return ライ雷




 呼び鈴の鳴った玄関へ出た俺を、むっとした酒の匂いが出迎えた。

 そこに有ったのは酔い潰れたライコフと、それを抱える彼の『彼氏』の姿。
 この『彼氏』とは何度か面識がある。
 腕っぷしの強そうな強面だが、ライコフには異常に優しい人だ。
 彼からも『彼氏』の話をよく聞かされる。
 ……息子としては複雑だが。


「すまんな、こんな時間になってしまって」


 スネークよりも更に低い、だが時間を考えてか押さえられた声に、首を振る。
 壁にかけられた時計を横目で見ると、深夜の一時を指そうとしていた。


「こちらこそ、迷惑をかけてすみません。今日は泊まってくると思っていましたが」
「私もそれを勧めたのだが、どうしても帰るんだと聞かなくてな」
「そうなんですか?」


 驚いて、『彼氏』の腕の中で眠るライコフの顔を覗き込む。
 大好きな人の誘いを断る様な理由等、彼には無い……筈だが。
 顔を上げると、厳い顔が微笑んでいた。


「中まで運ぼうか?」
「あ、いえ。大丈夫です」


 『彼氏』はライコフの体を降ろし、今度は俺がそれを担ぐ。
 ぐにゃりと力の入らない体は、死体の様に重い。


「では。イワンを頼む」
「送って頂いて有難うございました」


 帰り際、俺の頭に乗せられた大きな手はライコフのそれよりも余程父親らしく、それを否定するようにぱちんと電気を走らせた。




 重い体を引きずり、寝室へと運ぶ。
 やっとの事でベッドに寝かせると、ライコフの眼が薄く開いた。
 まだ半分眠っているような、ぼんやりとした表情でのろのろと口を動かす。


「水」


 俺はサイドテーブルに置いてある、透明なペットボトルに手を伸ばす。
 キャップを取り少し口に含むと、酒臭い顔に近づく。


「んぅ……」


 移動する液体の感覚に鳥肌が立つ。
 喉が上下するのを確認し、離れた唇は笑っていた。


「怒ってるのか?」
「別に」
「大佐をほったらかして帰ってきたから、か」


 くすくす、と笑う微かな振動がベッドに響く。


「別に無理して帰って来なくても良い。子供じゃあるまいし」
「別に無理はしてない。やる事はやってるんだから。それに、帰って来るのはお前の為じゃないんだ」


 白い腕が素早く伸び、俺の首に絡み付く。
 引き寄せられて唇がぶつかった。



「俺が、お前に会いたいから、『俺の為に』帰ってくる」



 自信たっぷりな屁理屈を口に微笑むライコフに反論する気も失せ。
 もう一度唇を重ねて、溜め息を吐いた。



「……ありがとう」
「どういたしまして」
「なぁ」
「なんだ?」
「一緒に寝ても良いか?」
「良いよ。ただし……」




「今日は眠いから、ヤるなら明日な」





――――

大佐にゲストに来てもらったら、なんか良い話になって赤くなくなった。
気の良いおっさんみたいになっちゃったよ。
ごめんね大佐!

080719


あきゅろす。
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