ユキヒロ様より 朝の一幕


太陽がビルの間から顔を覘かせ、小鳥もさえずる爽やかな日曜日の朝。
雷電は一睡もできないまま、ふらふらと頼りない足取りでキッチンへと立った。
ベッドに入りはするが眠れないという事は少なくなく、今回もそれにあたる。
徹夜をしたので雷電は腹が減っていたが、どうも量を作ろうという気力が湧かない。
結局、十分もせぬうちに二人分のベーコンエッグとトースト、そして千切っただけの瑞々しいレタスがテーブルへ並べられる。

「………」

虚ろな目でフォークを手に取り、卵にぶすりと突き刺す。
ナイフがある事も忘れてそのまま持ち上げれば、ベーコンも一緒に付いてきた。
それらを、薄く開けた口に持っていき、もしゃもしゃと食らう。

と、ドアが開いて、ソリダスが覗き込むようにひょっこり顔だけ出す。
すぐに雷電を視界に納めると、壁に寄りかかりボサボサの頭を撫で梳きながら欠伸を掻いた。

「おはよう、ジャック。…顔色が悪いな」

また寝ていないんだろう、と苦笑いを浮かべるソリダスに、雷電は数秒経ってから返事をした。
どうも頭が回らないらしい。

「まあ、昨日は雷が煩かったからな…。私もあまり眠れなくて…」

ソリダスは眠い目を擦りこすり、むにゃむにゃと何か呟く。
仕方がないだとか、そういう類の事を言ったのだろう。
うっすらと黒く染まっている目袋の間、眉間に皺が寄る。
しかし、テーブルの上の朝食が目に入った途端嬉しそうに微笑み、ソリダスはパジャマのまま急ぎ足で洗面所へ向かった。
朝食の前に顔を洗い、伸びた髭を剃るためだ。
日曜とはいえ、大統領だった頃の習慣が染み付いているのか、ソリダスは髭をセットするのを一日だって忘れた事はない。
呑気に鼻唄を歌いながら手早く髭を剃ると、やはり急ぎ足でキッチンへと戻る、が。

「……私の分…」

四枚ある皿のどれにもベーコンエッグは見当たらず、ソリダスは愕然とする。
先程より長いベーコンが雷電の口から垂れているのを見て、哀しそうに瞳を伏せた。
そんな何とも言えぬ哀しい雰囲気に気が付いて、雷電は閉じたままだった瞼をうっすらと開き手元の皿を見た。
トーストとレタスは完全な形のままそれぞれの皿に乗っているが、ベーコンエッグがない。
今口の中にあるのはソリダスの分なのだろうと気付くが、食べてしまったからにはどうしようもない。

「…ああ…すまない、ソリダス。何だか眠くて…」

謝るが、ソリダスは変わらず哀しそうに空の皿を見つめるばかりで、雷電は溜め息を吐く。
悪いのは自分だが、あまりに大人気ない。
このままでは互いに気分が悪いだろうから、と雷電はのそのそと立ち上がり、冷蔵庫を開ける。
卵を取ろうと手を伸ばしたところで、ソリダスが慌てて声をかけた。

「いいんだジャック、構わない。お前は寝ていないんだ、自分の分くらい自分でやる。ジャックは寝なさい。今なら…」

寝られる、とか何とか小声で呟き、ふと黙り込む。
腕を組んで首を傾げるソリダスを、雷電は不思議そうに、怪訝そうに見上げる。
どうせろくな事を言わないだろうと思いながら。

「…いや、やはり私も付き合おう。うん、ちゃんと寝られるように添い寝してやる」

「あんたは二度寝したいだけじゃないのか?」

満面の笑みで宣うソリダスに、容赦ない突っ込みが入る。

「ち、違うぞ。私はお前のためを思ってだなぁ…!」

泡を食ってせわしなく手を動かすオヤジに、冷たい視線を投げる青年。
パジャマ姿がより情けなく感じさせる。
いつまで疑いの目を向けられるのだ、とソリダスが冷や汗を垂らし始めると、不意に、雷電の表情が緩んだ。

「わかってる。…そういう事にしておくよ」

くすりと笑って。
呆けたような顔をしたソリダスの横を通り過ぎ、のろのろと寝室に向かう。
そうしてドアの前まで来ると振り返り、雷電はにこりと微笑んで手招きした。




――――

記念すべき28000打を踏ませて頂きました!

この萌え親父を一つ下さい。

がっかりダス可愛いよがっかりダス。
がっかり→しょんぼり→あわあわ→パジャマでトドメをさされた気分です。

何より、『眠れない雷電』が好きな私には堪らない話でした。


ユキヒロ様、ありがとうございましたー!


あきゅろす。
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