですけど、大怪我とかはどうしようもありませんからね」



サンダーに積まれているのは、あくまでも応急的なものであって、その場でどうにかしようとするものは積まれていない。
だからこの子が緊急性がある状態なら、この場では難しいのだ。



「ごめんね、みんな。せっかくのお休みなのに……」

「いえ」

「平気です」

「ケースと女の子は、このままヘリで搬送するから、みんなはこっちで現場調査ね」

「「「「はい」」」」

「なのはちゃん、この子をヘリまで抱いてってもらえる」

「はい」

「あっ、俺がやりますよ」


俺は女の子を抱えへりに連れていく事になった。
その間、ティア達は現場調査のための準備をしていた。




*     *     *




ー機動六課、作戦司令室ー




スクリーンにガジェット反応が現れ、機影を写した。



「ガジェット来ました!!、地下水路に数機ずつのグループが少数。16……20」

「海上方面、12機単位の小グループ」

「……多いな」

「どうします? 八神部隊長」

「そうやな……」

『スターズ2からロングアーチへ。こちらスターズ2。海上で演習中だったんだけど、ナカジマ三佐が許可をくれた。今現場に向かっている。それからもう一人……』



別回線で、もう一人がこちらに通信してきた。
その人物とは―――――。



『108部隊ギンガ・ナカジマです。別件捜査の途中だったんですが、そちらの事例とも関係がありそうなんです。参加してもよろしいでしょうか?』

「うん、お願いや。ほんならヴィータはリインと合流。協力して海上の南西方向を制圧」

『南西方向ですね。了解です』

「なのは隊長とフェイト隊長は北西部から」

『『了解』』



これでガジェットへの迎撃はええ。
残る問題は……。



「ヘリのほうは、ヴァイス君とシャマルに任せてええか?」

「お任せあれ」

「しっかり守ります」

『ギンガは地下でスバル達と合流。道々別件の話も聞かせてな』

「はい」





*     *     *




「さて、みんな短い休みは堪能したわね」

「お仕事モードに切り替えて、しっかり気合い入れていこう!!」

「「はい!!」」

「それじゃ、みんな行くぞ!!」

《《《《《Stand by》》》》》

「「「「「セットアップ!!」」」」」


あたし達はバリアジャケットを装着し、地下道へ潜ることにした。


「「Go!!」」




*     *     *



ー地上・ヘリポートー



「フォワードのみんな、ちょっと頼れる感じになってきた?」

「うふふ、もっと頼れるようになってもらわなくちゃ……」



そう、それぞれが、一人前のストライカーとなってもらわなくちゃならない。
それが、未来からきたフィルの願いであり、わたし達の願いでもあるから……。


「早く事件を片づけて、また今度お休みを上げようね」

「うん」

「それはそうとフェイトちゃんも楽しめた。フィルとは少しは進展したの〜」

「な、なのは!?」


フェイトちゃんはわたしの言葉に、顔が真っ赤になってしまった。
それじゃ、フィルと何か進展しましたって言っているのと同じだよ。

まったく、そんなんじゃシャーリー達に知られたら、格好の餌だよ。


「と、とにかく私達も出よう!!」

「はいはい……」


バリアジャケットを装着し、空に飛び上がり迎撃することにした。




*     *     *




ーへリ内部ー



ヴィータちゃんと合流するため、私はシャマルとヴァイス陸曹と別行動を取ることになり、シャマルにハッチを開けてもらい、今から向かうことになった。


「気を付けてね」

「はいです」

「ヴァイス陸曹もよろしくですよ」

「うっす」

「ストームレイダーも二人を守ってあげて下さいです」

《Allright my friend》






*     *     *





ービル屋上ー



「ヘリに確保されたケースとマテリアルは妹たちが回収します。お嬢様は地下の方に……」

「うん……」

「騎士ゼストとアギト様は……?」

「……別行動」

「お一人ですか?」

「一人じゃない……。私にはガリューがいる」

「失礼しました。協力が必要でしたらお申し付け下さい。最優先で実行します」

「うん」


ウーノからの通信が切れ、私は行動を開始することにした。


「行こうかガリュー。捜し物を見つけるために……」





*     *     *





「ギンガさん、お久しぶりです」

『うん、ティアナ。現場リーダーはあなたでしょう?』

「いえ、現場リーダーはフィルです。今回はフィルの方が適任だったもので……」

「えっ、フィルがそこにいるの!?」

「久しぶりですね、ギンガさん。時間がないので簡単に説明します。ひとまず南西のF-94区画を目指して下さい。途中で合流しましょう」

『……F-94、了解。フィル後で会いましょうね』


フィル、相変わらずだね。でも、元気そうで良かった。


「ギンガさんって、スバルさんのお姉さんですよね」

「そう、あたしのシューティングアーツの先生で、歳も階級も二つ上」

「ほぇ〜」

「ギンガさん、デバイス同士で総合位置把握と独立通信が出来ます。準備は良いでしょうか?」

「うん、ブリッツキャリバーお願いね」

《Yes sir!!》


私はブリッツキャリバーを起動させ、バリアジャケットを装着する。
フィル、あなたの作ったブリッツキャリバー、使わせてもらうね。




*     *     *




ー機動六課、作戦司令室ー



「スターズ1、ライトニング1、エンゲージ」



なのはちゃん達がガジェットを迎撃してくれているが、いかんせん数が多い。
これで終わればいいんやけど……。

そして今、ギンガから事故現場の状況を聞いていた。



「私が呼ばれた事故現場にあったのは、ガジェットの残骸と壊れた生体ポットなんです。丁度5〜6歳の子供が入る位の……。近くに何か重いものを引きずって歩いた後があって、それを辿っていこうとした最中、連絡を受けた次第です」

「そうやったんやね」

「それからこの生体ポッド、少し前の事件でよく似たものを見た覚えがあるんです」

「私も……な……」

「……人造魔導師計画の………素体培養器………」

「これはあくまで推測ですが、あの子は人造魔導師の素体として作り出された子供ではないかと……」




*     *     *





「人造魔導師って?」
 
「優秀な遺伝子を使って、人工的に産み出した子供に、投薬とか機械部品の埋め込みで、後天的に強力な能力や魔力を持たせる。それが人造魔導師……」

「倫理的な問題はもちろん、今の技術じゃどうしたって色々無理が生じる。コストも合わない。だから、よっぽどどうかしている連中でない限り、手を出したりしない技術のはずなんだがな……」


でも、スカリエッティはそれに手を出した。未来で戦闘機人が出て来ていたのがその証拠だ。
そしてあいつらのせいで、みんな殺されたんだ……。



《動体反応確認。ガジェットドローンです》

「っ!! 来ます。小型ガジェット六機!!」




*     *     *



「スターズ1、ライトニング1、共に2グループ目を撃破。順調です!!」

「うん」

「スターズ2とリイン曹長も、1グループ目、撃破です!!」

「おしっ、いい感じだ!!」

「リインも絶好調です!!」

「ガンガン行くぞ。さっさと片づけて、他のフォローに回らないと……」

「はいです!! って、あれは!!」



リインが気付いたのは増援のガジェットだった。
だけど何かがおかしい気がする……。


「この反応……」

「……うん」


なのは達も何か気付いたようだな……。





*     *     *




「ふふふ、クアットロのインヒューレントスキル。シルバーカーテン。嘘と幻のイリュージョンで回ってもらいましょう」


いくら機動六課の隊長達に力があったって、この幻影には手こずるでしょうね。
さて、どういう風に動きますか。じっくり見せてもらいますわよ。





*    *    *




「航空反応増大!!、これ……嘘でしょう!!」

「なんだ……これは……?」

「波形チェック!! 誤認じゃないの!!」

「どのチェックも実機としか……」

「なのはさん達も目視で確認出来るって……」

「グリフィス君!!」

「はい!!」



嫌な予感が的中してしまったな。
もう出し惜しみしてる場合やないな……。




*     *     *





私となのはは、迎撃を繰り返しているが、このガジェット達は全部が本物という訳ではないみたいだ。



「幻影と実機の構成編隊……?」

「防衛ラインを割られない自信はあるけど、ちょっとキリがないね……」

「ここまで派手は引きつけをするって事は……」

「ヘリか地下道に主力が向かっている」



なのはがオーバルプロテクションを使って防戦の状態になっているが、このままじゃ状況は悪化する一方だ……。


「なのは、私がここに残ってここを抑えるから、ヴィータと一緒に……」

「フェイトちゃん!?」

「コンビでもこのまま空戦していたんじゃ、時間が掛かる。限定解除すれば広域殲滅でまとめて落とせる!!」


このままじゃ、シャマルもフィルも危ない。
早くこいつらを片付けて応援に向かわなきゃ!!


「それはそうだけど……」

「何だか嫌な予感がするんだ……」


さっきから胸騒ぎが止まらない。
不安がずっと収まらない……。



「でも、フェイトちゃん……」

「割り込み失礼。ロングアーチからライトニング1へ。その案も限定解除申請も、部隊長権限にて却下します」

「はやて?」

「はやてちゃん、なぜ騎士甲冑?」

「嫌な予感は私も同じでな。クロノ君から私の限定解除許可をもらうことにした。空の掃除は私がやるよ……」



限定解除って……。
はやての申請はそう簡単にはできないのに!!



「ちゅうことでなのはちゃん、フェイトちゃんは地上に向かってヘリの護衛。ヴィータとリインはフォワード陣と合流。ケースの確保を手伝ってな」

「「了解!!」」





*     *     *





ー聖王教会、本部ー



「君の限定解除許可を出せるのは、現状では僕と騎士カリムの一度ずつだけだ。承認許諾の取り直しは難しいぞ。使ってしまって良いのか……」

「使える能力を出し惜しみして、後で後悔するのは嫌やからな。私かてあんな未来はごめんやし……」

「場所が場所だけに、SS(ダブルエス)ランク魔導師の投入は許可出来ない。限定解除は3ランクのみだが、それでいいか……」

「……S(シングルエス)、それだけあれば充分や」

「ふう……」


僕は魔法陣を展開し、はやての限定解除を行うことにした。
確かに現状ではこれしかないが、なるべくなら使いたくはなかったな……。


「八神はやて、能力限定解除3ランク承認。……リリースタイム120分」

「リミット……リリース!!」



能力限定解除されると同時に、ベルカ式の魔法陣が強い光を放ち、力が解放された。
そしてスクリーンには、魔法陣の光が強く輝いているはやての姿があった。



「完全解除で無い分、許諾取り直しも幾らか優しくなるかも知れませんし……ね……」

「……気休め程度ですがね。地上部隊は上層部が厳しいです」





*     *     *




とうとう使ってしまった……。切り札の限定解除。
でも、ここで使わなくちゃどうしようもない。


―――――だけど。


フィルの限定解除は、出来るだけさせたくない。
限定解除したら、フィルのことや。絶対に無茶しまくるに決まってる。


だから、今は私が頑張らないと―――――。




「よし……久しぶりの遠距離広域魔法、行ってみようか!!」




こっちのことは心配せんでええよ。
だから、みんな、レリックのことは頼んだで!!





*     *     *






ー地下道ー



ガジェットと交戦している俺達は、通信やサーチャーで現状を知ることが出来た。
どうやら向こうも本格的に動いてきているな。



「空はどうやら大変みたいね……」

「うん……」

「ケースの推定位置までもうすぐみたいです」

「うん」



ケースの推定位置に向かおうとした時、壁が爆破し誰かが現れた。
煙が引くとそこには……。



「ギン姉ぇ!!」

「ギンガさん!!」

「一緒にケースを探しましょう。ここまでのガジェットは、殆ど叩いてきたと思うから……」

「うん!!」

「フィル……」

「うわっ……。ちょっとギンガさん!?」


再開もつかの間、いきなりギンガさんが俺に抱きついてきた。


「フィル……本当に会いたかった。私、どうしてもあなたに、直接お礼が言いたかったの」

「俺は約束を果たしただけですよ。ギンガさんが全力を出せるように……ね……」


約束もそうだけど、何より二度と死なせたくないから―――――。


「フィル……あたし……」

「ギンガさん、今はそんなことをしている場合じゃないでしょう。今は先に進まないと……」

「そうね、ティアナ。とにかく急ぎましょう……」




*     *     *





ー機動六課、作戦司令室ー



「ロングアーチ1シャリオから、ロングアーチ0八神部隊長へ」

「はいな」

「サイティング・サポートシステム、準備完了です。シュベルトクロイツとのシンクロ誤差、調整終了」

「うん、了解。ごめんな、精密コントロールとか長距離サイティングとか、リインと一緒やないと、どうも苦手で……」



今はロングアーチでサポートしてくれるからええけど、これから先、苦手なんて言ってられない。
私も、時間を見て鍛錬せんとな―――――。



「その辺はこっちにお任せ下さい。準備完了です」

「……おおきにな」


シャーリーからの通信が切れると、ガジェットを殲滅するために夜天の書を出し、シュベルトクロイツを構えた。



「来よ、白銀の風……」

「天よりそそぐ矢羽となれ!!」



ベルカ式の魔法陣が足下に展開され、全面にはミッド式の魔法陣が展開された。
私は、なのはちゃんとフェイトちゃんが安全域まで退避したのを確認し、撃つことにした。



「第1波、行くよ!!」


魔力チャージが完了し、前面の魔法陣も強い光を放っていた。


「フレース………」


「ヴェルグ!!」


五つの白き砲撃はガジェットに向かって、一直線に向かっていた。





*     *     *




ー機動六課、作戦司令室ー



「フレースヴェルグ、第1波発射」

「発射軌道……正常!!、グループEに着弾します」

「5……4……3……」

「2……」

「1」

「0」



カウント0と同時に光弾の一つが広域爆発を起こし、ガジェットのグループを殲滅した。
続いて第2波、3波が発射され次々とガジェットのグループを消滅させていった。


「シャーリー、消滅時のデータから幻影と実機の判別パターンの割り出しを。フィルのくれたデータがあれば必ず見分けられる」

「うん、全力で見つける!!」


こっちにはフィルがくれた戦闘機人のデータがあるんだ。
必ず判別パターンを割り出してやる。





*     *     *





俺たちはガジェットと交戦しながらケースの在処に向かっていた。
ギンガさんも加わったおかげでかなりの戦力アップがした為、ガジェットも全機殲滅をし、ケースの近くまで来ていた。


そして……。



「ありました!!」


キャロがケースを見つけたその時、何かを蹴って近づいている物音がする。
物音の正体は球体で、ケースを持っているキャロに近づいていた。


「きゃぁぁぁ!!」


黒い物体はスピードを上げ、地面に落下すると衝撃でキャロが吹っ飛ばされてしまった。
どうやら今の衝撃でケースもどこかに行ってしまった。

すぐにエリオが迎撃するが、手傷を負わせられたみたいね。


「エリオくん!!」


黒い物体の幻影が解けると、そこには一匹の魔物が立っていた。
違う、あれは召喚獣だ。それもかなり力がある奴だ……。



「あっ!!」


召喚獣に気を捕らわれていると、紫の髪の少女がケースを奪おうとしていた。
キャロが気が付いて取り返そうとしたが……


「……邪魔」


少女の攻撃にキャロはプロテクションで防ぐが、至近距離で受けてしまったためプロテクションが破られ吹っ飛ばされてしまった。
スバルとギンガさんが魔物に対応しているが、二人がかりで何とかの状態だ。
どうする……考えろ………。


今すべき事は……。



「こらぁ、そこの女の子。それ危険なものなんだよ!! こっちに渡して!!」


スバルの言葉にも全く介さない様子だった。


「……ごめんね。乱暴で……でもね、これ本当に危ないものなんだよ」

「……くっ!!」


そう、スバル達が引きつけてくれている間に、ティアはオプティクハイドを使って少女に近づいたのだ。
クロスミラージュの魔力刃を首元に近付け、動きを封じることに成功した。


(ルールー、1、2、3で目をつぶれ。いいか……)

(1……2……)

(スターレンゲホイル!!)


ティアが少女を逮捕しようとした次の瞬間、紫の炎が飛んできて強烈な爆音と閃光が発生した。
あまりの音に耳を塞ぐことになり、少女から注意をすらしてしまった。

その隙に逃げようとしていたが、なんとかクロスミラージュを向けたが、召還獣の攻撃に吹っ飛ばされてしまった。


「ちっ……」


今はこいつに構っていられない。
俺は吹っ飛ばされたティアに代わって、少女に威嚇用の魔力弾を撃った。


「えっ!!」


しかし、召還獣が自分の身で少女を庇い攻撃は通らなかった。
さらに、少女の使い魔なのか分からないが、赤い髪の小さな少女が現れた。


「ったく、あたし達に黙って勝手に出掛けたりするからだぞ。ルールーもガリューも」

「……アギト」

「おう、本当に心配したんだからな。まぁ、もう大丈夫だぞ。何しろこのあたし……」

「烈火の剣精……アギト様が来たからな!!」

「おらおら、お前らまとめてかかってこいや!!」



召喚師に召喚獣……。それに烈火の剣精と名乗るあの少女。
間違いない。あれはリイン曹長と同じユニゾンデバイス。


さて、どう切り抜けるか………。





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