[携帯モード] [URL送信]

拍手ログ
熱中症






『熱中症』



 蝉の大音響が話す気力さえ削いでいく。長い石段の頂上に腰を下ろして眼下に見下ろす街はギラギラと日差しを暑くさせる太陽に焼かれそうだ。
色素の薄い茶色の目は日差しに弱く、帽子でも被らなければまともに目を開けていられない。が、白い石段が反射する光が下から目を焼き、目を細めてしまうものだから、視界が横に細くなる。
多分、とんでもなく不機嫌で鬱陶しい顔になっているのだろう。先程通った中年の男はあからさまに視線を避けて通って行った。
被った帽子の端から見えるオレンジの髪もここぞと外面的不快指数に拍車をかける。視線が合えば鬱憤晴らしに絡まれるとでも思ったのだろう、こっちには暑くてダルくてその気は全く無いというのに。
一護は頭に被っていた帽子を目深に被り直し、二の腕から手首の辺りまで赤くなった腕を触れば、汗ばんだ肌が熱を持っている。腰を下ろす石段の横に置いたペットボトルは随分と前から空っぽで、冷たいコーラでも買いに行きたかったが待ち人が来ないので離れる事もできない。
民家に囲まれた石段の奥は天文台、さらにその奥に大きな墓地があった。
待ち人は墓地に忘れ物をしたと取りに行ってなかなか帰ってこない。二人で歩いていた時にはこんなに時間はかからなかった筈だ。いったい何をしているのか。
「………」
暑いと呟く声も音にならない。
両膝に腕を付き、そこへ頭を埋めると汗が頬を伝い、顎から地面へぽたりと落ちて白い石段に小さなシミを作った。
『…なんか、あいつを汚したみたい、だな』
熱に浮かされた頭は昨夜の行為を思い出す。今の様に伝い落ちた汗を、冷たいと嫌がった。
触れる肌が汗でぬめり、熱い筈の体が幾分冷たく感じられて、それに何故だか苛ついた。


「!!……っめたっ」


突然、首筋に当たった固く冷たい物に誰だと後ろを振り返る。
「待たせたね」
待ち人が七分袖のシャツを胸元まできっちり留めて、白い額に汗を浮かべ左手に水を、右手にコーラを持って立っていた。
「…石田、お前遅い」
「さっきそこで道を聞かれてね」
雨竜を待っている間、通ったのはあの眼鏡を掛けた男ぐらいだ。
「眼鏡を掛けたオヤジ?」
「そう、その人。道を訪ねられたけど、僕も滅多にこないからわからないし、地図があるところまて案内したんだ」
「俺には何も聞かなかったのにな…」
「そんな不機嫌丸出しな顔をしてたら誰でも避ける」
「こんなに暑い真っ昼間に長袖を着て、涼しそうな顔ができるお前の方がおかしいよ」
受け取ったコーラの蓋をあけ、渇いた喉に一気に流し込む。冷たさと喉で弾ける炭酸が心地いい。
「涼しいわけがないだろ。それに、長袖なのは昨日君がここを噛んだからだろ」
雨竜の細く長い指が右腕の二の腕の裏側を差し、顔がムッと中心に寄る。
たが、柔らかい肉の弾力が口の中に蘇り、炭酸ですっきりしたはずの喉がねっとりと絡んだ。
「二週間もあれば消えるって」
普段は学校があるからと一切色事の跡は残さない。それを夏休みだからと、強請りに強請って首筋に赤い跡を付けたのが丁度1ヶ月前。それから色事の度に何らかの跡をのこしている。
その為、雨竜は胸元を開ける服は避け、時に長袖を着る羽目に陥っていた。
「夏休みだからって、調子に乗りすぎだ」
「だって今だけだろ?学校始まったらしたくてもできねぇし」
「させないよ」
夏休みも後二週間。
ならば、もっと派手に付ければ良かった。
傷も染みも無い白い肌に浮く、青紫の跡が不似合いで、そのアンバランスさが雨竜そのもので好きなのに。
橋を叩いて渡るのかと思えば、突飛な行動をとる。優等生かと思えば簡単に授業を放棄し、冷淡かと思えば情に脆い。
色事に奥手かと思えば欲深い。
その不安定なぶれ加減にドキドキさせられる。
一護は石段から重そうに立ち上がると横に立っていた雨竜を腕のなかにすっぽりと収めた。
「暑いから離れろ。しかもこんな所で…」
「調子が悪い奴の介抱をしてるとでも思うだろ」
押し返す体は太陽の熱を含んでいて昨夜の様な冷たさはなく、むしろ自分より熱い。
「離れろって」
もがく雨竜の髪の毛先が汗で濡れており、それが頬にあたった。
「あ…ちょっと勃ったかも」
「不謹慎すぎるだろ!」
この石段の奥の墓地には雨竜の祖父の墓がある。さっきそこへ二人で参ったというのに、この有り様だ。
「お孫さんは大事にしますって言ってきたから大丈夫だ」
「君は馬鹿かっ!」
「馬鹿じゃねぇけど、暑さで頭の中は沸いてるなぁ」
僅かに匂う体臭に誘われて、汗に濡れる白い首筋に歯をたてた。

飛んできた右手に左頬が熱くなる。
全ては太陽が悪い。





※※※※※※※※※※※※※※※※
熱くてダルいけど、ムラムラする暑苦しい一護さんが目標でした。
左頬を叩かれてもやる事はやったと思います(`・ω・´)





[前へ][次へ]

あきゅろす。
無料HPエムペ!