throat ネイソリ




 『言葉』というものは日常生活に必要不可欠な物で、それを相手に伝える『声』も又欠く事の出来ない物だ。
 なのだが。


 今、俺はそれを欠いている。



「(あー……)」


 何度試しても、声は音に成り切れない。
 空気の通る微かな音が虚しく響く。
 ひりひりとした断続的な痛みに、自然と眉根が寄る。
 俺は喉に手を当てたまま、ため息を吐いた。


「大丈夫か?」
「(どこが大丈夫そうに見えるんだ?)」


 彼の心配そうな言葉に、俺は唇の動きで返事をする。
 それを読み取る技術は持っているらしく、彼は軽く肩をすくめて首を振った。

 喉の異変に気が付いたのは、今日の朝。
 放っておけば治るだろうと踏んでいるが、治らなかった場合は医者にかからなければならない。

 『理由』を考えると、わざわざ医者に行くのが馬鹿馬鹿しくなる、というのが本音だが。

 八つ当りをこめて睨み付けると、彼は受け流す様に苦笑した。


「そんなにイライラするなよ。眼が怖いぞ」
「(喧しい。一体誰のお陰でこんな様になったと思ってる!)」
「そんな昔の事は忘れたな。俺が何かしたのか?」
「(何で盛ったかは知らないが、わざわざ風呂場まで乗りこんできやがって)」


 昨夜の一部始終を思い出し、頭に血が昇り始める。
 風邪を引かなかったから良かったようなものの、肺炎でも拗らせていたら今頃踏んだり蹴ったりな目に合っていただろう。
 既にあっている様な気もする。

 しかし彼は怒る俺に顔を寄せ、意地悪そうな笑顔で囁く。


「結構楽しそうに喘いでた癖にか?」


 違うと言いきれないのは、きっと声が枯れている所為だ。
 力一杯首を振るが彼はそれを無視し、何かに気が付いたかの様に動きを止めた。


「声が出ないって事は……昼からヤり放題……」




 『言葉』というのは、何も『声』だけで伝える物ではない。
 『体』で伝える『言葉』という物も存在する。




 そんな常識的な事を、俺は自らが繰り出した飛び蹴りで実感した。




――――

この前日の話だったら多分赤い。

風呂場プレイってのもまたマニアックですよね。
『喉が枯れる』『腰が痛む』っていうのは一種の定番な気がします。

080608


あきゅろす。
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