V

 少し躊躇ったのちに言われた人物の名に、ジョニーも動揺を隠しきれなかったのだろう。驚いた瞳が最大限に見開かれる。
「そっか……そういうことだったのか。わかったよ桃ちゃん。ありがとう」
 勝手に自己完結をするジョニーに不思議そうな顔をする桃は、言葉少なめに話の内容を聞こうとする。このままではただの言い損になってしまう。
「……ねぇ、どういうことなの?」
「男の嫉妬だよ。どうりでおかしいと思ったんだ。俺達は学が考えた罠にはめられたわけさ……」
 苦笑いをするジョニーは一気にビールを飲み干すと、店を出るために席を立つ。
「え? もう行くの?」
「いや、嫉妬深い視線を感じるからね……お釣りはいらないよ」
 軽快に財布からお札を取り出し、それをカウンター置いて去っていく後ろ姿に慌てた桃は、すぐに後を追いかけて店を出る。
 店の外で待っていたジョニーは、飛び出してきた桃を見つめると髪に触れ、顔を近づけて軽く唇を合わせた。
「俺は本気だったよ、桃ちゃん。幸せにね」
「待ってよジョニー。やり直せないの? もう戻れないの!?」
 階段を降りていくジョニーを桃は必死で追いかける。話はよく見えなかったが、自分が騙されていたことに対してとんでもない勘違いをしていたのには気付いたのだ。
 しかし、振り返るジョニーは切なげに首を振る。
「桃ちゃん、君にはいま別の彼氏がいるんだろ?」
 何故わかったのか――驚いた桃は足を進めるのを躊躇ってその場に立ち尽くしてしまう。
「……別れる……別れるからっ!」
 それでも未練がましい思いはいっぱいで、桃は引き下がることができなかった。でも、次の言葉を聞いた途端、彼女もこの恋の終わりを感じてやまなかった。
「駄目だよ。俺も学と付き合ってる」
「!」
 一番聞きたくない人の名前を聞き、本当に幕は下ろされた。
 ジョニーに振られた痛みは桃の中で深い傷となって血を流し始める。
 元はといえば、勘違いして学の言ったことを鵜呑みにした自分自身が悪い。けれど、よりによってそんな男と付き合うだなんて、それもそれで疑問を抱いてしまう。
「……わかった。もうジョニーには迷惑かけない。本当にさよならね……」
「うん」
 でも桃は、これ以上食いつくのを諦めた。恋愛にもちゃんとした引き際があるのを悟ったのだ。
 こうして未だにモヤモヤしていた気持ちに整理をつけたジョニーと桃の二人は、後ろめたい気持ちもありながら互いを忘れようと新たなスタートラインに立った。
 どんな形にせよ、再び出会う日は遠くないことを二人はまだ知らない……


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あきゅろす。
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