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〜 Remember my heart 〜
第10話 大切な人


「フェイトさん……」

「どうしたの?」

「俺……みんなに全部話そうかと思います」



あれからずっと考えていた―――――。
結局、俺が話していなかったから余計に拗れてしまった。

これ以上拗れさせるわけにはいかない。



「そっか……決心したんだね」

「もう隠すことは出来ないと思うし、何より……俺が思っていることも、ちゃんと言葉で伝えなくちゃいけないんです」


正直、いまでも話すのは怖い。
これを話してしまったら、みんなが今までと同じように接してくれるのか?

それとも―――――。

だけど、例え一人になってしまっても良い。

みんながまた死んでしまうよりは……ずっと良い―――――。



「大丈夫だよ。みんなもちゃんと分かってくれるよ。だから恐れないで……」

「ありがとうございます……」

「多分、なのはも夜に、自分の思いをティアナ達に伝えると思うから、その時に話すと良いよ」





*    *    *





なのはさんが、みんなを集めて、ティア達に自分の過去と、教導の思いを伝えていた。
前の時とは違い、本人が自分の言葉で伝えている。


なのはさんはちゃんとティア達に話した。
今度は、俺がみんなに全てを話す番だ。



「部隊長すみません。少しだけお時間をもらいたいんですけど……」

「なんか、話があるんか?」

「……みんなに、話しておかなきゃいけないんです。俺のことを……」

「せやな。話してもらえるか。あの時から正直、気になってたんや。なんであんな力を持っているか、話してくれる」

「はい……」

《マスター、話しにくいのなら、私が……》

「いや……自分で言うよ……。これは俺がしなきゃいけないことだから……」

《分かりました……》



八神部隊長に頼んで、みんなにその場に残ってもらうようにしてもらい、俺は全てを話すことにした。



「……それでは、お話しいたします。これから話すことは、信じられないかも知れませんが、全部、本当のことです。俺は……」



いざ話そうとすると、震えが止まらない。
しっかりしろ!! 覚悟を決めたんだろ。


「……俺は……本当は約3年後の未来から………この世界に戻ってきたんです」

「はぁ……何の冗談だ!? それ……ふざけんのもたいがいにしろよな!!」



ヴィータ副隊長が怒るのは当然だよな。
俺だって、自分がこういう経験してなかったら、なかなか信じないだろう。



「ふざけてなんかいませんよ………。単刀直入に言いますと………」

「管理局は……機動六課は……スカリエッテイに……負けたんです」

「「「「「!!」」」」」


ここにいる全員が驚愕の表情になる。
特に、キャロに至っては顔が真っ青になってしまっていた。


「それはどういうことや!?」

「口で説明するより、映像を見てもらった方が早いですね……。プリム……」

《はい……いいんですね……》

「ああ……やってくれ……」





スクリーンに映し出されたのは、この世の地獄だった。


地上本部の壊滅―――――。


聖王のゆりかごの復活―――――。


蹂躙されていくミッドの街―――――。


ゆりかご決戦での八神部隊長の最後―――――。


スカリエッティ基地でのフェイトさんの最後―――――。


ゆりかご内での戦闘……。


―――――そして。


なのはさんの最後―――――。



さらに軌道衛星上にたどりつき、更に力を増していくゆりかご。その後、本局への襲撃。



その後……生き残った俺たちの戦闘記録も……。



自爆で戦闘機人を一緒に道連れにし、最後を迎えたスバルとギンガさん―――――。




ゆりかご決戦から3年後……。


                                                      


クアットロを倒したが……その後……。




俺の腕の中で………。



静かに息を引き取ったティア……。




「そして俺はクアットロに心臓を貫かれ、死を迎えるはずだったんですが……あるきっかけでこの時代にいたんです……」


話が終わった時全員顔面蒼白状態になり、何も言えなくなっていた。
しばらくしてヴィータ副隊長が……。




「なんだよ……なんなんだよ、これは!!」

「ヴィータ……」

「これがこれから起こることだって言うなら、あたし達のやって来たことは全部無駄って事かよ!!」


ヴィータ副隊長がこうなるのも無理ない。
俺だって何度見たって辛いんだ。


―――――今でも忘れはしない。



息を引き取る時のみんなの表情は……。



「だけど……。これが未来だって証拠は? そして、こんな映像を持っているの……?」

「その疑問は当たり前ですよね。なのはさん……。その映像は……スカリエッティから送りつけたれた物なんです」


クアットロ―――――。


あいつが、すべてがあいつがやったこと―――――。


俺たちに絶望を与えるために、わざと送りつけてきたもの。
ゆりかご内にある記録装置からと、それ以外にも様々な方法で撮っていた。


ティアやスバルが最初に見た時は涙が止まらなかった。




「それと、これを見て下さい」


そう言って俺が取り出したのは―――――。


「これって……。まさかレイジングハート!?」


ひび割れ、一部が欠けてしまった未来でのなのはさんの相棒―――――。
レイジングハートだ。


「はい、これのおかげで色々知ることが出来たんです。生き残った俺たちにスカリエッティ達が送りつけてきたんです。エースオブエースを失ったって、心理的にダメージを与えるために……」


だが、皮肉にもそれが俺とティアに力を与えてくれた。
コアに残されていたシステムの情報で、ティアにブラスターを組み込むことが出来たんだからな。


だけど最後の戦いでティアは―――――。


ファイナルリミットまで解放してしまい………命を落としてしまった。


レイジングハートが完全なら、完璧なシステムを作れたかもしれないけど、色々情報が欠けていてあれが精一杯だった。

もっと……。もっと俺に知識があればと今でも悔やんでいる。


「フィルが色々知っていることには納得した。けどな、あのときフィルが使った魔法は何や? こっちが調べた時はそんな力はなかったはずや?」


やっぱり八神部隊長の本題は、こっちがメインだよな。

だけど、こんな荒唐無稽な話しても良いのか?
まぁ……。最も、未来から来たって事がすでに、現実から離れてるんだけどな。



「まず、ここから話す必要があります。俺がここにいられるのは……。俺を助けてくれた女神からもらった力のおかげなんです……」

「女神やて!? そんなおとぎ話みたいな……?」

「事実なんです。現にその力でここに戻ってきたんです……」


あの時、女神に助けてもらわなかったら、こうして過去に来ることも出来なかったんだ。


「それで、そんな力があるんやな」

「はい……。それと……」

「模擬戦の時に、ティアナを助けた時の力だね……」

「そうです……。あれは基本は転移魔法です」

「ちょっと待て!! あたし達も転移くらいは使えるが、お前が使った時は魔法陣すら出ていなかったぞ!! しかもあんな短時間で!! ミッドにしろベルカにしろ、魔法の反応があればあたしだって気づいたぞ!!」


ヴィータ副隊長の言うとおり、従来の転移魔法は魔法陣が展開され発動する。
だけど、実際俺が使っているのは少し違う。


「俺が使うのは少し違って、これは相手の魔力を感知し、その場所に行く魔法……。瞬間移動、もしくはワープって考えてもらえればいいです」

「瞬間移動!? だから動きが見えなかったんだ……」

「そしてこの魔法の最大の特徴は、相手に気づかれずにアクションを起こせること。だから戦闘時にも動きを察知されにくいんです」


単純に言えば、このスキルは相手の不意を突いて攻撃することが可能だ。
だから上手く使えば、格上の相手とも戦うことが出来る。


「……とんでもない魔法だね。まさに戦闘用に特化しているね。もしかして、フィルの最大の切り札だったんじゃないの?」

「…………確かに切り札の一つなんですけどね」



あの時はそんなことを言ってられなかった―――――。
あそこで動かなかったら、俺は一生後悔していたから。



「それでリミットを解除した時のフィルは、どのくらい魔力があるんや……?」

「多分、AA+くらいです……。未来でもそのくらいでしたし、元々の魔力は殆ど上がっていないんです……」

「それに、女神からもらった力はまだ完全に物にしていなくて、おまけに時間制限があるんです。完全に使いこなすには、もっと訓練が必要なんです……」



現在の使用時間は約15分くらいが限度だ。

簡単に言えば、タンクに水はたくさんあるが、それを調節する蛇口が細すぎて、全開にしても普通の状態といえば良いかもしれない。

女神は訓練をすれば、完全に自分の物になるって言ってたけど、もう少し時間が掛かるな。



「やっと……分かったよ。なんでフィルが、ティアナ達のクロスレンジの練習をしていたのを、止めなかったのかが……」



俺だって、今のティア達がクロスの練習するのは早いと思っていた。
けど、やらなきゃ納得しないことだってある。

その繰り返しで俺たちは強くなっていったんだ―――――。



「見てもらって分かったと思いますが、あの世界では………生きるか死ぬかだった………」

「スバル達を失った俺とティアは、クロスレンジを覚えるしかなかった……。時にはガードウイングもやったし、フルバックの役目だってやるしかなかったんです……」


たった二人で戦うには、どんなことだってやるしかなかった―――――。
一か八かの斬り合いにもなったし、それこそ何度も死にかけた。


「………フィルは知ってたんだね。だから訓練中に時々、悲しみが混じった表情になってたんだね」

「はい……」

「本当にごめんなさい……。これじゃ、教導官として失格だよね………。ティアナ達のこともちゃんと見ていなかったし……」

「失敗は誰だってします。俺だってそうです。もっとも俺は、失敗ばかりですけれどね………」



世界の修正力を恐れて、結局は何もできなかったんだから。
本当にどうしようもないよ。



「フィル……」

「どうしたんですか、シグナム副隊長?」

「本当にすまなかった。私達はお前達の事を、ちゃんと見ていなかったんだな……」

「もう止めましょう。この事はお互い様ですよ。俺だってみんなに隠していたんですから………」


そのことで余計な拗れまで生んでしまったんだから―――――。


「そう……だな……。しかしフィル」

「何ですか……?」


何か嫌な予感がするのは、俺の気のせいか……。


「今度、全力で一対一の模擬戦を……」

「全力で却下します!!」

「むう……なぜだ、お前の本当の力、是非確かめたいのだが……」

「冗談じゃありませんよ、俺を殺す気ですか!!」


何を考えてるんですか。
元々の力は歴然の差なんだぞ。

近戦専門のシグナム副隊長相手にタイマンなんて冗談じゃない。
それこそ自殺志願者がすることだぞ!!

その後、ヴィータ副隊長にも謝られ、さすがに模擬戦をやれとか言われなかったので、すごく助かった。
そんなことをやってたら、いつのまにかティアの姿がいなくなっていた。





*    *    *






ロビーを離れたあたしは、六課施設で海が見える所に来ていた。


なのはさんの教導の思い……。

フィルの経験してきたこと……。


色々なことを聞いて、あたしは頭が整理しきれないでいた。




「ここに……いたんだね……」

「……なのはさん」

「少し……話……してもいいかな?」

「はい……」


そういってなのはさんは、あたしの横に座って話をし始めた。


「まずはゴメンねティアナ。わたしがしっかり自分の思いを言えてなかったばっかりに、辛い思いをさせてしまって……」

「いえ……あたしの方こそすみませんでした。あんな無茶をしてしまって……」





*    *    *






「ティアとなのはさん、何を話してるんだろう……?」

「そうですね……」

「さっきから二人とも互いに謝ってから、殆ど話をしていないみたいですし……」

「3人とも、何のぞき見をしてるんだ」

「「「フィル(さん)!?」」」

「趣味悪いことしてるんじゃない……。と、言いたいけど俺も気になってな。結局、俺がティアを追い詰めてしまったような物だからな……」

「フィル……」


フィルっていつもこうだ。
何でも自分で抱えてしまって、どんなに辛くても人に話そうとしない。


今回、やっと話してくれたけど―――――。

こんなんじゃ、いつかフィルがつぶれちゃうよ。


「俺のことよりも、どうやら二人の会話が再開しそうだぞ」



*    *    *



「じゃ、お互いに謝ったところで、私からちょっとお説教しておこうかな。あのね、ティアナは自分が凡人で射撃と幻術しか出来ないっていうけど、それは大きな間違いだからね」

「えっ……?」

「ティアナもほかのみんなも今はまだ原石の状態。でこぼこだらけだし、本当の価値も分かりづらいけど、だけど磨いていく内にどんどん輝いてくる部分が見えてくる。」



そう、ティアナもみんなもまだ原石の状態。
磨けば光り輝く可能性の秘めた原石―――――。


「エリオはスピード………」

「キャロは優しい支援魔法………」

「スバルは、クロスレンジの爆発力……」

「フィルは、四人をまとめられる統率力……」

「そしてティアナは、幻術を駆使して、その視野の広さと判断力で、どんな状況でも切り抜ける。最も射撃だけでなく、斬撃も使いこなしていたみたいだけどね。映像のティアナはそういった感じだったしね」

「なのはさん……」

「そんなチームが理想型で、ゆっくりだけどその形に近付いている………。って、言いたかったんだけど、模擬戦でもう少しで、ティアナを自分と同じようにしてしまいそうになって、それをフィルに止められ……。さらにあの後、フェイトちゃんにも言われて……自分も未熟だなって気づかされたの」



フェイトちゃんはずっとティアナ達のことを見ていてくれてたんだよね。
フェイトちゃんだって、仕事が大変だったのに―――――。





*    *    *





「そして、ティアナ達の考えたことは間違ってはいないんだよね。現にフィルはクロスミラージュに、そのためのモードを組み込んであるんだし……」


そう言ってなのはさんは、クロスミラージュを持って何かをし始めた。


「システムリミッター、テストモードリリース」

《yes》

「命令してみて、モード2って」

「モード……2……」

《Set up Dagger Mode》

「あっ……」


クロスミラージュがあたしの声に反応してモードチェンジしていく。
変形した姿は、クロスレンジ用のモード―――――。



「これって……」

「ティアナは執務官志望だもんね。ここを出て執務官を目指すようになったら、どうしても個人戦が多くなるし、実際にそんな場面が殆どだったみたいだしね。あの記録を見て、それが痛感したよ。フィルは解っていたんだね。ティアナがこのことで苦しむって、そして少しでも力になってやりたいって……」

「フィル……なのはさん……」



なのはさんの言葉に、あたしは涙を堪えることが出来なくなっていた。
フィルもなのはさんも、それぞれ考え方は違っていても、あたし達のことを常に考えてくれていたんだ。



「クロスもロングも、もう少ししてから教えようと思っていた。だけど、出動は今すぐにもあるかもしれないでしょう。だからもう使いこなせている武器を、もっともっと確実な物にしてあげたかった」

「だけど、私の教導って地味だから、あんまり成果が出ていないように感じて苦しかったんだよね。本当にごめんね、ティアナ……」

「うわぁぁぁ……ごめんなさい、本当にごめんなさい……」





*    *    *





(どうやら、なのはさんとティアは大丈夫だな……)

「ほら3人ともいつまでも見ているな。後はそっとしておいてやろう」

「そうだね……」

「「はい」」


スバル達はそういって自分たちの部屋に戻っていった。
少ししてなのはさん達も、それぞれ自分たちの部屋に戻っていった。


だけど、俺は少し頭を冷やしたい気分になっていた。





*   *   *






時間が経ち、空気が冷えてきたからか、みんなもなのはさん達も部屋に戻っていった。

だけど………。

今はこの冷たい空気が、俺の頭を冷やしてくれる。



「……プリム」

《何ですか、マスター?》

「………もしかしたら、過去に戻ってこなかった方が良かったのかもな」

《どういう……事ですか?》

「今回のことも含めいろいろさ……。俺がいることで余計な事まで起きている気がしてならない」


結果的にティアとなのはさんは打ち解けたけど、俺がいなかったら、もっとうまくまとまったんじゃないのか―――――。



《マスター……》

「本来なら俺は、ロングアーチの一局員でここまでティア達に関わることはなかった。現に歴史もズレが出てきている」



―――――そうさ。

俺はロングアーチの一人に過ぎなかった。
コンビネーションの練習の時は、ティア達と訓練したりしたが、基本的に裏方の仕事が中心だった。

こんな風に表には出てこなかった。




「やっぱり………。俺の存在は……六課にとって……そして、ティア達にとって邪魔でしかない」

《マスター!!》

「それは間違っているよ……。フィル」

「えっ?」



後ろから声がして、振り返るとそこに立っていたのはフェイトさんだった。
確かミーティングが終わった後、自分の部屋に戻ったはずなのに―――――。



「フェイトさん、どうしてここに!?」

「フィルだけ帰ってこないから、気になって………」



時計を見ると夜11時を過ぎていた。

いつの間にかこんな時間になっていたんだな。
俺がいつまでも戻ってこないのに気づいて、ずっと探してくれていたんだ。



「盗み聞きするような真似をしてごめんね……」

「別に……構いませんよ……」

「それはそうと……フィル」


フェイトさんは右手で俺の頬にそっと触れて―――――。


「今の言葉は、聞き捨てならないよ。どうしてそんな風に思うの!?」

「……」

「私には……話せないかな……?」


これ以上誰にも迷惑を掛けたくない。
疫病神の俺に関わって何かあったら―――――。


でも、この人なら話しても―――――。




*    *    *



フィルは、しばらくの間俯いていたけど、振り絞るようにポツリポツリと、自分の気持ちを打ち明けてくれた。



「……怖いん……です」

「怖い?」

「今は……何とかうまくいっていると思います。けど……」

「けど?」

「これが原因で俺が知っている結果よりも、最悪なことになるんじゃないかって……色々ズレも出てきている。もう俺が知っている未来じゃない……」


確かにフィルが知っている未来とはかなり違ってきている。
でもね―――――。

それでも、良い方向に変わってきているんだよ。


「私も……あまり人のことは言えないけど、それ以上にフィルは抱え込みすぎだよ。それと誰がフィルのことを要らないなんて言ったの。そんなこと誰も言ってないよ!!」

《フェイトさんの言うとおりですよ。マスターはマイナス思考になると、トコトンにまでなってしまいます。確かに……あんな世界で生きていたら、そうなるかもしれません。でも、ここでは皆さんは生きているんですよ!!》

「プリムの言うとおりだよ。フィルがいなかったらユーノだって助からなかった。なのは達だって分かり合えた。それはフィルのおかげなんだよ!! だから、そんな風に思わないで!!」



フィルがいなかったら、私だってティアナのことを気づいてあげられなかったかもしれない。
ユーノのことだってそう―――――。



フィルが頑張ってくれたから、今こうしていられるんだよ!!



「フェイトさん……プリム……」

「いつか言ったよね。私がフィルの心の支えになれないかって……。その答えを……聞かせて……」






*    *    *





フェイトさんの瞳は真剣そのものだった。
その場の雰囲気で言ってるんじゃない。それは瞳を見れば分かる―――――。


でも、本当に言って良いのか?


俺が……人を好きになって良いのか?



「……俺はかつての世界で、貴女のことを……すっと憧れていました」


ロングアーチの一局員でしかなかった俺にも、フェイトさんは優しくしてくれた。
それがどんなに嬉しかったか……。


「そして、こっちに戻ってきてからも、それは同じでした。ティア達の訓練を見守ってくれただけじゃなく、なのはさんと俺がぶつかりあったときも、俺たちを信じて手を出さないでくれた………」


本当は止めたかったはずなのに、俺たちを信じて飛び出さないでくれた。
俺となのはさん、そしてティアのことを信じて……。


そんなフェイトさんの心の強さと優しさに、俺は……。



「俺は……貴女が……フェイトさんのことが好きです。憧れの存在としてではなく、一人の女性として……」



―――――とうとう、言っちゃったな。


ずっと言わないつもりだったのにな。


でも、後悔はない―――――。


自分の気持ちを全部伝えきったんだから―――――。





「……ごめんなさい。勝手なことを言って……。馬鹿ですよね。俺なんかじゃ……釣り合いが取れないのが分かっ……んんっ!?」

「はい、そこまで」



そう言ってフェイトさんは、俺の唇に自分の人差し指を当てた。
まるで、それ以上言うのは許さないって言っているみたいだった。



「あんまり自分を卑下するのはだめだよ。それじゃ、フィルを好きになった私もその程度って事なのかな?」

「違う、それは違います!!」


フェイトさんは、俺なんかが好きになっていい人じゃない。
この人にはもっと素敵な人がふさわしいから―――――。


「だったらもう少し自分を好きになって、自分を労れないんじゃ人を愛する事なんて出来ないし、それに私も悲しいよ。自分の愛している人に何かあったら……」

「……ま……まさ……か!?」

「私の返事は最初から決まっているよ。私はフィルのことが大好きだよ。もちろん私の大切な男性としてだからね。だから……」


そういってフェイトさんは、俺を自分の方に抱き寄せて―――――。


「せめて私にだけは弱さを見せて。そして……それを一緒に分かち合って、共に歩んでいきたい……」

「………だけど、一度弱くなってしまったら俺は……」


一回でも、人の温かさを知ってしまったら、きっと弱くなってしまう。
それじゃ、大切な人たちを守れなくなってしまう―――――。


「フィルは、自分が甘えすぎだって思うくらい甘えてくれて良いよ。そのかわり……私も思いっきり甘えるから……ね……」

「………ありがとう……ござい……ます」



―――――温かい。


フェイトさんの心が本当に……温かい。


忘れていたな―――――。


あの時から……。
ティアが俺の目の前で失ってから……。


好きな人の……ぬくもりを……。



「……フィル……」



フェイトさんが瞳を閉じ―――――。


その唇に引き寄せられるように―――――。


俺たちは自然とキスをしていた。


それは……すごく気持ちが安らぐキスだった……。



*   *   *



キスが終わると、二人して顔が真っ赤になっていたが、いやな気持ちはちっともしなかった。
それどころか、もっとフェイトさんを感じたいっていう想いが増すばかりだった。



「えへへ♪」


フェイトさんもそれは同じみたいで、年相応の笑顔だった。
いつもの凛々しいって感じじゃなく、本当にどこにでもいる普通の女の子って感じだった。

これがフェイトさんの本当の姿なのかもしれない。



「なんか……身体が少し冷えちゃったね……」

「そうですね……」


フェイトさんが俺に身体を預けてきて、俺もそっとフェイトさんを抱き寄せる。



「フィル……後悔はしてない。私を選んだことに……」

「えっ?」

「だって、未来ではティアナのことが好きだったんでしょう。それなのに……」


ティアのことは話していないのに、どうして分かったんだ?


「……どうして……そう思ったんですか?」

「ティアナを見ている時のフィル、スバル達を見ている時とは違う表情をしていたから……。もしかしてって思ったの」


本当によく見ていたんだな、俺たちのこと。
でも、そこまで見ているとは思わなかった……。

そんなことを話していると、ポケットにしまっておいたクロスミラージュが突然光り出し、その光がフェイトさんを包み込んだ。




*    *    *




「ここは……?」


何だろう、この真っ白な空間は……。
外敵反応は見られないけど……。


『ここは……クロスミラージュが作り出した異空間です』

「誰……って、ティアナ!? でも雰囲気がちょっと違う?」



ティアナにそっくりだけど、目の前にいる女性は、私よりもずっと落ち着いた雰囲気を持っていた。


『そうですね……。正確に言いますと、あたしは……あっちの世界のティアナ・ランスターなんです』

「そっか……」


だから、こんなに落ち着いた雰囲気を持っていたんだね。
色んな経験をしてきて、成長して―――――。


『あたしはずっとクロスミラージュの中で、フィルのことを見守ってきました。そして……同時にフィルのことを助けてあげられない自分に対して、ものすごく腹を立てていました』

「ティアナ……」


ティアナの悔しさは痛いほど伝わってきた。
そうだよね―――――。

自分の大切な人を助けられないんだから―――――。



『フェイトさん。これだけは言わせてもらいます!! 貴女は遠慮しすぎです!! あたしの願っていることはフィルの幸せなんです。この世界でフィルは貴女だけには唯一、自分の弱さを見せた。それは本当に貴女のことを愛しているからなんです!! フィルって本当に好きな人じゃないと心を開かないから……』

「でも……それは、私じゃなくも……」



そう、きっとこの世界のティアナでも心を開いてくれる。
悔しいけど、あの二人を見ていたらそれが分かる。



『……いえ、それは違います。今のあいつを、本当に支えてあげられるのは貴女だけなんです。訓練以外でも、あたし達やフィルのことを見ていてくれた貴女しか……』

『だから、あたしの分までフィルのことをお願いします。フィルが幸せになってくれることが、あたしの一番の願いなんです。これ以上フィルに、大切な人を失う悲しみを背負わせないでください!!』


ティアナは、もう涙を抑えることが出来なくなっていた。
本当にフィルのことが大好きなんだね。

羨ましいな―――――。

ティアナのその心の強さが―――――。



「……約束するよティアナ。絶対にフィルの事を守るよ。身体だけじゃなく心も……」

『それを聞いて安心しました。本当はこの世界のあたしに、もう少し頑張って欲しかったんですけど、フェイトさんなら全てを託せます……』


ティアナはすごく優しい笑みをしていた。
残念だけど、私にティアナみたいな心の強さは無いから―――――。


「ティアナ……」

『残念ですが、時間みたいですね……。それじゃフィルのことをお願いします……いつかまた……』

「うん、またね……。ティアナ……」






*   *   *




「………う……ん………ここって……?」

「気がつきましたか?」



気がつくと私は見慣れない部屋にいた。
確か、外にいたはずなのに……?


「ここって、もしかしてフィルの部屋?」

「すみません。時間も時間だったので、やむを得ずここへ……」

「私、ずっと気を失っていたんだね。どのくらい気を失っていたの」

「時間は30分ぐらいですよ」

「そっか……」


かなり長く話していたけど、時間の流れが違ったみたいだね。



「ティアの想い……聞けたみたいですね」

「うん……確かに受け取ったよ。ティアナの想いを……」

「そうですか……」


いっぱい……いっぱい思いを受け取ったよ。
ティアナが、本当にフィルのことが大好きだったこともね―――――。



「フィル……」

「何ですか……?」

「決して一人で抱え込まないでね。苦しみも悲しみも、二人でなら乗り越えられるから……。だからお願い……私を頼ってね」


フィルは本当に一人で抱え込んでしまう。
心は、誰よりも脆く繊細なのに―――――。



「フェイトさんこそ俺を頼ってくださいよ。そっちこそ、一人で抱え込むことが多いんですからね」

「ふふっ、それもそうだね。じゃ、私も遠慮しないで甘えるね♪」



今のフィルに必要なのは、自分を包み隠さず素顔の自分で接すること。
そうしなきゃ絶対に弱さを見せてくれないから―――――。


だから、私も思いっきり甘えよう。
フィルが私と一緒にいて安らげるように―――――。



「〜♪」

「ど、どうしたんですか……?」

「私って甘えるとこんな感じだよ〜。やっぱり……嫌かな……?」

「言ったよね。普段のフェイトさんも今のフェイトさんも、全てが好きなんだ。他の奴が見れない一面を見られてすっごく嬉しい……」



あれ、フィルってそんな話し方だっけ?
まるで、ティアナやスバル達と一緒にいる時みたいな話し方。



「……やっぱ変かな? 親友とかにはこんな話し方なんだけど……。やっぱり元に戻す?」

「嫌だ!! やっと本当のフィルをみられたんだよ!! 戻しちゃだめだよ!!」


やっとティアナ達と一緒のスタートラインに立てたのに。
また、他人行儀な接し方をされるなんていやだよ!!



「そっか……。だったらそうするね」

「うん♪」


色々話していて、時刻も午前二時を過ぎようとしていた。


「なんか……戻りたくない」

「俺も一緒にいたいけど……。こんな所を、部隊長やシャーリーさん達に見つかったらと思うとゾッとする……」

「大丈夫。はやては、絶対に囃し立てたりすることはしないから……」


一見はやては、ゴシップ好きに見えるけど、自分がやられてる分、人に対しては誰よりも気を遣ってる。
だからこそ部隊長なんて役職も務められる。



「だから、今日は……いっしょにいよ……ね……。いっぱい……いっぱい甘えてね」

「……ありがとう。それじゃ今日はお言葉に甘えさせてもらうね」

「ねぇ……。お休みの……キス……して」


少し強引だけど、私はフィルに、お休みのキスのおねだりをする。
だって、フィルの性格からこうしないとしてくれそうにないし―――――。


「なんか……照れくさいな……」

「これからずっとするんだからね。少しずつで良いから慣れていこう♪」



お休みのキスをし、電気を消して私達は一緒のベッドで眠ることにした。
こうしてると、フィルの寝顔を見てると普通の男の子なのにね―――――。


フィル、これからは私も一緒なんだから……。


あなたのことを支えられるように一生懸命頑張るから―――――。


だから、あなたも……いっぱい私に甘えてね。

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