wash ネイソリ



 憎たらしい程に晴れている。


 俺がそう感じたのは陽に照らされて白く光る天井を見つめたからであり、直接空と太陽を見たわけではない。
 なのでひょっとすると、今日は『妙に眩しい曇り』なのかもしれない。

 そんな馬鹿な事をぼんやり考えながら、俺は聞く。
 俺よりかなり早く起床し、何時の間にか隣から消えていた彼の足音を。


「そろそろ起きたらどうだ」


 ひょい、と呆れた様な表情の彼が視界に表れる。
 身を乗り出して覗き込んでくるのは、体調不良を危惧したのだろうか。
 俺は首を上げて、にやりと笑ってみせた。


「目は開いてるよ」
「人間らしい活動を始めろと言ってるんだ」
「天井観察が楽しくてな」
「……じゃあ一日中やってていい。その代わり、一つ頼まれてくれるか?」


 天井観察も軽口の応酬もそれなりに楽しいのだが、そう長く続ける物ではない。
 俺は自分でも意外な位あっさりと頷いた。


「構わないが、何をだ?」
「脱げ」




 思わず起きた。

 彼の顔を凝視すると、怪訝そうな表情で見返してくる。


「……それは『服』を、だよな?」
「他に着てるものがあるのか?」


 日本には『猫を被る』という言葉があるとは聞いたことがあるが、あんな生暖かいもさもさした生物を被る気にはなれない。
 じゃなくて、確かに俺はウィッグを付ける程髪に困ってる訳でもないし、猫も被ってはいないが……。


「あの……」
「出来れば早くして欲しいんだが」
「何で、脱ぐんだ」


 彼は何を今更、と言わんばかりに息を吐いた。


「晴れてるからだ」


 それはまた新しい。
 俺はぽん、と彼の両肩に手を置く。
 真っすぐに眼を見つめ、出来るだけ優しい声を作った。



「お前は晴れてると盛るんだな。貴重な情報をどうも」



 ふっと笑った俺に飛んでくる拳は、残像さえ見えなかった。





「なんだ、洗濯か。殴られ損だ」
「いいから早く脱げ」
「洗う前に『服が汚れる様な事』しないか?」
「拳じゃなくて鉛弾を御所望なんだな?」




――――

それが世界の洗濯か。

性欲を持て余しすぎ。
まーた知能指数が。
もう諦めてるけど。

080527


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