insomnia ソリオタ



「起きてたのか」


 昇りかけた太陽が、闇を少しずつ薄め始める時間。
 薄暗い部屋の中、光るモニタに向かう後ろ姿に、俺は声を掛けた。
 きぃと椅子を軋ませて振り向いたその表情は、逆光の影に隠れて読み取れない。


「今日は随分早起きだね? スネーク」


 そう言って、オタコンは首を傾げる。
 俺はわざとらしく肩を竦めてみせた。


「一人寝が寂しかった所為だろ」


 オタコンが微笑んだ気配がした。
 それを見る事が出来ないのが、残念だ。


「徹夜する程差し迫った仕事なんてあったのか?」
「あったら君にも手伝って貰ってるさ。眠れなかったから、資料の整理をしてたんだよ」


 見えた様な気がした。

 はぐらかす笑みが。
 紙の様な顔色が。
 小さく震える唇が。
 逸らした視線が。
 揺れ動く瞳が。

 嘘だと告げる。

 嘘の下手な男では無かった筈だが。
 眠っていない所為だろうか。


 俺が一歩足を踏みだすと、彼の体がびくりと震えた。
 低く唸る機械の稼働音が沈黙を埋める。


「恋人が泣いている時に呑気に寝ていられる程、間抜けじゃないつもりだ」


 もう一歩近づいてやっと見えた彼の顔は失敗した笑みの形に歪み、それは諦めた様に泣き顔へと変化した。
 厚い眼鏡の下から、一粒の雫が線を引く。


「忘れなきゃいけないと思う程、忘れられなくなるのは何故なんだろう」


 彼は何を忘れたいのだろう。

 彼の犯した過去の過ちの事か。
 彼の愛した狼の狙撃主の事か。
 彼を愛した聡明な妹の事か。

 それとも、今彼の目の前に立っている男の事だろうか。


「忘れられないのは、お前が『忘れたくない』と願っているからだ」


 忘却は救いだ。
 忘れてしまえば、考えなくてすむ。
 忘れてしまった事に苦しむ必要もない。
 忘れられないという事は、忘れたくないという事。
 それについて考え、苦しみ、
 『それでも共に有りたい』という願い。


 オタコンはうなだれて、涙を拭う。
 俺はその頭に手を乗せ、柔らかな髪を掻き混ぜた。


「君にも……忘れたくない事はあるのかい?」


 湿った声の問い掛けに、俺は小さく笑う。




「言わなくても解るだろう?」




――――

何だか説教くさい。
扱ってるCPの中ではまともな方なのに、やたら書くの難しいのはなんでだ!

080805


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