tepid ネイダス



 温い雨が、降っていた。




 部屋の中には俺が持ち込んだ雨の匂いと、彼の作り出す沈黙が有った。
 弱々しい雨の音では、その沈黙を破る事は難しい。


「悪かったな、急に押し掛けて。降られた場所に一番近かったのが此処だったんだ」


 借りたタオルで頭を拭きながら声を掛けると、キッチンに立つソリダスは小さく肩を竦めた。


「ソリッドに連絡を貰った。その辺りで降られてるかもしれんから宜しくとな」
「……エスパーかあいつは」
「それだけお前の行動が単純なんだろう」


 二つのカップに茶色の液体が満ちる。
 それは雨の匂いをかき消して、部屋の温度を僅かに上昇させた。
 片方を俺に押しつけ、もう片方を口元に運ぶ。


「飲んだら帰れ。保護者が心配する」
「どっちかと言うと俺が保護者なんだが」
「保護者と言うより、介護されるボケ老人と言った方が正しいか」
「……」


 熱い液体が喉を焼く感覚に眉をしかめる。


「俺の事、嫌いか?」
「好きではないな」
「俺はお前が好きなのに?」
「私がお前を好きになる要素は全く無い」


 表情や声の調子に、変化がない。
 俺は液体の残るカップを置いて、距離を詰めた。



「嫌いになる要素は、あるのか?」
「……、」



 言い淀んだ間に、答えが有る。


 思ったよりほっとしている自分と、ばつの悪そうな表情を隠す様にコーヒーを呷るソリダスが可笑しくて。
 ひょいとそれを取り上げて、文句も聞かずにキスをした。


「……好きじゃ、ないからな」
「嫌いでもないんだろ」


 そのままそれを飲み干して、俺はソリダスに笑ってみせた。



「おかわりを貰えるか?」




――――

微妙に好評だったらしい。
でもなんか不倫ぽいよ! なんで?

080818


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