mismatched ヴァン雷



 快晴の空を、ベランダから眺めていた。
 昼前の日差しは特に強く、夏の訪れを感じさせる。
 眩しさに目を細めて地上に視線を向けると、近づいてくる人影と目が合った。
 長い黒髪をなびかせて、日の中を堂々と歩く。


 見知った吸血鬼は、唇の端を僅かに上げて建物の影に消えた。


 そういえば昨日適当に聞き流していた電話で来るとか来ないとか言っていた気がする。
 とても薄いオブラートに包んで『来るな』という意志を伝えた筈なのだが、伝わらなかった様だ。

 俺は慌てて部屋の中へ戻り、玄関に走った。
 ここは5階だ。
 奴が辿り着く迄にはまだ時間がある筈……。


「遅い出迎えだな」
「……俺は鍵をかけようと出てきた所なんだがな」
「鍵がドアごと無くなっても良いならそうしろ」
「一応聞くが、階段だよな?」
「壁だ」


 衣服にこれといった乱れも無く、息を切らした様子もない。
 30秒程で5階迄壁を走ってきた男は、涼しい顔をして手に持った一輪の薔薇を差し出してきた。
 思い切り嫌そうに受け取ると、にやりと笑う。


「嫌がっても無駄だろうから、入れ」
「待たせて悪かったな」
「断じて待ってない」
「ベランダから……」
「天気が良いから空を眺めてんだ」


 ずっと空を眺めていた。
 人影が見えるまで。


「では、俺を見つけた時、嬉しそうだったのは見間違いか?」


 海面を走る吸血鬼は視力も抜群らしい。
 いつも仏頂面でいようとした努力が水の泡だ。


 必死に回した頭のはじき出した言い訳はどれも苦しい物で、とても奴を誤魔化せそうには無かった。


「……嬉しかったら、駄目か?」


 驚いた様に顔を上げる奴に、べぇと舌を出して笑う。


 素直になるのは、まだ早い。




「昼飯食べたか? ……少し作りすぎたんだが」





――――

のんびりヴァン雷。
ちなみに昼飯はニンニクたっぷりの餃子。

ツンデレぇぇええ。

080629


あきゅろす。
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