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「あーあ……」
 家へと帰宅した桃は、歩きながらセーラー服やルーズソックスやらを次々に脱ぎ捨てていく。
「ほんと参っちゃうなぁ……」
 ボリボリと頭を掻きながらリビングへと向かうと、すっかり下着だけになったにも関わらず、ソファーへ大の字になって寝そべる。
「……ちょっと、一樹(いつき)やめてくんない?」
「なんだぁ、秀(ひで)兄いたの?」
「なんだとはなんなの!」
 異色ホラー映画のように暗い部屋の中、真っ赤なソファーに座る見た目は女の秀人(ひでひと)は、パンツ一枚の下着姿の弟を舐めるように見つめると、たちまち嫌悪の表情に変わる。
「あんたそれでもオカマなの!? だいたいこんな姿晒してよく恥ずかしくないわね! 桃ちゃんの名前が泣くわよ」
 また始まった――そう顔にはっきり出ている一樹の表情に、またしてもキレる兄。
「うるさいな。家くらい男でもいいでしょ! 俺はオカマじゃなくてゲイなの! お前こそタイ行ってチンコ取ってきたほうがいいんじゃない?」
 いがみ合う、ヒステリーなオカマとゲイ兄弟の喧嘩は果てしなく続く。
「余計なお世話よ!行けるならとっくに行ってるわよ失礼ね!」
 なんとも下品な会話を、のど自慢するかのように大声で喋る二人は、誰に止められることなく罵倒し続ける。そして、永遠に繰り返される売り言葉と買い言葉に、二人は時間というものを忘れる。
「……やば! もうこんな時間!? 秀兄、仕事行かなくていいの? 今日同伴じゃなかったけ」
 先に我に返ったのは、一応常識人の兄のほうではなく、常に反抗期の弟のほうだった。
「あら、やだぁ。早く行かないとって、あんたも同伴じゃなかった? 彼氏のなんてったけ、確かジョニーだったかしら?」
 外人じゃないのに変な名前ね――そんなことを付け足し慌てて服を着替え始める秀人。
「……別れたよ。ジョニーとはもう終わったんだ」
 悲しそうな、哀愁漂う一樹の顔はいつもの強気な表情ではなく、今にも消え入りそうなくらい弱い笑顔を浮かべている。
「あら、可哀想ね。でもジョニーってモテ顔よね? まぁ、あんたが振られても仕方がないわね。モテる男は恋に忙しいのよ」


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