trick ネイソリ



「トリックオアトリむが」


 台詞を中断したのは、彼の顔にめり込んだ黄色い箱。
 それを押しつけているのは俺の手だ。
 彼はむぐぐと呻き、手を振り払う。
 ぽとりと目の前に落ちた箱を拾い、つまらなさそうにため息を吐いた。


「なんだ、用意してたのか」
「『いたずら』されない様にな」


 不満げに口を尖らせる奴を見て、俺はほっと息を吐く。
 わざわざ用意したかいがあった。
 イベントがある度に押し倒されていては、こちらの身が保たない。
 ハロウィンに用意された逃げ道にしみじみ感謝していると、彼はぼそりと意外な事を呟いた。


「……お前はやらないのか?」
「はぁ?」
「ハロウィン」
「俺はお菓子も欲しくないし悪戯もしたくない」
「俺はお菓子も欲しいし悪戯もしたいんだ!」
「誰がお前の希望を言えと言った!」
「前言を撤回する」


 次の一瞬に起こった事。
 『どの前言だ?』という台詞を口にした。
 少しでも距離を取ろうと身構えた。
 どれよりも早く腰に手を回されて引き寄せられた。
 怒りや呆れより強い敗北感に力が抜ける。
 耳元で囁かれたのは、これ以上無い程我儘な言葉。
 その要求を通してしまうのがこの男だし、俺なのだと思う。


「トリック『アンド』トリートで万事解決」
「それはもうハロウィンじゃない」
「じゃあニューハロウィンて事で」
「新しい行事を作るな!」




――――

ハロウィンにごめんなさい。
ギャグ……だと……?


081013


あきゅろす。
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