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神凪綾女様から相互記念(遊アキ)




街灯の光を受けて夜闇をバックに美しく輝く桜の花を、アキは立ち止って見上げていた。
気になって隣を見遣れば、遊星も歩みを止めて同じように満開の桜を見上げていて。

「綺麗ね」
「ああ」

そう会話と呼べるかどうか怪しいほど短く言葉を交わすと、二人は一度目を見合わせまた桜吹雪の中を並んで歩き始めた。
時折、どこか落ち着ける場所はないだろうかと視線を巡らせるが、花見客が多くそう大したスペースは見当たらない。

「すごい人の数」
「こうも見事に咲いていれば仕方ないだろう。花より団子のようだが」
「そうね。…それにしても遊星がこんな所に誘ってくれるなんて思ってなかったわ」
「そうか?」
「ええ、こういう騒がしい場所はあまり好きじゃないと思ってたから」

とはいえ、遊星とアキは“恋人”という関係になってからも何か特別なことをするでもなく、さらにはいろいろと忙しい相手のことを気にしてふたりきりで出かけたことは一度もない。
唯一変わったことといえば、遊星がDAまで迎えにきてくれるようになったことぐらいだ。

「誘う時も言ったが、ここの桜が綺麗で見頃だったからな」
「そう。でも一度渋っても引き下がらなかったのには驚いたわ」

アキの頭に、その時の光景が甦る。

『堤防沿いの桜が綺麗だったんだが、花見に行かないか』

いつものように迎えに来てくれた遊星と共に下校していた途中、急に彼がそう誘ってきた。
それもこれからということで、制服で行くのはあまり好ましくないし、遅くなると両親に迷惑をかけてしまうとアキは渋ったのだが、『一度帰ってからでも構わない』と遊星は引き下がろうとしなかったのだ。

「…クロウに、いつまでも変わらないままでは飽きられてしまうんじゃないか、と言われて焦っていたんだ」
「そうだったの」

そんなこと、心配せずとも飽きることなどないというのに。
信頼してもらえてないようで内心ムッとしたが、あの遊星が心を乱すほど大切に想われているのだと気付き、アキは嬉しそうに微笑んだ。

「大丈夫よ、そんな心配いらないわ」
「だが、不満だったろう」
「確かに他の人たちのような関係に微塵も憧れがないって言ったら嘘になるわ。……でも、あなたに想われて、傍にいられるだけで私は幸せだから」
「…そう、か」

恥ずかしくて後半になるにつれ声が小さくなっていったものの、どうやら聞き取れたらしい。居た堪れなくなって視線を反らし、二人して頬を薄紅に染める。
なんとも言い難い、ふわふわとした空気と桜吹雪に包まれて、何を話すこともなく歩く。
気まずくなって脳内で話題を探す中、二人の横を一組のカップルが通り過ぎた。

「あ……」

無意識に、アキの口から声がもれた。その目は今しがたすれ違ったカップルの、しっかりとつながれた手へと向けられている。

(――羨ましい)
「どうした、ぶつかったのか?」
「え、ううん。なんでもないわ」

チラリと遊星の手を見た後、怪訝そうな彼に首を振って返し、アキは気付かれぬよう小さく溜め息をついた。
アキもせめて遊星と手をつなぐくらいのことはしたい。けれどこうして夜、二人で出かけて隣を歩くだけでもどこか気恥ずかしいのにそんなことを言い出す勇気など持っていなかった。
――それでも。

「遊星」「アキ」

手をつないで、と言おうと決心して名を呼んだものの、見事に遊星と重なった。瞬時に心が折れて、振り絞った勇気が霧散する。

「えっと、なに?」
「いや、アキから先に」
「私はいいから遊星から言って頂戴」
「………」

これではつまらない言い合いになると踏んだのか、眉をひそめて遊星が引き下がった。しかしすぐに告げることはせず、目線を外して頭を掻く。

「その、人が多くなってきた。はぐれると困る。だから」

いまいち理解ができず固まるアキに、そっと遊星が手を差し出してきた。

「手を、つながないか」
「……! ええ!」

にっこりと笑って微笑むと、アキはぎこちなく遊星の手を取った。

「アキはなにが言いたかったんだ?」
「………あなたと、同じこと」
「…そうだったのか、ならよかった」

まだ世間一般で言う“恋人つなぎ”なんてものではなかったけれど、意思の疎通ができたように思えて、それだけで二人は十分だった。
祝福するかのように、散りゆく桜の花弁が降り注いだ。





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「とか・とか・とか」の神凪綾女さまから頂きました。
初々しい遊アキをお願いしたら、こんなに可愛い遊アキが形になってくれました…!!もう、皆でニヤニヤするしかない。

綾女さま、素敵な作品をありがとうございました*^^

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