confinement ミンスネ







「どうして逃げたんですか?」



 まるで無表情な部屋だった。
 のっぺりとした灰色の壁が四方を囲み、天井は無闇に高い。
 灯りは無く、光源は壁の上の方に取り付けられた小さな窓だけだ。
 そこから差し込む僅かな光を反射して、唯一の出入口である鈍色のドアがぎらりと光った。

 部屋の中には、二人の男が居る。
 一人は部屋の真ん中に立ち、何かを不機嫌そうに見下ろしている男。
 その視線の先に、二人目の男。
 壁から伸びた鎖に繋がれ、虚ろな眼をして冷たい床を眺めている――。


 立っている男――フレミングは一歩、踏み出す。
 無造作に右足を上げると、勢い良く繋がれている男の頬に爪先をめり込ませた。
 嫌な音が響く。


「ぐ……っ!」
「同じ事を二回聞くのは無駄です。私は無駄な事が大嫌いだ」


 フレミングはとん、と足を揃える。
 靴の先を濡らす赤い液体に顔をしかめながら。


「もう一度、聞いてあげます。……『何故私から逃げたのですか?』」
「……逃げ出したくも……なる。……こんな所に繋がれていれば」
「不満ですか? 食事も三食作って差し上げましたし、退屈しない様に会話を絶やさない様に心がけていたつもりなんですが。性欲処理だってしてあげたでしょう?」


 僅かな物音でかき消されてしまいそうに弱々しい声を聞き取るために、フレミングは膝を折る。
 顎を持ち上げて無理矢理顔を上げさせると、床を眺めていた瞳が、ゆっくりと彼の顔を捉えた。
 虚ろの奥にある激しい怒りに、微笑してみせる。


「ふざけるな」
「至極真面目ですよ」


 じゃらり、と戒めが鳴く。
 動かそうとして叶わなかったその腕は、一体何をしようとしたのだろう。


「こうでもしなければ、あなたはどこかへ行ってしまうでしょう?」


 手足を切り落とされないだけマシだと思ってください。
 私は貴方の腕や足も好きなのですから。


 耳元で囁くと、彼の体が強ばった。


 笑いながら、赤の流れる頬に口付け吐き気を催す鉄の味を舌でなぞる。
 唇にキスをしたかったが、噛み付かれてしまうだろう。
 その代わり、目隠しをする様に右目に軽く手を当てた。


 彼の表情は頑として変わらない。
 その唇が薄く開き、擦れた呟きを漏らした。



「お前は狂ってる……」



 何を言っているんだか。



「狂わせたのは、あなたです」



 笑って、爪を立てた。




――――

なんだこれ。
痛いよう。


080718


あきゅろす。
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