解放 [

「ここにいる限り、そんな療法をやっても無理だということは私でもわかるよ。普段の行いとまるで辻つまが合わないではないか」
 さも残念そうに、声音を落として喋る流は首を振った。それに、軽く笑っているドクターもそんな療法をやろうとは端から思っていないだろう。
「まぁ、そうなんだけどね。じゃあ、僕と話をしよう。君のことを聞く前に、まず麗君のことから」
 突然、椅子を回転させて流に向き合ったDは薄い笑みを顔に浮かべて指を指す。遠くにある一つの椅子、それに座れということだ。
「麗がどうかしたかね?」
 妙な微笑を張り付けた顔を見やり、流はゆっくり腰を下ろす。
「うん。いきなりであれなんだけど、あの子、君から見て変わったところなかった?」
「……変わったところ? 私は特に何も感じなかったが」
 本当に突然な話を振られて思わず首を傾げる。目が覚めてからまだわずかな時間しか一緒にいなかったが、別段変わった様子はなかった。いつもと変わらない接し方だったし、言動も普通だった。それに対して異常を見抜けと言われるほうが無理に等しい。
 ただ、このドクターは人の異常にいち早く気づける感を持っている。だから今の質問にしても、何の根拠もなしに聞いたというわけではない。
「何かあったかね?」
 あらゆる予想をしながら――といっても、まとも思いつくものは何もないが尋ね返す。
「うん、まぁね。先に確認しておきたいんだけどさ、麗君って男色だったけ?」
「――まさか! 同性は対象外と言っていたよ」
「だよね。しかもあの性格だし、相手は選ぶはずだよね。SMの趣味なんかはあるの?」
「そんなこと……聞いたことがないが。そもそも麗が簡単に人へ話すと思うかね?」
「……だよね。変なこと聞いてごめん」
 流の言葉によって導き出した答えに複雑な表情を浮かべ、Dは黒縁の眼鏡を押し上げると金色の瞳を細めた。
「少し様子を見よう。僕の勘違いかもしれない。それに、いちいち君に報告するようなことでもないしね」
 歯切れの悪い言葉で話を締めくくり、話題を変えるためか表情を明るくしたドクターは、あらかじめデスクの中にしまってあったファイルを取り出す。納得のいってない流のことは全く眼中にないらしい。
「これから君のことについて問診するから答えてね」
「その前に、さっきのことについて中途半端にされた私に一応の見解くらい話してくれないかね」


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