pamper ソリ雷




 日常のワンシーンと言えない事も無い状況での、少しだけ違う事。



 触れる指先の違和感に、俺は思わず彼を見上げた。
 表情は至って普通どおりだが、俺には彼のポーカーフェイスは見破れない。
 原因は、俺が彼を信頼しすぎている事。
 取りのぞく方法は嫌いになる他は無い。
 恐らく、一生無理だろう。


「……スネーク」
「うん?」
「どうかしたのか?」
「何がだ」


 感情の抑えられた声。
 動き続ける指先に、増していく違和感。
 体温の上昇を意識から外した。
 掴み辛いその感覚を無理矢理言葉にする。


「いつもより……優しい?」


 いつもが乱暴だと言う訳では無い。
 丁寧だし、痛みも無い。
 唯――意地の悪い触れ方だと思うのは、俺の感性がおかしいのだろうか。

 今日はそうではない。

 自らを割れ物か何かだと錯覚する触れ方。
 壊さない様、慎重に。
 刺激を与えない様、穏やかに。

 俺を焦らす作戦なら、効果はてきめんだっただろう。
 彼の苦笑を見て、違うのかと意外に思った。



「お前が泣いたから、反省したんだ」
「泣いた……?」
「泣きそうな顔だった」
「あ」



 蘇ったのは、真新しい記憶。
 普段より二割増しで意地の悪い触れ方に、何も見えなくなる程景色が滲んで。
 自分の物とは思えない様な声が頭の中でこだまする。
 忘れていたのはきっと、死ぬ程恥ずかしかった所為だろう。
 忘れたい事を素直に忘れてしまえるのは、我ながらお気楽な頭だと呆れてしまう。


「優しいのは嫌か?」
「……まだ意地の悪い方がマシだ」


 声色は優しく、その表情は楽しげに。
 額に優しく唇が落とされ、指は動きを変える。
 小さく息を吐くと、スネークは笑った。



「泣くなよ?」



 『泣かせるな』という台詞が、声になる事は無かった。




――――

いぢわるソリ公。
赤くは無いな……。

080809


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