summer heat fatigue ネイソリ



 体にまとわりつくだるさ。
 微熱に重い頭は軋むように痛む。
 目の前で点滅する黒と白。


「軽い夏バテ、だな」


 呆れた様な声に、言い返す気力も無くうなだれる。
 原因は恐らく栄養不足だろうか。
 元々大食いな方ではないし、最近の暑さに食欲も減退気味だった。
 身近にやたらと喰う奴が居るのも一因かもしれない。
 普段でさえ彼の食事風景を見ているだけで満腹になってしまうのだから。


 ぽんと置かれた彼の掌が、頭を撫でる。
 頭痛がする頭を撫でられるのは、有り難迷惑以外の何物でもない。
 ……それを振り切れないのは、その感触を俺が心地よいと感じてしまっている所為だ。


「しばらくは絶対安静。で、栄養のつくもん食べればすぐ良くなる」
「ロクに動けないんだ。安静にする位しか出来ない。……所で」


 機嫌の良さそうな彼の顔を横目で睨む。
 眩暈に邪魔をされ、仕方なく眼を閉じた。


「どこ触ってるんだ?」
「お前の頭だが」
「もう片方の話だ」
「さぁ、どこかな」


 探す迄もない。
 それは必要以上に近くにあった。
 自分の着ているものよりも、近くに。


「おい!」
「なんだよ」
「……一応、俺は病人だぞ?」
「安静にしてていいぞ。こっちは勝手にやるから」
「勝手にって……っ!」


 汗ばんだ肌をはい回る手の感触は、背筋に冷たいものを走らせる。
 同じ手の筈なのに、触れるヶ所によってこうも感じ方が変わるとは。
 妙な事に感心しつつ、俺はその手から逃れようと身を捩った。


「弱ってる時を襲うのは卑怯だろ……!」
「好機を逃さないと言え。いつものお前のガードが堅すぎるのが悪い」


 だるさ。
 微熱。
 頭痛。
 食欲不振。
 休養を邪魔するもの。
 ほんの少しの諦め。


「……くそ。体力が落ちて回復が遅れたら恨むからな……」
「治るまでつきっきりで看病してやるさ」
「お前に看病されたら、俺は一生寝たきりだ!」



 にやりと笑う彼の顔から目を逸らしながら、俺は何時の間にか組み敷かれた体の力を抜く。
 『それも悪くはないかもしれない』という誰かの声を、頭の片隅に押し込めながら。




――――

あまあまのつもりが微糖。
体調不良の人を襲うのは良くないと思うんだ。

『あまあま』
『裸に襲われる固』

080728


あきゅろす。
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