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〜 Remember my heart 〜
prologue



―――――3年前のゆりかご決戦




管理局は、スカリエッティ一味に完全敗北を喫した。




ゆりかご決戦で生き残ったのは、ミッドチルダにいた局員では、陸士108部隊の一部と機動六課からはスターズのフォワードの二人とロングアーチスタッフ一人だけ。


後は別任務でミッドチルダにいなかった戦艦数隻だけであった。


クロノ・ハラオウン提督が率いる艦隊が迎撃に向かったが、ゆりかごの砲撃の前に全て消し去られてしまった。


ミッド上空で戦っていたアースラはガジェットやゆりかごからの攻撃で大破してしまった。
何とか不時着が出来たのだが、ガジェットの大群に遭遇し、たった一人しか助からなかった。


地上本部の方も、戦闘機人とガジェットの大軍によって壊滅状態になった。


事件の初期にスカリエッティが無限書庫を危険視していた為、戦闘機人のドゥーエによって無限書庫司書長ユーノ・スクライアは暗殺されていて、ゆりかごに関する情報が殆どなかったのだ。


本局の方は、すぐには落ちなかったが、決戦から半年後、クアットロ達の総攻撃の前に滅んだ。


機動六課のメンバーは、まず八神はやて部隊長だが、決戦時ゆりかごの主砲の前に一緒にいた局員達と共に消え去り、遺体も何も残らなかった。


ヴォルケンリッターは主の八神はやて部隊長が死んだと同時に消滅してしまった。


フェイト・T・ハラオウン隊長はスカリエッティのアジトを発見したが、AMFの罠に落ち、戦闘機人のトーレとセッテと戦い、何とか勝つことは出来たが、クアットロが、スカリエッティと共に基地の放棄を決め基地は壊滅。

辛うじて、フェイトさんは基地内からは助け出せたけれど、スカリエッティと戦闘機人二人を相手にした傷は深く………。


ライトニングのエリオは、ルーテシアと名乗る少女の召喚獣ガリューと戦ったが、結果は同士討ちになってしまった。その後、キャロもヴォルテールで白天王と戦うが、互いの砲撃が二人を貫き、やはり同士討ちの結果になった。

そして、高町なのは隊長は、ゆりかご内部に突入し、ヴィヴィオを見つけ出すが、スカリエッティの策略によって、レリックを埋め込まれたヴィヴィオと戦うことになった。
ヴィヴィオを元に戻したらしいが魔力が底をつきてしまい、クアットロの策略によってヴィヴィオもろとも殺された。
ゆりかごが軌道ポイントに到達してしまえば、連中にとってヴィヴィオは用済みだった。


そして、決戦で壊滅的に陥った管理局は、生き残ったメンバーで地下組織を作った。
リーダーをスターズのセンターガードだったティアナ、そして、サブリーダーをアースラでの唯一人の生き残り、この俺『フィル・グリード』がつとめ、何とか戦ってきた。

苦労のかいがあってか、何体かは倒すことが出来ていたが、それでもまだ劣勢だった。
スバルとギンガさんも生き残って一緒に戦ってくれていたが、半年前、残っていた戦闘機人達との戦いで二人とも死んでしまった。

俺たちは別の所で戦っていたので、二人の応援には行けなかったのだ。



――――――だけど二人の犠牲は無駄ではなかった。



二人が最後の力を使って自爆をし、クアットロ以外の、一緒にいた戦闘機人達を吹っ飛ばしてくれたから。



これが切欠となり、俺たちは残った戦力で『アースラ』でゆりかごへ特攻をかけることにした。
実は、アースラはあのとき完全には壊れてなかった。

外装等はボロボロだったけど、中枢機能はかろうじて生き残っていたため、どうにか使うことができたのだ。
連中も壊れたアースラには何の興味もなく、ほったらかしにされていたのが幸いした。


しかし、長年の奴らとの戦いで、残存艦隊も全滅しまった為、ロクな機材をそろえることが出来なくなってしまった。
さらにクアットロ達に見つからないように行っていた為、飛ばすようにするのがやっとだったのだ。
したがって武装もないアースラに残された手段は特攻しかなかった。


特攻した俺たちはガジェットと交戦に陥ったが、残った連中は俺とティアをクアットロの所に行かせる為に自分の身を盾にし突破口を開いてくれた。


仲間の屍を無駄にするわけにはいかない。
俺とティアは、ゆりかごの玉座の間に向かっていた。


「………ねぇ、フィル。これで終わらせる。なのはさん達やエリオやキャロ、キンガさん、そして、スバル……。今日こそみんなの敵を取るわよ!!」

「もちろんだ、俺だってロングアーチのみんなの敵を討たなきゃならないんだ。あのとき俺を逃がす為にみんなは………」


決戦時、アースラを不時着させ、何とか離れることには成功したが、しばらくしてガジェットの大群に遭遇してしまった。
その時交戦はしたが、戦闘要員でないロングアーチのみんなは、一人、また一人と目の前で殺された。


この中で何とか戦闘が出来る俺は、グリフィスを守ってこの場を離れようとしたが、俺の油断からガジェットの砲撃を喰らいそうになり、グリフィスが代わりなってくれた。

俺は怒りのあまりガジェットに特攻を仕掛けそうになったが、グリフィスが……。


「……フィル、君がここで死んで……どうなる!! 逃げろ……生き延びて……最後まで……戦って、く…れ…」


グリフィスは最後の力で俺の腕にしがみつき、特攻を止めた。
そして俺に希望を託し、死んでいったんだ。


俺はみんなの意思を無駄にしないように、今日まで訓練をし、ティア達と一緒に戦えるまでになった。


「ティア、決して死に急ぐな……。クアットロを倒したって、生きて帰らなきゃ意味がないぞ。スバル達はそんなことは望んでない」

「……分かってるわよ。でもね、あたしはみんなの敵を討つ為だけにここまで生き残ってきたのよ。そのためなら……例えこの命と引き替えにしても……」

「……ティア」

「……とにかく急ぎましょう。あいつの……クアットロの反応はこの先みたいよ」



ティアがエリアサーチをし、クアットロを探していたが、AMFのせいでなかなか見つからなかったが、場所が近づくにつれ反応が出てきて、ようやく発見することが出来た。



「……ここみたいね」

「そのようだな……。離れてろ」


この壁、念入りに魔力防御の処理がされている。
通常の攻撃じゃ駄目だ。


「仕方がない……。【プリム】、スターライトブレイカーだ」

《Starlight Breaker》




―――――スターライトブレイカー




かつてなのはさんが得意としていた集束魔法の奥義。
なのはさんがもしもの時のために、残してくれた手紙と画像データを元に、ティアは必死でこの奥義を覚えた。


『本当は直接ティアナに教えたかった』


と手紙に書かれていて、ティアは泣きながら読んでいた。
俺もティアが覚えてから、教わりながら何とか習得することができた。


魔力の少ない俺たちが、戦闘機人と戦う為には、魔力を周りから集めて集束魔法を撃つしかなかったからだ。


集束を行う時、なのはさんは桃色、ティアはオレンジ色、俺がやると白色になる。


白色の魔力が俺に集まり、発射準備が整った。



「スターライト……ブレイカー!!」



扉は豪快な音を立て破壊された。
この魔法は身体に負担が大きいので1回が限度。

ティアの方が集束技術が上手いので、今回は俺が撃った。
切り札は取っておいた方が良いからだ。


玉座の間にはへらへら笑っていたクアットロがいた。
その面を見ているだけでも反吐がでやがる。



「……とうとう見つけたぞ、クアットロ!!」

「あ〜ら、お久しぶりね。ティアナ・ランスター、フィル・グリード。まぁ〜だ生きてたの〜」

「………あんたのせいで、なのはさんが……スバルが……みんなが死んだのよ!! 許せない……今日こそ、あんたを………殺す!!」

「そんなこと言って良いのかしら、人々を救う管理局員がいけませんわ〜」

「その管理局もあんた達のせいでもう無い。だけどね、そんなことは関係ない!! あたし達が戦う理由は一つだけよ!!」

「クアットロ、お前は俺たちから大切な人たちを奪った。その人達の怒りを貴様に叩きつける!! それ俺たちが戦うただ一つの理由だ!!」


怒りに震えていた俺たちは、ティアはクロスミラージュを、俺はプリムの銃口をクアットロに向け、カートリッジをロードさせ、それぞれ攻撃魔法を放つ。




設定は殺傷設定。




「クロスファイアシュート!!」

「ブラストブレイザー!!」



ブラストブレイザーは、原理はディバインバスターと同じで単純だが高威力の攻撃魔法だ。
ただし、俺もティアも、隊長達みたいに魔力が多い訳じゃないので、そう何回も打てない。
まして俺はさっきスターライトブレイカーを撃っている。これで決めたい。


クロスファイアシュートは、数個の光弾が集まって一つの砲撃となり
ブラストブレイザーは白色の砲撃となりクアットロに命中した。



「よし!!」

「やったわ!!」


白煙が収まると、無傷のクアットロがたっていた。


「そ、そんな。確かに命中したのに!!」

「ああ、間違いなく俺たちの攻撃は命中した。どういうことなんだ!!」


クアットロの周りが、七色の魔力光に覆われている。
あの能力は、まさか!?



「ご想像のとおりよ〜。これは聖王の鎧。そんな攻撃ぐらいじゃ蚊に刺されたくらいにしか感じないわ〜」

「その力、ヴィヴィオから奪い取ったんだな………」




聖王の鎧。
あれは、古代ベルカ王族が遺伝子レベルで所有している防衛能力。

あの女、ヴィヴィオの遺伝子からその情報を無理やり抜き出して自分のものにしやがったんだ!!
その後、ティアがダガーモードで斬りつけたりしたが、やはり傷一つ付かなかった。




「気は済んだかしら〜。それじゃ、こちらからいきますわよッ!!」

「ぐわぁぁぁ」

「きゃぁぁぁぁ」


クアットロの放った砲撃はとてつもなく、俺たちは壁際に叩き付けられた。
軽く見ても、なのはさんのエクセリオンバスターくらいはある。


「くっ……。どういう事だ。あいつにはあんな能力はなかったはずだ」

「ええ、今までの戦いで使ってたISは『シルバーカーテン』だけのはずよ。こんな能力はなかったわ………」

「教えて差し上げますわ〜。ここは玉座の間。かつて聖王陛下と高町なのはが戦った場所」

「ここには未だにあの二人の魔力がたっぷり残ってますの〜。それを私は聖王の鎧の力を使って、魔力を集めて、魔力砲を撃ったんですわ〜。これがオリジナルにない力ですわ〜」



――――――集束技術までありやがるとは、最悪だな。



「……まさか、これほどとはな。おまけに俺には……殆ど魔力が残ってない」



これまでなのか……。



俺たちはみんなの敵も討てずに……ここで死ぬのか。



「あきらめないで!!」

「ティア……」

「まだあたしがいるのよ。こんな時の為に、あの時あたしに魔力を使わせなかったんでしょう!!」

「お前……」


ティアは、まだあきらめてはいない。
ここで俺があきらめてどうする!!



「おかげで何とか魔力は残っている。………やるわよ!!」

「……スターライトブレイカー………もうそれしか……ないか…」



さっき俺は扉を破壊するのに使ってしまっている。
もうティアに全てを託すしかない……。



「…………分かった。俺はクアットロの動きをなんとしてでも止める……。頼む、ティア!!」

「任せて、その代わりあいつの動きをなんとしても止めて。チャージ時間を長くして威力を限界ギリギリまで上げる。だから……頼んだわよ!!」


「あ〜ら、作戦は決まったのかしら〜。何をしても無駄なのに〜」


「………その油断が、命取りになるんだぜ!!」


俺は残っている魔力でレストリクトロックをクアットロにかける。
これが俺が使える最高のバインドだ。



「……くっ、こんな物!! って、全然解けない!!」

「……俺の全魔力でかけてるんだ。そう簡単に解かれてたまるか!!」



今の俺にはこれが精一杯だ。
だからこそ、このバインドは絶対に解かれるわけにはいかないんだ!!



「やれっ!! ティア、クアットロに俺たちの怒りを叩き付けてやれ!!」

「……いくわよ。クロスミラージュ!!」

《Ok!! Blaze Mode》


ティアがクロスミラージュを、フルドライブモードである『ブレイズモード』に変形させ、スターライトブレイカーの発射準備にかかった。


《Starlight Breaker Stand by ready》



オレンジ色の魔力光がティアに集中し始める。

ティアは玉座の間に残された、なのはさん達の魔力の欠片を全て集めていたが、先ほどのクアットロの砲撃で周囲の魔力の欠片は、殆ど使われてしまっていた。



「………これじゃ、まだ足りない。こうなったら……あたしの命を……魔力に変換して……」

《駄目です。それじゃ貴女が死んでしまいます!!》

「お願い、クロスミラージュ!! ここであいつを倒さなきゃ、あたしは何の為に今まで生きてきたの。全てはこのときの為なのよ………。そのためなら、この命だってくれてやるわ……。だからお願い!!!」

《………わかりました。Limit Brake……Blaster Mode!!》

「……ありがとう、クロスミラージュ………リミットブレイク………ブラスターモード!!」



ティアの周りにブラスタービットが二つ展開され、そしてティアから、更なる力がわき出てきた。
ティアの奴、最後の切り札のブラスターモードを使いやがったな!!


ブラスターモード
「ブラスターシステム」を使用した、なのはさんとレイジングハートのリミットブレイクモードにして最後の切り札。
それをティアは俺に頼み、クロスミラージュに組み込んだ。


もちろん俺は反対だったが、そうでもしないと対抗できないということで、仕方が無く組み込んだのだ。だが、これを使えば、最悪の場合は死に至る物だ。


ましてやティアはなのはさんよりも魔力が少なく、同じ力を出そうとしたら、当然命を削らなくてはならない。


「やめろティア!! お前死ぬ気だな……俺もやる!! プリム、スターライトブレイカーだ!!」

《……sorry》



俺のデバイスはレストリクトロックの制御で精一杯だった。
俺のデバイスはインテリジェントデバイスではなく、ストレージデバイスなので組み込んだ魔法を発動させるだけなので、複数の処理は出来ないのだ。


ゆりかご決戦当時の俺じゃ、インテリジェントは使いこなせなく、今日まで使い慣れている相棒をつかっていたが、相棒を単体での魔法処理速度が速いのと強度が強いからという理由で、ストレージのままにしておいたのは完全な失敗だった。


「……ここで、レストリクトロックを解除したら、元もこうもない……どうすれば……」

「フィル、任せてっていったでしょう……。大丈夫よ……絶対決めるから……」


ティアの前に巨大な魔力が集まり、ブラスタービットにも魔力が集まり、発射準備が出来た。


「……これが、あたしの全て……あたしの命……喰らいなさい、クアットロ!!」

「スターライト……ブレイカー!!」


三つのスターライトブレイカーはクアットロに命中したが、それでも聖王の鎧のせいで、ダメージは受けていない。


「何度やっても同じですわよ〜。この聖王の鎧の前ではね〜」


駄目なの、あたしの命を使っても……。



『ティア、フィル……。今度生まれ変わっても、また3人で一緒にやりたいね……』



スバル……。



『ティアナ、フィル……私達の分もお願いね……。みんなが笑顔になれる世界を取り戻して……』




ギンガさん……。



そして……。



『本当はわたしが直接教えたかったんだけど、わたしの最大の切り札スターライトブレイカー……。これは自分の身を守るために使ってね………。ティアナ、生きてね。そして幸せになってね……』



なのはさん……。




――――――冗談じゃない!!




このスターライトブレイカーはたくさんの願いが込められているんだ。




あたし達を信じて、自爆してまで道を切り開いてくれた、スバルとギンガさん。




万が一のためにあたしやフィルのために、自分の全てを残してくれたなのはさん。




決戦後も、切磋琢磨しながら一緒に戦ってきたフィル……。



負けられない……絶対負けられない。




あたしは絶対に決めなきゃいけないんだ!!




そのためには……どんなことだってしてやる!!



「言ったでしょう、クアットロ。これはあたしの命そのものだって!!」



これが最後の賭よ!! 
だけど……これを使えば……。


『ティア、ブラスターモードのファイナルリミット【ブラスター3】は絶対に使うな。魔力の少ないお前が使えば間違いなく死ぬぞ!! いいな、それだけは絶対に約束してくれ!!』


ごめんね……フィル……。



「やめろ、それ以上解放するな!! 本当に死んでしまうぞ!!」



約束……守れなくて。



「ファイナル・リミット……リリース……ブラスター3!!」


あたしは残っていたカートリッジを全てロードした。
スターライトブレイカーはさらに威力が上がったが、同時にデバイスとビットも耐えきれなくなってきて、ひび割れてきた。


お願い、クロスミラージュ……もう少しだけ耐えて。


砲撃に耐えられなくなり、クアットロの聖王の鎧を崩し始め、しだいにクワットロに焦りの表情が出てきた。


「……こ、こんな馬鹿な!!」

「あんたはあたし達をナメ過ぎたのよ。大事な物を奪われた者の悲しみと怒りを………思い知りなさい!!」

「……い、いやぁぁぁぁぁぁ」


クアットロの聖王の鎧は完全に砕け――――。


そして……。


スターライトブレイカーの閃光はクワットロを飲み込み、中心で大爆発を起こした。


クアットロの最後ね……。




*    *    *




クアットロは倒した。




―――――だけど、その代償は大きく。




全ての力を使い果たしたティアはその場に倒れてしまった。




「ティア!!」


俺はティアを抱きかかえ、叫び続けた。


「しっかりしろ!! 遂にクアットロを倒したぞ!! みんなの敵を討ったんだぞ!!!」

「……よかっ、た。これで……なのはさんに……怒られ、なく、て……すむ、わ……」

「馬鹿なこというな!! ここで死んだら、それこそなのはさんは怒るぞ!! それになのはさんが言ってた自分の幸せをつかんで無いじゃないか……」



つらい戦いばかりで、ささやかな幸せすら犠牲にしてきたティア。
やっと、やっとそのつらい戦いが終わったんだぞ……。



「………辛い戦いの連続だったけど、あたしは幸せだったわよ。フィルといた5年間は……考えてみたらスバルと一緒で、第四陸士訓練校時代からだもんね。あんたとのつきあいって………」

「……ああ、そうだったな。俺たちはいつも一緒で、六課に入ってもそれは同じで……」

「……アグスタの事件の後も、模擬戦であたしが無茶した時も励ましてくれたしね………」




なのはさん、あの時意識が朦朧としていたティアに、追撃のクロスファイアを撃ったろ。あのときは、いくら何でもあれはないだろって思ったけどな。


ティアの身体からどんどん生命反応弱くなってきた。
吐血して、喋るのもきつくなっている。

ブラスター3を使い、命まで使ってしまったティアは、もう時間の問題だ。


「………あ………あのね……ホントは……あたしね……フィルのことが好きだったんだよ。いつもあたしの側にいてくれて……欲しい言葉をくれる……あんたが………」


ティアの言葉に俺は涙が止まらなかった。
ティアは俺のことを、ずっと好きでいてくれていた。



――――――そして、思い出した。



これとおんなじ言葉を、あの人にも言われたんだ。




――――3年前のあの時に。





*     *     *





「フェイトさん、しっかりしてください!!」



アースラが墜落し、森の中を彷徨っていた時、たまたま俺は、現地スタッフに助けられてたフェイトさんに会うことができた。
だけど、そこで見たフェイトさんの姿は、綺麗な金髪は埃と血にまみれ、全身ボロボロで生きているのが不思議なくらいの状態だった。

無我夢中で駆け寄り、必死に呼びかけたが、意識を保っていることが奇跡だった。

床に転がる漆黒のデバイス『バルディッシュ』は、あちこちが欠け、その戦闘の激しさを物語るように、傷だらけになっていた。




「………フィル、なん、だね。そこに、いるの」

「そうです!! フィル・グリードです!! しっかりしてください!!」

「よ、よかった……。最後に、フィルに、あ、え、て……」

「何弱気なこと言ってるんですか!! エリオとキャロと一緒に幸せになるんでしょう!!」



フェイトさんは、今までいっぱいつらい思いをしてきた。
これから少しでも幸せにならなきゃいけないんだ!!


でも、その願いは……。



「ごめん、ね……。私、もう、だめみたい。わかるんだ……」

「俺は……俺は、本当に無力、だ」



こんな状態じゃ救助は、正直言って……。
目の前で死にそうになってるのに、何もできない自分が……。



「さいご、だから……。いっちゃうね。私ね、いつも一生懸命に頑張っていたあなたのこと………す、き……だった、よ」

「!!」




*     *     *






あの時とおんなじじゃないか!!
フェイトさんも、ティアもこんな俺のことを好きになってくれた。



その気持ちに気づかなかったなんて……俺は本当に馬鹿だ。


「ティア!!」

「泣かないで……あたしは……いつもそばに……いるから……大好きだよ………フィル……」



ティアはその言葉を最後に―――――。



「……ティ……ア……」



俺の腕の中で息を引き取った。



「……う、そ……だろ。冗談、なん、だろ……。目を……目を開けてくれよッッ!!」



俺はプリムを握りしめながら泣き叫んだ。



何だよ……何なんだよ……。



こんなの……こんなのありかよ。




《……》



ストレージなので意思はないのだが、埋め込んでいる宝玉が光り、ティアの死に悲しんでいるように感じた。



なのはさん、フェイトさん、八神部隊長、エリオ、キャロ、ロングアーチのみんな、スバル、ギンガさん………。


そしてティア……。


みんな俺の大切な人たちは死んでしまった。


「何でだよ。何でティアが………死ななきゃいけないんだよ………。畜生…………畜生っっっ!!!」


俺は床を力一杯叩き付けた。
そんなことをしたってティアが戻らない事は分かっている……。



その時、一つの光弾が俺の心臓を撃ち抜いた。


「……ク……クアットロ………まだ……生きていたのか!?」

「……た、ただでは死にませんわ………。一緒に逝きましょう……」



最後の力を使い果たしたクアットロは息絶えた。



「………ティア、そして、フェイトさん、どうやら……すぐに会えそうだ」



俺も力がつきその場に倒れた。体温が冷たくなるのが分かる。
これで、俺も……。




『死ぬのは、まだ早いですよ』



謎の声が聞こえたと同時に、俺の身体も光に包まれゆりかごから消えた。




「……ここは?」


辺り一帯を見渡してみると、真っ暗で地面も何もなかった。
俺も空間内で宙に浮いている状態であった。


『ここは生と死の狭間……いわば境界線といったところです』



突如。目の前に金髪の女性が現れ、俺に語り始めた。
生と死の狭間。いったいどういう事なんだ。



「あんたは何者だ……」

『私は時の女神……いわば時間が正しき道を進むように管理する者です』

「その女神が俺に何の用だ……」



目の前にいる女性が、神って事に驚きはしたが、今最も気になるのは……。



「……一つ聞きたい。やはり俺は死んだのか?」

『………いえ、正確には死んではありません。貴方は今、精神体の状態なのです』

「精神体……どういう事だ?」

『はい、貴方は本来あのときに死ぬはずでした。ですが、貴方にお願いがあり、私がこの空間に呼び寄せました』

「……いったい、俺に何をさせたいんだ。もう一度生き返るのはごめんだ……。みんながいない世界なんて……。正直興味がない……」



たった一人で、生き返ったって何の意味もない。



『………実は、本来ならあのJS事件と呼ばれた事件は、二年前に解決して犠牲者もこんなには出なかったのです……。正しき歴史では、機動六課のメンバーも重傷者はいましたが、死亡者はいません。それがどういう訳か歴史が狂ってしまい、実際は………』

「何だと!! じゃあその狂った歴史のせいでみんな死んじまったっていうのか………。ふざけるな!!」


俺は女神の胸ぐらをつかみ叫んだ。
あいつらは、そんなことの為に犠牲になったって言うのか。
隊長達も、スバル達も、そしてティアも……。



「冗談じゃない。だったらさっさと歴史を戻しやがれ。それがあんたの仕事なんだろ!!」

『……残念ですが、過ぎ去った時間は私は管理できないのです。ですが……』

「ですが、何だ!!」

「私が直接でなく、間接的に行うのなら可能です。………お願いというのは、貴方に時間移動してもらい、正しい歴史にして欲しいのです」

「!!」


俺は驚きのあまり、胸ぐらから手をほどいた。
俺が過去に戻り、やり直せるだと……。


もし、さっきの話が本当だとすると、みんな死ななくてすむって事だ。


「………だが、今のまま戻ったとしても俺には力がない。それじゃ結果は同じだ!!」

『確かにその通りです。ですから私が力を貸します。それで幾分かましになると思います』


そういうと女神は聖なる力で、珠を作り出し俺の前に出した。


『これには強大な魔力が込められてます。これを受け入れられれば、貴方は大きな力を手に入れられます……。しかし……』

『しかし、力を受け入れられない時は、その時は………本当の死になります』

「デッド、オア、アライブってことか。やってやるよ……。意地でも受け入れてやる!!」



女神は俺に珠を渡すと、珠は俺の身体に入った。
だが、次の瞬間体中に激痛が走った。


「ぐわぁぁぁぁぁぁ…………がぁぁぁぁぁぁぁ…………」

『頑張ってください。それは貴方の味方なんです。強引に押さえようとしないで受け入れるのです』

「……み、味方か……。そうか……」


俺は激痛に耐えながら、力の流れを感じ、体中に行き渡るようにした。


「……俺の中で暴れ回っている力よ……心あるなら聞いてくれ……。俺は、力が欲しい………だが、それは自分の為じゃない……」



大切な仲間の為……。



親友の為……。



そして……。



好きと言ってくれた人達の為に……。



俺に守る為の力を貸してくれ!!



次の瞬間、力の暴走が収まり、強いがどこか暖かな力を感じた。



『どうやら……うまくいったみたいですね……』

「はぁ……はぁ……何とかな……」

『その力はいつか貴方の力になるでしょう。今のところ殆ど魔力量は変わってませんが、魔力量は訓練次第で上がります。ですから、これ以降はあなた次第ですよ』

「魔力量はこれからの訓練次第ってことか。今はこれで十分だ。後はこの相棒と一緒にやるさ」

『……そのデバイスはストレージデバイスですね。………珍しいですね。このデバイスには意思が感じます』

「どういう事だ。インテリジェントでもないのに………」



このデバイスは、ストレージデバイスだから、そういった機能はないはずなのに?



『それには魂が宿ったみたいですね。ごくまれにあるんですが、大切に使われた物には魂が宿るんですよ………』

『感じますね……。どうやらさっきの戦いの時、複数の魔法処理が出来なくて、とても後悔しているみたいです』

「分かるのか、そんなことが……」

『一応女神ですから……。このまま持って行っても、残念ながら今の貴方には役に立たない物になってしまいますね。よかったら私が力を授けましょうか』

「出来るんだったら頼む!! こいつはかけがいのない相棒なんだ。」



そういうと俺はプリムを女神に渡した。
女神はプリムを見ながら笑っていた。


『ふふっ、あなたは本当に持ち主に大切にされてるんですね。私が力を貸します。ですから、今度は後悔しないように、しっかりサポートをしてくださいね』


女神はプリムに力を注ぎ込むと、プリムが光り出し、姿が少し変わり、ストレージからインテリジェントに変化した。



《マスター……》

「プ、プリムなのか? 本当に意思があったんだな………」

《ごめんなさい!! あのときバインドと攻撃魔法の両方出来ていたら、ティアナさんは……ティアナさんは!!》

「俺たちはあのとき、最善と採れる方法で戦ったんだ。誰のせいでもない………」

《でも!!》

「………そう思うなら、これからも俺に力を貸してくれ。今度はお互いに後悔しないようにな」

《はい!!》

『それと……貴方にもう一つ、力を与えます』



そう言って女神は右手から俺に力を注ぎ込んだ。
俺自身も何かの力が身体に入ったのを感じた。



「今のは?」

『今のは高速転移の術式。いわゆるワープです。但しかなり扱いが難しいので注意してください。サポートとして貴方のデバイスを使うといいでしょう』

「ワープ? 隊長達が使っていた物と同じか?」

『少し違います。これは戦闘用の転移魔法で、発動時に魔法陣も展開しないので、相手に気づかれることは殆どありません。しかも場所特定ではなく、相手の魔力を感知してその場所に行くことが出来る能力です。うまく戦闘で生かして下さい……』

「色々すまない……」

『あと、これを渡しておかなくてはなりません』



女神が取り出したのは、ティアのデバイス、クロスミラージュだった。



「クロスミラージュ、あんたがどうしてこれを!!」

『そのデバイスはティアナ・ランスターが死んだ時、主と共に精神体になったからです。先ほども言いましたが、ここは生と死との境界線です。ティアナ・ランスターは死ぬ時、私に会いました。その時あなたのことを聞かされました。もし、あなたが死んでしまったら、ここでこれを渡して欲しいと、ティアナ・ランスターから託されたからです………』

「ちょっと待て、ティアに会っただと!! だったら何故、ティアにあの話をしなかったんだ。彼女だって犠牲者なんだぞ!!」


むしろ、俺なんかよりティアに生き返ってほしい。


「………私の力では、正直言って過去に戻せるのは一人が限度なんです。そのことを話したら、自分よりも貴方にと言ったのです……」

「……ティアらしいよ。自分よりも他人を優先させるなんてな………」

『そして彼女は、自分の持っていた能力の全てと自分の想いをクロスミラージュに託したのです……。受け取ってください。彼女の思いを……』


俺はクロスミラージュを受け取ると、クロスミラージュにティアからの通信がきた。


《フィル……聞こえるかしら……フィル》

「ティア!! 本当にティアか!!」

《突然でごめんね。フィル、あたしは今、死後の世界から話してるんだけど……。事情はもう聞いてると思うから省略するわね。フィル、あっちに行って、もしあんたが全てを託せると思った人がいたら、クロスミラージュを渡して欲しいの。きっと何かの役に立つと思うから……》

「ティア!! クロスミラージュはお前の相棒だぞ!! それを!!」

《だからこそよ……。あたしはもう一緒には戦えない。だからあんたが愛した人にその思いを託したいの。それがあたしに出来る最後のことだから……》

「……ばか……やろ……」


なんでそんなに心が強いんだよ……。


お人好しにもほどがあるぞ……。




「……わかった……お前の思い、確かに受け取ったよ」


《………ありがとう………それと、過去のあたしが、色々あんたのことを困らせると思うけど……お願いね……》

「………どこまでやれるか解らないが、やってみるよ」

《大丈夫よ、自信を持ってやりなさい!! でも無茶しちゃ駄目だからね。あんたって昔からそういう所あるから………》

「うっ……」


ティアには本当に頭が上がらないんだよな。
昔から俺が暴走すると必ずティアが止めていたからな……。


でも、そんなティア達と過ごしていた日常が一番好きだったんだ……。


《………これは大切なことなんだけど、ちゃんと幸せになってね。どんな形でも良いから…………》

「幸せって……俺にはそんな資格は……」

《資格なんて要らないわよ。大切なのはお互いに愛し合う心だから、一方的な想いじゃなく、二人の心が一つならそれで良いと思う。それが何よりも大切なことだから……》

《それにあたしはあんたを縛り付ける存在にはなりたくないの。あたしが何より望むのはあんたの幸せなんだから………それだけは忘れないでね》

「ティア……」

《あたしが駄目でも………フェイトさんなら、きっと……》

「……まて、なんでそこでフェイトさんの名前が出る!? ま、まさかお前!?」

《ごめん……。以前、残されたバルディッシュの記録を調べていた時に全部知っちゃったの。フェイトさんが、最後にあんたに自分の気持ちを伝えて死んでいったことも……。だから、あたしは本気よ、フィル。残念だけど過去のあたしじゃ、あのままじゃあんたの悲しみを埋めるには、少し役不足だしね。フェイトさんならもしかしてって思うの》

《あの人は人の心の痛みをすごく分かる人だと思う。あの人に育てられた、エリオやキャロを見ればそれは分かるわ。だから、あの人ならあんたのことを任せられる!!》


本当にティアは、昔から自分のことより他人のことを優先するよな。


《最後になっちゃうけど、未来が変わることを祈ってる。そして何より、あんたが幸せになること………。いいわね、フィル……》


ティアの通信が終わり、クロスミラージュが俺に語ってきた。


《フィルさん、絶対に変えましょう。あんな未来はもうたくさんです!!》

「ああ、俺だってあんな未来はもうたくさんだ。……いこう過去へ!!」


ティアの遺志を受け継いだ以上、ここでじっとしているわけにはいかない。
俺はクロスミラージュをポケットにしまった。


《あと、これが一番大切なことなんですが、これからのことですが、積極的になりすぎてはならないということを注意しておきます》

「どういう意味だ? 未来を変えるのに積極的になってはならないというのは?」



あんな未来にしないためには、どんどん動かなくちゃいけないのに……。



《簡単に言えば、今回のことで言えば管理局が負けて、クアットロが世界を支配する事象はすでに決まっています。つまり、世界の中でそれが認識されてしまっています。それを変えるには容易ではありません。それを変えてもらうのですが、いきなり変化をもたらそうとしても、世界の修正力でそれをまた元に戻そうとしてしまうのです》

「………ということは、修正するのならば、少しずつ変化をもたらし、世界に認識させなければならないのか?」

《そうなります。一気に変えてしまった場合、その後どうなるかわからなくなってしまい、最悪、より悪い方向になる可能性もあります》



ということは、例えば、なのはさんとティアのあの確執も、下手に手を出したりしたら、拗れて最悪のケースもあり得るということか。



「……歴史を変えるってのは、本当に難しいな」

《申し訳ありません。それが、私ができない最大の理由なんです……》 

「なんとか、やるしかないな……」

《修正力については、できるだけこちらで頑張って抑えて見せます。それくらいしか私にはできませんが……》

「……それで十分だよ。ありがとう。あとは、俺の頑張り次第ということか」



修正力と歴史の修正のバランスか。
本当に厄介だよな。



『それでは、過去にとばしますね。行き先はどこに……』

「そうだな、新暦73年4月、俺たち三人がBランク昇格試験を受ける2年前にしてくれ」

《マスター何で2年前に行くんですか。別にランク試験の時にでも良いんでは?》

「いや、今のまま八神部隊長が六課を作っても、地上と確執を持ったままじゃ奴らの思うつぼだ。だから俺からレジアス中将に話をする。あの人とは知らない関係じゃないし、卒業して訓練生じゃなければ局員として動けるからな」

《予備工作というわけですね》

「まあな。それに闇の書事件は八神部隊長は被害者だからな。それがきっかけであの人が背負わなくても良いものまで背負ってしまっているからな」




歴史を大きく変えてしまうかもしれないけど、それでもこれだけはしたいんだ……。
エゴなのはわかってるけどな。



《マスター……》

「プリム、もしレジアス中将の説得がうまくいっても、この事は部隊長には絶対に言うなよ。これはあくまで俺が勝手にやるんだからな」

《……本当に良いんですか、それで……》

「ああ……」

(マスター、今は八神部隊長に話すことは黙っておきますけど、あの人が自分で聞いてきたときは、私は話しますよ。たぶんあの人は、自分で気づくと想いますよ)

『それでは行き先はそれで良いんですね』

「ああ、頼む」

『分かりました。それでは行き先をイメージしてください』



俺はあのときのことをふり返っていた。
このイメージがしっかりしてないと送れないらしい。



俺の身体が光に包まれ、この場から消えていくのを感じた。



『……最後になりますが、過去に行ったら絶対一人でやろうとはしないでください。貴方は一人じゃないんですよ!!』

「………そうだな。肝に銘じておくよ」



そして、俺の身体が全て消え…………過去に向かった。

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