masquerade ミンスネ



 あまり認めたくは無いのだが、それは何時も通りの感覚だった。


 沈むベッドに呑まれる体は鉛の様に重く
 悲鳴の様な衣擦れの音が耳を引っ掻く
 晒された肌は熱が奪われ冷えていった

 どうせすぐに熱は生産されるのだ。
 否――既にされ始めている。
 自分の内側から。


「ハンスさん」


 低く擦れ、耳元で囁く声に目を開く。
 見下ろす様に覗き込んで来るのは、決して笑わない黒。

 そのいつもの景色の中に見慣れない物を見た。


「ん……?」
「どうしました?」


 滑らかに動く唇の隙間から見える、白く尖ったもの。
 じっくりと観察した事は無いが、フレミングにあんなに尖った犬歯は無かった筈だ。
 黙って目を凝らして居ると、フレミングはあぁと納得したように頷いた。


「おもちゃですよ。ほら」


 にこりと笑ってみせる。
 よくよく見ればそれは柔らかなゴムで作られた歯形の様な物で、半透明の向こうに本来の歯が透けて見えた。


「そんなモノ、何で」


 『着けてるんだ』と言う言葉は、呑み込んだ息と共に胃の中に消えた。
 するりと降りてきたフレミングの唇は首筋に軽く口付け、笑みの形に開かれる。

 ぎりり、と鈍い痛み。

 本物の歯ならば、もしかしたら刺さり血を吸い出したかもしれない。
 けれどそれはどうあがいても柔らかな模造品で、脆い様で案外丈夫な人の皮膚を破るには至らない。
 それでも力一杯噛まれれば、やはり痛い。
 思わず顔をしかめ、下唇を噛む。



 まるでその一瞬を狙ったのかの様に、フレミングは噛む力を緩めた。
 僅かに凹む皮膚を、生温くぬめる舌がなぞる。

 まるで、命を吸い出した傷口を塞ぐ様に。


「……っ!」


 背筋を駆けたのは、怖気だけだろうか。




 横目で奴の顔を捉えれば、それはもう楽しそうに笑っていて。
 歪んだ唇の隙間から覗く玩具の牙が、ギラリと光った様な気がした。




――――

吸血鬼ごっこプレイ。
うん年前にこういう玩具を見かけたので。

090206


あきゅろす。
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