[携帯モード] [URL送信]

拍手ログ

冬場の風呂は寒いのとガス代の節約になるからと、二人で入れる時は入る。
一年前の冬には無かった約束事だ。
一人暮らしの狭いマンションの風呂に、それなりの体格をした男二人が入るのはかなり窮屈だが、跳ね上がる光熱費に天秤にかけるまでもなくそう決めた。
雨竜は浴槽の縁に腕をかけ、その上に顔を乗せると頭を洗う一護をぼうっとした芯の抜けた顔で見ている。
シャンプーを流すのにぐっと屈んだ一護の右肩から肩甲骨に赤い筋が一本、斜めに走る。その赤く浮いた筋は、やはり痛いのだろうかと、ぼんやりと眺めていた。
「どうした?先あがるか?」
向けられる視線に気づいた一護がこちらを見て気遣う。
「背中に爪痕がある」
「あるって、付けたのはお前だろ」
「痛い?」
「ちょっとヒリヒリするかな」
「ふ…ん」
雨竜はおもむろに一護の手を取ると口元へ近づけ、白く綺麗に並んだ歯を見せると夕食後に食べた林檎を食べる様にかぶりついた。
「ぃった!!」
一護の右腕にはくっきりと歯形が残り、周囲が赤く腫れ、余程痛むのか、蛇口から水を出すと傷口に当てる。
「紫色とかなってるし何すんだよ!」
「マーキング」
「犬かよ」
「それじゃぁ、君は僕の縄張りだね」
「意味わかんねぇよ」
「そう言えば明日は体育があったな」
「はぁ!?どうすんだよこれ?」
「犬に噛まれたとでも言えば大丈夫なんじゃない」
「石田…」
呆れているブラウンの目を真っ直ぐに見返しながら、甘えた笑みを零す。
一護の腕を噛んだのは、朦朧とした意識の中でもかなりキツく爪を立てたと思っていたのに、少ししか傷跡が残っていなかったのが悔しかったとか、どうでもいい理由だった。
ブツブツと文句を言っていた一護の、しかめっ面で眉間に寄っていた皺がふっと薄くなる。
「あのさ、怒んなよ?」
「何だい?」
「お前、キスマークの付け方を知らないとか…」
「…………」
沈黙は肯定でしか無い。
「教えるから次からはそっちにして下さい」



浴室に響くキスの音。
次の日の体育は二人してまた姿を消した。









[前へ][次へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!