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 随分といけ図々しく言ってくる兄に溜め息を一つ吐くと、弟は渋々と真実を語り始める。
「ジョニーのところの学っていたでしょ? 何回か飲みに来てる……」
「あぁ、あのチクチク君でしょ? あの子もなかなかいい感じじゃない?」
 格好いい男には目がないというか、男だったら誰でもいいというか――そんな感じで喋る秀人を後目に、一樹は続きを喋りだす。
「あの人にさ、言われた。騙されてるよって。ジョニーには付き合ってる人がいるって……ジョニーは桃のこと、ただの飲み屋のゲイとしか思ってないって。遊び人に本気になったらいけないよって。だから……振ってやった……」
 女の子のように小顔で綺麗な顔はみるみるうちに曇り、頬を伝う涙が素肌を濡らしていく。それは、真の女の子より純粋な涙だったかもしれない。
「仕方がないわね……泣くのはよしなよ。あんたは男でしょ?」
 泣く子をあやすのが一番苦手な秀人は、困った顔で桃へと近づく。
「他にも、あんたを愛してくれる人が沢山いるじゃない?ほら……一(はじめ)ちゃん。あんたのお得意さん、あれあんたに惚れてるのよ?」
 いつもなら険しい顔をして怒る兄が、恋愛となるとコロッと手のひらを返したように優しくなる。まぁ、時に励ましてくれる兄がいるからこそ、今まで生きてこれたと実感するのは確かだが。
「ありがとう、兄貴……」
「やぁね! 姉貴と呼びなさい!」
 今までにない優しい声音で囁く秀人に、一樹は大泣きをして抱きついてしまう。それを優しく受け止める秀人の目にも、うっすらと涙が滲んでいたことに、気づくはずもなく。
 こうしてジョニーと付き合っていた一樹は、一つの大きな恋愛に幕を下ろした。これが学の策略だったとも知らずに騙されて。
 そして今日もまた、オカマバーの看板を背負った桃井兄弟の一日が始まろうとしていた。


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