absence ネイソリ




 帰って来ない日だって、ある。

 心配をする必要は無い。
 俺も奴も立派な大人。
 迷子になって泣く子供ではない。
 他人に尋ねる口も知恵も持っている。
 襲われても大概の人間なら大丈夫だろう。
 やたらに強い女兵士や、二足歩行する戦車でも無いかぎりは。
 雑食性の彼は食料難とは無縁。
 いざとなれば文字通り『何でも食う』のだから。



 それでも、一週間何の連絡も寄越さないのは、非常識と言わざるをえない。



「書き置きは?」
「あいつがそんなマメな事するか」
「喧嘩でもしたのか?」
「してない」
「どんな風に出ていったんだ?」
「起きたら居なかった」
「心当たりは無いのか?」
「あいつの行きそうな所なんて俺が知るか」


「心配、してないのか」
「するわけないだろ。子供じゃあるまいし」



 一週間。
 俺は普通に生活した。
 用があれば外出し、腹が減れば料理を作り、暇があれば本を読みテレビを眺める。
 邪魔のない生活は中々に快適だ。
 一人には慣れている。
 生活も長かったし戦場ではいつも一人だ。
 むしろ、いままで二人だった事の方が異常なのだ。
 その相手も異常すぎる程に異常だった。
 体に入り込んだ異物を放り出して、正常に戻った。
 ただそれだけの事。



 でも何故か、聞こえてきた『ただいま』の一言に一粒だけ涙が零れた。



 頭の中で用意していた嫌味や皮肉も言葉にならなかった。
 今まで何処に居たのかという質問もどうでも良い。
 ただ、何も考えずに彼の元へ飛び込んだ。
 よく見れば出で立ちはかなりくたびれていて、申し訳なさそうな表情が間近に有る。



「……心配、したか?」
「してない」
「そうか」


 背に、大きな掌の感触。
 温かい。生きている手。


「だが、驚いた」
「生きて帰って来た事にか?」
「お前が居ないと、どんどん駄目になっていく俺に」


 表面はいくらでも取り繕える。
 心が死んでも、生きていける。


「お前を駄目にはさせない」


 抱き締める力が一瞬だけ強くなり、
 俺の口からは言わないと決めた筈の言葉が零れていた。




「おかえり」







――――

蛇宮ソリ子の憂欝。

『泣きじゃくる』
『裸がいないとダメになる固』

080726


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