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待ち合わせ
『あ〜、ぎりぎりに着くかも…』
 自分が今いる場所と時間を考えると、このまま何もなければ、少し前かぎりぎりに着くだろう。
 浅野君が持ってきた雑誌を一緒に見ていた時に見たい映画が一致したので一緒に見に行こうと言う事になったのだが、前もって出かける事がわかっている時は泊まりに来る黒崎が用事があったのと、その映画がマイナー過ぎて隣町の映画館でしかやっていず駅前で待ち合わせをする事になった。
 もちろん、待ち合わせ時間に十分余裕を持って家を出たのだが、気は良いがお喋りな大家さんに出会ってしまったのが敗因か。
 色々と良くして貰っているのでむげにも出来ず、まだまだ続きそうだった話を何とか振り切ったのは待ち合わせ場所に少し走ればぎりぎり間に合う時間になっていた。
 あともう少し。
 慣れた道だが焦っている時はどうしてか距離を長く感じてしまう。
 大通りに入る角を曲がれば慣れた霊圧に触れた。
『やっぱりもう来てるか』
 ルーズそうに見えて約束事にはきっちりしている黒崎は時間に遅れるといった事は殆どない。だが、何時もは自分の方が早く着いているので待たせた事も無かった。
 駅前の時計台の下、指定された場所に黒崎は携帯を片手に難しい顔をしてベンチに座っていた。
 まだ黒崎は僕に気付いていない。
 携帯を何度も見ては辺りを見渡し、漂う霊圧が不安を訴えていた。
 時計台が待ち合わせ時間を告げる微妙な音階の鐘を鳴らし初めると、とたん棘の様な感覚が混じる。
『…怒ったか』
 連絡を入れず遅れた自分も悪いが、たった1分1秒で心の狭い男だ。君だって少しくらい遅れる時があるじゃないかと、ベンチに背を預け苛々とした霊圧を垂れ流す黒崎に舌をだしてやる。
 が、刺々しさは直ぐに収まり、また不安の波が押し寄せた。難しい顔は変わらないが何時もは憮然とし自信で満ちた顔に影が落ち、手は落ち着き無く携帯を弄っていた。
 ポケットに入れていた携帯がいきなり震え始めたのを慌ててとると、それは勿論、黒崎からの着信だった。
「もしもし…」
『どうしたんだよ。何かあったのか?』
 声のトーンも何時もより低い。
「ごめん、出かけに大家さんに捕まってさ。もう近くに来てるから」
 乱れた霊圧がすっと波間を整えていく。
『遅れるなら連絡ぐらい寄越せよ』
 まだ約束の時間から5分もたっていないのだが、黒崎は苛々と言葉を投げた。
「ぎりぎり間に合うと思って、悪かったよ」
『ったく、寒いわ鼻水でるわで大変なんだぜ。後どれくらいで着くんだよ?』
 毒づく割には霊圧は穏やかなもので。「あと5分くらいかな」
『走れ。寒くてどうにかなりそうだ』
 焦りと不安で前のめりになっていた背を伸ばし、緊張で上がっていた肩が下がりホッと軽くでた息も聞こえてきそうだ。
「心配した?」
『何にもなけりゃいいよ』
「不安で寂しかったとか?」
『っ、んなわけあるか!!』
 オレンジ色に隠れた耳が赤くなっている。
 強がりもバレバレだよ。
「大丈夫、もう着くから」
『……早くお前の顔が見たい』
 急に俯くと電子音に消されそうな小声で、また低く落ちるトーン。
「そんな恥ずかしい事をよく平気で言えるよね」
『じゃあ言わせんな』
 空いた手で頭を掻く仕草は照れたり、困ったりした時に無意識に出す癖だ。
 思わず漏れる笑いをこらえながら携帯を耳から外した
「実はもう君の後ろに居るんだけど」
「ってめぇ!!いつからっ!!!」
 顔を真っ赤にして取り乱す黒崎は見ものだった。
 ただし、昨日泊まれなかったからと一日ずらした事を忘れていた僕は余計な事をしてしまった訳で、黒崎の嗜虐心に軽く火を付けた代償は大きかった。




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このあと、雨竜さんは一護さんにお仕置きされています。お仕置き一護さん第一弾に続く・・・・とか。

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あきゅろす。
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