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想い唄(玖仁様から相互記念ザックラ)








慈しみ 愛おしみ


月を眺め 星に願い


海に流し 空に歌う


幾億の時と共に


紡いだこの唄は


いつぞいつぞ



かのもと届く…




―『想い唄』―






北からの風が流れ込み気温が一気に下がってきた。


ついこの間まで茹だるような暑さだったのが嘘のように冷たい空気が肌を刺す。


冬に向かうにつれ、段々寒くなると同時に空気が澄み、闇を照らす夜の太陽がその姿を現す。




宵も深まり、月が高く昇るころ、用を足しに起きてきたザックスはふと足をとめた。

こんな時間では考えにくいそれを不思議に思い、自然とそこに向けて歩みだす。


段々近付くに連れて鮮明になるそれは、耳を澄ませなければ聞こえないほどの小さな声。



(歌?……)

僅かに聞こえるそれは確かに旋律に言葉をのせているもので。何故こんな時間に歌声が聞こえてくるのだろうと、ベランダに出た時だった。




空気の澄んだ空には丸くはない月が輝き、高い位置にあるこの部屋には外から風が流れこむ。その風に煽られて、きらめく金糸をなびかせながら、空に音を解き放つ天使がいた。

バランスよく手すりに腰をかけ、月光を浴びて白い肌を輝かせ、寒さから頬を紅く染め、桜色の唇から凛と澄んだ歌声で歌うその姿は、美しく幻想的で触れた瞬間に壊れてしまいそうに儚い。



立ち尽くすザックスに気付いたのか、歌が止んで振り返った。


「ごめん。起こした?」

「いや…」

一瞬非現実的な、絵画でも見たような気分になっていたザックスは心ここにあらずといった気の抜けた返事を返した。



「ザックス?」

「あ、いや、何でもない。つかお前危ないだろ」


言いながら落ちないようクラウドの腰に腕を巻き、身体を引き寄せて抱き上げた。触れた肌の冷たさに一瞬何かの書籍で呼んだ美しき幻妖を思い出してドキッとした。突然抱き上げられたクラウドは驚きの声をあげたが、気にせずそのままゆっくり身体をおろした。

「大丈夫だよ。ニブルでも木登りとかしてたし」

「木登りとじゃ高さ違いすぎだろ。とにかく駄目」

言い聞かせるように窘めると、少し拗ねたように口を尖らせる仕草に、思わず笑みがこぼれた。


「お前いつからいたんだよ。身体冷え切ってんじゃねぇか」

「え?ほんと?いつからだろ…」

本気で覚えてないという顔をするクラウドに溜息を吐き、待ってろと言って一度部屋の中に戻った。

しばらくして、毛布と湯気の立つマグカップを持って再びベランダへと戻ってきた。毛布でクラウドを包み、温かいマグカップを手に渡す。冷え切って赤くなっていた指先にじんと温かさが伝わる。


「ザックスは寒くないの?」

「ん?俺は平気」


薄手のTシャツを着ているザックスを、はたから見ていて寒そうだと思い尋ねるが平気だと返されてしまった。それでもやはり見ていて寒そうで、包まれた毛布を広げ、ザックスへと被せる。


「おわ!…クラウド?」

ザックスが首を傾げているのを横目で見ながら、そのまま毛布を引き寄せ、自分もザックスもろとも毛布に包まった。


「……こうすればあんたも俺も寒くないだろ」

毛布に包まるには身体を近づけるしかなく、ザックスの胸に背中を密着させるような形になってしまう。口調は感情を込めていないが、耳や首筋まで真っ赤になった様が顕著にそれを表していた。

「そうだな。あったかい」

小さく笑いながらそう言ったザックスが、腕でクラウドを引き寄せたため、お互いの体温が伝わるほどに近い。その距離が恥ずかしくて、早くなる鼓動がザックスに聞こえませんようにとクラウドは小さく祈った。












「なぁ」

「何?」

「さっきの何て歌?」

「さあ?」

「さあって…さっき歌、歌ってただろ?」

「そうだけど…。何て歌かは知らない」

「そうなのか?」

「うん。母さんがよく口ずさんでたから何となく覚えちゃったんだ」

「ふ〜ん。……なぁ」

「やだ」

「……まだ何も言ってないけど?」

「どうせ歌えって言うんだろ?」

「ピンポーン。よく分かったな」

「あんた単純だからな」

「ひでぇなぁ。……なぁ」

「………」

「クラ〜」

「………」

「なぁってば」

「………」

「なぁってば。頼む!一回だけ!なっ?」

「……あ〜もう、しつこい!」

「だって聞きたいもん」

「もんとかやめろよ」

「な、クラウド。お前の歌聞きたい」

「………はぁ。一回だけだからな」

「やた!」


結局はザックスの押しに負けてしまい、お願いを聞き入れることになってしまった。

本当は女の人が歌うような歌だから、ザックスに聞こえないように小さく歌っていたのになと思ったが、聞かれてしまってはどうしようもない。きっとザックスに聞かれたら歌ってとお願いされることが容易に予想ができたから声をなるべく小さくしたのだけれど、そんな計算はいとも簡単に崩されてしまった。

絆されてるなとは思いつつ、結局いつもザックスのお願いには弱くなってしまうのが常。それでもやっぱり好きなのだ、この男のことが。もう少し強気でいかなきゃ駄目かな等と考えつつ、照れくささにたじろぎながら口を開いた。





慈しみ 愛おしみ


月を眺め 星に願い


海に流し 空に歌う


幾億の時と共に 紡いだこの唄は


いつぞいつぞ かのもと届く…――





澄んだ空気に響き渡るクラウドの声は心地よく、旋律の一つ一つが胸に染み渡ってくる。

「綺麗な歌だな」

「昔の人が遠いところにいる恋人に歌った歌だって母さんは言ってた」

「そっか」

「うん」



風が時折刺すように肌をかすめる。冷たい風にさらされても寒くないのは互いが近くに感じられるから。肌に感じる体温も、胸に感じる心も。


「な、俺が遠征行った時それ歌ってくれよ」

「は?」

「なんかさ、届く気がする」

「届く?」

「うん。クラウドの声ならさ、どこにいても俺に届く気がする。いや、確信か?」


離れた距離で歌声が届くなどと何の確証もないことを、酷く真剣な声音で言うものだから、何だか本当に届いてしまうのではと思える。


「…馬鹿じゃないの」

ザックスの言葉を真に受けそうな自分が馬鹿みたいで、恥ずかしい自分ごと吐き捨てるが、胸に残る温かみは捨てがたかった。



「……クラ」

「何?」





「愛してる」

「っ!………知ってる」

「お前は?」


「…………れも」

届くか届かないかというほどの囁きに、ザックスは満足そうに笑った。



「な、もう一回歌って?」

「さっき一回って言っただろ?」

「いいじゃん。な?」

「……しょうがないな」







慈しみ 愛おしみ

月を眺め 星に願い

海に流し 空に歌う

幾億の時と共に

紡いだこの唄は

いつぞいつぞ

かのもと届く


声を聞け 耳をすませ

空を見よ 瞳を開き

歌い歌い

紡ぎ続けたこの唄は


今この時


あなたへと捧ぐ




愛しき愛しき



かの人へ……――――






『なあ、そういや何であんな時間にベランダなんかにいたんだ』(今更)

『………別に』




あんたの夢見て温もりが恋しくなったなんて…


絶対死んでも言ってやらない




end





******


心が温かくなるザックラです(*^^)
ラブラブなんだけど、最後ちょっと恥ずかしがりのクラウドがたまらんですね!!←
文章の書き方が上手で、私も見習います。

くぅさん、相互&素敵小説ありがとうございました!(*^□^*)

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