favor ネイリキ




 俺がその日奴の部屋を尋ねたのは、一つの頼み事をするためだった。
 奴に頭を下げるなんて死んでも御免だが、頼れる人間が奴しか居ないのも事実。
 道すがら手土産を買い、部屋の前まで辿り着いてインターホンを押そうとした一瞬前に扉は開いた。
 慌てた様子で出てきたのは、俺が尋ねてきた張本人。
 奴は俺の姿を認めると、早口でまくしたてる。


「リキッドか。すまん、今から少し出なきゃならないんだ」
「え、あ?」
「直ぐ帰って来るから、留守番しててくれ。変なのが寝てるが静かにしてれば起きない。頼んだぞ」


 返事も聞かずに飛び出していく。
 開きっぱなしのドアから室内に入り、後ろ手に閉めた所でやっと怒りが湧いてきた。


「何で俺が留守番を!?」


 言うべき相手は、既に無く。
 遅すぎた台詞は、虚しく響いた。



 一応は頼み事をしに来た身だ。
 留守番をする位はしてやってもいいかもしれない。
 無理矢理に考え、足を踏み入れる。


 留守番だけなら。



「何叫んでたんだ? 飛び起きたぞ」


 留守番以上の男が、其処に居た。


「帰る」
「留守番は」
「お前の相手をするのは留守番以上に苦痛だ」


 参ったなと笑い、頭をかくのは同じ顔。
 奴と全く違う笑い方をするその顔から、俺は目を逸らす。


「留守番はお前がしろ。俺は帰る」
「その荷物の中身は」
「……っ!」


 脈略の無い言葉に、ドアに向かいかけた足が止まる。


「茶菓子だ! じゃあな!」
「俺があいつに頼んでやろうか?」


 苦しい言い訳をものともせず、しれっとした顔で見通した様な事を言う。
 振り向くと奴は真後ろに立っていて、俺の左手の荷物をひょいと取り上げた。
 ためらいなく箱を開け、入っていた茶菓子を嬉しそうにぱくつき始める。
 俺は右手の荷物を机の上に置いて、箱を開く。


「……何で解った?」
「一応親父、だしな」








「猫を拾った?」
「貰い手が見つかるまでここに置いてくれないか?」
「別に構わないが……いつ拾ったんだ? お前ずっと寝てただろう」

「猫の方から来たんだよ。茶菓子持ってな」




――――

ネイリキとか言いづらい。
パパが寝呆けてリキに破廉恥的な展開も考えたけど難易度高かった。
クイズみたいなの書くの好き。

080706


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