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 これまで見せたこともない、自信喪失のような表情で首を振る白雪は、期待の眼差しを向ける堅城に力ない笑みを投げ掛けた。
「じゃあ、俺の考えは期待はずれになるのかな?」
 言葉とは裏腹に、表情はまだ期待をはらんでおり、眼差しはその期待の答えを待ちわびるかのように輝いている。
「全く、僕はまるで君に信用されていないみたいだねぇ」
「信用してないだなんてとんでもない。だって、いつも大事なものを最後まで隠して、俺が困るのを喜んでいるじゃないですか? なんなら、ここでボディチェック、入れてもいいんですよ?」
 優美な笑顔で堅城は椅子から立ち上がる。
 すぐ目の前に立つ長身を見上げて美麗な表情を眺めると、手は素早く相手のスーツの襟を掴み取っていた。
「俺、わかっちゃいましたよ? 貴方が実験の成果もはっきり出てないのに、こんなに素直に黒十字軍に戻ってきた理由。何も総帥だけが理由じゃないでしょ?」
 堅城の発言に驚いたように、白雪は一瞬目を丸くした。
「ま、そうなんですよねぇ」
「素直で結構」
 期待した答えを聞けそうで、堅城はスーツの襟から手を離すと、椅子に座り直し傍聴といった様子だった。
「僕の息子が、どうやら勝手に破壊工作員に志願したみたいでねぇ……全く困ったよ」
 傍らで頷く堅城は、やはりといった表情。それとは相反に白雪は真剣そのものだった。
「試験官は特攻隊の隊長と副隊長。心配するのも仕方がないですね」
 深く頷く堅城は、同情するように苦笑いする。
「どうして誰も止めてくれなかったんだろうねぇ。どこから見ても、うちの息子は軍人向きじゃないのに」
 仕事で多忙な白雪は毎日、自宅に帰ることはなかった。帰ったとしても、それは忙しい合間を縫った一瞬だけ。息子の寝顔を見るのがせめてもの、自分への慰めのようなものだった。
 それが突然、自分が勤めているところに面接を受けていたなど、信じがたい話に泡を吹きそうになったのも事実だ。
「……で、貴方は息子の危機に慌て帰ってきたと。今現状は、どこまで把握しているんですか?」
 緩い笑みを浮かべる堅城は、どこまで情報を仕入れているのか、余裕な態度で白雪を見上げている。
 もちろん白雪も、本部に毎日出勤していたら、こんなことになる前に何らかの手は打っていたはずだ。
「さぁ。さっぱり僕には情報が行き渡ってなくてねぇ。今日が実技試験日ということくらいしか……」


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あきゅろす。
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