cling ライ雷




 ライコフはその形の良い眼からぽろぽろと涙を零しながら、飛び付いてきた。
 彼の体は、線の細い外見と違わずに軽い。
 抱きつくより、縋るという表現の方が正しいだろう。
 俺の服を掴む手は、力の入れすぎで小刻みに震えていた。


「……大袈裟だな、外泊くらいで」
「もう……帰って来ないかとっ……」


 嗚咽の交じる擦れた声は、不安と疲労に塗れて。
 横目で捉えた彼の顔にはうっすらとクマが浮かび、白い肌と相まってひどく病的に見えた。
 涙が頬に無色の線を引く。
 俺は彼のくしゃくしゃの髪の中に指を潜らせた。



「また、一人になるのは、嫌だ……」



 彼は孤独を恐れている。
 俺が夜を恐れるように。
 何があったのか知らないし、知る気もない。
 ただ今は、何故彼を一人にしてしまったのかと自分を責めるだけ。
 否――それさえも後回しにして、今俺がやるべき事は。


「帰って来ない訳、無いだろ」


 背中に腕を回して、強く抱き締める。
 泣き止むまで、ずっと。
 安心するまで、ずっと。
 孤独が消えるまで、ずっと。

 何時かの夜、俺にしてくれた様に。


「一人にしないでくれ」
「ああ」
「ずっと一緒に居てくれ」
「解った」




「死なないで、くれ」
「お前が死ぬまで、死ねないさ」




――――

確実にライ雷じゃない。
弱ったライコフが書きたかったらしい。
書いてみたら別人。よくある話。

080630


あきゅろす。
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