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貯金箱



『貯金箱』



何かとイベントの多い夏に向けて、お金を貯めないと…と呟いていたら、それを聞いていた浦原さんが『それならコイツが良いッスよ』と勧められた貯金箱。
見た目からして怪しい。そこらにある貯金箱と形といい、色といい、何も変わらないのが、怪しすぎる。
人体に影響はない事は保証させたが、扇子で口元を隠す仕草からして何か裏があるのは確かだ。
円柱形の掌より大きな銀色のボディに、液晶画面とスピーカーが一個付いている。
お金を入れたら音楽が流れるのか、映像が流れるのか…、作った本人は使ってからの秘密ですとか言ったが、そんな所だろう。
が、ただそれだけの物なのか疑問が激しく残る。
手には一円玉。時間は昼の14時過ぎ。家の中には誰も居ない。
「…いれてみるか」
ロクな物じゃないとわかっていても、怖いもの見たさと、好奇心が勝った。
唾を飲み、一円玉を貯金箱の入り口にそっといれる。
「………」
『……………』
液晶画面も、音楽も流れない。
「………」
長い沈黙が心臓を圧迫する。
『………………』
何も、何も起こらない。壊れているのか、見かけ倒しか、実は本当に何もなくて、驚かすだけが目的なのか。
「……っは、んだよ!期待外れだな!」
とか強がってみても、額に滲む汗に嘘はつけない。ホッと安堵の息を吐き、極度の緊張で喉が渇いたと、水を飲みに机から離れようと腰を上げた時、液晶画面が瞬いた。
『………なんだ、これだけか』
画面には冷めた目をした石田雨竜。
本当に、つまらなそうに言ったあと、消えていった。
「なっ!!な、何なんだ今のはっ!!」
制服を着た雨竜が、虫でも見るような視線で、捨て台詞を吐いて消えていく。
「つーか、すげぇムカつくんだけど」
つまらないのは、一円だからか、五百円ならお前は満足するのか。いつもは一円でも大事にしろと言うくせに。
「っし、五百円玉入れてやるよ!」
財布から五百円玉を出すと、貯金箱へ入れてやる。
「………」
すると直ぐに画面が瞬き雨竜が出てきた。
『まぁ、この程度だな』
「この程度って!少ない小遣い切り詰めてんだぞこっちは!」
貯金箱相手に本気でムカついてきた。
何とか黙らせてやりたいが、月末で財布は空っぽで、かといってバイトは死神代行業もあってやる余裕もない。
「ちょっと、お困りのそこのア・ナ・タ」
「わーっ!!」
背後から不意打ちに掛けられた声に、心臓が口から出そうなほど驚き振り向けば、浦原喜助が窓枠を乗り越え、ベッドの上を陣取った。
「いきなり何なんだよあんたっ!!ていうか、窓から入ってくんなよ!!」
「はいはい、尻の穴の小さい男は嫌われますよ、黒崎さんは今、これがご入り用ッスよね」
と言うと、浦原は人差し指と親指の先をくっつけて丸を作る。
「…………」
「どうッスか?うちでバイトなんかしちゃいません?」
「それが目的か」
「いやだな、もう、ちょっとした実験にお付き合いしてもらうだけですから、弾みますよ」
浦原は一護の疑問を否定しない。扇子で隠した口元はまるで、悪魔の様だった。



「し……死んだ。いや、生きてるけど、生きてるって、すげぇって思えるくらいヤバかった……」
確かに浦原はバイト代を弾んではくれたが、それ以上の物を払った気がする。
「まぁ、これで目標金額には行ったからよしとするか」
机の上の貯金箱はあれ以来触っていない。
あの後、教えて貰ったのだが、溜まった金額で言葉や態度が変わる機能が付いているが、幾ら溜まれば態度が変わるのかはランダム設定にしてあるからわからないという。なら、入れて行くしかないだろう。
「よし」
机の上には、わざわざ500円玉で出して貰ったバイト代が山になっている。それを一枚取って、貯金箱にいれた。
『こんな事で呼び出すな』
「いや、呼んでねぇし」
『……この前よりはまだマシだね』
「同じ500円玉だよ、ばーか」
『君も諦めが悪いね』
「悪かったな」
『頑張ったんだね』
「おぅ、…………って、今、何て言った!?」
駅画面に映った雨竜はメガネのブリッジを指先で上げると消えていった。
「頑張ったんだねって、いきなりなんで誉めんだよ!」
ちょっと悔しいが、ドキドキしちまったじゃねえか。
次は何て言ってくれるのか、期待を込めてまた入れる。
『調子にのるな』
「……このっ、いしだーーー!!」
余りの怒りに言葉も出ず、名前を叫ぶ。
「ぜってぇ、黙らす!お前に負けねぇ!!」
貯金箱如きに本気になるなと馬鹿にされるかもしれないが、言葉て良い、言い方と良い、映る姿も雨竜その物で、負けず嫌いな性格は本気にならずにいられない。
『これで満足したと思うなよ』
『これだから馬鹿って言われるんだ』
『ありがとうなんか言わないからな』

……
「………ちょっと、限界かも」
一向に折れない貯金箱に、自分の精神がめげそうになる。
机の上にいっぱいあったお金も後6枚。これを全部入れて駄目なら諦めよう、でないと心がやつれる。
一枚、二枚、と入れるが貯金箱の中の雨竜は相変わらずつれない態度だ。三枚目、ため息を吐きながら諦め半分でお金を入れる。
『今、二万五千円が貯まったよ。君ならできると思っていんだ、おめでとう』
「は!?」
にっこり微笑む雨竜に一護はぽかんと口を空ける。折れたのか?これでいいのか?いや、またさっきみたいに…、と交錯するが、唾をの見込みもう一枚入れてみる。
『まだ、入れてくれるの?あんまり無茶はしないでね』
「………いーしーだーーーっ!!」
ちょっと死にかけたけど、そんなお前の為なら俺、超頑張るぜ!!本気、バイトしようかな、お金を貯めるって楽しいなー!!
残り二枚、そっと一枚を入れる。
『いつもありがとう。そんな君が大好きだよ』
「…………好きだって、石田が好きだって…」
普段なかなか言ってくれねぇのに、この貯金箱はっ!!
と熱い抱擁をしたくなる。
最後の一枚を期待を込めて投入する。
『ねぇ、僕のここが君でいっぱいになったよ』
「………ぶはっ」
そう言って胸に手を当てる雨竜に、一護は前のめりに、鼻と下半身を手で押さえる。
「たまには良いもん作るじゃねぇか下駄帽子」
これは、貯める。
この貯金箱にお金を入れたくなる。
今回は一気にに入れたが、今度は少しずつ楽しみたいと、渡された鍵でお金を出そうと裏の蓋に鍵を入れた。
『駄目だ、出さないで』
「え…!?」
『やめて、ダメだよこんなの』
苦悶に眉をひそめて、悲しそうに、目を震わせてて雨竜がこっちを見上げている。
「いしだ?」
『僕の気持ちを持っていかないで』
僕の気持ちってそれ、俺が魂削ったバイト代…と思いつつも、こちらを見上げる視線に手が止まる。これでは、出せない。鍵穴に差した鍵を机の上に置いた。
が、せっかく貯めても出せないのであれば、この貯金箱に貢いだ事にならないか?男心を上手くついた貢がせ行為じゃないのか!?
「ちくしょう…」
貯金箱に何で大金を貢いでしまったのか、何だか浦原の悪意というか、悪戯にはめられた気がする。
でも、雨竜のはにかんだ可愛い顔が見れ、普段は言って貰えないだろう一言が聞け、良い思いの方が強く残っている。
罠だとわかりつつ、そこにちょっと小さな幸せを感じて、財布に小銭が貯まったら出せなくても入れてやろう思う自分がいた。





※※※※※※※※※※※※※
貯金箱ならぬ貢ぎ箱
黒崎なんてちょろい子、そして、石田、なんて恐ろしい子……。
作ったのは浦原さんですけどね。


ニュースでイケメン貯金箱が発売!なんてのをやっていて(お金を入れると『映画にいこうな』とか言う)、それならツンデレのが良いだろうと後輩と盛り上がって、話ができました(笑)

この貯金箱が真面目に欲しいです(☆o☆)一護じゃなくとも貢いじゃうぜっ(ノ゜∀゜)ノ

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あきゅろす。
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