whisper ソリ雷




 もう、やめようか。


 泣き出した俺を、お前は抱き締めて囁いた。


「お前が辛いと感じるのなら、離れた方が良い」


 お前なんか大嫌いだと叫んでやりたかった。
 何が『辛いと感じるなら』だ、結局はお前が辛いと感じているんだろう。
 俺の事を思ってるフリをして、自分の事しか考えていない。

 離れる事なんて出来る訳無いと知っている癖に。

 畜生。畜生。
 このクソ野郎。


「……嫌だっ」


 口から零れたのは、全く違う意味の言葉。
 罵倒してやるつもりで口を開いたのになんて様だ。
 未練たらたらの情けない台詞に反吐が出る。


「離れたく、ない」


 まるで頭と口が分離して意志が宿った様。
 こんな鳥肌ものの台詞を吐くのが俺の口だと思いたくない。
 出来る事なら切り取って捨ててしまいたいくらいだ。

 ぎゅうと俺を抱き締める腕に力がこもる。
 耳元で再び囁き声。


「愛している」


 歯が浮くように甘く、使い古された台詞。
 けれど彼の重低音で囁かれるとそれは魔法の様に俺の口と意識を同調させる。


 全く持って、ずるい男だ。


「俺も、愛してる」




――――

ちょっと口が悪い。


……ちょっと?

080321


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