tear ネイソリ


 

「泣いてるのか?」


 暗闇にも成りきれない、半端な夜。
 灯りもつけないままの部屋の中で。

 一人、ベッドに腰掛けていた。


「泣けないから困っているんだ」


 言葉通り、振り向いた彼の頬に涙の跡はない。
 その表情は呆れた様な、しかし寂しげな物だ。


「悲しい事が?」
「涙を流すのは、悲しい時だけじゃないだろ」
「嬉しそうには見えないが」
「確かに……嬉しくはないな。だが、悲しくも無い」


 ふと、彼が目線を外す。


「嬉しくもないし悲しくも無いのに、泣きたい時があるんだ」


 いつもは大きな背中が、今日はなんだかとても小さく見えて。
 ぼんやりと月明かりに浮かぶそれを、抱き締めた。


「俺が代わりに泣いてやるよ」



 有り難迷惑だよ、と彼は静かに笑った。




――――

俺にハンカチは必要ない。
てソリ君が言ってた。


手拭くのに要るよね。

080402


あきゅろす。
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