――懐かしい夢を見た。
まだ父親が生きていて、母親も元気で、自分は父親みたいな大人になるのだと、大きな背中を追い掛けていたあの頃の。
疑うことも裏切ることも恨むことも知らず、ただ純粋に生きた綺麗な自分。
穢れのない、宝物のような思い出。
穢れのない――……
「……懐かしい夢だな」
眠りから覚め、目を開けると視界は白だった。
見慣れた天井と左右にある診察台。そして得体の知れない何かが入ったホルマリン漬けや人体模型。遠くでネズミの鳴き声が聞こえてくるここは、青年がよく知っている場所だ。
「最悪だな」
額にかかる髪が邪魔で払い落とそうおうとしたが、手が動かなかった。いや、手だけじゃなく足も胴も、身体全てが動かない。かといって、吉良 敦司は焦ることがなかった。
なんとなく朧げな記憶を辿ればこうなった経緯も察することができたし、よくあることだ。
慣れているといったら嘘になるが、今は信じられないくらいに落ち着いていた。それに、さっきまでの不安や不快感も一切なくなっている。
「おはよう、敦司。気分は?」
そして青年の目覚めと共に時間が動き出す。
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