拍手ログ carnetion/ 「ちょっと寄りたい所があるんだけど、いいか?」 遠く無ければ別に構わないと言った雨竜に、一護は商店街の中だからと買い物に付き合ってもらう事にした。 今朝見た夢に、買って帰ろうと決めた花を買いに行くのは初めてで、それが何となく気恥ずかしくて誰かに付き合ってもらおうと授業の間ずっと考えていた。 啓吾は確実にからかって来るだろうから却下だ。 水色は何も言わず着いて来てくれるだろうけれど、後日何を言われるか解らない。 チャドは今日に限ってバイトで都合がつかないと言われた。 あとは、雨竜。 今日は部活が休みで一緒に帰ろうと誘うには好都合で、二人で良く行く商店街に花屋もあるし、ちょっと付き合って欲しいといえば承諾してくれるだろう。 いつもなら声もかけ易かったが、今日に限って言い出しにくかった。 雨竜に対して弱い所をあまり見せたく無いと言う虚勢がある。好きだからこそ素直になんてなれなくて、つい険のある言い方をしてしまい、そこから喧嘩に発展してしまう事もしばしばで。 一昨日も、どちらかがひけば済む話を我を通し喧嘩に発展さてしまった。あれからお互い謝罪の言葉も無く関係は修復したがどこかよそよそしい。 一言謝れば済む話なのだが、時間も経ってしまった事もあってその一言がなかなか言い出せない。 思わず溜息をついた一護に雨竜は視線だけで問いかけてきた。 「なんでもねえ」 「そう」 謝る機会なんてこんな風に幾らでもあった。全面的に悪ければ直にそれもできただろう。できないのは、雨竜の言い分に納得できない所もあったから。そして、何の役にもたたないと知っていながらもはってしまう意地だ。 「どこに行くんだ?」 いつもは何かしら話をして帰るのが、言葉数が少ないのは一昨日の喧嘩が原因だというのは明確で。 「花屋」 「それならこっちの方が近いよ」 この辺の地理に詳しい雨竜の背中を追っていく。いつもなら横を少し離れて歩く雨竜の肩が先を行くのに目を細めた。 小さな路地を何度か曲がり、大通りに出れば目の前が目的の花屋だった。 花屋の店頭には色鮮やかな花が束になって置かれており、華やかな雰囲気が一層増していた。やはり赤い色に目を奪われるが、欲しいのはその奥に置かれたおふくろが好きだった薄桃色の口紅の色をした花で、店内で忙しそうに花籠をつくるおばさんに声をかける。その間、雨竜は店内から少し離れた所に置かれた鉢植えの花を興味も無さそうに眺めていた。 「おまたせしました」 と、渡された一輪の薄桃色のカーネーションは透明なフィルムに包まれ、可愛いリボンもあしらわれていた。 ありがとうとお金を渡す時にふと、視界の端に雨竜の姿が映った。 「ごめん、待たせたな」 「いいよ、母の日の?」 「今日さ、久しぶりにおふくろの夢をみたんだ。まあ、時期も時期だし、良いかなと思ってさ」 「お母さんも喜ぶんじゃない」 「だといいけどな。・・・・で、これ」 差し出した薄桃色のカーネーションに雨竜は目を丸くする。 「・・・・・こんなでっかい子供を持った覚えはないけど」 「俺もお前の子供になった覚えはねえよ。なんつうか、色々・・・・・あ・・・ありがと・・・って、受け取れ恥ずかしい」 思いつきで買った花を雨竜に押し付ける。 「うん、ありがと」 雨竜は戸惑いながらも花を手にとってくれた。 「一昨日は、ごめん。俺も言い過ぎた」 たった一言。言ってしまえばすっと心が軽くなった。 「僕こそ、ごめん」 ぽつりと言われた謝罪に、もしかしたら雨竜も謝る機会を逃して迷っていたのかもしれない。 「黒崎、今日は寄っていく?」 そう言った雨竜の頬は、手にした花のように薄桃色に染まっていて、そして花より綺麗な微笑みに思わず笑顔を誘い出される。 「もちろん」 ********************** 今度は真咲さんどこ行った!?な話しですが、多分息子の幸せそうな姿を頷いてみていらっしゃるとおもいます。先に書いた『carnetion』で頂いたコメントから発生したお話で私自身、萌え萌えした書かせてもらいました、ネタ提供をありがとうございましたvv [前へ][次へ] |