soak ソリリキ
風呂上がりは気分がいい。
湿った肌の乾いていく感触。
熱が少しづつ抜けていく感覚。
「どうかしたのか?」
俺があいつに普段とは比べ物にならないくらい自然に声をかける事が出来たのも、そんな心地よさの所為かもしれない。
「んー……」
返答は低い唸り声。
表情は暗く、目は釘づけのまま。
目線の先には緑の十字架。
「怪我したんならとっとと治療しろ」
「手が届かないんだ」
笑いを含む奴の声にも、不思議とイラつかない。
風呂上がりの効能は偉大すぎる。
俺は黙って奴の視線から救急箱を取り上げ、ゆっくりと蓋を押し開けた。
「そういう事は早く言え、馬鹿」
「なんだ、やってくれるのか?」
からかいの言葉の一つでも飛んでくるかと軽く下唇を噛んだが、飛んできたのは意外な一言。
「ありがとう」
本当に、偉大すぎる。
傷の場所が背中で良かった。
今向かい合わせになるのは、苦行以外の何物でもない。
馬鹿みたいに赤くなった顔を見られれば、今度こそ確実にからかわれるだろう。
否、もしかして今なら――?
首を振り思考を断ち、俺は傷にガーゼを押しあてた。
「大体何で背中なんて怪我するんだ?」
「お前にやられたんだが」
「覚えはない」
「昨日の夜だぞ」
「?」
「記憶が飛ぶほど良かったのか?」
「!!!」
――――
微ツン? デレてはない。
なかようせんといかんよ。
080831
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