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 ……あ、まじで怒った。
 って感心してる場合じゃねぇ。こいつマジもんのホモだ。やべえ。
「なぁ、変な言い方して悪かった。つか俺、怪我してるじゃん? 元気になったら犯ってもいいよーなんて、な……はは……」
 自分で言っておいて、すげえ虚しい感がある。俺の貞操と命、天秤にかけてたらそりゃ、命のほうが大事だけどよ。
 これって究極だよな。
「ねぇ。人の話、聞いてたの?」
 さも機嫌悪そうにこっちを見る眼は冷たい。自分の本能抑え切れない野獣だ。何が何でも犯るっていう意気が強すぎる。
「……話つか、これじゃ良くなれねぇだろ。それともお前、こういう無理矢理のが好き?」
 自分で言っといて自爆したなんて、思った時には遅かった。
 むっとした表情になったこいつに悪い汗が流れ出る。
「言ってる意味わかんないし。俺の親切さが伝わらなかったなら諦める。今ちょうど、車に医者乗ってるから診せてあげようかと思ったけど……じゃあ」
 すげえ淡泊な奴。
 俺を犯りたかったんじゃなかったのかよ。だから、助かりたいとかそれ以前に、わけわかんねぇ展開にこっちが苛ついた。自分でも信じられないくらいの怒声で呼び止める。
「おい、待てよこら!」
 黒い長髪の背中を呼び止めれば、また不服そうな顔で振り返る。
「何?」
「何もへったくれもねぇよ! てめぇ、死にそうな奴助けねぇで何の親切だっつーんだ。地獄に落ちるぞ」
「……地獄? この世界が地獄の間違い。そんなこと言える元気あるなら、歩いて病院行けば?」
 くそ!
 なんだってこの俺が、こんな奴に言い負かされなきゃいけねぇんだ。
 怪我してなかったら、絶対はっ倒してやったのに、それが出来ない自分自身がムカつくぜ。
「歩けるならとっくに病院行ってるつーの。なぁ、犯りてーなら怪我治ったら相手してやっから、まじ頼む……助けて」
「……言えるなら最初からそう言えばいいのに、阿呆な奴」
 ふと、今まで無愛想に近かったこいつの顔に表情が過ぎる。笑ってるとはいえないが、呆れた微苦笑ってやつ。
 ちゃんと笑うこともできるんじゃねぇかって思ったら、急に視界が白けた。
 今度こそやべえ。
「なぁ、まじで死にそうだから早くして」
 さっきまでの勢いもなく、力抜けした声で助けを求めたら、今度は真面目に対応する気になったらしい。


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あきゅろす。
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